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第27話 パーティ
しおりを挟む「ふぅ、お腹いっぱいニャ~」
シーラは満足そうな顔でお腹をさすっていた。
先程合流してからは、休憩がてら入り口脇のベンチに並んで座っている。
おもむろにポーチからギルドストアでの換金分を取り出し、シーラに渡す。
「? 何ニャ? …あ! ギルドストアに行ってきてくれたんニャね!ありがとうニャ!」
礼を言うと彼女は袋を覗き込み、中の硬貨を数え始めた。
「いち、に、さん…わぁ!スゴイニャ~!」
シーラは耳をパタパタと動かし、目を輝かせて喜んでいる。
「それじゃあ……、これがロイさんの分ニャ! はい、半分こニャ!」
そう言って取り出した袋に硬貨を分け、こちらへ差し出す。
正直なところ倒したのは彼女なので、俺の取り分はもっと少なくても良かったのだが、勢いに負けて受け取ってしまった。
分けられた硬貨の袋は、分けられて尚もかなりの重みがある。
( 大体これでどのくらい生活出来るんだろうな? )
そんな疑問が生じてシーラに質問しようかと思ったが、聞きたい内容がジェスチャーだけで伝えられるとは思えないため、断念する。
( また今日の夜にでも会話の方法を考えてみないとな )
受け取った袋をポーチに仕舞うとシーラが立ち上がり、俺の前に立つ。
ベンチに座っているお陰で、ようやく彼女と同じ目線になっていることに気付く。
改めて見ると、シーラはかなりの美少女であった。
クリッとした翡翠色の大きな瞳、健康的に焼けた小麦色の肌、それに映える栗色の髪、可愛いらしい猫のような耳、身体つきは少々幼いものの引き締まっていて、昼間の素早い動きにも頷けた。
そんな彼女に真剣な顔つきで見つめられ、一瞬心臓が跳ねる心地がする。
やがて、意を決したようにシーラは口を開く。
「…ロイさん、アタシと、パーティーを組んでくれないかニャ?」
口から出た言葉は意外なものだった。
食堂の喧騒が遠くに消え、彼女の言葉だけが鮮明に聞こえる。
「昼間の連携を見て確信したニャ、ロイさんとならきっと上手くやっていける…と思うニャ!」
「だからえっと…お、お願いしますニャ!」
シーラはそのまま、手を差し出した体勢で俯いてしまった。
しばしの間思考が止まり、ただ時間が進んでいく。
( …えっと? つまり正式に仲間に誘ってくれてるのか? )
だとすれば断る道理は無く、ベンチから降りて床に膝をつき、彼女の手を取る。
シーラは恐る恐る顔を上げ、取られた自分の手を見るやいな、目を潤ませて涙を浮かべた。
「良かったニャ…断られたらどうしようかと思ってたニャ…」
俺の手の中で、小さなシーラの手がキュッと握り返してくる。
「改めて、よろしくニャ…ロイさん」
朱の差した笑顔でシーラが照れ臭そうに言った。
____________________
その後、時間も遅かったためギルドを出て宿屋へ向かうことにした。
宿屋への道中、気恥ずかしさからかシーラは一度もこちらを振り向くことなく前を歩き続けている。
そうして何を話すことも無いまま宿屋 大樹の木洩れ日亭 へ到着してしまう。
扉を開けると女主人のミラさんが受付に就いていた。
「あら、お疲れ様だね。 丁度良かった、お湯沸かしてあるけど使うかい?」
「あ、ありがとうニャ。 使いたいニャ」
「そしたら後で持ってくからね。用意しとくから部屋で待ってるんだよ」
「わかったニャー…」
そそくさとそのまま、シーラは逃げるように部屋へ行ってしまう。
「…あんたら、喧嘩でもしたのかい?」
そんな風に言われ、慌てて首を振って否定する。
「そうかい、なら良いんだけど…」
ミラさんとそんなやりとりをし、俺も自分の部屋へ入った。
床に座り込んで一息つく。
( ああ…随分と密度の濃い一日だったな… )
朝から晩まで出来事が詰まっていて、まるで3日分くらいの時間が過ぎたようにさえ思える。
( にしても、パーティか…。なんていうか…シーラに認めて貰えたって言う風に捉えて良いのかな…? )
パーティのメンバーとして誘われた、ということは何かしら俺の力を必要としてくれているということだろう。
ようやく事の内容を頭が理解し、気分が高揚する。
( よし! 俺も俺でやる事をやらないとな! )
そんな決意を固めたところで、いつ振りかの声が頭に響く。
《 シーラ の パーティへ参加したことにより、仮パーティ時 の 経験値 654 を獲得 しました 》
《 ロイ の レベル が 6 に 上がりました 》
《 スキルポイント 10 を 得ました 》
突然のことなので一瞬驚いたが、もう数回目なので大分慣れてきた。
( おお…しかしこれは…怖いくらいのタイミングだな )
人と会話するためにどうすべきかひたすらに考え、宿屋への道中俺には、ある考えが浮かんでいた。
そう、技能だ。
以前見た技能の一覧、それに検索を合わせれば何かしら使えるものが見つかるのではないかという考えだ。
スキルポイントの事を懸念していたが、まさかこんな風に解決するとは…。
早速ステータスの板を出し、技能の一覧を見る。
声 の単語に目を光らせて一覧を見ていくと、いくつかの技能があることが分かった。
検索を使いながら各技能を調べていく。
・「拡声」:発した声を魔法によって大きく響かせる技能。
・「遠声」:離れた対象に声を届ける技能。
・「狂声」:聞いたものを混乱させる技能。
等々あったが、以下は麻痺などの異常を引き起こす技能しか無く、どれもこれも文の最後に習得不可の文字が書かれていた。
恐らく…これらの技能は、声が出せることを前提として存在する技能なのだろう。
( …うーん、空振りだったかなぁ…? )
諦めかけて一覧を眺めていたその時、1つの技能に目が止まる。
( ん? 何だろこの技能…、検索 )
・「魔力言語」:魔法を強化するための技能。 詠唱の文字1つ1つを魔力で置き換えて発することにより、魔法の威力を高めることが可能。だが、消費魔力も詠唱に比例して増加する。
習得可能
文字、つまりは言葉を魔力で補う技能。
そして、下段には習得可能の文言がある。
俺は何となく、この技能に可能性を感じた。
( まあ、最悪上手くいかなくても魔法が強くなる訳だし…魔力も多いし…スキルポイントもまだあるし… )
性懲りも無くそんな言い訳をして俺は、その技能を習得する。
( さあ! 早速練習だ!目標は、明日の朝シーラを驚かせることだ! )
そんなこんなで夜更けに、やる気を燃やす鎧男の練習が始まることとなった。
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