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第一章 『転生』
十一話
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あれからさらに数日が過ぎ、騎士団による獣人集団の取り調べや、例の猫耳少女の保護など、サンデリアの街は何となく落ち着かない雰囲気が続いていた。俺自身もイゼリアの要請を受けて一度ならず騎士団詰所に顔を出し、細かい状況の聴取に付き合わされる羽目になる。おかげで、依頼クエストをこなす時間がやや減ってしまったが、獣人関連の情報を耳にする機会も増えた。結論としては、まだ組織の全容や彼らが狙う目的は明らかになっていないが、猫耳の少女が被害に遭った呪術は「悪魔的な方法で魔力を凝縮する行為」に近いらしく、やはり簡単には解けない危険なものだったらしい。
そんな忙しない日々のなか、いつものように宿屋に戻ると、女将がニヤリとした顔で俺を呼び止めた。
「へへっ、あんた、女神様か何かにモテるタチなんだろうね? この前からちょいちょい、あんたを訪ねる女性客が増えてるんだけど?」
「……は? 女性客?」
「そうさ。たとえば以前、あのウサギ耳の娘ね。なんだか色々と世話になったらしいって言って、あんたに礼を言いたいって。ついでにあの猫耳の子どもの“保護者”を名乗る獣人の女性も来てたんだ。今は仮住まいの部屋を貸してるけど、なーんかあんたのこと気にしてる節があるのよねえ」
聞けば、その猫耳少女の“お姉さん”だという獣人女性が、しばらく宿に滞在していて、治療費やら何やらの兼ね合いで部屋を借りているらしい。騎士団の監視がついているから安全面は心配ないとのことだが、日中は付き添いなどで忙しく、夜は宿へ帰ってくるという。
「まあ、別に本人が俺に会いたいとか言ってるわけじゃ……」
「あーら、ついさっきもチラッと“アオさんって人がどんな人か知りたい”とか言ってたわよ。もしかしたら、あんたのもとを訪ねてくるかもね」
女将が薄く笑うので、俺は大げさに肩をすくめてみせる。自分で言うのもなんだが、ハーレムだとか色恋沙汰とは縁遠いタイプだと思っていたし、実際、以前の地球での学生時代でもそんな経験はほとんどなかった。しかし、異世界で冒険者生活をしていると、こういう変化球的な展開に巻き込まれることがあるらしい。ウサギ耳の娘も、東区画の武器屋を案内してくれた程度の縁だし、猫耳の姉妹に至ってはまったく面識が薄い。とはいえ、彼女たち獣人の生活環境や抱えているトラブルを考えると、“俺への個人的興味”だけではない可能性もあるが……。
実は、このところ騎士団詰所での用事を終えた後、イゼリアと顔を合わせる機会もそこそこあった。彼女が俺に気を許しているかといえば微妙なところだが、普通の部下や同僚には見せない柔らかな表情を向けてくれることも増えてきた。まだ距離はあるものの、イゼリアは自分以外にはなかなか頼りづらいところがあるらしく、しょっちゅう「もう少しあたしを信用しなさい」と部下に説教している姿も見かける。そんな様子を見ていると、普段は堅苦しい鎧姿の彼女が、ふとした拍子に女らしさを覗かせる瞬間があって……どうにも落ち着かない気持ちになるのだ。
すでに旅立ったガルドとセルラという友人(?)との付き合いは短かったが、その代わり今は獣人女性やら女騎士やら、いろんなタイプの女性が周囲をうろちょろし始めている。自分でも笑えるほどに予想外の“ハーレム展開”が近づきつつあるのを感じるが、それに浮かれている余裕なんてない。魔王や七つの大罪を巡る暗雲はますます濃くなっているのだから。
そうは言いつつも、日常に溶け込む“ちょっと賑やかな女性陣”の存在は、俺の心を和ませる一面もあった。たとえば、街の雑貨屋で偶然ウサギ耳の娘と遭遇したとき、彼女が「アオさん、最近忙しそうだけど体調は大丈夫? よかったらこれ使ってください!」なんて、手作りの回復アイテムをくれたりした。いわく、彼女の家族がかじった錬金術の技術で作った滋養強壮のポーションらしいが、意外と効き目が良かったりする。それに照れ笑いを浮かべながら「実験台になってもらってごめんなさい」と謝る様子が愛らしく、ちょっとドキリとした。これが“ハーレム”という流れなのだろうかと、妙な戸惑いを覚える。
さらに、猫耳少女の“お姉さん”とも軽く言葉を交わす機会があった。名前はシェオラというらしく、俺より少し年上。長い尻尾にスレンダーな体躯、獣人特有の鋭い瞳を持ちながら、弟妹(猫耳少女も含め)を守るために苦労してきたせいか、母性的な雰囲気すら漂わせている。俺が妹を助けた件で何度も礼を言われ、逆にバツが悪くなるほどだ。こういうタイプの女性はあまり無理に近づいては悪いような気もしたが、どうにも彼女のほうは「恩人ともっと話がしたいんです」と距離を詰めてこようとしてくる。そんな風にかわいらしく懐かれてしまうと、どうにも断れない自分がいる。
(やばい……これがいわゆる“フラグ乱立”ってやつか? 七つの大罪を複数抱えた魔力に何か女性を引きつける要素でもあるんだろうか……?)
