ゲームの世界に転生したら、いきなり全滅ルートに突入した件〜攻略知識を活かして、なんとかして生き延びる〜

みなかみしょう

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第41話:遭遇

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 急に時間の余裕ができた。
 それというのもテレポート輸送が楽なおかげだ。頼まれた荷物を魔法で即輸送。オレはすぐにザイアムの町に戻ってこれる。テレポートが連続で使えるのが先方にも把握されたおかげか、戦争とは関係ない土木用の荷物も運ばされてるけど、それでもまだ終わるのが早い。

 フォミナとエリアは二人してメタポー狩りだ。さすがにオレがいる時ほど効率が良くないらしく、よく不機嫌な顔をして帰ってくる。恐くて話しかけにくい時があるほどだ。あいつら、一体何を言ったんだろう。
 
 情緒面はともかく、二人とも熱心にレベル上げに勤しんでいる。合間にギルドや領主から仕事が来るけど、点検とかの雑用みたいなもので余裕を持ってこなしているようだ。元々、基本スペックの高い二人だから問題ないだろう。

 領主の別邸に移って十日、オレは余った時間を町の散歩に使うことにした。
 ただの散歩じゃない、将来のイベントを見越してのものだ。
 例えばザイアムの西門。たしかここは、城壁の一部が脆くなっている上、そこに事前に細工をされていて城壁に直接穴を空けられてしまう。
 オレはそこを見つけて報告、全体的に増強するように屋敷で頼んだ。エリアのお父さんは優秀なので、すぐに仕事が手配されて翌日から工事が始まった。

 他にも色々とやっている。攻撃されやすそうな倉庫は中身を移して隠して貰ったり、避難時に倒壊しそうな建物の報告。それと、帝国側と通じてそうな商人の通報などだ。
 とにかくザイアムの町は戦時のイベントが多い。ここが無事なら、オレの運命だって変わるんじゃないかと思うくらいに。それ故に、思いつく限りの手を打つのは悪いことじゃないだろう。

 一番いいのは帝国に侵略を諦めさせることだけど、それはさすがに方法が思いつかない。
 最初の戦闘で王国側に加わって徹底的に撃退すれば、あるいは停戦の空気が作れるかも知れない。奇襲でもいいけど、向こうが攻撃をしかけてくるそのタイミングがわからない。

 そうなると、侵入しているらしい魔族を捕まえて色々と聞きたいところだが、そちらの捜索は難航していた。
 手がかりがなさすぎる。できるだけ街中を歩いて、エトランジェのスキル<危険察知>の発動を狙ってみたけど反応がない。
 オレがもうちょっと有名だったら、向こうから狙ってきてくれたかもしれないけど、そう都合良くはいかないようだ。

 この日も、水路の様子を見て、水門の鉄格子が劣化してるのを見つけてから、オレはのんびり散歩をしながら、町の様子を見ていた。
 ザイアムの町は雑多ではあるけど、中心部は結構都会だ。道は広く、綺麗な石畳で舗装され、整った町並みが続く。喫茶店や服屋など、お洒落な店も並んでいて人手も多い。
 今のところ、戦争の気配なんてみじんも感じられない、平和な町並みだ。エリアがいうには、まだ小麦の値段なんかにも影響がないのでもう少し時間の余裕があるとのこと。

 今のうちに、装備を調えるべきかな。その前に、精神的に疲れてるフォミナとエリアを休ませた方がいいか。どこか出かけるなり薦めてみようか。

 そんなことを考えていると、ふと目に付く物があった。

「親父さん! このクレープもう一個! ほんと美味しい! この町来てよかったぁー! え、あっちのアイスも美味しい? この前のケーキも良かったし、ここは最高だぁ」

 川沿いに設けられた小さめの公園。そこに出ているクレープやらアイスやらの屋台を行き来しながら、喜びに叫ぶ女がいた。

 金髪で背が高く、黒くて肩と太ももが露出している服が印象的な美人だ。

「…………」

 オレは素速く視線を外し、近くのベンチに腰掛けた。
 ……なんで、あいつがここにいるんだ。いや、実は事前に来ていた設定なのか?

 混乱しながら、頭の中で状況をまとめる。
 今も両手にクレープを持って嬉しそうに食べている女は、暗黒騎士クリス。
 またの名を魔王クリス。
 『茜色の空、暁の翼』における、帝国側の最重要人物である。

「うっひょー。甘い物の後は今度はしょっぱいものにしよー。この町に来てから胃袋と体重が大変だわ-」

 あっという間に菓子を平らげたクリスは、そのままスキップでもしそうな陽気さで公園を出て行った。
 オレは少し時間をおいてから、それを追いかける。

 尾行はスキルもないので得意じゃないが、幸い相手が目立つおかげで見失わない。
 気取られないように、細心の注意を払ってオレは後を追った。

 クリスは鼻歌交じりに街中を突っ切り、路地に入って段々と人気のない方に入っていく。
 随分とマイナーな場所に向かうんだな。知る人ぞ知る名店でもあるのか?

 苦労して後を追うこと数分、人気のない所に来ると、急にクリスが立ち止まって振り向いた。

「この辺りいいか。出てくるがいい、マイスとかいう魔法使い。下手な尾行なぞ見抜いているぞ」

 どうやら、バレバレだったらしい。
 仕方ないので、オレはゆっくりと物陰から姿を現す。先制攻撃アイテムを確認し、杖を握った上で。

「最初からオレが狙いか、暗黒騎士……魔王クリス」

 そう言うと、クリスの表情が変わった。

「な、なんであたしの正体知ってるのよ! 何者なのよ貴様! なんか聞いてるよりヤバい気配まとってるし、どういうこと!」

 魔王は狼狽していた。想定外のことに弱い設定だったな。

「よし、少し話し合おう」
「き、奇遇ね。あたしもそう思ってたところよ」

 とりあえず、会話できそうなので、そっちの方針で行くことにした。
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