【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳

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9話

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朝、まだ日が昇りきらないうちに目を覚ますと、ふと全身に心地よい疲労感が広がっているのを自覚した。昨日はノエルさんと一緒に氷魔石の複製に成功し、あまりにも嬉しくて夜更かしまでしてしまったからだ。もっとも、複製直後の興奮と達成感は今も鮮明に残っている。俺の中でくすぶっていた「レア素材を安定して入手できない」という大きな壁が、少しだけ壊せたような気がしてならない。

「よし……今日も頑張るか」

そうつぶやいて起き上がり、簡単に着替えてから部屋を出た。いつもどおり廊下を通ってキッチンへ向かうと、母さんが珍しくソワソワしている様子に気づく。何かあったのだろうか。

「リオ、ちょうどいいところに。今日の朝食、父さんが作ってくれてるのよ」
「え、父さんが? まさかまた失敗しないよね……?」

父さんは料理が苦手というわけではないが、やや雑なところがあるから、時々とんでもない味付けをしたり、食材の分量を間違えたりして母さんに怒られるパターンがある。俺が転生前の知識を活かして作る料理とは真逆のテイストと言うか、乱暴な味に仕上がりがちだ。

「いや、今回はちゃんと下準備までしてたみたいだし、そんなにひどくはないと思うわ。たぶん、あなたの料理スキルに触発されたのかもしれないわね」

母さんは苦笑しながらそう言う。確かに最近の俺はポーション調合のための下処理や味の試行錯誤を繰り返しているから、父さんも「オレだってやればできる!」と張り切ったのかもしれない。ちょっと心配だけど、ありがたい気もするな。

「おはよう~! お、リオ、来たか。今日はオレが腕を振るってみたぞ」

父さんの声がキッチンから響いてくる。覗いてみると、シチューのような香りが漂っていた。鍋をぐつぐつ煮込みながら、父さんがやけに得意げにお玉を持っている。白っぽいスープの中には野菜や肉がゴロゴロ見えて、見た目は悪くない。

「へえ、シチュー? すごいじゃん、どうしたの?」
「いやぁ、実は夜中に本でレシピを調べてさ。エレーナに材料を用意してもらって、今朝から仕込んだんだ。リオ、おまえの影響かもしれないな。料理って面白いかもって思えてきた」

父さんは照れ隠しのように鼻をこすりながら言う。まさか店の道具屋で売っているレシピ本を読みながら作ったのかな。なんにせよ、こうして家族が俺に触発されて何かやってくれるのは悪い気がしない。母さんも「味見してみてよ」と促すので、さっそく椅子に座っていただくことにした。

「いただきまーす……ん?」

スプーンで一口すくってみる。舌に当たる瞬間、やわらかいクリームっぽさを感じる。ああ、確かにシチューっぽい。そして何より、そこそこ美味しい。具材もゴロッと入っていて食べ応えがあるし、塩加減もほどよい。いつもの父さんが作るイメージとは違って、妙に丁寧な味に仕上がっていてびっくりした。

「うまいよ、父さん……本当に作ったの?」
「おいおい、疑うなよ。頑張ったんだぞ? リオやエレーナには感謝してる。いつも料理してもらってばかりだったからな」
「いやぁ、これは嬉しいなぁ。父さん、やればできるじゃん!」

ごく普通の家庭の朝食シーンなのに、なんだか心が温まる。母さんも興味深そうにスプーンですくい、「ほんとに意外と美味しいわね」と褒めている。父さんは鼻をふくらませて得意げだ。

「ところで、リオ。おまえのほうは、昨日は何やってたんだ? エレーナが言うには倉庫にこもってノエルさんと大騒ぎしてたとか……」
「あ、えっと……あはは、まぁ、いろいろね。氷魔石をどうにかうまく増やせないかって実験してたんだよ。そしたら、ちょっと成功しちゃってさ」
「おお! 例の“複製”か!? マジでやったのかよ」

父さんが驚きでシチューをこぼしそうになるので、母さんがあわてて机に布巾を差し出している。俺は頷きながら、昨夜起きたことをざっくり説明した。ノエルさんの魔力サポートを受けて、氷魔石の複製に初めて成功したこと。まだ回数をこなせるほど余裕はないが、これができれば大量生産の道が開けるかもしれないこと。

