【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳

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最終話

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15年の時が流れた――。

 落ちこぼれエルフと呼ばれていた私・ルナが、炎の契約をくぐり抜けて王太子セイル殿下の正妃となってから、すでに数多くの季節が巡った。
 あの頃、人々の目には「奇跡の結婚」とも言われ、最初は多くの戸惑いや反発があった。しかし、私たちは時をかけて信用を得る道を選び、姉上たちの助力や自分たちの努力によって、少しずつ国の人々の心を溶かしてきた。

 現在――。
 セイルは若き竜王として正式に即位し、私は王妃として国を支えている。15年の間に培った経験と信頼は、かつての「落ちこぼれエルフ」という印象を消し去り、今では「優しきエルフの王妃」と呼ばれるほどになった。
 大広間の天井からは眩いシャンデリアが輝き、私たちの戴冠式からさらに改装を重ねた王宮は、美しく洗練された姿を保っている。そこで繰り広げられる政治の場では、セイル――いや、いまや“新たな竜王”セイルが堂々と腰を下ろし、国の重臣たちと議論を重ねているのだ。

◇◇◇

 私たちの国は、竜の力を持つ王家を中心にまとまる形で長く続いてきたが、一方で過去には他国との争いも多かった。私が正妃になったことで、エルフとの関係はどうなるかと当初は不安視されていたが、実際には時間をかけて改善が進んでいる。
 いまやエルフの里からも公式に大使が訪れ、自然との共存や魔力の共有などで新しい協力体制が築かれ始めた。私がエルフの血を引くという事実が、橋渡しのきっかけになったとも言える。
 ――国境付近でトラブルが起きれば、私が“竜導”や治癒の力で仲介に入り、セイルが竜王として圧倒的な魔力を示して平和を守る。そんな場面も増えたけれど、15年前の緊張感に比べれば、いまの国ははるかに落ち着きを取り戻している。

「陛下、最近ではエルフの里との交流が盛んになり、商隊の往来も増えているようです。国の財政はさらに潤うでしょう」
「そうか……いい傾向だな。ルナも喜ぶだろう。引き続き、商隊の安全を確保するように兵士を増やしてほしい」

 玉座に座るセイル……竜王は、朗らかな声で重臣に指示を飛ばし、彼らもまた慣れたように即座に動く。15年前は若く頼りなかった面もあったが、今や「最強で最良の竜王」と呼ばれるほどに成長を遂げていた。
 正妻候補だった頃の悲哀を知る貴族たちも、今ではほとんどが協力関係に回っている。私との確執が残る者もいるけれど、「落ちこぼれエルフ」と誰も軽視できなくなった。何しろ、実際に炎の契約に耐え、数多の問題を解決してきた実績があるのだ。

◇◇◇

 私はというと、王妃としての務めをこなしながら、王宮の一角で来客を迎えていた。森の奥からやって来たエルフの代表が、我が国との交易や文化交流について話を持ちかけている。
 空いた時間に、重臣との面談や海外の使者への対応もこなさなければならず、かつて「落ちこぼれ」と言われていた頃の自分を思い返すと、信じられないほどの毎日だ。
 だけど、15年という歳月は私を大きく成長させてくれた。いつしか人々も「王妃ルナ」と呼び、助言を求めに来てくれるほどになっている。――正妻候補の一部だった娘たちとも、時間を経て話し合いを重ね、友人のように支え合う関係になった相手もいる。

「ルナ様、次の会合のお時間です。ご準備を……」
「はい、わかりました。急ぎましょう」

 侍女の声を受け、私は軽いローブを整え、部屋を出る。――火傷の痕はほとんど消えてしまい、炎を浴びたという痛みは今はもう感じない。それでもあの日の熱と恐怖は忘れられない思い出であり、私の道を切り開いた原点だ。

◇◇◇

 夕方になり、私が執務室のように使っている部屋に戻ると、そこにはセイル――竜王が先に待っていた。相変わらず公務で忙しいはずなのに、わざわざ私を迎えに来てくれたのだろうか。
 彼は私の姿を見つけるや、「おつかれさま」と微笑む。15年前と比べて背も体格も少し変わり、銀髪の雰囲気はそのままだが、より落ち着いた雰囲気を纏っている。

「今日も大変だったね。エルフの代表たちとの話、どうだった?」
「順調ですよ。森側も安全な往来を求めて、私たちの国に協力してくれるようになってきました。……殿下、いえ、陛下こそお疲れでしょう? 重臣たちとの会議は終わりましたか?」

 私が銀髪を揺らす彼を“殿下”ではなく“陛下”と呼ぶのは、まだ馴染みきれないクセがあるけれども、彼は微笑んで受け止めてくれる。――私たちのあいだでは昔と変わらず「殿下」と呼ぶことも多いが、表向きには「陛下」と呼ばなければならない。
 彼はうなずき、机にあった書類を一通り片づけながら言う。

「もう今日は終わったよ。……ルナと少し散歩でもしようかと思って。夜は王宮の中庭が綺麗だし、気分転換しよう」
「それは嬉しい……。でも、警護の方がまだ心配かもしれませんよ。夜の王宮は静かとはいえ……」

 私が遠慮すると、彼は穏やかに首を振る。「今の国はもう、君が危険を感じるほどの混乱はないよ。もちろん護衛はつけるけどね……。君の方が一国の王妃なんだから、堂々としていいんだ」
 その言葉に背中を押されて、私は微笑み返し、少しだけ身なりを整える。王妃としてのドレスはかつての落ちこぼれには重いかもしれないが、もう慣れたものだ。

