鉄巨人、異世界を往く

銀髭

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第3話 地下倉庫の亡霊

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扉の位置が判明してから、恐らく10日程が過ぎた。
相変わらず俺は、代わり映えのしない作業を続けている。
ただそれ以外にやることが無かったからだ。

だが、やるべきことはあってもやる気が無ければ
どうにもならない。

俺は一度作業の手を止め、辺りに目を向ける。
この暗闇にも大分慣れ、今では大体の物の形や距離感
などが分かるようになっている。

そうしてこの部屋を見て、改めて思う。

  ( 本当、手付かずって感じだなここ… )

あるのは積まれた箱や袋ばかりで、目ぼしいものは無い。
荷物には埃が積もっていて、蜘蛛の巣があちこちに
掛かっており、長らく人の手が入っていないように見える。

正直、毎日同じことの繰り返しで、作業にも飽きが
来ていたが、ここから出る為には少しでも体を
動かし続けなくてはならない。

仕方のないことだと諦めて止めていた手を動かし、
作業を再開する。

無心でただひたすらに体を動かし続ける。
反動を付けて何度も何度も体を揺すり、鎖に負荷を
掛け続ける。
再開していくらかが過ぎた頃、パキン、と音が鳴った。

まさかと思い、急いで確認するとどうやら、
右腕の鎖の一部が割れたようだった。

腕を動かすと鎖がミシミシと音を立てていて、
頑張ればもう少しで壊せそうだ。 

小さな進歩だが思わず嬉しくなり、やる気が湧いてきた。

他の箇所については、もう少し時間が掛かるだろうが、
両腕が自由になる日も恐らく近いだろう。

そうなればこちらのものだ。
両腕が自由になりさえすれば、今までよりは遥かに
やりようがある。

更に数時間後には、左手の鎖にもヒビが入った。

  ( 作業の方は順調だな )
  ( ……んん…?)

俺がそんなことを思っているといつもの睡魔が
襲って来た。
強烈な眠気に抗うことが出来ず、意識が深い闇の底へ
落ちていく。

  ( ああ…折角順、調だった…の……に…… )

俺の意識は、深い眠りの底に沈んでいった。

____________________


  「おい、聞いたか? 例の噂?」

  「噂? 何だそりゃ? 」
 
 豪華な石造りの廊下で、槍を持って立つ2人が、
 雑談をしている。

  「なんでも、城の地下倉庫から夜な夜な、謎の
     物音がするんだってよ。 噂じゃ、地下倉庫で死んだ、
     整理番の亡霊じゃないかって話だ」

  「倉庫って、あのガラクタだらけの倉庫かよ!? 
     …事故があったなんて初耳だぜ?」

  「これはここだけの話だがな…。 その件はなんでも、
     先代の領主様の命令で他言無用にされたらしい…。」

  「何だよそりゃ…。 てか、亡霊ってどういうことだよ」

  「つまりだな、これは俺の推測だが、その死んだ
    倉庫番が自分を口封じにした領主を怨んで亡霊に…」

  「お、脅かすなよ…」

 2人がそんな噂話に耽っていると後ろから、普段聞き
 覚えのある声が聞こえた。

   「警備中に随分、暇そうだなぁ? お前等?」

   「うわあぁっ!!?」

   「!!? た、隊長!? 」
  
隊長と呼ばれた熊のような体格をした男が声を掛けると、話していた内容の所為もあってか、2人は飛び上がって声を上げた。

  「全く…、警備もまともに出来んのかお前達は…?
     ここはいいから城内の見回りでも行って来いっ!」

男がそう言うと2人は、慌てて走り出して行った。
  
  「ったく、目を離すとすぐあの2人は…」

  「…しかし、亡霊の噂か……」

顎に手を当て、2人が話していた噂について考える。
亡霊の噂に関しては、以前にも部下から報告があった。

その時は何かの見間違いだろうと特に相手には
しなかったが、ここまで話が大きくなっているならば、
一度原因を調べた方が良いかもしれない。

  「面倒ごとは少ないに限るからな」

そう言って男は、その場を後にした。
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