「こりゃあ、すごい展開じゃないか……。ただでさえ美味いポーションが、今後もっと出回るってことだよな? うちの店、繁盛するなぁ」
「父さん、まだ早いって! 量産にはかなりの魔力と時間がいるし、失敗したら素材もパーになるんだ。そんなに簡単じゃないよ」
「でも希望があるだけいいじゃない。やる気が出るでしょ?」

母さんの言うとおりだ。今のところ一度成功しただけでも大きな進歩。ここからさらに練習と検証を重ねれば、もっと楽にコピーできるようになるかもしれない。そうなれば、氷魔石ポーションのハードルはかなり下がる。あとは味のバリエーションを増やしつつ、回復効果を高める工夫ができれば、商品としての完成度がぐんと上がるはずだ。

「よし……じゃあ今日も、頑張って研究するか。あと、せっかく複製に成功したし、もう一回くらい挑戦してみたいしな」
「ほどほどにね。体力とMPの消耗が激しいんでしょ? ノエルさんにも負担をかけすぎないようにしなさいよ」
「了解、母さん。そこは気をつける」

こうして朝からテンションが上がりっぱなしのまま、シチューを平らげる。父さんの料理で満腹になるなんてめったにない経験だし、前向きな気持ちも相まって、今日はいいスタートが切れそうだ。



朝食後、店の開店準備をする。いつもどおり看板を出して木戸を開け、空気を入れ替える。父さんが棚の在庫をチェックしながら「また品数が増えてきたなあ」と呟く。確かに、最近は氷魔石ポーションや、甘口・苦口など試作品を少しずつ並べるようになって、店の見た目に変化が出ている。
まだ“正式販売”とはいかないが、「よかったら試してみてね」的なPOPを貼っておくと、それなりに反応してくれる客がいる。前は苦味でリピートしなかった人が「苦口のほうが逆にいいかも」と言ってくれたり、甘いほうが好きな人が「もう少し欲しい」と言ったり、需要を感じると嬉しくなる。母さんは「数量限定だから、ちゃんと管理してね」ときつく言うけれど、そこはなんとかやりくりするしかない。

午前中は地元の主婦が多く、ポーションを買う冒険者はほとんど来ない。俺は客足の少ない時間帯を見計らって、複製スキルの小さな練習を続ける。さすがに店内で氷魔石をコピーするわけにはいかないので、安い鉱石やハーブをコピーしてMPを磨くのだ。
すると「リオ、また何かやってるの?」と母さんに覗き込まれ、「あ、いや、魔石じゃなくてハーブだから安全だよ」と焦って答える。母さんは呆れつつも「壊れ物は扱い注意してよね」とだけ言い残していく。このくらいはもう慣れっこだ。



昼前になって、ようやく冒険者風の客が増え始める。新しい依頼を受ける前にポーションを買いにくる者が多いらしい。甘いほうと苦いほう、両方試飲して感想を言ってくれる人もいて、「こっちのほうが好みだ」「いや、こっちは苦すぎる」「両方嫌いじゃないけど値段高そうだな」など、いろんな声が飛び交う。母さんがその横で苦笑いしているのを見て、やはり一筋縄ではいかないのだと思う。

そのタイミングで、ノエルさんが店にやってきた。ローブ姿に杖を携えたまま、ぺこりと軽く会釈する。

「リオさん、おはようございます。今日も実験を進めるなら、私も協力しますよ」
「おはようございます。いつも助かります。そうだな、午後に時間が空きそうだから、そのときに昨日の続き、やりましょうか」

ノエルさんは小さく微笑みながら、「了解です。じゃあそれまで店先で他の調合師の本でも読んでます」と告げる。実はノエルさんは、王都で魔法薬学を学んでいた頃の資料を大量に持っていて、時々店の片隅で読み漁っているのだ。昨日も何やらメモを取りながら「酸味素材に該当しそうな植物を探す」「冷却成分と酸化防止の関係は?」などと言っていた。俺もぜひ一緒に読みたいところだけど、店番しながらだと難しい。

