けん者

レオナルド今井

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凍らぬ氷の都編

氷の第三作戦、遂行

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 ──ほどなくしてジョージさんがソフィアを追いかけにいったのでこの場には三人しかいない。

 それが逆にいいのか、落ち着いた様子で親父さんは語りだした。

「ソフィアは妻に似てとても利他的な子でね。幼い頃から魔法一筋だった娘に、なぜ魔法に拘るのかと聞いてみたことがあったのだ」

 ゆっくりと、平和だったころに思いを馳せる親父さんは語り続ける。

「魔法があれば大切な人を守れるから。それがあの子の答えだった」

 小生意気で勝気な今のソフィアからでも時折感じる他者を慈しむ心は幼少期の頃からあったものだったのか。

 急ぐべき場面のはずなのに思わず聞き入ってしまうのはきっとこの親父さんの話し方が上手いからに違いない。決して仲間の知られざる過去に興味津々なわけではなく、したがって俺は悪くないはずだ。よしんば俺が悪くても、マキという共犯者がいるので隙はない。

 さて、そんな自問自答を繰り返しているうちにもソフィアについていろんなエピソードを聞けた。

 年齢が一桁の頃から街を守る魔導隊の隊員と一緒に訓練を受けていたとか、悪人に出くわした時の淑女としての守られ方という講義で悪役を演じる従者を魔法で撃退してしまうとか、それはもう魔法バカなエピソードばかりであった。

「娘に初めて魔法を教えた妻が他界してからというもの、塞ぎ込むように魔法に執着しだした時は父として無力感を抱いたものだ。礼儀作法のレッスンをすべて蹴っては私が頭を下げに行く日常が続いて半年ほどだっただろうか。ある日急に外に出たかと思うと帰宅して開口一番に『私、賢者になったわ』と言い放ったのだ。妻と同じくらい魔法にも愛情を抱いているのだろう。あるいは、これからも注がれるはずだった母親からの愛情の代わりを魔法に求めているのかもしれない」

 人類の扱うすべての魔法を習得したアイツにこんな過去があったとは。

 概要的には聞いていたが、家族からの言葉となると解像度がまるで違う。

「それでも魔法への探究心が潰えない娘に、いつしか私も背中を押していた。今に思うと、妻を失った悲しみが私をそうさせたのかもしれない」

 極寒のなか滅んだ街を手薄な護衛で訪れでは花を手向けるだけあって、今なお亡き妻へ愛情を向けているらしい。

 変に突っつくのは野暮だろう。もっとも、そうなると嫌がらせに特化した俺の会話デッキでは気の利いた言葉は出てこないのだが。

「ソフィアにとって魔法は亡くなったお袋さんとの大切な思い出なんだと思います。昔のソフィアは知りませんが、少なくとも今のアイツはその思い出を誰にも負けないほどにまで育て上げたと言える」

 なけなしの語彙力をひねり出すと、親父さんは嬉しそうに頷く。相変わらず親バカっぽい。

「そうだろうそうだろう。親の欲目かもしれぬが、五年ぶりに再会した娘は立派な淑女だろう。娘が王都へ養女として移って間もない頃にこの地方は氷で覆われ音信不通となってしまったが、スターグリーク家でも愛情を注がれて育ったのがわかる。そんなソフィアだからだろう、守るべき大切な人は日ごとに増え、今では民の一人ひとりを守ることが使命だと思っているのかもしれないね」

 母との死別、第二の家族ともいえる家の壊滅、死の呪いによって混乱に陥った街。それらが守るべき人が増えていったアイツにとって無力感と後悔を抱かせたトラウマであり、今こうして強迫的とも言えるほど街のために命を懸けるまでに至らせたのだろう。

「ソフィアは、とても強い人です。それはケンジロー以上に仲良くしているアタシが保証するのです。もし違ったら首を落とされてもかまいませんよ」

 えっへん、と誇らしげにするマキの思考はよくわからないが、まあアイツは生粋の善人だろう。普段喧嘩ばかりするが、アイツが本気で俺を貶めようとか思ったことはないはずだ。反面、人の悪意を知らなすぎる点は俺が守らなければならないとも考えているくらいである。