とにかく、そんなふうに慌ただしい中でも、日々のクエストやガチャは欠かさず行っていた。そして、ある日の昼下がり、俺は宿屋の一角でノートを開き、“七つの大罪をめぐる情報”をまとめていた。まだ三つしか揃っていないが、いずれ四つ目、五つ目と引いていく中で、どんな発動条件やどんなリスクがあるのか、事前に想像できる限りは備えておきたい。そこへ不意に扉が開き、見覚えのある甲冑姿があらわになる。
「アオ、いたのね。ちょっといい?」
イゼリアだ。彼女は相変わらず無駄のない動作で店のカウンターを通り過ぎ、俺のテーブルにまっすぐやってくる。すると、ちらりと俺が書いていたノートに目を留め、少し首をかしげた。
「……魔法研究でもしているの? へえ、意外に几帳面なのね」
「何だよ、その意外って。ま、まあ、まとめておかないと忘れっぽいし。で、今日は何の用?」
「実は、例の獣人の取り調べが少し進展したの。どうやら彼らは“魔王復活”に関係しているらしいわ。細かい動機までは明かさないけれど、“世界を動かす大義に協力している”とかなんとか」
魔王復活、というフレーズに思わず心臓がドクンと鳴る。世界には4人の魔王がいて、新たに魔王になるには誰かを倒して座を奪う――そんな話を思い出す。もし彼ら獣人が“魔王候補”を送り込もうとしている組織と繋がっているなら、七つの大罪との関連も大いにありそうだ。
「それと……あの猫耳の少女、まだ完全に呪いが解けていないそう。呪術の解明には専門知識が必要で、こっちの神官たちは手を焼いている。少女も自分の力を無理に抑え込んでいるようで、下手すると暴走の恐れがあるらしいわ」
「そんな……俺が助けられたわけでもないけど、何かできることがあれば」
「もし彼女の呪いが暴走して魔力が爆発したら、巻き込まれる人も出るでしょう。幸い、あなたのスキル《精密採取》があれば彼女の体内に溜まった“負の魔力”を少しずつ抜き取れないか、という意見もあるの。どうにか試してみる気はある?」
なるほど、《精密採取》というスキルは素材回収だけでなく、“相手から不要物を取り除く”みたいな応用もあり得るのか。レベル2になっている今なら、呪いの魔力を採取して少しずつ弱める、なんてことが可能かもしれない。上手くいけば、彼女の負担が軽減されるだろう。
「分かった。俺にできるなら協力するよ。ただ、暴走したら……」
「もちろん、騎士団と神官が立ち会う。失敗してもあなたを責めるつもりはないわ。お願いね」
イゼリアがかすかに微笑む。普段は威厳に満ちた彼女の女性的な一面を見ると、胸が少しだけ高鳴るのを感じる。しかも女将の話じゃ、獣人姉妹だけでなく、こうして騎士団の女性まで俺に期待を寄せているというのは……やっぱり俺、もしかしてモテ期ってやつ? いやいや、浮かれてる場合じゃないが、妙な予感はする。
その翌日、俺は教会の一室に通され、猫耳少女と対面することになった。彼女の名はリーシェ。まだ十歳にも満たないという。すぐ横には姉のシェオラが心配げに立っていて、リーシェは以前よりも少しだけ顔色が良いが、まだ手首には黒い紋様がはっきりと残っている。イゼリアと神官の一人が見守る中、俺は《精密採取》を使ってリーシェの腕に手を触れ、負の魔力を抜き取れるか試すことになった。
「大丈夫、怖くないから……俺も初めてだから手探りだけど、痛くしないようにするよ」
そう声をかけると、彼女は少しだけ震えながら頷き、尻尾をぴこぴこと揺らす。そっと腕に触れると、不快な冷気が指先を這い上がるように感じられる。怯まないよう意識を集中し、《精密採取》のイメージを膨らませる。魔物素材を集めるときと同じ手順……だが相手は生身の人間(獣人)だ。細心の注意が必要だ。
「……くっ!」
ほんのわずかずつ、黒い気配が指先を経由して俺の中に入り込もうとする。まるで闇色の雲を掴みとるようにイメージして、そいつを“袋”へ集めるよう想像する。――すると、不思議なことにスキルが反応して、心の中にもうひとつの“容れ物”が生成される感覚があった。少しずつ“黒い霧”をそこに吸い込んでいるような……。
「やった……抜けてるかも……!」
ふいにリーシェの口から「あ……」という緩んだ声が漏れる。どうやら少し楽になったらしい。姉のシェオラも「すごい……」と小声で感嘆している。イゼリアは黙って腕を組み、神官は「これは驚きだ……」と目を丸くしていた。