◇◇◇

 夜の王宮中庭は、満天の星空と照明が織りなす幻想的な空間だ。15年前、私と殿下がこっそり巡っていた場所とは比べ物にならないほど整備され、さらに広い範囲が花で飾られている。
 私たちが並んで歩く後ろには数名の護衛が控えているが、もう視線を感じても怖くない。多くの者が私たちの在り方を受け入れてくれていると信じられるから。

「ルナ……こうして夜の庭を歩くと、昔のことを思い出すね。まだ王太子だったころ、みんなに隠れながら会ってた時期が懐かしいよ」
「そうですね……。あの頃は落ちこぼれの乳母と呼ばれて、正妻候補の皆さんから嫉妬や怒りを買って……でも、殿下が守ってくれたから生きてこれました」

 私が微笑むと、彼は少し照れくさそうに笑う。

「お互い様さ。君がいなければ、俺はあんな炎の契約に耐えられなかったかも。……君がいてくれたから、俺は王になれた。ありがとう、ルナ」
「……わたしこそ、ありがとう、陛下……セイル。これからも末永く……国を、そしてあなたを支えさせてくださいね」

 言葉を交わすたび、15年という歳月を乗り越えた絆を感じる。王と王妃になっても、私たちの愛はあの日の炎で結ばれているのだ。

◇◇◇

 中庭を練り歩くうち、何人かの侍女や兵士とすれ違う。彼らは深い敬意を込めて「陛下、王妃様」と頭を下げ、私たちも微笑みを返す。
 遠くから私たちを見つめる若い兵士の一人が、「あの方が落ちこぼれエルフだったなんて信じられない……でも、本当に美しいな」と囁いているのが聞こえてきて、私は少し照れてしまう。――これも15年かけて築いたもの。

「ルナ……明日も少し忙しくなりそうだけど、大丈夫? 国境からの使者が来る予定で、一緒に会ってほしいんだ。エルフの里との条約のことで、君の力が必要になる」
「もちろん。喜んでお引き受けします。わたしも、エルフの方々がもっとこちらに親しみを持てるよう、外交を推し進めたいですから」

 かつての私を“落ちこぼれ”と呼んだエルフの里さえ、今や私を「王妃」として認め始めている。世の中が変わるには長い時間がかかるが、一つずつ積み重ねていくことで、私たちは未来を切り開けると実感していた。

◇◇◇

 夜の風がそよぎ、月の光を浴びながら私たちは中庭の噴水へと歩を進める。15年前は遠くから眺めるだけだった場所を、いまはこうして堂々と並んで歩ける。――それが何より幸せな証。
 殿下――いや、竜王セイルが、噴水の前で私の手を取り、ふわりと引き寄せる。微かに踊るようなステップ。誰もいない夜の庭で、私たちだけの音楽が心に流れているような錯覚に陥る。

「……15年前、君が“炎の契約”を受けてくれなかったら、俺はただのわがままな王子で終わってた。今こうして、国を良い方向へ導けているのも、君のおかげだよ」
「わたしこそ、落ちこぼれエルフを救ってくれたのは殿下……セイルです。あの炎の日、わたしたちが命を繋いだ瞬間こそ、すべての始まりでした」

 私たちはそっと唇を重ね、夜空の下、長い道のりを振り返る。――あのとき、すべてを賭けて炎に挑んだ自分と殿下の勇気がなければ、ここにはいられなかっただろう。
 遠くに見える王都の灯火が、かつては恐怖と嫉妬を伴う世界だったけれど、今は私たちを温かく見守るように灯っている。

「ルナ……明日からも、いや、この先ずっと一緒に国を治めていこう。俺たちが力を合わせれば、まだまだ良い政治を行えるはずだ。人々に笑顔を届けよう」
「はい。竜王……わたしはあなたの正妃として、命の限りお支えします。今も……そしてこれから先も、永遠に」

 穏やかな静寂が訪れ、私たちは深い愛を確かめ合う。いつの日か、子どもが生まれる日が来れば、落ちこぼれエルフと竜王の血を受け継ぐ新たな王子や姫が誕生するかもしれない。そんな未来にも思いを馳せながら、今はただ幸せを嚙みしめる。
 ――15年の歳月が築いた安定と信頼。そしてこれから先も、私たちの物語は続く。様々な課題に直面しながらも、炎の契約で結ばれたこの絆を軸に、最強で最良の竜王夫妻として国を治める。
 落ちこぼれエルフなどと言われた昔の自分からは想像もできないほど充実した日々――それこそ、私が選んだ運命。その幸せを胸に刻みながら、私は竜王と共に月明かりの中を歩む。

 国はまだまだ課題を抱えているけれど、ふたりでなら、きっと乗り越えられる。炎を共に耐えた証が、私たちに無限の希望を与えてくれるから――。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

打出の小槌
2025.10.13 打出の小槌

ずっと続いているジレジレに、早くスッキリさせてくれ〜
そろそろ我慢の限界が…
それにしてもこの王太子殿下、なんでこんなにも正妻候補に対し、腰が低いのでしょうか。王族なのに、次期国王になるのに貴族令嬢のほうが偉いのかと錯覚してしまいます。

解除

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