23 / 51
第23話:気になる出来事
しおりを挟む
流血の宮殿二階の収入は八〇〇万シルバーだった。凄い。半日も戦ってないのにこの収入。クラム様が現れずに更に高収入な三階で狩りまくっていたら、一体オレ達の財産はどのくらいまで膨らんでいたのだろうか。
大量の魔石から換金された現金は即座にギルド併設の銀行に預けられ、今回も新人らしい担当の子が震える手でオレ達に通帳を渡してくれた。
とりあえず、ギルドでの用件は終わったオレ達はそのまま流れるように神殿へ。フォミナの視力治療は一〇万シルバーと高額なので、何度か念押しされたりもしたが、穏やかな心でやってもらった。
「貯金の余裕は心の余裕。セアラ姉さんの口癖ですが、ちょっとわかる気がします」
「まあ、当面の生活を心配しないでいいのは気持ちとして楽だよね」
神殿近くにあった、川沿いのオープンカフェでのんびりカフェオレを飲みながら、オレはフォミナとのんびり話していた。しかし嫌な口癖の親族だな。
「本当に視力は問題ないの? あっさり終わったけど」
「はい。眼鏡無しでマイス君の顔もよく見えますよ。魔法的にはちょっと特殊な回復魔法らしいですから。一瞬な上で事務的なのはありがたみにちょっとかけますね」
今回も神殿の対応は事務的だった。フォミナは何枚も書類に記入した上、待合室で椅子に座って並び、呼び出されたら診察室……じゃなくて儀式室に入って三分くらいで帰ってきた。 神殿の組織、滅茶苦茶お役所みたいにシステム化されてるな。効率的にはいいことなんだろうけど、なんだこの納得しがたい気持ちは。
オレ達はそのまま魔法屋にも立ち寄り、封技石を使って<超越者>のスキルを付与。オレの成長プランも一歩前進だ。
「こうして落ち着けて良かったです。昨日は色々気が気じゃ無かったですから」
しみじみと語りながら、パフェを食べるフォミナ。なお、直前にパンケーキも平らげている。甘い物がとても好きらしい。
「あれはびっくりしたな。結果的には良かったけれど。でも、次の予定を考えなきゃいけないし」
「私はマイス君についていきますよ。事前に情報を共有してくれればもっと良いですけれど」
「それはもう、これから話しますとも。ああ、でもその前に、帝国と商業連合の戦争の様子とか、国境付近の情報ってどうやれば手に入るかな?」
遠い北方の戦争の話は、殆ど聞こえてこない。ゲームよりも早く開戦してるのが気になるし、そろそろ情報を仕入れておきたいんだが。
「うーん……。私の実家みたいな、そこそこ程度の規模では無理なんじゃないでしょうか。それこそ、国政に直接関われるくらいの偉い人と繋がりがないと。大商人とか、大領主とか、王族とか……」
「そうか。そうだよな……。下手をすれば国家機密だろうしな」
まだ夏にもなっていないが、帝国の動きはできるだけ把握しておきたい。連中が開戦するタイミングで遠くのダンジョンにいました何てことにはしたくない。
ゲーム知識を使って個人のレベルを上げまくることは可能だけど、情報力はどうすればいいんだろうか。それなりの品質の情報にアクセスできるような状況を作っておきたいんだけど。
「これから西に移動することになるんだけど、それに合わせて情報も拾えるようにしたいな」
「学園時代に頑張ってコネクションを作っておけば良かったかもですね。あそこは偉い人の子息令嬢が沢山いましたから」
「だなぁ……」
本当に今更気づいてももう遅い。オレもフォミナも学園で将来を見据えてコネ作りをするタイプでなかったのが悔やまれる。
「クラム様もあんまり頼れないだろうしなぁ。従僕も含めて殆どあそこから出れないだろうから」
「こ、これから頑張りましょう。落ち込むことはないですよ! 今のところ、上手くいってるんでしょ?」
あからさまに落ち込んだオレを心配したのか、フォミナが握りこぶしで大げさに励ましてくれた。……頑張ろう。今度、こっそり伊達眼鏡買ってプレゼントしたら喜ぶかな。駄目だな、別のものにしよう。
「三次職を目指しつつ、今度は情報入手についても考えなきゃなんだけど……ん? なんだあれ?」
