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SECOND MAGIC
第42話 物々交換
しおりを挟む絵を受け取ったゴン君が、その絵を見つめ………無言。
ひたすら無言で30秒が経過した。
耐えきれずに知衣は口を開く。
「や、やっぱりこれじゃダメ?」
知衣が描いたのは、似顔絵だ。
それも、落書きのようにさらっと描いたシンプルなもの。
単純な絵柄ながら、自分なりによくゴン君の特徴を捉えていると思うのだけど。
やっぱり、もっとちゃんとした絵でなければ駄目なのだろうか。
「……僕?」
「うん。ゴン君の似顔絵……のつもりなんだけど。」
よく考えれば、モデルも良くなかったかもしれない。
知衣の似顔絵は、写実的なものではない。
正確な見た目を似せるのではなく、特徴や雰囲気を誇張して描いたものだ。
目の前のゴン君のぼやっとしたところを大袈裟に描いているので――本人から見れば不快なものかもしれ
ない。
けれど子供は、首を振った。
「……これでいい。」
「ホント!?」
思わず胸を撫で下ろす。
ゴン君は、そんな知衣の服の裾を引いた。
「この絵……貰っていい?」
「ん?別にいいよ。元々ゴン君のスケッチブックなんだし。」
「じゃあ、かわりにこれ……あげる。」
そういってゴン君が差し出したのは、あの名画。
「ちょうど、完成したところ……だから。」
そう言ってあっさりと差し出された名画に、知衣はぎょっとする。
全財産をはたいてでも欲しいとは思った。欲しくないはずはない。
けれど、落書きと大差のないあんな絵とは、明らかに不釣り合いだ。
あの名画と引き換えだなんて、ありえないと思う。
「私の絵なんかタダであげるって。私の絵なんかでこんな凄い絵は貰えないよ。」
「……物置にしまっておくだけの絵だから、凄くない。」
「え!?飾らないの!?」
驚愕する知衣に、ゴン君は頷く。
「描いた絵には……興味ない。けど、売るのも捨てるのも……面倒。」
「……そういうことなら、やっぱり貰っていい?」
人目に晒されることもなく物置に放置されるくらいなら、自分が貰って大切にした方がいい…なんて――
都合のいい言いわけかもしれないけど。
あまり物欲のない知衣ですら、この絵は欲しいと思うのだ。
あっさりと頷くゴン君に、知衣は約束する。
「家宝にするからね!」
「……僕も。」
「……え!?僕もって……」
「この絵……部屋に飾る。」
そう言って大切そうにスケッチブックを抱え込むゴン君に、知衣はあんぐりと口を開ける。
「なんで!?」
知衣がかつてないほどの感動を覚えた名画の描き手が何故、数十秒でさらっと描かれた似顔絵なんかを飾
ると言うのか。
到底理解できない。
「……気に入った。」
「それは……まあ、嬉しいけどさ。こんな『へのへのもへじ』と大差ない絵を飾るのはどうかと思うよ?」
「……へのへのもへじ?」
首を傾けるゴン君に、改めて異世界なのだと思い出す。
翻訳魔法も、この世界にないものはうまく伝えられないのだろう。
アレク様に、『どこでもドア』も通じなかったしね。
アレクとの一件を思い出し、存在しないなら魔法案になるかも……と、考えてみるが。
移動の魔法自体はもうあるし、敢えてドアにする必要性はないだろう。
言うのはタダだし、提案してみてもいいが、採用してもらえる可能性は低いように思う。
「ちょっとスケッチブック貸して?」
そう言って改めてスケッチブックを借りると、知衣はそこに『へのへのもへじ』を描く。
「私の世界で、これが『へ』の字。これが『の』で、これが『も』。これが『じ』。こうして並べると人の
顔みたくなるでしょ?これが『へのへのもへじ』。」
「……すごい。」
そう言ってへのへのもへじに釘付けになったゴン君に、知衣は苦笑する。
ゴン君の描いた絵の方がよほど凄いのに、へのへのもへじに感心するとは。
この世界では、いかにも芸術!といった感じの絵しか描かれていないのかもしれない。
知衣の描いた似顔絵や、へのへのもへじに感心するなんて、余程こうした単純な絵が珍しいのだろう。
ゴン君のスケッチブックに描いた絵だ。
ゴン君に絵をあげるのは構わない――が。
「飾らないでね。」
そう言えばゴン君は、なんとも物悲しい視線を知衣に向けたのだった。
それでも。たとえ泣かれたって、知衣を感動させた名画を物置に置くゴン君に、自分の絵を飾られるなん
て御免である。
そんなことするくらいなら、ゴン君自身の描いた名画を飾るべきだ。うん。
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