毎日スキルが増えるのって最強じゃね?

七鳳

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第一章 『転生』

十話

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あれから数日。採取や軽い討伐クエストを地道にこなしながら、俺は念入りに自分の行動をコントロールする日々を続けていた。何より大事なのは、絶対に“憤怒”や“傲慢”のユニークスキルを街中で大きく使ってしまわないこと。ゼクトから忠告されたとおり、一度でも派手に魔力を放出すれば、俺の存在は目立ちすぎてしまう可能性がある。まだスキルの扱いも完璧じゃない今、余計な波風を立てるわけにはいかない。

 そんな“小さく生きる”方針は、実際やってみると案外難しい。結局、短い期間のうちに伏線めいた出来事がいくつも重なって、いつ大きな事件が動き出してもおかしくない雰囲気が漂っている。謎の獣人集団、黒い羽毛、猫耳の少女――どれも怪しげだが、確信に迫る情報がまだ少ないまま、時間だけが過ぎていった。

 そんなある朝、いつものように【ガチャ】を回していると、頭の奥に猛烈な衝撃が走る。いままで経験したことのないほどの電撃に近い痛みだ。思わずベッドから転げ落ち、視界が白く瞬いた。そして次の瞬間、脳裏に焼きついたのは“新たな大罪スキル”の名。

「三つ目……まさか、本当に来たのか……!」

 慌ててステータスを呼び出し、そこに刻まれた文字を見つめる。

『ユニークスキル:
 〖七つの大罪「嫉妬」:Lv–〗』

 “傲慢”と“憤怒”に続いて、“嫉妬”までも――。七つの大罪のうち三つ目を、こんなにも早く引き当ててしまった。胸の奥を掻きむしられるような気味の悪い感覚が湧き、同時にまるで邪悪な気配をまとうような――いわゆる“魔王”に通じる雰囲気が広がるのを感じる。昔ゼクトが言っていたとおり、“七つの大罪を複数持つ者は魔王か神の器になる”というのは冗談ではないのかもしれない。

 実際、傲慢や憤怒の力を使うたびに、どこか自分が“人ならざるモノ”へ近づいていく感触があった。さらに嫉妬が加われば、やがて俺はどんな化け物に変貌するのか――想像するだけでぞっとする。しかし、同時に割り切れない確信がある。俺は最終的に七つの大罪すべてを手に入れる運命なのだと。そうでなければ、女神ラピスが俺を転生させる意味などない気がするのだ。

「……怖いけど、逃げるわけにもいかないか。いつか必ず全部揃えて、俺はこの世界で大きな役目を果たすことになるんだろう」

 そう自分に言い聞かせながら宿屋を出る。胸には重苦しさがのしかかっていたが、昼下がりにギルドを覗きに行けば、少しは頭が冷えるはずだ。ところが、宿の階段を降りたところで女将に「騎士団の偉い人があんたに用があるってさ!」と引き止められる。待っていたのは、かの女性騎士イゼリア。近郊の森で獣人たちが怪しい活動をしているとの報告があり、数名の部下を連れて偵察をするから“道案内として協力してほしい”というのだ。

 迷ったが、断るわけにもいかない。すでに何人もの冒険者が行方不明になっており、騎士団としても黙っていられないらしい。どの道、俺自身も獣人の集団や黒い羽毛に不安を感じていたし、どんな情報が得られるか分からない。翌朝、東門に集合し、森を探索してみることになる――内心は警戒と不安でいっぱいだったが、結果としてそれは正解だったのかもしれない。

 というのも、森に入って数時間、俺たちは薮をかき分けて道なき道を進むうち、浅い洞穴のような場所に“猫耳の少女”が囚われているのを発見したのだ。しかも獣人の男たちが彼女に何やら呪術のようなものをかけていたらしく、黒い羽毛が散らばり、少女の身体には禍々しい紋様が刻まれていた。彼女は衰弱しており、「魔力を抜かれた……」と震える声で呟く。かすかに耳にした獣人同士の会話では、子どもの魔力を利用して“何か”を呼び出そうとしている様子が窺えた。

