ずっと君だけ。

しゅく

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お、おかしい・・・

4限目の授業中、あおるは妙に落ち着かずソワソワしていた。
望んでいた事でもあるし、良いことなはずなのに・・・。

―――緑川が近寄って来ない。

いつもなら朝一番に、見せ付けるかのごとく宮野の前でも構わず笑顔で挨拶とか、授業中なんてお構いなしに嫌がらせしたりして近寄って来るのに。

近寄って来ないどころか、声すらかけてこない。

あと15分もすれば昼休みになる。
こんな長時間、緑川から何もされなかったことなんて今まで無かった。

小学生の頃を含めて自分が緑川を避けた事はあっても、逆に緑川が自分を避けるなんて初めてで。
すぐ隣で授業を受けている緑川が妙に気になって仕方が無い。

思えば緑川が話しかけてこないため、あおるはこの教室で本当に孤立している状態だった。
登校時に霧丘と話した以外、誰とも喋ってない。

そんな自分とは真逆で、緑川は自分と話さなくても周りが寄ってくるからいつも楽しそうだ。

授業中の今でさえ、緑川の前に座っている生徒が後ろを向いて「緑川くん、この問題の答え教えて~」と甘えるような声で話しかけている。


―――すぐ隣にいるのに、まるで居ないみたいだ。

あんなに構わないで欲しい、放ってほいて欲しい、近寄らないで欲しいと思っていたのに。
どんなに嫌だと思う相手でも、居ないかのように無視されるのはなんだか・・・・・・


「では、今日はここまでにします。次回は漢文の予習をしてきて下さい。」

チャイムと同時に、古典の教師が授業の終わりを告げた。

「はぁ・・・」

あんまり頭に入らなかった・・・・・・。
当の本人は何ともなさそうなのに、どうしてこうも緑川に振り回されなくちゃいけないんだとあおるは溜め息をついた。

「緑川くんっ!お昼行こうよ~」

あおるが教科書を片付けている時、宮野が笑顔で緑川のもとへ駆け寄ってきた。

「うん、そうだね」
「今日のメニューは何かなぁ」

え・・・・・・?

「ビーフシチューだった気がするよ」
「僕ビーフシチュー大好き!」

ち、ちょっと待って・・・・・・

スラスラと進む会話。

あおるは戸惑った視線を緑川に投げかけるが、緑川の目には入っていない様子で、ちょうどあおると目が合った宮野はフンッと蔑むように笑った。

「早く行こ~」

宮野は緑川を急かして腕を引っ張り、緑川は席を立って教室から出て行った。


・・・なんだろうか。
切ないというか、悔しいというか、やるせない気持ちは。

緑川の言う事を逆らえないからって、素直に実行した自分が馬鹿みたいだ。

緑川から言ったんじゃないか・・・!弁当作ってほしいって。
忘れたのだろうか。
それとも何かしたのだろうか?

・・・思い当たる節がない。

二人が付き合ってるから「ちょっと待った」だなんて口に出来なかったけれど。
それでもあんまりだ。


今日、あおるは霧丘に一緒にお昼しようという連絡はしていなかった。
今からでも霧丘のクラスに行ったら霧丘は受け入れてくれると思うけど・・・・・・こんな嫌な気持ちで食べたくない。
だからって他にこのクラスで一緒に食べてくれる人も居ない。

・・・・・・今日は一人で食べよう。

あおるは鞄から弁当を取り出す。
余分になってしまったもう一つの弁当箱を見て、あおるは腹立たしさに似た気持ちが込み上げてきた。

やっぱりこれだけは緑川に渡さないと気が済まない・・・!

今日の分だけ渡して、今日限りにして、もうこれから絶対作ってなんか来ない。
宮野との昼食を邪魔してしまう事になるけど、でも、今日1日くらいなんだ。

緑川が悪いんだ。







「あれ?緑川くんのスマホ鳴ってない?」

学内レストランに行く途中、緑川の左腕にピタリとくっ付いたまま歩く宮野が、ブレザーのポケットに入っているスマホの振動に気付いてそれを伝える。

「え?・・・ああ、ほんとだ」
「緑川くん、誰からぁ?」

スマホを見る緑川に宮野が上目遣いで小首を傾げて尋ねる。

「・・・・・・宮野ごめん、急に理事長室に来いって。お昼一緒にできなくなるけど・・・」
「え、そっかぁ・・・。残念だけど緑川くんのお父さんからの用事が優先だよっ!僕は別の人と食べるから平気っ」

「ごめんね」

緑川はやんわりと腕に絡められていた宮野の腕を退かすと、その場を後にした。



『私室、この間の部屋で待ってて』

珍しい事もあるものだと口角が上がるのを抑え、ラインの返事を送りながら。
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