「話が長くなってしまってすまない。謝りついでに君たちに頼みたいことがあるのだが、聞いてくれないかね?」

 そんなことを言い出すものだから、俺たちは自然な流れで耳を傾けた──。







 ──夜半を回った頃。

「索敵スキルに反応なし。今回の襲撃に怯えて格下の魔物たちは一斉に姿を隠したようなのです」

 そんな報告をするマキに、俺は藪に身を隠しながら短く了解と伝える。

 さて、夜半過ぎに寒空のもとで隠密している理由は。

「しかし、なんだかんだ引き受けるところに、アタシはあなたに最後に残された微かな希望の光みたいなものを感じました。人の心とかあったんですね」

「さすがにあるわ。もし街が襲撃されたらお前を人質に出して交渉しようと思うくらいにはな」

 瞬間、木の上から遠くを見ていたはずのマキが投げナイフを一本飛ばしてきた。

 あぶねえコイツ何しやがるんだ。

「くだらないやり取りをできるくらいには安全ですね」

「その安全性をたった今脅かされたが⁉」

 このメスガキは危険だ。

 というかなぜこの世界のロリっ子は揃いも揃って気が短いのか。

「先に言い出したのはアタシですが、言っていいことと悪いことがあるのです」

 木の少し高いところにいるマキははっきり聞こえる程度には大きいため息をついた。

 あとで泣かせてやる。

「ところで、索敵スキルに頼るのもいいが、魔力の反応とかはどうだ?」

 そう。マキやソフィアのように魔力に敏感な者は非戦闘状態やスキルにかからないほど敵愾心のない生物に対してもおおざっぱながらその位置を把握できるらしい。記憶を頼りに抱いた疑問について聞いてみると。

「それがですね。この地方に入ったあたりから非常に強大な魔力の持ち主がいるみたいでして」

 索敵スキルにかからないことから身の安全を脅かす存在ではないはずだと続けるマキだが、それはそれとして頼りになる手段が一つ減るというのは心もとない。

「つまりはそいつが近くにいる限り他の誰かの魔力が分かりにくいってことか」

「はい。……熱鉱山の村でドラゴンと戦った日も同じように魔力を感じにくかったのです。あの時はドラゴンの魔力が強大なのかと思いましたが、どうもこの地方にも別でヤバい生き物がいるみたいですね」

「そんな危ないこと言うなよ。まるで俺たちが襲われる予兆みたいじゃねえかよ」

 そういう時はだいたい俺たちが厄介ごとに巻き込まれるんだ。川沿いにプチガルダがいるのが不気味だからと行ってみれば妖魔教団の幹部と対峙し、魔物のスターを自称する痛い子にあったと思えば翌日にはドラゴンと戦わされ、そしてここにきてこれである。ソフィアではないが、俺としても我が身は可愛いので大事にしたいのだが。

「はぁ、雑談はこの辺にして俺たちの作戦を振り返ろう」

「了解です。……まずは隠密や索敵系スキルを持つアタシがある程度敵の本陣を狙撃しやすい場所までケンジローと移動して、陣形が前のめりになったところをあなたが狙撃。混乱に乗じてアタシも突撃して、あわよくば大将である幹部の首を狙ってしまおうってことでしたよね」

「よく覚えているな」

 開戦と同時に俺が弱体化スキルを付与した狙撃を行い敵陣を恐慌状態に陥らせる。このスキルが成功すると射程圏内の全ての敵は恐慌状態に陥り、物理攻撃力と敏捷ステータスが低下する。一部効果の通りが悪いこととダメージが悪いと効果量が低下する点がネックではあるが、逆に言えば防御力が低そうな取り巻きを狙ってもボス魔物にデバフが入るのだ。