やがて十分ほどが経つと、黒い紋様がやや薄れ、リーシェの呼吸も落ち着いてきた。完璧な除去とはいかないようだが、負の魔力を半分ほど取り去ることに成功したらしい。とはいえ、俺の体内に“黒い霧”が溜まっている感覚は無視できない。このままじゃ逆に俺が呪いを抱えてしまうかもしれない。
「とりあえず今日はこれでストップしよう……俺も、あんまり無理はできない」
「ええ、十分よ。ありがとう、アオ」
イゼリアが頷き、神官が嬉しそうに「この調子なら完全除去も夢ではない!」と手を叩く。リーシェはまだ立ち上がるには不安な様子だが、先ほどより表情が和らいでいる。それを見たシェオラが、潤んだ瞳で俺に向かって深々と頭を下げる。
「助かりました、アオさん……本当にありがとう。わたし、あまり強いスキルは持ってないから、妹を助ける術が見つからなくて……」
「大丈夫。俺も初めてだから試行錯誤だよ。しばらく続ける必要があるみたいだし、また手伝えたらいいな」
シェオラの尻尾がぱたぱたと揺れ、俺に寄り添うように一歩踏み込んでくる。その時、頬がピンク色に染まったのが分かった。彼女は普段落ち着いた姉御肌に見えたが、こういう場面では年相応の乙女っぽさをのぞかせる。うっかり目が合うと、こっちまでドキッとした。
(やばい……なんでこんな距離が近いんだ。しかもあんな潤んだ瞳で感謝されると……ちょっと心が揺れるぞ)
ちらりと隣を見ると、イゼリアが無表情を保ちつつ、わずかに視線を泳がせている。さすがに“部下に示しがつかない”とでも思っているのか、あまり顔には出さないが、気持ちが落ち着かないようだ。彼女は「まあ、その……お疲れさま。後処理は神官に任せて、あんたはもう帰って休みなさい」とそっけなく言い放つけれど、微妙に声がどこか刺々しい気もする。女性同士の間に何か通じ合うものがあるのか――そこまでは分からないが、どうやら俺を巡って妙な空気になりかねない状況らしい。
こうして、自然とハーレムめいた構図が進行していく。ウサギ耳のポーション娘や獣人姉妹、女騎士のイゼリアなど、気づけば周囲にはアオ(俺)に好意を寄せてくれているか、あるいは興味を持っている女性が増えていた。本人たちは皆それぞれの事情や背景があり、純粋に“男として好き”というだけではないかもしれないが、それでも以前の地球で孤独に過ごしていた自分からすれば信じられないほどの変化だ。
(本当に、こんな展開になるとはなあ……)
一方で、七つの大罪を三つ抱え“魔王”への道を着実に進んでいる自分が、誰かと安寧な関係を築けるのか、内心では疑問だ。いずれ本当に大罪をすべて揃えたら、どんな化け物になってしまうのか――だが、それでも俺は“世界を救う”という大きな目標に向かって歩みを止められない。魔王が4人存在するこの世界で、新たな魔王が誕生する際には、既存の魔王のうち一番弱い魔王を打ち倒し、その地位を奪わなければならない――いまは非現実的に思えるが、すべての大罪を手にすれば、その地点で自分が“魔王”の領域へ踏み込み、世界を左右する存在になるのかもしれない。
その後、しばらく教会での呪い除去の協力が続き、俺がリーシェから少しずつ負の魔力を抜き取る作業を担当することになった。シェオラやウサギ耳の娘も手伝いに来ることがあり、イゼリアは護衛兼監視のように出入りし、気づけば部屋に女性が集結していることもしばしば。俺はなるべく冷静を装うが、実際“ハーレム展開”と言われても否定できない状況だ。しかも、すでにギルドの女性職員や宿屋の女将まで「アオって意外とやるわね」なんて茶化す有様で、あまりにも恥ずかしい。
そうした日々の中、教会の神官から“おそらく呪術に獣人の古代文字が絡んでおり、それは魔王の権能を呼び寄せる儀式の一環ではないか”という仮説を聞かされた。まだ断定はできないが、獣人たちの一部勢力が、新たな魔王を誕生させるために子どもの強い魔力を使っていた可能性が浮上したのだ。
「新たな魔王……。もしそうなら、ますますきな臭いわね」
イゼリアも騎士団内で情報を集めているらしく、深刻そうに眉を寄せる。既存の4人の魔王は各地にそれぞれの領地を持ち、表立っては動いていないとされる。しかし、この世界ではときどき“魔王の座”を巡る挑戦が行われるのも事実で、何十年かに一度、新たに魔王の名を得る存在が現れる。まさか、それが近々起きようとしているのかもしれない。そうなれば、大罪を集める“俺”とも無関係ではいられないだろう。
(やっぱり、俺は……最終的に魔王になる道しかないのか? だとして、どうやって世界を救うんだ?)
自問しても答えは出ない。けれど周囲の女性陣――シェオラにしろウサギ耳の娘にしろ、イゼリアにしろ――彼女たちが俺を頼ってくれている事実は、闇の中に一筋の光を感じさせる。もし俺が魔王の領域に踏み込み、“世界を救う”ための力を行使するなら、誰かがその旅路や戦いに付き合ってくれるかもしれない。今は冗談のように思えるが、彼女たちとの絆が深まれば、一緒に困難を乗り越えられる可能性だってあるだろう。――ああ、ハーレム展開って、こんな風に繋がるのか……と妙に納得しかけている自分がいる。
日を追うごとに、リーシェの呪いは少しずつ緩和され、もうすぐ普通の生活に戻れそうだという話を神官から聞いた。喜ぶシェオラやリーシェ、そしてほっとした表情を見せるウサギ耳の娘の姿を見ていると、心が温まる。そこにイゼリアが加わると微妙な空気が生まれることもあるが、表向きは和気あいあいとした雰囲気になりつつあるのが面白い。俺はあえて“恋愛”と意識しないようにしているが、誰がどう見てもフラグ乱立状態だ。しかも、シェオラはまるで“傲慢・憤怒・嫉妬”を抱える俺の悩みを察しているかのように、気遣った言葉をかけてくることすらある。
「アオさん……たまに辛そうな顔してますよね。力を使いすぎたりしてないですか? 変な闇を抱え込んでないといいんですが」
「いや……大丈夫、ありがとう。もし俺が暴走したときは、逃げてくれればいいから」
「そんな……逃げるなんて。恩人を見捨てたりしませんよ。ちゃんと止めてみせます」
なんてやり取りをしていると、ほぼ恋人未満の関係ではないかと勘違いしそうになる。だけど、俺には“いつか魔王になってしまうかもしれない”という不安があり、簡単に人を巻き込むのは後ろめたい。逆にイゼリアのように「義務だから」と割り切っている相手のほうが楽かもしれないと思う瞬間もあったりして、このあたりが複雑に絡み合ったハーレム要素なのだと実感する。
そんな中、ある夜。宿屋の屋根裏に昇って、ぼんやりと夜空を見上げていると、偶然やってきたウサギ耳の娘とばったり鉢合わせした。お互いに気まずそうにしながらも、星を眺める静かな時間を共有していると、彼女が意を決したように口を開く。
「アオさん……もし何か大変なことに巻き込まれたら、わたし、助けになりますから。新しいポーションも作りますし、足軽行軍のスキルや孤独耐性があっても、誰かがいないと心が折れることもあるでしょう?」
「……ありがとう。実際、頼りになりそうだ。お前のポーション、意外と性能いいし……」
「ふふ、嬉しいです。……えっと、その、もし……もっと親しくなれたら、今度は一緒に冒険に出てみたい。ほら、わたしだってスキルは弱いけど、戦闘支援くらいはできるし……」
顔を赤くして俯く彼女の尻尾が妙に落ち着かない動きをしており、見るからに“好意”を示してくれているのは明白だ。俺は照れくささを誤魔化すように頭をかき、曖昧に笑ってしまう。そういう仲間を増やすほど、自分が“魔王”になる道とどう折り合いをつけるのかが心配だ。けれど、軽く拒絶するのも失礼すぎる。結局、「いつか余裕ができたらね」と言葉を濁すことしかできなかった。
こうして周囲には女性とのフラグがいくつも立ち、俺自身もまるでハーレムの中心にいるかのような状況が進行していく。その一方で、七つの大罪を三つ抱える身として“世界の行く末を左右する存在”になりつつある事実から目を背けるわけにもいかない。いずれ確実に降りかかる試練――世界にいる4人の魔王との因縁――が、少しずつ近づき始めているのは間違いないのだ。
「もし本当に、七つの大罪が全部揃ってしまったら……新たな魔王になって世界を救う、だなんて、そんな都合のいい話があるのか?」
あの女神ラピスはどうやら“俺がこの世界で大きな役割を担う”と踏んで、特別な力をくれたらしい。どうせなら、俺を普通の人生にしてくれればよかったのに――とは思うが、こんな風に仲間や仲良くなりたい女性たちがいる生活も悪くはない。彼女たちが俺を支えてくれれば、どんな苦難にも耐えられる、そんな気がするのだから。結局、これは俺にとって一種の“救い”なのかもしれない。
そういった思いを抱えたまま、俺はまぶたを閉じる。今はまだハーレム未満の雰囲気でギリギリ保っているが、もし大罪があと四つ、すべて集まって“魔王になる”運命を本格的に辿り始めたら――果たしてこの仲間たちはどう振る舞ってくれるだろう。誰もが恐れ離れていくのか、それとも一緒に戦ってくれるのか。イゼリアやシェオラ、ウサギ耳の娘……ひょっとすると今後、新しい出会いだってあるかもしれない。