二人で腕組みして考えていると、川向こうの大通りが妙にキラキラしてるのに気がついた。
「あれは神聖騎士団ですね。向こうに本部がありますから。でも、おかしいですね。あの人数と装備、まるでどこかに出陣するみたいです」
「なにかあったのかな?」
そう思って周囲に気を配ってみると、他の客達にも対岸の神聖騎士団を見ているのがチラホラいた。会話に耳をそばだてると、「大討伐」「旧大聖堂」といった単語が聞こえてくる。
「旧大聖堂の大討伐とかみんな言ってるな」
「アンデッドが大量発生したんでしょうか? 滅多にないことなんですが……」
ミレスの町でアンデッドが大量発生するようなイベントはオレも覚えはない。あのゲーム内が世界全ての出来事というわけじゃないので当然ではある。
滅多にないことか……。これからこの国で色々と起きることを考えると、気になるな。
それに、フォミナも他人事じゃない雰囲気を出している。なんだかんだでお姉さんがいるわけだし、当然か。
「冒険者ギルドに、大討伐絡みの仕事がないか見にいこうか。フォミナも気になるみたいだし」
「いえ、そんなことは……嘘です。セアラ姉さん、口では調子がいいけど、実力がちょっと心配なんですよね」
そういうタイプなのかあの人。それを知らされると、動かないわけにもいかないな。時間もできちゃったことだし。
「じゃ、とりあえずギルドで聞いてみよう。上手くすれば、神聖騎士団の偉い人から情報を貰えるかもしれないし。フォミナの心配事も減るしね」
「ありがとうございます。マイス君」
「気にすることじゃないよ。オレも気になるし」
急ではあるが、次にやることが決まったオレ達は、手早く目の前の食事を片づけてカフェを後にした。
考えてみれば、換金以外の本来の用件で冒険者ギルドに行くの、初めてだな。
大量の魔石から換金された現金は即座にギルド併設の銀行に預けられ、今回も新人らしい担当の子が震える手でオレ達に通帳を渡してくれた。
とりあえず、ギルドでの用件は終わったオレ達はそのまま流れるように神殿へ。フォミナの視力治療は一〇万シルバーと高額なので、何度か念押しされたりもしたが、穏やかな心でやってもらった。
「貯金の余裕は心の余裕。セアラ姉さんの口癖ですが、ちょっとわかる気がします」
「まあ、当面の生活を心配しないでいいのは気持ちとして楽だよね」
神殿近くにあった、川沿いのオープンカフェでのんびりカフェオレを飲みながら、オレはフォミナとのんびり話していた。しかし嫌な口癖の親族だな。
「本当に視力は問題ないの? あっさり終わったけど」
「はい。眼鏡無しでマイス君の顔もよく見えますよ。魔法的にはちょっと特殊な回復魔法らしいですから。一瞬な上で事務的なのはありがたみにちょっとかけますね」
今回も神殿の対応は事務的だった。フォミナは何枚も書類に記入した上、待合室で椅子に座って並び、呼び出されたら診察室……じゃなくて儀式室に入って三分くらいで帰ってきた。 神殿の組織、滅茶苦茶お役所みたいにシステム化されてるな。効率的にはいいことなんだろうけど、なんだこの納得しがたい気持ちは。
オレ達はそのまま魔法屋にも立ち寄り、封技石を使って<超越者>のスキルを付与。オレの成長プランも一歩前進だ。
「こうして落ち着けて良かったです。昨日は色々気が気じゃ無かったですから」
しみじみと語りながら、パフェを食べるフォミナ。なお、直前にパンケーキも平らげている。甘い物がとても好きらしい。
「あれはびっくりしたな。結果的には良かったけれど。でも、次の予定を考えなきゃいけないし」
「私はマイス君についていきますよ。事前に情報を共有してくれればもっと良いですけれど」
「それはもう、これから話しますとも。ああ、でもその前に、帝国と商業連合の戦争の様子とか、国境付近の情報ってどうやれば手に入るかな?」
遠い北方の戦争の話は、殆ど聞こえてこない。ゲームよりも早く開戦してるのが気になるし、そろそろ情報を仕入れておきたいんだが。