 敏捷が下がれば遠くにいる俺のところまで詰めにくくなるだろうし、弱い者いじめに抵抗がない俺にとってはこの上なく相性がいいスキルと言えるだろう。

 それはそうとして、やる気に満ちた様子のマキの言葉に俺はひとつ付け加える。

「もうひとつ、絶対に生きて帰れ。ここまで含めて作戦だ」

「任せてください!」

 ガッツポーズでもしているのか、普段の軽装がこすれる音が上から聞こえた。

 数分後。

 既に戦いが起こっているのか何度も光が放たれる街の入口付近を、こちらへ敵が流れてこないかを時折確認しながら進んでいた俺たちだったが。

「──いますね。アタシたちにはまだ気づいていないみたいなのです」

「ああ。これから何されるとも知らずに呑気に胡坐欠いているな。ここを地獄に変えてやるぜ」

 多分今の俺は悪い顔をしているのだろう。マキに向けられる視線が変わった。だからどうしたという話ではあるが。

 この奇襲は襲われた街が正義の名のもとに行う迎撃行為なので罪悪感は微塵もない。

「その目はやめろ。そんなことより誰でデバフスキルを起動するか決めようぜ」

 今回の奇襲において作戦の成否を決めると言っても過言ではない初撃のスキル。

 恐慌の効果量は命中した敵に与えた体力の割合に依存するらしいのでできるだけ軟らかい奴を狙いたいのだ。

 それをマキもわかっているのか、一緒に選定してくれた。

 しばらく凝視したマキはやがて一匹の魔物を指差した。

「あれにしましょう。魔法に特化した種族ですが物理攻撃が比較的通りやすいのと、体力が少ないのがポイントなのです。鎧を着れない種族なのもいいですね」

 そう指差す先にはローブを来た人型の女性みたいな魔物が大将と思われる魔物の左前に立っている。

 その他有象無象みたいな魔物よりは高レベルなように見えるが、唯一防具らしい防具を着込んでいないので、マキの言う通り狙い目だろう。

 物理法則を考慮すると納得がいかないのだが、この世界では装甲面積が少なくても素材の質などで防御力が高ければ被ダメージを抑えられるのだ。それがたとえ、どう見ても装甲に守られていない地肌に命中した攻撃であっても、だ。それ故にビキニアーマーなんて奇天烈な装備も存在するらしいが、まじめな顔して着るような痴女はいないので、さすがにネタ装備扱いなのだという。

 ちなみにその話を聞いてからというもの、俺はアーチャーやシーフ系の職業が使う、近くの敵の状態が分かるスキルを習得した。これがあれば上質な指輪によってヘッドショットが理不尽に耐えられるなんて現象を回避できるだろう。

 実際にはそれだけではなく、敵の空腹状態だったりバフだったり、敵組織の状態すら推測できる点が魅力なスキルだと思っている。

 閑話休題。スキルを使ってみても、マキが選定した魔法使い型の魔物はバフこそいくつかかかっているが、防具は特段強くはない魔物が着る魔法使い用のローブのみのようだ。

「変な特殊効果もなさそうだし始めるとするか」

「了解なのです」







「──ヒィィ! た、助けてくれぇ!」

「本陣担当になれば楽できるって聞いたから頑張って出世したのに!」

「ちくしょう、俺まだ親孝行できてねえよぉ!」

 独特な発砲音を皮切りに敵本陣は地獄絵図と化していた。

 本能的な恐怖に体がすくむ中、凶悪なロリっ子シーフが近い順にばっさばっさと魔物を切り伏せていく様子は、作戦を提案した俺ですら憐憫に思うほどだ。

 というか、なまじステータスが高く賢い魔物で構成されているせいか、どうも悲鳴の内容が人間臭い。いや、あの『旗槍』もそうだが、知的生命体の社会というのは種族問わずああなのだろうか。

