THREE MAGIC

九備緒

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FIRST MAGIC

第15話 エリートは××××

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 突然のことに慌てふためく知衣を蕩けるような熱い視線で見つめ、美女は抱擁を強める。
 その力は思いの外強く、知衣がいくら力を込めても抱擁は緩む様子がない。
 胸元に抱き込まれ、豊満な胸で窒息寸前だ。

 し、死ぬ!

 ぴくぴくと痙攣しだした知衣の危険を悟ってか、クレアが口を挟む。

「ベルフェール様、チイ様をおはなしください。」

 クレアの言葉に美女は、不愉快そうに眉を寄せる。

「貴方はアレク様の新作ね。本人ならともかく使い魔ごときにどうこう言われる覚えはないわ。」

 対するクレアは、怯むどころか極上の笑みでそれに応じる。

「出過ぎた真似とは承知の上で言わせて頂きますが――チイ様は正真正銘の成人女性ですよ?」

 その言葉に、美女は驚愕に目を見開く。
 そして―――

「いやあぁぁぁ―――っ!!!」

 悲鳴とともに知衣を突き飛ばした。

 階段を昇った疲労もあって知衣は、なすすべもなく吹き飛ばされる。
 床に倒れこむ直前、クレアが支えたため、無事ではあったけれども。

「い、一体何なの?」

 今度は自分のことを見てガタガタと震えている美女に戸惑う知衣に、エステルが溜息とともに答える。

「チイ様、申し訳ありません。ベルフェール様はその……幼児趣味の持ち主でして。」
「よ、幼児趣味!?私24歳なんですけど!?」

 幼く見られることはわかっていたが、まさか幼児趣味の人間のターゲットになるとは。
 驚愕する知衣に、さらにエステルは言う。

「そのうえ、異性恐怖症なのです。」
「……へ?私、子供に見える上、男にまで見える?」

 確かにこの世界でいう男モノの服を着てはいるが、男と間違われた事はない。
 思わずクレアに尋ねると、クレアは首を振る。
 
「ベルフェール様こそああ見えて――正真正銘成人男性ですから。」
「ええ!??あ、ああああ、あの胸は!??」
「魔法です。」
「あ、ああ。そっか、そういうところだったわね。」

 姿を変える魔法はあると聞いていた。

 けれど、異性恐怖症なのに魔法で女装?
 しかもこれほど妖艶な美女に?

 知衣の混乱を知ってか知らずか、エステルがベルフェールへと歩み寄る。

「ややこしいので戻しますね。」

 そう言うとエステルは、ガタガタと震えているベルフェールに向けてペンを振るう。
 すると――

 ポン

 乾いた音を立てて、目の前の美女が変化した。

 豊満な胸はいずこへやら、そこに現れたのはとても男性らしい肢体の持ち主だった。
 筋肉隆々とは言えないまでも、一目で鍛えられているとわかる引き締まった身体。
 アレクやセフィーほどのとびぬけた美貌の持ち主ではないが、イケメンと評しても良い男前である。

 成人男性と言ったが、いったい幾つ位の年齢だろうか。
 外見だけなら、アレクより1つ2つ上程度にしか見えないが、アレクは14歳だというし。

 未だ震えながら知衣を見ているベルフェールに代わり、エステルが口を開いた。

「改めまして紹介します。こちらが私の師であり、宮廷魔法師『幻師』にして宮廷魔法師の長を兼任しているベルフェール様です。大変な童顔ですが、チイ様と同じく24歳であらせられます。」

 何だかとても偉い人らしいが、こちらを見て怯えるのはどうにかして欲しい。

 というか本来、悲鳴を上げるのは私の方じゃないの?

 誤解したのも、いきなり抱きついてきたのも目の前の青年だ。
 知衣自体は、青年に対し何もしていない。

 それなのにいきなり同年齢の異性に抱きつかれた上、悲鳴をあげて怯えられる自分は一体?

 ここへ辿り着くための肉体的疲労に加え、精神的疲労を覚える。

 この国って……とっても疲れるわ。 
 二日目にして、すっかり気分はホームシックだ。
 
 ああ、日本が恋しい!
 お茶漬けが恋しい!
 納豆万歳!
 ついでに梅干!


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