「うーん……。私の実家みたいな、そこそこ程度の規模では無理なんじゃないでしょうか。それこそ、国政に直接関われるくらいの偉い人と繋がりがないと。大商人とか、大領主とか、王族とか……」
「そうか。そうだよな……。下手をすれば国家機密だろうしな」
まだ夏にもなっていないが、帝国の動きはできるだけ把握しておきたい。連中が開戦するタイミングで遠くのダンジョンにいました何てことにはしたくない。
ゲーム知識を使って個人のレベルを上げまくることは可能だけど、情報力はどうすればいいんだろうか。それなりの品質の情報にアクセスできるような状況を作っておきたいんだけど。
「これから西に移動することになるんだけど、それに合わせて情報も拾えるようにしたいな」
「学園時代に頑張ってコネクションを作っておけば良かったかもですね。あそこは偉い人の子息令嬢が沢山いましたから」
「だなぁ……」
本当に今更気づいてももう遅い。オレもフォミナも学園で将来を見据えてコネ作りをするタイプでなかったのが悔やまれる。
「クラム様もあんまり頼れないだろうしなぁ。従僕も含めて殆どあそこから出れないだろうから」
「こ、これから頑張りましょう。落ち込むことはないですよ! 今のところ、上手くいってるんでしょ?」
あからさまに落ち込んだオレを心配したのか、フォミナが握りこぶしで大げさに励ましてくれた。……頑張ろう。今度、こっそり伊達眼鏡買ってプレゼントしたら喜ぶかな。駄目だな、別のものにしよう。
「三次職を目指しつつ、今度は情報入手についても考えなきゃなんだけど……ん? なんだあれ?」
二人で腕組みして考えていると、川向こうの大通りが妙にキラキラしてるのに気がついた。
「あれは神聖騎士団ですね。向こうに本部がありますから。でも、おかしいですね。あの人数と装備、まるでどこかに出陣するみたいです」
「なにかあったのかな?」
そう思って周囲に気を配ってみると、他の客達にも対岸の神聖騎士団を見ているのがチラホラいた。会話に耳をそばだてると、「大討伐」「旧大聖堂」といった単語が聞こえてくる。
「旧大聖堂の大討伐とかみんな言ってるな」
「アンデッドが大量発生したんでしょうか? 滅多にないことなんですが……」
ミレスの町でアンデッドが大量発生するようなイベントはオレも覚えはない。あのゲーム内が世界全ての出来事というわけじゃないので当然ではある。
滅多にないことか……。これからこの国で色々と起きることを考えると、気になるな。
それに、フォミナも他人事じゃない雰囲気を出している。なんだかんだでお姉さんがいるわけだし、当然か。
「冒険者ギルドに、大討伐絡みの仕事がないか見にいこうか。フォミナも気になるみたいだし」
「いえ、そんなことは……嘘です。セアラ姉さん、口では調子がいいけど、実力がちょっと心配なんですよね」
そういうタイプなのかあの人。それを知らされると、動かないわけにもいかないな。時間もできちゃったことだし。
「じゃ、とりあえずギルドで聞いてみよう。上手くすれば、神聖騎士団の偉い人から情報を貰えるかもしれないし。フォミナの心配事も減るしね」
「ありがとうございます。マイス君」
「気にすることじゃないよ。オレも気になるし」
急ではあるが、次にやることが決まったオレ達は、手早く目の前の食事を片づけてカフェを後にした。
考えてみれば、換金以外の本来の用件で冒険者ギルドに行くの、初めてだな。
10
あなたにおすすめの小説
42歳メジャーリーガー、異世界に転生。チートは無いけど、魔法と元日本最高級の豪速球で無双したいと思います。
町島航太
ファンタジー
かつて日本最強投手と持て囃され、MLBでも大活躍した佐久間隼人。
しかし、老化による衰えと3度の靭帯損傷により、引退を余儀なくされてしまう。
失意の中、歩いていると球団の熱狂的ファンからポストシーズンに行けなかった理由と決めつけられ、刺し殺されてしまう。
だが、目を再び開くと、魔法が存在する世界『異世界』に転生していた。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる