幽霊探偵 白峰霊

七鳳

文字の大きさ
7 / 10
学校編

ステージ裏の鍵

しおりを挟む
翌朝。
わたしは、いつもより少し早めに登校して教室へと向かった。
理由は言うまでもない。昨夜のメールがずっと引っかかっていて、今すぐにでも体育館のステージ裏を確かめたかったからだ。

しかし、朝のホームルームが始まると、担任の先生がやけに念入りに“文化祭の進行”について話し始める。
「みんな、最近の幽霊騒ぎに惑わされず、文化祭の準備を着実に進めること。万が一、変な事件やトラブルに巻き込まれそうになったら、必ず先生に相談するように」
——と、何度も注意を繰り返している。

教室のあちこちからは不安そうな声が漏れていた。
「まだ“幽霊”の噂が広がってるみたい」「夜、学校に残るの怖いよね」……
けれど、わたしは心の中で、先生たちと同じく「今は文化祭準備が最優先だ」という思いと、「真実を探らなくちゃ」というジャーナリズム精神の間で揺れていた。

(白峰 霊のメール……ステージ裏……。
 もし何か重要な証拠が隠されているのなら、早く行動した方がいい。
 実際、あの暗い写真にもステージらしきものが写っていたし……)

授業が始まる前に一度、体育館へ向かってみようか。
そう決意しかけたところで、ホームルームの終了を告げるチャイムが鳴る。
先生が「じゃあ1時間目は移動教室だから、みんな遅れないように」と告げ、慌ただしく教室を出て行った。

「……よし」

わたしは急いで机を片付け、廊下へと飛び出す。
移動教室には少し遅れてしまいそうだけど、今はそれどころじゃない。
せめて体育館の様子を一目でも確認しておきたかった。


廊下を駆け抜ける途中、何人かの生徒とすれ違うが、皆“幽霊騒ぎ”の噂で口々に騒いでいる。
「今度は家庭科室でミシンが勝手に……」「マジで怖いんだけど」などと聞こえてくる。
そのたびにわたしは胸がざわつき、足を速めた。

体育館の前にたどり着くと、ちょうどミステリー研究会の伊藤くんが玄関付近をウロウロしているのが見えた。
彼もわたしと同じく“幽霊の真相”を追いかけているらしく、こうしたタイミングで遭遇することが増えた気がする。

「おはよう、葉月さん。もしかして、これから体育館に入るの?」
伊藤くんは少し息を切らせながら尋ねる。

「うん、ちょっとステージ裏を見てみたくて……実は、昨夜、白峰 霊から奇妙なメールが来てね。
『そこに鍵があるかもしれない』とか言われたんだけど」

伊藤くんは目を丸くして「また彼から連絡が? 最近姿を消してるのに」と驚く。
わたしは苦笑して頷いた。

「そうなの。非通知じゃなくて、今度はメール。でも返信できなくて……。
なにかヒントがあるなら確認したくて、ちょっとだけ覗いていくわ」

「僕も一緒に行くよ。どうせ1時間目は移動教室だし、少しだけなら時間あるかも」

こうして、わたしたちは体育館の中へと足を踏み入れる。
朝の体育館は薄暗く、放課後と違って人気もまばらだ。
ステージ上には誰もいないように見えるが、奥の方で教師らしき人がバタバタと音を立てている気配がする。
朝の見回りだろうか。文化祭準備の関係かもしれない。

「……こっそりステージ裏に回ろう。先生に見つかると面倒だし」

わたしは伊藤くんの袖を引き、なるべく足音を立てないようにステージの脇にあるカーテンの隙間をくぐる。
幸い、教師は反対側の入り口にいるようで、こちらには気づいていない。

ステージ裏は、いわゆる大道具や小道具が置かれているスペースだ。
文化祭で使う舞台セットや看板のような大きなパネルが所狭しと立てかけられている。
どれもまだ完成途中なのか、ペンキや布が無造作に放置されていた。

「暗いな……」
伊藤くんがスマホのライトを点ける。
わたしも懐中電灯代わりに携帯を取り出し、足元を照らす。

(白峰 霊の言った“鍵”って、具体的に何を指してるんだろう。
 もし物理的な鍵なら、どこかに落ちているかもしれないけど……)

周囲を見回しても、特に鍵らしきものは見当たらない。
壁際には古い椅子や机が積み上げられているが、ほとんど埃をかぶっているだけだ。
かといって、一つ一つを片っ端から調べる時間もない。

「どうしようか……」
わたしが小声でつぶやいたとき、伊藤くんが「あ」と何かに気づいた声を出した。

「見て、この大きなパネル……。写真に写ってたやつと似てない?」

彼が指さす先には、“文化祭”の文字が大きく書かれた看板らしきものがあった。
——もっとも、まだ完成途中のようで、背景だけが塗られている状態だ。
しかし、形や配色の一部が、わたしが拾った写真にぼんやり写っていた“板”の色と似ている気がする。

「確かに……これ、少し裏側が曲がってるみたい。角度によっては写真にあるように見えるのかも」

わたしたちはパネルの裏手へ回り込む。
するとどうだろう。そちらには複数の小さな棚が固定されており、その中にはいくつかの道具や備品がしまわれている。
釘やドライバーといった工具だけでなく、謎の布切れや古い照明器具まである。

「鍵、ってもしかしてここの道具箱のことかな……?」

伊藤くんが工具箱を開けようとしたとき、何かがカタン、と落ちる音がした。
慌ててライトを向けると、小さな金属製の鍵が転がっているのが目に入る。

「鍵……! これかもしれない」

わたしはすぐに拾い上げて手に取る。
錆びついてはいないが、だいぶ古い形状だ。
現代のシリンダー錠ではなく、昔ながらのギザギザした鍵で、まるで倉庫か備品室の鍵のようにも見える。

「何の鍵だろう……。倉庫用? それとも部室の備品倉庫とか……」

「少なくとも、最近の教室やロッカーの鍵じゃなさそうだね。
音楽室とか理科室の鍵とも違うはず。こっちの方が形が古い」

伊藤くんは指先でその鍵をひっくり返しながら、頭をひねる。
たしかに、こんな鍵を使っている部屋は、今どき校内にはほとんどない気がする。
むしろ旧校舎など、普段は使われていない施設の方が怪しい。

(旧校舎……前に白峰と出くわしたあの場所?
でも、もう鍵は壊れてて開け放題だったし……)

わたしが考え込んでいると、不意にスポットライトが照らされたかのように、ステージ側からパッと明かりが差し込んだ。
どうやら、さっきまで反対側にいた教師が、ステージ上の照明をテストしているらしい。

「やば、見つかるかも……一旦出ようか」

わたしたちは慌てて鍵をポケットにしまい、もと来たカーテンの隙間からステージ脇へと抜け出した。
先生の姿はちらりと見えたが、こちらには気づいていないようだ。
朝の時間帯で急いでいるのか、すぐにステージ照明を落として体育館出口に向かってしまったように見える。

ほっと胸を撫で下ろしつつ、わたしと伊藤くんは顔を見合わせる。

「鍵は手に入ったけど……何の鍵だろうね」

「それに、白峰さんはなぜこれを教えてくれたのか……。“ステージ裏の鍵”って、ほんとにこれのこと?」

曖昧なままではあるが、とにかく“鍵”を入手できたのは事実だ。
あの写真に写っていたパネル裏で見つかったのだから、偶然とは考えにくい。
何かしら意味があるはず……。
そう思いつつ、わたしたちは教室へ急いだ。もうすぐ1時間目が始まってしまう。


その日の昼休み、わたしは新聞部室で神埼先輩と合流し、今朝の出来事を報告した。
伊藤くんも呼んで、三人で簡単な情報交換をする。

「ステージ裏から古めかしい鍵が……?」

先輩は鍵をまじまじと見つめ、感心したような苦笑を浮かべる。

「白峰くんが“ステージ裏を見ろ”って言ってたのなら、きっとこれが正解なのね。
でも、何を開ける鍵なのかしら。いま使われてる校舎の鍵は、だいたい最新のものに交換済みじゃなかった?」

「そうなんですよ。だから、使えるとしたら旧校舎とか、あるいは別棟の古い倉庫とか。
あとは校外の何か……って可能性もゼロじゃないですけど」

わたしが補足すると、伊藤くんが「あ」とひらめいた顔になる。

「そういえば、最近は聞かなくなったけど、昔は“地下倉庫”があったなんて話を耳にしたことあるよ。
学校の創立当時に使っていた物品を一時保管していたとか……でも今は完全に閉鎖されてるとかなんとか」

「地下倉庫……。そんなのがこの学校にあるの?」

「うん、噂程度だけどね。
先生や先輩たちも『あそこはもう使ってないし、鍵は誰も持ってない』って言ってた気がする」

神埼先輩は腕を組んで悩み込む。

「もしそれが本当なら、すでに廃棄状態のはずよね。
でも、“完全に閉鎖されてる”割には、そこに何かが眠ってる可能性はある……。
かといって、勝手に探索するわけにもいかないし」

新聞部としては魅力的なネタではあるが、許可なく侵入すれば大問題に発展しかねない。
わたしは歯がゆい思いを抱きつつ、鍵をテーブルに置いてため息をついた。

「白峰 霊は、この鍵をわたしたちに見つけてほしかったのよね。
でも、だからといって地下倉庫(が仮に存在するなら)を開けろとか、そういうこと?
何か隠された証拠でもあるのかな……」

ふと、先輩は思い出したように「そういえば」と言い出す。

「今朝、先生たちが『夜間の見回りを増やす』って言ってたでしょ?
その中に“地下の配電室や旧配管ルートも確認する”とかいう話が混じってた。
それがイコール地下倉庫かは分からないけど、学校の下にはいろんな空間があるのかも」

(……配電室や旧配管ルート……。
 そんな場所が本当にあるなら、そこを“幽霊”の仕業でうまく利用している者がいるのかもしれない)

頭の中で、理科室の密室騒動や旧校舎の事件がチラつく。
例えば隠し通路のようなものを使えば、どんな“手品”も可能だ。
夜の学校を自由に移動して、あちこちで白い影や奇妙な仕掛けを作動させられる……。

「でも、確証がないと何とも……。
鍵を頼りに、まさか無断で地下に潜るわけにもいかないし。先生に相談しても、信じてもらえるかどうか……」

わたしがこぼすと、先輩は少し眉を寄せながらも頷いてくれた。

「そうね。下手に動いてトラブルを起こすより、もう少し様子を見てもいいかも。
それに、白峰くん自身がまだ学校にいないようだし、“種明かし”するなら彼も一緒の方がいいでしょう」

「そうだね……」

結局、この時点では具体的な行動は保留することにした。
わたしたちは昼休みが終わるのを待って、それぞれ次の授業へ向かう。
胸の中には、鍵が示す次の展開への期待と不安が混ざり合っていた。



それから数時間後。
放課後、わたしは引き続き新聞部の仕事で資料を整理していた。
すると、神埼先輩が部室に駆け込んできて言う。

「葉月ちゃん、体育館から変な音がするっていう報告があったらしいわ。
金属を擦るような“ギギギ……”って音が何度も聞こえてくるって」

「え、また体育館? 今朝、あそこに行ったばかりなのに……」

まさか、あの鍵と何か関係があるのか?
胸騒ぎを覚えたわたしは、急いで資料をまとめて部室を出る。
廊下で伊藤くんとも合流し、三人で体育館に向かった。

体育館は夕方の部活動で賑わっている……と思いきや、なぜかメインのバスケットコートやバレーコートにはほとんど人がいない。
代わりに、奥の方から部員たちの怒号が聞こえる。どうやら、音の正体を探してみんなが右往左往しているらしい。

「ギギギ……って音、どこから聞こえるんだろう」

「さっきまではステージの下? 裏? あたりだって言ってた人もいるけど、確定じゃないみたい。
廊下側から聞こえたって人もいれば、天井あたりだって声もあるし……」

まるでラップ音のように、体育館のあちこちで金属音が響いているかのようだ。
こんな現象、意図的にやるとしたら相当な仕掛けが必要だろう。

わたしと伊藤くんは、ステージの脇から裏へ回ろうとした。
今朝来たばかりの場所だが、何か新しい変化があるかもしれない。

しかし、そこで遭遇したのは——白い影のようなものがサッとカーテンの奥へ逃げ込む光景。
一瞬しか見えなかったが、確かに白い布をまとった人影に見えた。

「今の……見た!?」「ああ、白い影……」
わたしたちは目を見合わせ、そのままカーテンをくぐって裏へと飛び込む。

暗がりのステージ裏。
今朝よりも物が増えている気がする。
文化祭の大道具か、椅子やテーブルなどが新たに運び込まれて雑然としているせいだ。
あのパネルや工具箱がある場所まで行くのにもひと苦労だ。

「どこだ……白い影は?」
伊藤くんがスマホのライトを振り回しながら探す。

そのとき——またしても**ギギギ……**という金属の擦れる音が聞こえた。
まるで、どこかに設置された金具がこすれ合っているような、低い不気味な音だ。

(何の音? ステージ装置の故障? それとも、人為的な仕掛け?)

わたしが警戒しながら奥へ進むと、コンコン、と軽く何かを叩く音も混じった。
まるで合図のように、何かを指し示しているかのようだ。

「……伊藤くん、気をつけて。罠かもしれない」

「う、うん……」
彼も緊張で声が上ずっている。

やがて突き当たり、古い暗幕がかかったスペースに出た。
ここは普段ほとんど使われていないらしいが、昔の照明装置やスピーカーの部品が積み重なっている。
今は埃まみれだが、ところどころ足跡のようなものがついている気がする。

「足跡……誰かここに来たってことか」
伊藤くんがかがんで確認していると、また別の方向からギギギ……という音がする。

今度はさらにステージ下手(舞台から見て左側)付近。
思わずそちらへライトを向けるが、目立った動きは見えない。

すると——不意に暗幕の向こうでザザッと布が揺れ、何者かが走り去る気配を感じた。
「待って!!」わたしと伊藤くんは声を上げるが、相手は瞬く間に姿を消す。

「くそ……追えない。段ボールとか積まれて通りにくい……」
伊藤くんが唇を噛む。

まるで、わたしたちを翻弄するかのように逃げ回っているようだった。
それどころか、この空間に仕掛けられた何かが金属音を鳴らし、遠隔操作のような形で“幻の白い影”を演出している可能性もある。

(白い影……やっぱり誰かが意図的に“幽霊”をやってる?
 以前からの噂やチラシも含め、全部同じ人物の仕業?)

これだけ暗幕や大道具が入り乱れる場所なら、逃げ道はいくらでもあるし、物音の反響も起きやすい。
仮にラジカセやスピーカーを仕込むだけで、不気味な音くらいはいくらでも流せるかもしれない。

結局、その後いくら探しても、その“白い影”は見つからなかった。
代わりに、また新しい幽霊探偵チラシを発見しただけ。
そこには同じ文言が書かれ、わたしをあざ笑うように貼りつけられていた。


あきらめてステージ裏から出ると、ちょうど神埼先輩が心配そうに駆け寄ってきた。
「大丈夫? 白い影を見たって人がいっぱいいるけど、捕まえられなかったの?」

「うん……暗幕の奥に逃げられて、どこへ行ったか分からなくなった」

落胆を隠せないまま、わたしは今朝見つけた鍵のことを再度思い出す。
このステージ裏に隠し扉でもあれば、そこから地下へ通じている可能性もある……そんな想像が頭をよぎる。

「ねえ先輩、もしかしたらここからどこかへ繋がる通路があるんじゃ……」
思わず口を開いたとき、先輩は「実は……」と申し訳なさそうに語り始める。

「さっき顧問の先生からチラッと聞いたんだけど、ステージ裏には昔、小さな扉があったらしいの。
いまはもう物が詰まってて使われていないんだけど、かなり昔の舞台設備でね、下に降りる階段があったんだって。
ただ、今は安全面で塞いでるから入れないようになってるはず、って言ってた」

「塞いでる……でも鍵があれば開く可能性もある、ってこと?」

「さあ、そこまでは分からないわ。
扉自体が残っているなら、例の“古い鍵”が使えるかもしれないけど、物理的に壁を作って塞いだなら無理かも。
先生たちも“もう撤去済み”くらいの感じで、詳しくは把握してないんじゃないかな」

なるほど……情報が曖昧だ。
しかし、この話を聞くと、わたしが手にしている鍵が本当にステージ裏の扉に対応している気がしてならない。

(白峰 霊がわざわざ“ステージ裏を見ろ”と言ったのも、そういう理由なんじゃ……?
 あの白い影は、この扉を使って地下かどこかに逃げたのかもしれない)

「……よし、とりあえず今は先生たちが見回りを厳しくしてるから、無理に探るのはやめとこう。
文化祭の準備で人が多いから、万一トラブルを起こすと大変だし……」

そう結論づけるわたしに、先輩も伊藤くんもうなずく。
今は確たる証拠もなく、“扉が存在するかどうか”さえ曖昧。
下手に暗幕の奥をさらに暴こうとすれば、不審者扱いされかねない。

こうして、ステージ裏の調査は一旦打ち切りとした。
しかし、心の中でははっきりと疑念が膨らんでいる。
「あの鍵は扉を開けるためのもので、そこが今回の幽霊騒動の秘密に繋がっているのではないか」と。


その日の夜。
わたしは珍しく新聞部の締切対応で遅くまで残業してしまった。
学校を出るころにはすでに周囲は暗く、門を施錠する守衛さんに「気をつけて帰りなさいよ」と声をかけられる。

門を出て暗い道を歩き始めたとき、胸ポケットのスマホが振動した。
ディスプレイには“非通知”。
「ああ、また……」と思いつつ急いで出ると、案の定白峰 霊の落ち着いた声が聞こえる。