いつか、このハーレムとも呼べる状況が、“世界を救う”ための大きな力になる。そんな未来をぼんやりと夢想しながら、俺は静かに眠りに落ちていく。――七つの大罪をすべて手に入れ、4人の魔王のうち最弱の魔王を倒して“新たな魔王”として君臨する日が、本当に来るのかもしれない。そうして手にした絶対的な力で、誰もが想像しなかったかたちで世界を救うのだとすれば、これ以上にドラマチックな結末はない。だけど、その道のりはまだまだ遠い。焦らず、日常の中でハーレムを築きながら、そして徐々に最強へ近づいていこう――胸にそんな決意を抱きつつ、今日も俺はゆっくりと呼吸を整えた。
そんな忙しない日々のなか、いつものように宿屋に戻ると、女将がニヤリとした顔で俺を呼び止めた。
「へへっ、あんた、女神様か何かにモテるタチなんだろうね? この前からちょいちょい、あんたを訪ねる女性客が増えてるんだけど?」
「……は? 女性客?」
「そうさ。たとえば以前、あのウサギ耳の娘ね。なんだか色々と世話になったらしいって言って、あんたに礼を言いたいって。ついでにあの猫耳の子どもの“保護者”を名乗る獣人の女性も来てたんだ。今は仮住まいの部屋を貸してるけど、なーんかあんたのこと気にしてる節があるのよねえ」
聞けば、その猫耳少女の“お姉さん”だという獣人女性が、しばらく宿に滞在していて、治療費やら何やらの兼ね合いで部屋を借りているらしい。騎士団の監視がついているから安全面は心配ないとのことだが、日中は付き添いなどで忙しく、夜は宿へ帰ってくるという。
「まあ、別に本人が俺に会いたいとか言ってるわけじゃ……」
「あーら、ついさっきもチラッと“アオさんって人がどんな人か知りたい”とか言ってたわよ。もしかしたら、あんたのもとを訪ねてくるかもね」
女将が薄く笑うので、俺は大げさに肩をすくめてみせる。自分で言うのもなんだが、ハーレムだとか色恋沙汰とは縁遠いタイプだと思っていたし、実際、以前の地球での学生時代でもそんな経験はほとんどなかった。しかし、異世界で冒険者生活をしていると、こういう変化球的な展開に巻き込まれることがあるらしい。ウサギ耳の娘も、東区画の武器屋を案内してくれた程度の縁だし、猫耳の姉妹に至ってはまったく面識が薄い。とはいえ、彼女たち獣人の生活環境や抱えているトラブルを考えると、“俺への個人的興味”だけではない可能性もあるが……。
実は、このところ騎士団詰所での用事を終えた後、イゼリアと顔を合わせる機会もそこそこあった。彼女が俺に気を許しているかといえば微妙なところだが、普通の部下や同僚には見せない柔らかな表情を向けてくれることも増えてきた。まだ距離はあるものの、イゼリアは自分以外にはなかなか頼りづらいところがあるらしく、しょっちゅう「もう少しあたしを信用しなさい」と部下に説教している姿も見かける。そんな様子を見ていると、普段は堅苦しい鎧姿の彼女が、ふとした拍子に女らしさを覗かせる瞬間があって……どうにも落ち着かない気持ちになるのだ。
すでに旅立ったガルドとセルラという友人(?)との付き合いは短かったが、その代わり今は獣人女性やら女騎士やら、いろんなタイプの女性が周囲をうろちょろし始めている。自分でも笑えるほどに予想外の“ハーレム展開”が近づきつつあるのを感じるが、それに浮かれている余裕なんてない。魔王や七つの大罪を巡る暗雲はますます濃くなっているのだから。
そうは言いつつも、日常に溶け込む“ちょっと賑やかな女性陣”の存在は、俺の心を和ませる一面もあった。たとえば、街の雑貨屋で偶然ウサギ耳の娘と遭遇したとき、彼女が「アオさん、最近忙しそうだけど体調は大丈夫? よかったらこれ使ってください!」なんて、手作りの回復アイテムをくれたりした。いわく、彼女の家族がかじった錬金術の技術で作った滋養強壮のポーションらしいが、意外と効き目が良かったりする。それに照れ笑いを浮かべながら「実験台になってもらってごめんなさい」と謝る様子が愛らしく、ちょっとドキリとした。これが“ハーレム”という流れなのだろうかと、妙な戸惑いを覚える。
さらに、猫耳少女の“お姉さん”とも軽く言葉を交わす機会があった。名前はシェオラというらしく、俺より少し年上。長い尻尾にスレンダーな体躯、獣人特有の鋭い瞳を持ちながら、弟妹(猫耳少女も含め)を守るために苦労してきたせいか、母性的な雰囲気すら漂わせている。俺が妹を助けた件で何度も礼を言われ、逆にバツが悪くなるほどだ。こういうタイプの女性はあまり無理に近づいては悪いような気もしたが、どうにも彼女のほうは「恩人ともっと話がしたいんです」と距離を詰めてこようとしてくる。そんな風にかわいらしく懐かれてしまうと、どうにも断れない自分がいる。
(やばい……これがいわゆる“フラグ乱立”ってやつか? 七つの大罪を複数抱えた魔力に何か女性を引きつける要素でもあるんだろうか……?)