「じゃあ午後、落ち着いたら倉庫行きますね。今日こそもう一回氷魔石コピーにも挑戦したいし、味の新バリエーションも試してみたいんで」
「ええ、楽しみにしてます」

ノエルさんはそう言って、店の奥まったベンチに落ち着く。母さんは「ごゆっくりどうぞ」と大人の対応をしてくれている。最近ノエルさんが出入りするのも板についてきて、店の常連たちも「あの魔術師さん、なんでいつもここにいるんだ?」と不思議がりつつも、特に問題にはしていないらしい。うちの店、なんだかますます面白い場所になってきたな。



昼過ぎ、ある男性客がやってきた。銀髪にスラッとした長身、軽装の鎧をまとい、腰に一振りの剣を下げている。年齢は二十代後半くらいだろうか。涼しげな目元で店内を見回す姿は、どこかエリート冒険者のような雰囲気を放っている。

「いらっしゃいませ……何かお探しですか?」
「ポーションを見に来た。ここの店が“美味しいポーション”を扱ってると噂を聞いたんだが、本当なのか?」

あ、噂を聞いて来た人だ。最近、口コミが広がって「アイザワ商店に行けばマシな味のポーションを試せる」って話がちょこちょこ出ているらしい。俺は内心で嬉しくなりつつ、「試飲できますよ」と笑顔で案内する。すると男はフッと鼻で笑い、どこか冷たい目で小さく頷いた。

「ふん……まあ飲んでみるか。どうせ大したことないだろうが、試してみないことにはわからんしな」
「は、はぁ……」

この人、ちょっと態度が尖ってるな。別に悪い人ってわけじゃなさそうだが、実力に自信があるタイプだろうか。俺はそこまで深く気にせず、甘口と苦口の二種類をグラスに少量ずつ注ぎ、差し出してみる。

「こちらは甘み強め、こっちは苦味のあるタイプです。氷魔石由来の冷涼感がありまして、従来の不味いポーションとはだいぶ違うんですけど、一応まだ試作品なので、回復効果とかコストとかに課題はありますが……」
「へえ、言うね。まあ、まずは口に合うかどうかだな。じゃあ、甘口から……」

男はまず甘口をチビチビと飲んでみる。顔に出ないタイプなのか、あまり表情を変えない。俺が内心ドキドキしていると、「ふむ……」と低い声が出た。

「たしかに、今まで飲んできたポーションに比べればずいぶんマシだ。舌がシビれるほどの苦味も臭いもない。ほんのり冷たくて……ジュースみたいだな。だが、ジュースか……」
「ジュースみたい、っていうのは良い評価なんですかね?」
「悪くはない。ただ、いかにも“効いてる感じ”がしないな。回復力も薄いのか?」

うっ。そこを突かれると痛い。実際、この甘口ポーションは味を優先した分、まだ効果は控えめなのだ。俺は苦笑いで「そうなんですよね……」と答える。

「じゃあこっちの苦口はどうだ?」
男はもう片方のグラスを飲み干す。今度は少しだけ表情が動いた。お、どうなんだろう?

「なるほど。こっちは苦味が立っていて、多少“薬”っぽい雰囲気はある。冷たさも悪くない。だが、一口目の苦さが尖っていて、後味に少し甘みが混ざる分、かえって中途半端だな……」
「中途半端……」

痛いところを突かれる。実際、苦味強めのほうは「食べやすい」と言う人もいるが、「甘さと混ざると中途半端」という人もいる。やはり全員を満足させる味なんて難しいのだ。

「そうですね。まだまだ研究段階なんで、いろいろ試してるところなんですよ。ご意見はめちゃくちゃ参考になります」
「へえ……意外と謙虚だな。まあいい。味はそこそこ評価してやる。だが、いまはまだ買わないぞ。回復効果と値段を考えるなら、結局いつものポーションでいいからな」

男は淡々とそう言うと、店の棚に並んでいる従来品のポーションを手に取る。やはり、効能で選ぶなら昔ながらのマズいポーションが一番安心なのだろう。分かっちゃいるけど、やはり悔しい。俺は精一杯の笑顔で「ありがとうございます、また改良したらぜひ試してほしいです」と送り出すしかなかった。

「まあ、気が向いたらな。……そうだ、俺はグラント・レイスって名だ。覚えておいてもいいぞ。この辺りじゃちょっと名の知れた冒険者だからな」
「グラント・レイスさん……わかりました。ぜひ次回来たときには、もっといいポーションをお出しできるようがんばります!」