「こんばんは、御堂 葉月さん。今日はよく動き回っていたみたいだね」

「もう、どこで見てるのよ。姿を見せてくれたらいいのに……。
ステージ裏に鍵があったわよ。あれってやっぱり、昔の扉を開けるため?」

「さあ、どうだろう。僕はただ、“そこに鍵がある”って言っただけだよ。
使い方は君の自由だ。ただし、使えば何かが変わるかもしれないし、使わなければ何も変わらないかもしれない」

歯がゆい返事だ。いつも通り、核心をぼかすような物言い。
わたしはイラッとしつつも踏み込んで聞く。

「ねえ、白峰。あんたは最初から“この学校の地下に何かがある”って知ってたんでしょ?
だからわたしたちに鍵を……」

「あくまで推測さ。
でも、そういう“秘密”は時として、幽霊を生むんだよ。
本来隠されているはずのものが動き出したとき、人は“不可解だ”と感じ、それを“幽霊”と呼ぶ。
だからこそ、僕は“幽霊探偵”なんだ」

「意味が分からないってば……」

「ふふ、わからなくてもいい。いずれ“文化祭”の日が来れば、何かが決着するだろう。
そのとき、僕は再び姿を見せるよ。
それまでは、“幽霊騒動”の行方を見守っていて」

「待って……話はまだ」

途中で電話がブツリと切れる。
まったく、いつもこの調子だ。彼は一方的で、まるで本当に人間じゃないみたい……。

わたしは大きく息を吐き、夜道を見つめた。
文化祭まであと少し。その日が“決着”になるというのは、彼の根拠なき予言なのか、それとも何か確信があるのか……。

(どうしても、“文化祭実行委員”の動きも気になる。
 でも、まだ何も分からない。鍵と地下と幽霊騒動……全部が繋がっているのかもしれないけど)

今は焦っても仕方ない。
白峰が言うように、行事が迫れば状況が動くかもしれない。
わたしは意識的に頭を切り替え、「とにかく今日は帰って休もう」と自分に言い聞かせて歩き出した。


家路を急ぎながら、頭の中は今日の出来事でいっぱいだ。
鍵が手に入った。ステージ裏には古い扉があるかもしれない。
そして、そこが“幽霊騒動”のカラクリの一端なのかもしれない。
けれど、わたしはまだ何も確証を得られず、白峰 霊も助けてくれそうにない。

(自力で真相にたどり着くしかないのかな……。
 新聞部としては、一連の騒動をしっかり記事にしたい。
 でも、ただの噂で終わらせるわけにもいかない。ケガ人が出た例もあるし)

そしてもう一つ気にかかるのは“誰か”が執拗に“幽霊の噂”を流布しているように見えること。
家庭科室、体育倉庫、理科室……いずれもチラシが貼られ、白い影が出て、驚かされる。
まるで“幽霊探偵”を呼び込もうとしているようでもあり、あるいは白峰 霊を陥れようとしているようにも思える。

(鍵はその事件の“裏側”にある秘密へ導く道具だとしたら……いずれ真相を暴かないと、本当の平穏は訪れないかもしれない)

ふいに、スマホから通知音が鳴る。
開いてみると、クラスメイトのグループチャットで「今日も幽霊目撃あったらしい。文化祭やばくね?」と大騒ぎになっているようだった。
“白峰 霊”の名前も飛び交い、「あいつが犯人じゃないの?」なんて無責任な書き込みまである。

(……文化祭が“やばい”か。確かにこのままじゃ混乱は避けられない)

でも、わたしは確信している。
白峰 霊は“犯人”なんかじゃない。
確かに怪しげだし、謎だらけだけど、彼は何度もわたしの前で事件を解決してきた。
理屈こそ屁理屈めいているが、その行動は“被害”を最小限に抑える方向に動いているように見える。

(彼が幽霊かどうかは別として、本当に危険なのは“誰か別の人物”。
 わざと幽霊騒動を煽って混乱を狙っているのか、それとも何かを隠そうとしているのか……)

わたしはスマホをしまい、夜空を見上げる。
明日もまた、事件が起きるかもしれない。
そのときこそ、わたしは躊躇せず、鍵を手に動こうと心に決めた。

(白峰 霊が言ってたように、“いずれ決着がつく”のなら、わたし自身もその場にいなきゃ。
 新聞部として、真実を暴き、記事にまとめる義務がある。
 中途半端は許されない。もう、引き返せないところまで来てるんだから……)

胸の奥で小さく燃える決意を感じながら、わたしは自宅の門をくぐった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...