とにかく、そんなふうに慌ただしい中でも、日々のクエストやガチャは欠かさず行っていた。そして、ある日の昼下がり、俺は宿屋の一角でノートを開き、“七つの大罪をめぐる情報”をまとめていた。まだ三つしか揃っていないが、いずれ四つ目、五つ目と引いていく中で、どんな発動条件やどんなリスクがあるのか、事前に想像できる限りは備えておきたい。そこへ不意に扉が開き、見覚えのある甲冑姿があらわになる。
「アオ、いたのね。ちょっといい?」
イゼリアだ。彼女は相変わらず無駄のない動作で店のカウンターを通り過ぎ、俺のテーブルにまっすぐやってくる。すると、ちらりと俺が書いていたノートに目を留め、少し首をかしげた。
「……魔法研究でもしているの? へえ、意外に几帳面なのね」
「何だよ、その意外って。ま、まあ、まとめておかないと忘れっぽいし。で、今日は何の用?」
「実は、例の獣人の取り調べが少し進展したの。どうやら彼らは“魔王復活”に関係しているらしいわ。細かい動機までは明かさないけれど、“世界を動かす大義に協力している”とかなんとか」
魔王復活、というフレーズに思わず心臓がドクンと鳴る。世界には4人の魔王がいて、新たに魔王になるには誰かを倒して座を奪う――そんな話を思い出す。もし彼ら獣人が“魔王候補”を送り込もうとしている組織と繋がっているなら、七つの大罪との関連も大いにありそうだ。
「それと……あの猫耳の少女、まだ完全に呪いが解けていないそう。呪術の解明には専門知識が必要で、こっちの神官たちは手を焼いている。少女も自分の力を無理に抑え込んでいるようで、下手すると暴走の恐れがあるらしいわ」
「そんな……俺が助けられたわけでもないけど、何かできることがあれば」
「もし彼女の呪いが暴走して魔力が爆発したら、巻き込まれる人も出るでしょう。幸い、あなたのスキル《精密採取》があれば彼女の体内に溜まった“負の魔力”を少しずつ抜き取れないか、という意見もあるの。どうにか試してみる気はある?」
なるほど、《精密採取》というスキルは素材回収だけでなく、“相手から不要物を取り除く”みたいな応用もあり得るのか。レベル2になっている今なら、呪いの魔力を採取して少しずつ弱める、なんてことが可能かもしれない。上手くいけば、彼女の負担が軽減されるだろう。
「分かった。俺にできるなら協力するよ。ただ、暴走したら……」
「もちろん、騎士団と神官が立ち会う。失敗してもあなたを責めるつもりはないわ。お願いね」
イゼリアがかすかに微笑む。普段は威厳に満ちた彼女の女性的な一面を見ると、胸が少しだけ高鳴るのを感じる。しかも女将の話じゃ、獣人姉妹だけでなく、こうして騎士団の女性まで俺に期待を寄せているというのは……やっぱり俺、もしかしてモテ期ってやつ? いやいや、浮かれてる場合じゃないが、妙な予感はする。
その翌日、俺は教会の一室に通され、猫耳少女と対面することになった。彼女の名はリーシェ。まだ十歳にも満たないという。すぐ横には姉のシェオラが心配げに立っていて、リーシェは以前よりも少しだけ顔色が良いが、まだ手首には黒い紋様がはっきりと残っている。イゼリアと神官の一人が見守る中、俺は《精密採取》を使ってリーシェの腕に手を触れ、負の魔力を抜き取れるか試すことになった。
「大丈夫、怖くないから……俺も初めてだから手探りだけど、痛くしないようにするよ」
そう声をかけると、彼女は少しだけ震えながら頷き、尻尾をぴこぴこと揺らす。そっと腕に触れると、不快な冷気が指先を這い上がるように感じられる。怯まないよう意識を集中し、《精密採取》のイメージを膨らませる。魔物素材を集めるときと同じ手順……だが相手は生身の人間(獣人)だ。細心の注意が必要だ。
「……くっ!」
ほんのわずかずつ、黒い気配が指先を経由して俺の中に入り込もうとする。まるで闇色の雲を掴みとるようにイメージして、そいつを“袋”へ集めるよう想像する。――すると、不思議なことにスキルが反応して、心の中にもうひとつの“容れ物”が生成される感覚があった。少しずつ“黒い霧”をそこに吸い込んでいるような……。
「やった……抜けてるかも……!」
ふいにリーシェの口から「あ……」という緩んだ声が漏れる。どうやら少し楽になったらしい。姉のシェオラも「すごい……」と小声で感嘆している。イゼリアは黙って腕を組み、神官は「これは驚きだ……」と目を丸くしていた。
やがて十分ほどが経つと、黒い紋様がやや薄れ、リーシェの呼吸も落ち着いてきた。完璧な除去とはいかないようだが、負の魔力を半分ほど取り去ることに成功したらしい。とはいえ、俺の体内に“黒い霧”が溜まっている感覚は無視できない。このままじゃ逆に俺が呪いを抱えてしまうかもしれない。
「とりあえず今日はこれでストップしよう……俺も、あんまり無理はできない」
「ええ、十分よ。ありがとう、アオ」
イゼリアが頷き、神官が嬉しそうに「この調子なら完全除去も夢ではない!」と手を叩く。リーシェはまだ立ち上がるには不安な様子だが、先ほどより表情が和らいでいる。それを見たシェオラが、潤んだ瞳で俺に向かって深々と頭を下げる。
「助かりました、アオさん……本当にありがとう。わたし、あまり強いスキルは持ってないから、妹を助ける術が見つからなくて……」
「大丈夫。俺も初めてだから試行錯誤だよ。しばらく続ける必要があるみたいだし、また手伝えたらいいな」
シェオラの尻尾がぱたぱたと揺れ、俺に寄り添うように一歩踏み込んでくる。その時、頬がピンク色に染まったのが分かった。彼女は普段落ち着いた姉御肌に見えたが、こういう場面では年相応の乙女っぽさをのぞかせる。うっかり目が合うと、こっちまでドキッとした。
(やばい……なんでこんな距離が近いんだ。しかもあんな潤んだ瞳で感謝されると……ちょっと心が揺れるぞ)
ちらりと隣を見ると、イゼリアが無表情を保ちつつ、わずかに視線を泳がせている。さすがに“部下に示しがつかない”とでも思っているのか、あまり顔には出さないが、気持ちが落ち着かないようだ。彼女は「まあ、その……お疲れさま。後処理は神官に任せて、あんたはもう帰って休みなさい」とそっけなく言い放つけれど、微妙に声がどこか刺々しい気もする。女性同士の間に何か通じ合うものがあるのか――そこまでは分からないが、どうやら俺を巡って妙な空気になりかねない状況らしい。
こうして、自然とハーレムめいた構図が進行していく。ウサギ耳のポーション娘や獣人姉妹、女騎士のイゼリアなど、気づけば周囲にはアオ(俺)に好意を寄せてくれているか、あるいは興味を持っている女性が増えていた。本人たちは皆それぞれの事情や背景があり、純粋に“男として好き”というだけではないかもしれないが、それでも以前の地球で孤独に過ごしていた自分からすれば信じられないほどの変化だ。
(本当に、こんな展開になるとはなあ……)
一方で、七つの大罪を三つ抱え“魔王”への道を着実に進んでいる自分が、誰かと安寧な関係を築けるのか、内心では疑問だ。いずれ本当に大罪をすべて揃えたら、どんな化け物になってしまうのか――だが、それでも俺は“世界を救う”という大きな目標に向かって歩みを止められない。魔王が4人存在するこの世界で、新たな魔王が誕生する際には、既存の魔王のうち一番弱い魔王を打ち倒し、その地位を奪わなければならない――いまは非現実的に思えるが、すべての大罪を手にすれば、その地点で自分が“魔王”の領域へ踏み込み、世界を左右する存在になるのかもしれない。
その後、しばらく教会での呪い除去の協力が続き、俺がリーシェから少しずつ負の魔力を抜き取る作業を担当することになった。シェオラやウサギ耳の娘も手伝いに来ることがあり、イゼリアは護衛兼監視のように出入りし、気づけば部屋に女性が集結していることもしばしば。俺はなるべく冷静を装うが、実際“ハーレム展開”と言われても否定できない状況だ。しかも、すでにギルドの女性職員や宿屋の女将まで「アオって意外とやるわね」なんて茶化す有様で、あまりにも恥ずかしい。
そうした日々の中、教会の神官から“おそらく呪術に獣人の古代文字が絡んでおり、それは魔王の権能を呼び寄せる儀式の一環ではないか”という仮説を聞かされた。まだ断定はできないが、獣人たちの一部勢力が、新たな魔王を誕生させるために子どもの強い魔力を使っていた可能性が浮上したのだ。
「新たな魔王……。もしそうなら、ますますきな臭いわね」
イゼリアも騎士団内で情報を集めているらしく、深刻そうに眉を寄せる。既存の4人の魔王は各地にそれぞれの領地を持ち、表立っては動いていないとされる。しかし、この世界ではときどき“魔王の座”を巡る挑戦が行われるのも事実で、何十年かに一度、新たに魔王の名を得る存在が現れる。まさか、それが近々起きようとしているのかもしれない。そうなれば、大罪を集める“俺”とも無関係ではいられないだろう。
(やっぱり、俺は……最終的に魔王になる道しかないのか? だとして、どうやって世界を救うんだ?)
自問しても答えは出ない。けれど周囲の女性陣――シェオラにしろウサギ耳の娘にしろ、イゼリアにしろ――彼女たちが俺を頼ってくれている事実は、闇の中に一筋の光を感じさせる。もし俺が魔王の領域に踏み込み、“世界を救う”ための力を行使するなら、誰かがその旅路や戦いに付き合ってくれるかもしれない。今は冗談のように思えるが、彼女たちとの絆が深まれば、一緒に困難を乗り越えられる可能性だってあるだろう。――ああ、ハーレム展開って、こんな風に繋がるのか……と妙に納得しかけている自分がいる。
日を追うごとに、リーシェの呪いは少しずつ緩和され、もうすぐ普通の生活に戻れそうだという話を神官から聞いた。喜ぶシェオラやリーシェ、そしてほっとした表情を見せるウサギ耳の娘の姿を見ていると、心が温まる。そこにイゼリアが加わると微妙な空気が生まれることもあるが、表向きは和気あいあいとした雰囲気になりつつあるのが面白い。俺はあえて“恋愛”と意識しないようにしているが、誰がどう見てもフラグ乱立状態だ。しかも、シェオラはまるで“傲慢・憤怒・嫉妬”を抱える俺の悩みを察しているかのように、気遣った言葉をかけてくることすらある。
「アオさん……たまに辛そうな顔してますよね。力を使いすぎたりしてないですか? 変な闇を抱え込んでないといいんですが」
「いや……大丈夫、ありがとう。もし俺が暴走したときは、逃げてくれればいいから」
「そんな……逃げるなんて。恩人を見捨てたりしませんよ。ちゃんと止めてみせます」
なんてやり取りをしていると、ほぼ恋人未満の関係ではないかと勘違いしそうになる。だけど、俺には“いつか魔王になってしまうかもしれない”という不安があり、簡単に人を巻き込むのは後ろめたい。逆にイゼリアのように「義務だから」と割り切っている相手のほうが楽かもしれないと思う瞬間もあったりして、このあたりが複雑に絡み合ったハーレム要素なのだと実感する。
そんな中、ある夜。宿屋の屋根裏に昇って、ぼんやりと夜空を見上げていると、偶然やってきたウサギ耳の娘とばったり鉢合わせした。お互いに気まずそうにしながらも、星を眺める静かな時間を共有していると、彼女が意を決したように口を開く。
「アオさん……もし何か大変なことに巻き込まれたら、わたし、助けになりますから。新しいポーションも作りますし、足軽行軍のスキルや孤独耐性があっても、誰かがいないと心が折れることもあるでしょう?」
「……ありがとう。実際、頼りになりそうだ。お前のポーション、意外と性能いいし……」
「ふふ、嬉しいです。……えっと、その、もし……もっと親しくなれたら、今度は一緒に冒険に出てみたい。ほら、わたしだってスキルは弱いけど、戦闘支援くらいはできるし……」
顔を赤くして俯く彼女の尻尾が妙に落ち着かない動きをしており、見るからに“好意”を示してくれているのは明白だ。俺は照れくささを誤魔化すように頭をかき、曖昧に笑ってしまう。そういう仲間を増やすほど、自分が“魔王”になる道とどう折り合いをつけるのかが心配だ。けれど、軽く拒絶するのも失礼すぎる。結局、「いつか余裕ができたらね」と言葉を濁すことしかできなかった。
こうして周囲には女性とのフラグがいくつも立ち、俺自身もまるでハーレムの中心にいるかのような状況が進行していく。その一方で、七つの大罪を三つ抱える身として“世界の行く末を左右する存在”になりつつある事実から目を背けるわけにもいかない。いずれ確実に降りかかる試練――世界にいる4人の魔王との因縁――が、少しずつ近づき始めているのは間違いないのだ。
「もし本当に、七つの大罪が全部揃ってしまったら……新たな魔王になって世界を救う、だなんて、そんな都合のいい話があるのか?」
あの女神ラピスはどうやら“俺がこの世界で大きな役割を担う”と踏んで、特別な力をくれたらしい。どうせなら、俺を普通の人生にしてくれればよかったのに――とは思うが、こんな風に仲間や仲良くなりたい女性たちがいる生活も悪くはない。彼女たちが俺を支えてくれれば、どんな苦難にも耐えられる、そんな気がするのだから。結局、これは俺にとって一種の“救い”なのかもしれない。
そういった思いを抱えたまま、俺はまぶたを閉じる。今はまだハーレム未満の雰囲気でギリギリ保っているが、もし大罪があと四つ、すべて集まって“魔王になる”運命を本格的に辿り始めたら――果たしてこの仲間たちはどう振る舞ってくれるだろう。誰もが恐れ離れていくのか、それとも一緒に戦ってくれるのか。イゼリアやシェオラ、ウサギ耳の娘……ひょっとすると今後、新しい出会いだってあるかもしれない。
いつか、このハーレムとも呼べる状況が、“世界を救う”ための大きな力になる。そんな未来をぼんやりと夢想しながら、俺は静かに眠りに落ちていく。――七つの大罪をすべて手に入れ、4人の魔王のうち最弱の魔王を倒して“新たな魔王”として君臨する日が、本当に来るのかもしれない。そうして手にした絶対的な力で、誰もが想像しなかったかたちで世界を救うのだとすれば、これ以上にドラマチックな結末はない。だけど、その道のりはまだまだ遠い。焦らず、日常の中でハーレムを築きながら、そして徐々に最強へ近づいていこう――胸にそんな決意を抱きつつ、今日も俺はゆっくりと呼吸を整えた。
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