 イゼリアと騎士団が男たちを拘束し、少女を救出して事態はひとまず収束。だが、あくまで“取り急ぎ”の処置だ。詳しい調査はこれからだし、男たちは黙秘を貫いている。どう考えてもこの一件の裏には、以前からささやかれていた“七つの大罪を探す組織”や“魔物を呼び寄せる儀式”が絡んでいそうだが、確証がない。俺は子どもを保護する間、自然に行動できるよう努めたが、もし突発的に憤怒や嫉妬が暴発していたらと思うと冷や汗が止まらない。

「――危なかった、マジで」

 街へ戻り、騎士団の詰所で少女を治療させたあと、俺は一足先に宿屋へ帰ることになった。イゼリアからは「よくやってくれた。報酬は後日払う」と言われたものの、心中は複雑だ。猫耳の少女を救えたこと自体は良かったが、彼女の口から“魔力を抜かれた”とか“黒い羽毛があった”とか、ただならぬ言葉が飛び出している。誰が何の目的で獣人の子を狙い、あんな呪術を施そうとしていたのか。これ以上、自分が深く首を突っ込めば、大罪の力が表に出るリスクが高まるのは明白だった。

 ――それでも、もはや回避不能なのかもしれない。七つの大罪を三つ揃えてしまった俺は、日々“魔王”へ一歩ずつ近づいているとしか思えないからだ。そもそもこの世界には“4人の魔王”が存在し、新たな魔王になろうとする者は、既にいる4人の中で最弱の魔王と死闘を繰り広げ、勝てば席を奪い取る……そんな危ういルールを聞いたのは、転生してほどなくしてのこと。まさか自分がそこへ至るかもしれないとは想像もしていなかったが、どんどん現実味を帯びてきている。

 夜になり、宿屋の二階にある自室で一人になった俺は、落ち着くために再度ステータスを覗いてみた。ここで、自分がどれほどの道を歩んでいるかを確認しなければならない気がしたからだ。布団の上に腰を下ろし、静かに意識を集中する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
『黒宮碧(くろみやあお)
 種族:人間
 状態:通常
 Lv :2/???
 HP :65/65
 MP :54/54
 攻撃力:21
 防御力:15
 魔法力:17
 素早さ:19
 ランク:E-(下級)

――<ユニークスキル>――
 〖七つの大罪「傲慢」:Lv–〗
  ……“自分こそ最強”と心から思い込んだ瞬間、攻撃力や魔法力を爆発的に高めるスキル。
  自信を失うと逆に激減し、扱いは極めてデリケート。

 〖七つの大罪「憤怒」:Lv–〗
  ……“怒り”を糧に、身体能力や魔力量を増幅する攻撃特化のスキル。
  一度発動すると理性を失いやすく、制御を誤れば周囲を巻き込む危険。

 〖七つの大罪「嫉妬」:Lv–〗
  ……“自分より優れている”と認めた対象の能力を部分的にコピー・奪取するスキル。
  強い対抗心や羨望が必要で、精神を蝕む危険性も高い。

――<特殊スキル>――
 【ガチャ】【転生した者】【女神のお気に入り】
  ……基本的には生まれ変わりの際に付与された特別枠。
   - 【ガチャ】は“一日一回”スキルをランダム獲得できる。
   - 【転生した者】は異世界の言語理解や成長ボーナスなどが付く。
   - 【女神のお気に入り】は迷ったときの幸運補正や最低限の護身効果をもたらす。

 〖足軽行軍:Lv1〗
  ……長時間の歩行や走行で体力消耗を抑える。移動系に便利。

 〖精密採取:Lv2〗
  ……魔物や植物などを採取する際、品質を損なわずに素材を回収する。
  レベルが上がるほどレア素材も綺麗に扱える。

 〖ステータス閲覧:Lv1〗
  ……自分や相手のステータスを簡易的に確認できる。相手の同意やスキルレベルの差で精度が変わる。

 〖采配:Lv2〗
  ……仲間や手下に指示を出す際、士気向上や連携精度アップが期待できる。ソロでは効果薄め。

 〖毒耐性:Lv3〗
  ……軽い毒や魔物の毒液に対して耐性を得る。レベル3なら日常の毒や弱めのモンスター毒はある程度無効。

 〖火耐性:Lv2〗
  ……火炎攻撃や火属性魔法による被ダメージを軽減する。レベル2なら軽度の炎は我慢できる。

 〖孤独耐性:Lv2〗
  ……ひとりで行動しているとき、精神ストレスを低減させる。パーティに馴染みづらい者には便利。

 〖鼓舞:Lv1〗
  ……自身や味方の士気を少し高める効果。采配と併用するとパーティの結束力を高めやすい。

――<通常スキル>――
 (以上以外にも、殴打や簡単な剣技、軽い耐性スキルなど細々としたものが存在)
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 こうして改めて一覧にしてみると、日々の【ガチャ】で得てきた“地味だけど便利”なスキルがずらりと並ぶ。これに加えて“七つの大罪”が三つも含まれているのだから、そりゃあ普通の冒険者からすれば超常的な存在とみなされてもおかしくないだろう。普通は行動の結果でひとつずつスキルを得るのが精いっぱいの世界で、毎日確実に新スキルが手に入るなんて破格だ。そのうえ、最高レア度とされるユニークスキル(七つの大罪)が既に三つ――。

「やはり、俺は魔王への道を歩んでいるのか……。四人いる魔王のうち、一番弱い魔王と戦って席を奪い取るだなんて……まさか本当に現実になるとは考えたくもないけど」

 だが、心のどこかでそれが“通らなければならない道”だと思っている自分がいる。いずれ七つの大罪をすべて揃え、圧倒的な力を身につけたとき、こうした獣人の暗躍も、“七つの大罪を探す組織”の陰謀も、一気に片付けるくらいのことはできるのかもしれない。むしろ、それくらいしなければ“この世界を揺るがす事件”には対抗できないだろう。

 寝転がって天井を見つめる。既に三つの大罪が揃っている今、どんどん自分は魔王の“形”に近づいているに違いない。人としての理性を持ちながら、この先の闘争をどう乗り切るかが問題だ。それに加えて、女神ラピスが与えた【ガチャ】が、いつか“残り四つの大罪”を引き当てるのはほぼ確実。――すべてを集めたとき、俺はこの世界で何を為すのだろう。魔王として破滅をもたらすのか、それとも何か別の道を切り拓くのか。
 ――まだ分からない。だが、目の前で起きている問題は一つずつ片付けていくしかない。獣人たちの真意や謎の呪術、黒い羽毛、子どもを利用しようとしていた計画の全容……それらすべてを解き明かし、結局は自分自身の力を受け入れ、道を拓くしかない。それが“魔王”への道だとしても、俺はもう引き返せないのだから。

「……まあ、焦ったところで、すぐにどうこう変わるわけじゃないし。毎日スキルを増やしながら、地道にレベルを上げるしかないさ。猫耳の少女が無事に回復してくれたらいいけど……」

 そう小さく呟き、瞼を閉じる。明日もまたガチャが回せる――七つの大罪を揃える道程の中、いつ“四つ目”が降りてくるか分からない。だが、いずれは必ず手に入るのだろう。心の奥で厄介な達観と淡い恐怖が混じり合いつつ、俺はベッドに沈みこんだ。遠くに聞こえる騎士団の馬蹄と、宿屋の階下で忙しなく動く人々のざわめきが、まだ眠りを妨げている。異世界での日常はこんなにも刺激的で混沌としている。それでも俺は、生きるために――いや、七つの大罪すべてを手にしていつか“魔王”と対峙するために、次の朝を迎え、またガチャを回すのだろう。
 ずきりと胸が痛む。自分がどんどん“世界の在り方”の深みに飲まれていくのを感じながら、それでもまぶたを落とす。ラピス女神の微笑が心の裏で霞み、かすかに囁く声を幻聴のように聞いた気がした――“あなたはもう、戻れないわ。けれど、きっとその道の先で意味を見つけるのでしょう?”
 瞼の裏で、傲慢・憤怒・嫉妬の文字が蠢き、何かを求めるかのように輝いては消える。まだ先に残る四つの大罪を揃えたとき、俺は本当に魔王の頂に辿り着いてしまうのか――その結末を、いまは恐れるしかなかった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

【<獲得済みスキルの詳しい説明>】

●〈ユニークスキル〉
▼七つの大罪「傲慢」
 “自分こそ最強”と心から思い込んだとき、攻撃力や魔法力などを飛躍的に上昇させるスキル。反面、自信を失ったり動揺したりすると効果が大幅にダウンし、メンタル面にも悪影響が生じやすい。

▼七つの大罪「憤怒」
 激しい怒りを燃料に、身体能力と魔力量をブーストする攻撃特化のスキル。特に瞬間火力は絶大だが、発動すると理性を失いやすく、制御ミスで味方や周囲を傷つけるリスクが大。

▼七つの大罪「嫉妬」
 “自分より優れている”と自分が認めた対象の能力を一時的に奪取・コピーする。そのためには強い対抗心や羨望が必要だが、スキルが暴走すると心を深く蝕まれ、自己嫌悪や渇望感に囚われる可能性がある。

●〈特殊スキル〉
▼【ガチャ】
 一日一回、ランダムでスキルを獲得できる超レア能力。通常・特殊・ユニークまで幅広く当選し得る。
▼【転生した者】
 異世界の言語習得やステータス成長で優遇があり、多少の不利状況でも耐性を得やすい。
▼【女神のお気に入り】
 道に迷った際の幸運補正や、危機的状況で最悪の事態を回避する効果がある。

▼足軽行軍(Lv1)
 徒歩や走行における体力消耗が抑えられ、遠出の際に疲れにくい。
▼精密採取(Lv2)
 魔物素材や草花などを丁寧に回収できるスキル。レベルが上がると希少素材の品質をより高く保てる。
▼ステータス閲覧(Lv1)
 自他のステータスを簡易的に確認できる能力。ただし、相手の同意や自分のレベル差などで情報量に制限あり。
▼采配(Lv2)
 仲間や部下に指示を出すとき、士気向上や行動連携を強化できる。ソロでも僅かな鼓舞効果はあるが、本領は複数人でこそ発揮される。
▼毒耐性(Lv3)
 弱い毒や一般的な魔物毒にはある程度耐えられる。レベルが上がると効力の強い毒も徐々に平気になる。
▼火耐性(Lv2)
 火属性の攻撃に耐性を得る。火炎魔法や火山地域の高熱にもある程度耐えられる。
▼孤独耐性(Lv2)
 パーティを組まず単独行動をしていても精神的負担が少なくなる。長期のソロ冒険に向く。
▼鼓舞(Lv1)
 士気をわずかに高め、戦闘意欲や集中力を引き出す。レベルが上がると効果範囲や上昇率も伸びる。

●〈通常スキル〉
 殴打や剣技の初歩レベル、軽い耐性スキルなど、行動の結果として獲得したものがいくつか存在する。たとえば「殴打(Lv3)」「剣術基礎(Lv2)」など、冒険の中で自然に成長しているが、特別にレア度が高いわけではない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 こうして見ると、【ガチャ】で得た少しずつのスキルが積み重なり、傲慢・憤怒・嫉妬という三つの大罪と合わさって、俺自身の力を底上げしているのが分かる。いずれ七つの大罪をすべて手に入れたとき、俺は魔王の座に最も近い存在となるのかもしれない。――ただし、それまでにこの世界で起きる事件や、四人の魔王との因縁がどう動いていくかは神のみぞ知るところだ。魔王になりたくない、という気持ちを抱えながらも、女神ラピスとの“約束”があったような気がしてならない。
 俺は新たな一日を迎え、ガチャの抽選を回す。いつか来る“残り四つの大罪”が手に入るその瞬間まで――そして魔王との戦いに身を投じるまで――もう後戻りできない道のりを歩んでいるのだと、改めて強く感じながら。
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