鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第4話 訪問者

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前回、順調虚しくも眠ってしまった後俺は、
目覚めてから数時間後、確かな進歩に対する喜びに
歓喜していた。

腕の鎖が千切れ、壁から垂れ下がっている。

  ( 長かったなぁ…ここまで )

ここで目覚めてからどれくらいの時間が過ぎたのか。
光すら入らないこの部屋では分からず、体感的には一月にも一年にも感じられる。

ようやく両腕が自由になったのだ。
肩を上げ、腕を曲げられるというそれだけのことに
喜びを噛み締め、俺は腕の調子を確かめていた。

そんな時だった。
床に細長い光が伸び、それが段々と幅を増していく。
前に人影が覗き込んできたあの扉が、開いた。

以前より扉は大きく開かれ、そこには3つの
人影が立っていた。

突然のことに俺は目を丸くし、気付かれないように気配を殺す。

人影の一人がランタンの様な物を持って先導し、
辺りを伺いながら進んでいく。
時折、立ち止まって積まれた箱などを調べ、残る2人が
その後をついて行く。

何故か3人組はこちらの方へとゆっくり足を進めていた。

 「うわっ!?」

そのうち、1番後ろにいた者が声をあげ、
バタバタと音を立てる。
あまりに雑多なこの部屋のものに躓いて、転んだようだ。

雑に積みあげられた箱の山が崩れ、外の光に反射してもうもうと
埃が辺りに立ち込める。
部屋が静かなせいか、それなりに離れていても
こちらまでそれなりに音が響く。

そんな中先頭のランタン持ちが後ろを振り返り、
後ろにいる2人に言う。

 「お前ら…ここのもん壊すんじゃねえぞ。ガラクタばかり
   とは言え、壊したら上がうるせぇからな」

 「へいへい、了解しやした」

 「す、すみません! 躓いてしまって…!」

先頭の男は「とにかく気を付けろよ?」とだけ
言って、再び歩みを進めていく。
後ろの2人も、あれから慎重に歩いているようだ。

俺は気配を殺したまま、ピクリとも動けずにいた。

当初は、やっと巡ってきた人との交流に期待を膨らま
せていたが、向こうの得体が知れない。
そうでなくとも、脱出しようとしている相手をわざわざ
こんなところに来るような相手が見逃してくれる
だろうか。

俺は、下手なことは出来ないと身体を強張らせ、そのまま目の前の3人を薄目で伺うことしかできなかった。

  「しっかし、噂の地下倉庫の亡霊ねぇ…、本当に
     見たのかよ?」

怠そうに歩く男が後ろへそう問いかけると、転んだ1人が声を大にする。

  「本当ですよ! この間ここを覗いたら、目が合ったんですから! しっかり音も聞きましたし! 大体、先輩が噂を確かめて来いって言ったんじゃないですか! 」
     
  「俺はお前をからかっただけで、行けとは一言も言ってないぜ? 」

  「なっ!?」

2人はそんな会話をしながら、先導の男の後ろを
歩いている。
内容から察するに、もしかして、この間の影って
こいつだったのか?
というか俺のこと、外でそんな噂になってるのか…。
確かに、こんな暗闇で毎日ガシャガシャやってたら、
怪しまれもするよなぁ。

俺がそんなことを考えていると先頭の男が、
2人を見かねたように口を開いた。

 「お前等、お喋りはそこまでにしろ。
    噂の調査なんて任務に気が抜けるのも分かるが、
    今回の件は一応仕事だ。仮に魔物モンスターの仕業だったらどうする?」

男がそう言うと2人は黙り、後ろを付いて行く。
どうやら2人の上司にあたる人のようだ。 

 ( 魔物モンスター…? )

聞き慣れない単語に気を取られていると、既に3人組が数mくらいの所まで来ていた。

俺は、脱出を計っていることがバレないよう、
調査とやらが早く終わってくれ、とただ祈り続ける。

3人組はそのまま、自分の周りを手分けして調査とやらを
進めている。
暗い空間に暫くの間、ペンが紙の上を走る音がいやに
鮮明に聞こえてくる。

幾ばくかの時間が過ぎ、自分の調査は済んだようだ。
先頭の男が口を開く。

「…魔物の気配や痕跡は無いな。恐らく怪音も
   鎖の老朽化によるものだろう。目が合ったってのも
   多分気の所為じゃないか?」

「隊長がそう言うなら…そうですよね、まさかこんなもの
   が動く筈ないですもんね…」

「なんでぇ、働き損かよ。ケッ、め…」

そう言って男は、俺の足に蹴りを入れてきた。
この野郎…、覚えとけよ。

「お前、そもそも普段まともに仕事してないだろうが…」

とりあえず、何とかバレずには済んだようだな。
俺はホッと、胸を撫で下ろす。
しかし、そう思ったのも束の間…

 「あ、この鎖はどうしましょうか?」

「そうだな、一応修理の連絡もしておくか。鍛治ギルドには俺の方から依頼を出しておこう」

「隊長、連絡なら俺が行って来ますよ」

「お前はこの後、訓練場の整備だ。ついでに教官にみっちり鍛えて貰ってこい」

そんな会話をしながら3人組は調査を終え、
帰って行った。

鎖の修理という衝撃の言葉だけを置いて…


 



 
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