グラントはフッと笑みを浮かべ、「期待してる」と一言だけ残して店を出ていった。母さんが苦笑しながら「ずいぶんクールな人ね。でも、ああいう人の意見は貴重かも」と言う。確かに、ズバッと欠点を指摘してもらえるのはありがたい。

「うーん、でもやっぱり“効いてる感じ”が重要か……。味はそこそこ良くても、強い回復効果がなければ満足しない冒険者もいる。そりゃあ当然だよね」

俺は改めて溜息をつく。甘さや苦さのバランスも大切だが、結局は“ポーションとしての性能”がなければ大勢の冒険者に受け入れられない。今の段階では味の追求に意識が傾きがちだったけど、そろそろ本腰を入れて効果アップの研究もしなきゃいけないかもしれない。氷魔石を使って冷却するだけでなく、回復魔力を増幅させるような仕組みはないのだろうか……。

「ノエルさんも、そっちの方面で何か知識を持ってそうだし、ちょうどいいや」

そう思いながら、俺は時計を見て、もう昼過ぎだと確認する。店番のピークは落ち着きつつあるから、そろそろ倉庫へ移動しても問題なさそうだ。父さんと母さんに「ちょっと倉庫でノエルさんと実験してくるね」と一声かけると、「魔石を爆発させないようにな」と軽いジョークを言われる。大丈夫だ、昨日みたいに派手にはならない……はず。



倉庫にはノエルさんが先に来ていて、何やら大きな本を開いてメモを取っている。ここのところのマイブームらしく、魔法薬学の専門書やノートをいくつも持ち込んでいるようだ。

「お待たせしました。さて、今日のテーマはどうします? 昨日のように氷魔石をまたコピーして、バリエーションポーションを作ります?」
「それもいいんですけど、ひとつ気になることがあって。冒険者の人たちから“効き目が弱いなら結局買えない”って声があるじゃないですか?」
「はい、まさにさっきそういうお客さんがいました」

ノエルさんは頷き、ノートを見せてくれた。そこには“回復効果を高める調合の手法”や“魔石の力を有効活用するための魔法陣”、さらには“補助素材の組み合わせ”など、びっしり書かれている。

「氷魔石は確かに冷却効果を与えるんですが、回復力そのものを高めるわけじゃありません。そこで、たとえば他の魔石を少量加えることで回復力をブーストできる手法があるかもしれません。問題は素材同士が喧嘩して味が悪くなるのをどう抑えるか、ですが……」
「なるほど。他の魔石……炎系や雷系とか? でも、味への影響って大きそう……」

俺は苦い顔になる。確かに複数の魔石を同時に使うことで効果を高められるかもしれないが、味に関しては未知数。そもそも“炎系魔石で温めながら冷やす”とか、相反するエネルギーがぶつかって大変なことにならないだろうか……。

「もしくは、単純に“回復系ハーブ”の分量を増やす方法もありますが、今度は苦味が増しすぎる可能性が高いですよね」
「ああ、ゴルア草みたいなのをバンバン入れたら、もう苦くて飲めないポーションになりそうです」
「そこで、やっぱり複製がキモになるかと思うんです。希少なハーブや魔石の中には“回復効果を高めて味には影響しない”というレアな素材も存在するけど、手に入る量が少ない。もしそれをコピーできるなら……」
「なるほど! でも、氷魔石以外にもレア素材をコピーするには、また別のトレーニングが必要そうですね。成功するかどうか……」

ノエルさんの提案は魅力的だが、実践にはまだハードルが高そうだ。たとえば回復系のレアハーブ「エルフィーナ草」や、魔力を高める鉱石など、確かに存在は聞いたことがあるけど、高価すぎて普通に買えないし、そもそも市場に出回る量も少ない。結局、俺の複製スキルが頼みになるわけだけど、氷魔石ですらやっと成功した程度の腕前だし……。

「ま、焦っても仕方ないですからね。まずは、いま持ってる素材でできる限り効果を高める方法を探すほうが現実的かも」
「そうですね。たとえば、氷魔石ポーションにもう少し回復ハーブを追加してみるとか? でも味が崩れすぎないよう、分量は控えめに……」

二人でああでもないこうでもないと相談しつつ、実際に調合に移る。今日は「氷魔石+通常ハーブの強化版」だ。冷たさと味をそこそこ維持しつつ、回復効果をわずかでも上げるために、苦味の強いゴルア草をごく少量だけ追加する。あまり入れすぎると飲めないほど苦くなるから、本当にほんの少しだ。
• 氷魔石の冷却
• 甘味は中程度(控えめ)
• 苦味ハーブを最低限だけ投入
• 全体の回復効果をわずかに底上げする狙い

念入りに火加減やアク取りをしながら作業を進める。途中でノエルさんが軽く魔力を注いでくれて、煮詰まらないようにする。こうして二人がかりで丁寧に煮込むのはもはや日課になってきたな……。

「よし、火を止めるタイミングは今かな」
「了解です。では少し蒸らして……あと5分待ちましょうか」

ビーカーに蓋をして、その間に雑談。こういう時間がいちばん落ち着く。ノエルさんがどんな勉強をしてきたのか、王都の調合師ギルドではどんな研修があるのか、いろいろ聞けて楽しい。

「王都のギルドにも、“味を追求する”って動きは全然ないんですよ。回復効果をどう最小コストで出すか、そればっかり重視されてて、味なんて二の次なんです」
「やっぱりそうなんですね。そもそも“美味しさ”なんて必要ないっていうのが常識っぽいし……」
「でもリオさんの研究は、そこを一気に飛び越えようとしてるから凄いと思います。回復力もあって美味しいなら、そっちのほうがいいに決まってますし」

そんな言葉を聞くと、やっぱり嬉しい。俺がこの世界に転生してからずっと抱いていた「なんでまずいままなの?」という疑問が、こうして形になりつつあるのだ。もちろん大変な道のりだし、問題は山積みだけど、なんとか続けていける自信が湧いてくる。

「さて、そろそろ……開けますか。よいしょ……」

ビーカーの蓋をそっと開けると、ふわっと独特の香りが立ち上る。若干ハーブ臭さはあるが、以前ほど強烈ではない。甘い香りと薬っぽい苦味が混じっているけど、ちょっと嫌いじゃないかも?

小瓶に移して軽く冷ましてから、一口ずつ味見する。……おお、これは?

「ん、悪くない。むしろ、苦味ハーブを少し増やした分、回復力がやや上がってるかも? ……いや、実際に怪我してないから数値はわからないけど、なんとなくそう思える」
「わかります。飲んだ瞬間にスーッとひんやりしながら、奥のほうで苦味がくる感じ。甘みは程よいですね。私は嫌いじゃないけど……どうなんでしょう、冒険者さんには好評かもしれませんね」

二人で意気投合しつつも、結局はお客さんに試してもらわないとなんとも言えない。夕方ごろまでにタイミングがあれば数人に味見させ、データを取る予定だ。こうやって地道に改良を積み重ねるしかない。



ひととおり味の実験を終えたあと、ふとノエルさんが「そういえば、氷魔石の複製はまたやります?」と聞いてきた。俺もぜひやりたかったところだ。昨夜は一度成功しただけだが、何度もやれば安定して再現できるようになるはず。もちろん、MPの消耗は半端ないし、ノエルさんにも苦労をかけるが、量産を目指すなら早めに慣れたい。

「大丈夫ですか? 昨日ほどじゃないかもしれないけど、けっこうしんどいですよ?」
「ええ、私も覚悟のうえですよ。リオさんの複製スキルは貴重な経験になるし、もし疲れ果てても今日はもう夜まで店があるだけですよね?」
「そうですね。じゃあ……ちょっとやってみますか!」

床に座り込み、台の上にある氷魔石を二つ取り出す。昨夜コピーした“複製済みのやつ”と、元々あったオリジナル。それぞれ少しずつ削れた状態だけど、まだ複製対象には十分すぎる。これを複製して“もう一個増やす”ことができれば、実験用の素材がさらに増えるわけだ。

ノエルさんが魔石を手のひらに乗せ、魔力を注いで安定化させる。俺はそれに重ねるように手をかざし、複製スキルを発動する。深呼吸して集中……昨日の成功体験を思い出しながら、丁寧に魔力を流し込む。

「……っ!」
一瞬、ガクンと腕に力が抜けるような感覚があるが、ノエルさんが魔法で支えてくれている感じがする。ふわっと青い光が広がり、氷魔石の輪郭が二重になる。もし昨日と同じようにいけば、そのままコピーが定着するはずだ。だが、負荷は大きいらしく、体がどんどん熱くなってくる。

「だ、大丈夫……?」
「まだ、いける……はずっ!」

ノエルさんが必死の形相で耐えている。昨日の成功率を思うと、今日も何とかなるかもしれない。俺もMPを注ぎ込み続けて、心臓がバクバクするのをこらえる。すると――カチリと小さな音がして、新しい氷魔石の輪郭が完全に姿を現した!

「よ、よっしゃ……」
「できましたね……!」

二人とも肩で息をしながら顔を見合わせ、思わず笑みがこぼれる。これで氷魔石がもうひとつ増えた。合計三つか。まだ日々の量産には遠いが、確実に一歩ずつ進んでいる感覚がある。

「ありがと、ノエルさん。オレ一人じゃ絶対無理だわ、これ……」
「私も勉強になります。でも、やっぱり疲れますね。しばらく休憩しましょうか?」

そう言って、二人で倉庫の壁にもたれかかる。鼻先にはまだハーブの匂いや薬草の香りが漂い、なんだかほんわかする空間だ。外はまだ夕方には早いが、店の混雑は一段落しているだろう。母さんや父さんは大丈夫だろうか……少し気になるけれど、今の俺には立ち上がる元気がない。

「でも、これで安定して複製できれば氷魔石を量産できる。そうしたら、コストの問題の多くが解決するってことですよね……」
「ええ。あとは回復効果をどう高めるか……“効いてる感じ”を出せるようにしなきゃ、冒険者さんの信頼は得られないかもしれませんね」
「そうだね。グラントさんみたいに厳しい人もいるし……。……はぁ、やることだらけだなあ。でもなんか、楽しいからいいか」

ノエルさんがくすっと笑う。「リオさんはほんとに“やりがい”を感じてますよね。私もそうだけど、面白くなってきました」と言ってくれる。この瞬間がたまらなく好きだ。転生してきて、いろいろ戸惑った時期もあったけど、今の生活には目的と仲間がいる。それだけで幸せな気がするんだ。

◆終わりに向けて、ゆるやかな前進

倉庫で少し休憩してから、残りの作業を片づけて店へ戻ると、母さんが「ちょうどいいところに。店じまいの時間よ」と声をかける。今日はもう閉店か。結局、午後の実験で作った“回復力ちょい強化版”ポーションをお客さんに試してもらうタイミングはなかったが、明日以降また試飲をしてもらえばいいだろう。

父さんは「おまえら、またすごい顔してるな。魔石コピーでもやったのか?」とゲラゲラ笑っている。ノエルさんが恥ずかしそうに視線をそらすから、俺が「うん、ちょっとね。頑張りすぎたかも」とフォローする。母さんは「ほんとに爆発しないでね……」と呆れたふうに言いながらも、どこか安心しているようだ。

「じゃあ、ノエルさん。今日はありがとうございました。もう夜だし、気をつけて帰ってくださいね。お疲れさまでした」
「はい、こちらこそお疲れさまでした。私もへとへとなので、宿に戻って休もうと思います。明日また来ますね」

笑顔でノエルさんを見送ったあと、俺も残った店の片づけを手伝う。ああ、なんだか濃い一日だったな。氷魔石をまたひとつ増やせたし、新しいレシピのポーションも完成した。課題は山積みだけど、着実に未来が拓けていくのを感じる。

(よし、明日こそ“もう少し効く感じ”を出せるように、何か考えなきゃ。)

夜風に当たりながらそんなことを考えていると、母さんが「店を閉めるから、戸締まり確認して」と声をかけてきた。俺は元気よく「はーい」と返事をし、シャッター(というか木戸)をしっかり閉める。父さんと母さんは「じゃあ家に戻ろう」と家の方へ向かい、俺は最後にもう一度倉庫のドアがしっかりロックされているかをチェックする。

扉に鍵をかける瞬間、ふと胸が高鳴る。明日もきっと面白くなる。そんな予感を抱きながら、俺は家族の待つ家へと足を運んだ。疲れきった体には、父さんが作ってくれたシチューの残りがぴったりかもしれない。食って寝て、また明日に備えよう。

“美味しいポーション”を求める道のりはまだまだ続くけれど、今日もまた一歩、進んだ気がする。
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