空蝉

杉山 実

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和やかに

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   84-082
夜、智光と浅子は夕方の出来事を話し合っていた。
「日曜日に麻生さんに謝りに行かなければいかんな!」
「そうですね!費用も全て出さなければいけませんわね!」
「当然だろう?それにしても麻結は思い切った行動に出たな!浅子は気が付かなかったのか?」
「あの障害の男性と九州旅行に行って、心が決まった様ですね!それでも私達が結納を進めたから強行手段に成った様です!」
「あの様な頭に成る前に何故障害の男は止めなかったのだ!役に立たない男だな!」
「それより、髪が伸びるまで良い鬘を買ってあげましょう!」
「それが先決だ!明日休みにして居るから、早速三ノ宮に行って買ってあげなさい!あれでは世間を歩けない!」
「あの障害の男との付き合いを認めなければ、尼寺に行きますよ!麻結!」
「取り敢えず様子を見る為に、許そう!だが今回の事件も止められない男では頼りない!」
「それより縁談が無くなった事で、薮内支店長の様に成るのでしょうか?」
「可能性が無いとは言えないが、直ぐには無理だろう?銀行の威信にも影響するだろう?病気ならともかく、就任三か月で移動は考えられない!」

智光の予想は的中していた。
祐樹が祖父に頼んだが、その様な馬鹿な事をわしの口から言い出せるか!と怒った。
「お前は自分の失敗を他人に押し付けている!反省しなさい!ようやく結婚だと喜んでいたのに、とんだ茶番だったな!」
「坊主の妻は無理ですよ!」
「麻生家の名誉の為、お前が断った事にしなさい!お母さんにもその様に説明をしなさい!」
祐樹は智光の左遷を進言しに祖父の家に行ったが、逆にお叱りを受けて意気消沈。

翌日、麻生久美子が「今回の縁談は私共からお断り致しましたので、ペナルティ―その他費用は一切麻生家で負担いたします!」
「えっ、私の娘が、、、、、、」
「気が触れて、尼寺に駆け込んだのでしょう?そんな変なお嬢様を息子の嫁には出来ませんので、当家からお断り致しました!今後一切当家と関係が有りませんので、お忘れに成らない様にお願いいたします!」
強引な電話は落合家の負担をゼロにした。
「自分の息子が断られた事が気に要らないのか?」電話で智光に連絡すると、そう言って笑った。

浅子は麻結を連れて、女性用鬘の専門店に向かった。
武史も今日から仕事に復帰したので、ひとまず安心に成って気分的にも安定した麻結。
「姫路の男、何故麻結の坊主を止めてくれなかったの?」
「彼、月曜日の夜から高熱で寝込んでいたのよ!お母さんにも何度も電話したって聞いたわ!」
「そ、そんな事有ったの?」惚ける浅子。
逆に浅子が武史の話を早く聞いていたら、麻結の頭は無事だったかも知れない。

最高級の鬘を買う時、店員さんが「映画の撮影か何かで坊主にされたのですか?俳優さんも大変ですね」と言った。
坊主に成ったら別の意味での妖艶な美しさが麻結には有った。
お気に入りの鬘を着けて、三宮の街を歩く娘は明るく成ったと思った浅子。
先日迄の悲壮感が無くなって明るい。
それには原因が有った。
明日久々に武史とデートの約束をしていたのだ。
多分明日真っ先に頭の事を気にするだろうが、今この姿なら髪を少し切った様に見えるだけだ。

武史の家にも朗報が舞い込んでいた。
二年前に、武男の兄と親父が殆ど同時に亡くなって相続問題が勃発していたが、ようやくその土地が売却されたと連絡が入った。
大手のスーパーが纏めて買い、大型の商業施設が出来る様だ。
「相続の分配金を送って来る様だ!口座番号を教えて欲しいそうだ!」電話が終わると武男が久代に言った。
「親父が相続していたが、広さだけは結構広かったぞ!」
「津山城の家老の末裔が口癖だったのでしょう?」
「お爺さんはいつも口癖だったな!森蘭丸の弟が城主だったって話して居たよ!」
「あの織田信長の小姓で、本能寺で亡くなった?」
「そうだ!」
「でも遺産って幾ら有るのでしょうね!」
「昔は沢山土地が有った様だが、随分少なく成ったと親父はぼやいていたな!兄貴が亡くなったから相続が大変だったよ!適当に印鑑を捺したけれど、幾ら位貰えるのだろうな!」
「武史の新居の足しに、、、、、無理かな?」
「そうだな!結婚なんて夢のまた夢だったからな!」
「それも信じられないけれど、女優の様な美人さんよ!」
「奇跡だな!これで睦も気兼ねなく嫁に行けるだろう?」
「明日武史が彼女を連れて来るのよ!昼食を一緒に食べるのよ!」
「美人の顔を間近で見られるのか?」
「あの子のお父さんの銀行の口座を書いて送りましょうか?」
久代が冗談の様に言った。
「沢山口座が有るから、別に判らないだろう?」
「今は電気料金が引き落とされているだけよ!50万程有るけれどね!」
「そこで良いから、兄貴の息子に送ってやれ!来週振り込むって話して居た」
二人は明日来る麻結の話で盛り上がり、遺産相続の事は殆ど気にしていない。

麻結は浅子とショッピングを楽しみ、食事をして仲良く帰った。
久々の和やかな親子に成っていた。
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