 だとしてもここは戦場で、先に攻撃を仕掛けてきたのは相手なので攻撃の手を緩めることはないが。

 と、部下の情けない姿に苛立ったのか、盾役の魔物に守られながら指示を飛ばしていた大型のオーガみたいな魔物が地団太を踏んで怒号を飛ばす。

「や、野郎ども! たった二匹の人間なんかになにビビってんだ! 俺たちは幹部より強いと評判の第三攻撃大隊だ! 腑抜け入らねえ!」

 そんなボスの声に戦意を取り戻したらしい魔物たちが、今度は逆にマキを囲い込んだ。

 アイツの機動力なら多少囲まれた程度では取り押さえられないだろうが、放っておいて人質に取られても面倒なので援護射撃をしてやる。

 怯えながらも集団心理で戦っていた魔物だっただけに断末魔すらあげさせず殺してしまったことのついては、さすがの俺も罪悪感くらいは抱いた。が、そんなことは気にしていられなさそうだ。

 まさか耐えられるとは思っていなかったのだが、想像以上に固くて耐えてしまった魔法使いの魔物がそろそろ治療を終えて戦線に復帰するかもしれないからだ。というか、スキルを習得して以来なるべく使って使用感を覚えたのだが、スキル付与した攻撃はどうも与えるダメージが低くなる傾向にあるようだ。デバフスキル扱いになって耐性でダメージが軽減されるのだろうか。

「援護感謝します! ですが、治療を止めないとさっきの魔物が復活しちゃうのです!」

 適度に援護射撃を行いつつ、隙を見てこちらに寄ってきた魔物から自衛していると、前線にいてもなお視野が広いマキがこちらに叫んだ。そんなことはわかっている。むしろ。

「それを狙ってたんだ! こうしてデバフを重ね掛けできるからな!」

 俺はそう言いながら、治療を終えてこちらに杖を構えた魔物を再び撃ち抜いた。

 恐慌効果は重ね掛け可能で、削った体力割合に効力が依存するので、こうして軟らかい魔物が全快するのを待ってから体力を削ったのだ。

 二度もデバフを喰らえば目に見えて敵の動きは鈍くなる。ボスから檄を飛ばされて幾分戦えているだけ一匹一匹が精鋭なのだろうが、これは全滅待ったなしだろう。

 と、そこでようやく事態を重く見た魔物の大将が、前線で無双しているマキではなく俺の方へと注意を向けた。

「ま、まさか『心理的制圧域』か⁉ 魔法使いばかり狙撃していたのもそのためか!」

 おっと、気づかれてしまったか。

 右手にヒーラー、左手に魔法使いを置いていて、部下も言語による意思疎通が取れるほど知力が高いというのに、大将のコイツは頭より体で考えるタイプのようだ。さて、そんな脳筋タイプな魔物はというと。

「ちくしょう、なめた真似してんじゃねえぞ、雑魚がァァァ‼」

 怒りに身を任せ、ひとっとびでこちらを狙ってきた。

「ああ! ケンジローッ!」

 戦っている最中のマキが気づいて悲鳴を上げるが安心してほしい。

 日頃依頼を受けもしないのにギルドを冷やかして増やした知り合いの冒険者から、中後衛職として間合いを詰められたときの対処法くらい教わっている。魔法の火力と詠唱速度でゴリ押しするウチのお嬢様と違って、誰でも真似できそうな簡単な方法さ。

 目を見張る跳躍力でこちらに跳んできた魔物をギリギリまで引きつけて、俺は真後ろに飛び退く。

 次の瞬間には、ついさきほどまで俺がいた場所に魔物の大将が着地しており、そして。

「かかったな!」

「ぐあああああああ!」

 いくつか仕掛けていた携帯サイズの置くだけトラップを罠系スキルで強化していたのだが、自慢の巨体で仕掛けていた罠をいっぺんに踏み抜いてしまったようだ。

 置くだけトラップはギルドのショップに行けば五シルバーで買える安物なのだが、アーチャー職やシーフ職が習得する罠系スキルであれば中級魔物くらいなら一撃で倒せる攻撃手段に早変わりする。それをまとめて喰らえば、上位の魔物と言えどひとたまりもない。

「ああそうだ。これは忠告だが、あえて手を出していなかったお前のところのヒーラーに早く見てもらった方がいい。それは即効性の猛毒を塗布しておいた罠だからな」

 そう。こんなこともあろうかと、各種状態異常付きの罠に改造したものを常備しているのだ。

 悔しそうに呻る魔物の大将のもとへと、奴の右腕らしいヒーラーが必死に回復魔法を飛ばし続ける。

 もちろん隙を見せられて黙って待っててやるほど甘くない。

 俺は、全身罠まみれで身動きが取れない魔物に取引を持ち掛けた。

「なあ、魔物さんよ。俺はなにも街の人間みたいにお前たちを目の敵にしているわけじゃない。互いに利害関係が一致していれば迷わず協力するし、こちらに害をなさないうちは手も出さない」

 有利な状況で取引を持ち掛けることが、可能であれば行いたかった今回の目標だった。

 経験値的には倒してしまいたいが、街のことを考えればもっとやれることがあるだろう。

 例えば。

「単刀直入に言うと、お前たち妖魔教団には『北盗団』と戦ってほしい。その間、お前から攻撃がない限りこちらからも手は出さない」

 一方的な取引にしては控えめだとは思うが、はっきり言ってこれくらいでいいだろうと思う。

 この街では三夜連続の防衛戦で財政的に疲弊し始めているが、敵同士で争ってくれて街が攻撃されにくくなればいずれ持ち直すだろう。

 あと、こちら側というのはあくまで氷の都のことを言っているだけなので、王都へ帰還した後ゆっくりと妖魔教団の拠点を襲撃すればいいだけだ。

 俺にデメリットはないし、ソフィアの故郷も助かる。コイツらも犬死にせずに済んでみんなハッピー。

 しかし、こちらの提案はどうも気に食わなかったらしい。

「どこまでもコケにしやがって!」

 いよいよ回復して、まさに罠から抜け出そうとしていた魔物に怒りの念をぶつけられる。

 そんな魔物が罠から抜け出す前に。

「誰が動いていいと言った」

 オーガの足を至近距離で撃った。

 言葉にならない叫び声に思わず耳をやられそうになるが、反撃の可能性はない。

 足を撃たれた魔物の大将は片足が弾けて転んだからだ。

 しかし、あえて急所を外したとはいえ、至近距離で音速の数倍で飛ぶ弾丸を受けて生きていられるとは。そのタフさには敵ながらあっぱれと言わざるをえない。前線で無双し、ヒーラー以外の全員を無力化したマキがこちらに気づいたようだ。

「加担したアタシが言うのもなんですが、相変わらずひどい作戦を思いつきますね」

「おい、ずいぶんな言い草じゃないか」

 一仕事終えたように駆け寄ってきたマキが、お疲れの言葉もなく罵倒してきた。

「あえて治療できる可能性を残しておけだなんて。いくらアタシでも魔物をいたぶる趣味などありませんよ?」

「まるで俺にはあるみたいな言い方やめろ。……殺し切るんじゃなくて負傷させておけば、そいつを後方へ連れて行くのに人手が必要になる。ここであえてコイツらを見逃してやれば、主戦場になってる街の近くから戦力を戻さなきゃならないだろ」

 そうすれば、主戦場にいるソフィアの荷も軽くなるだろうと、作戦を伝えた時に言ったはずなのだが。

 ゴミを見る目を向けるマキに心の中で反論していると、凄まじい速度で向かってくる敵をスキルで検知した。

 索敵スキルに引っかかってから近くに現れるまでわずか数秒。俺たちはとてつもない殺意を向けられた。

「マズいですよケンジロー! アイツは確か!」

 言われなくても覚えている! アイツは……!

『まったく。君はとても面白い作戦を考える。生かしておけないようだね!』

「『操魔』様! 不甲斐ない姿をお見せしてすみまっ」

 魔物の大将だったオーガが体中を無数の風の矢に貫かれて崩れた。

 これは予想外だ。

 まさか、たった二人で幹部クラスと真正面から対峙することになるとは。
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