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31話
しおりを挟む朝、宿の食堂でパンとスープを口に運びながら、父さんが一枚の紙をしきりに睨んでいた。
「うーん……アルマ商会だけじゃなくて、商人ギルド全体を巻き込んだほうが早いかもなぁ。なあ、リオ、どう思う?」
「商人ギルド……? 確かに、そこを通せば販売ルートが広がりやすいかもしれないけど、条件も厳しくなるんじゃない?」
「ま、そこは話し合い次第だ! オレは昨日も考えてたんだが、量産がまだ難しいなら、“限定販売”のメリットをもっと活かすべきだろ?」
父さんの目は珍しく真剣だ。ノエルさんがスプーンを置いて、「具体的にはどういう案なんです?」と身を乗り出す。
「商人ギルドに協力してもらって、新商品の“お披露目フェア”みたいのを開催できないかなって。そこで“あくまで限定生産だから早い者勝ちですよ”と煽れば、ある程度高額でも売れるだろうし……」
なるほど。公認が出た今、王都での正式販売に向けては宣伝効果が重要だ。騎士団や貴族向けのルートはシュトラス家などが後押ししてくれそうだが、冒険者や一般層への認知はまだまだ。フェアのようなイベントは効果的かもしれない。
ラットはパンをかじりながら、「ふーん……でもそこに参加するには金かかるんじゃ?」と疑問を呈する。父さんが「そこはギルドと交渉次第だろ!」と勢いよく胸を張る。
「でも、さすがに大掛かりなイベントをやる余裕は……」
「なあに、ただの“顔合わせ会”でもいいんだ。アルマ商会やほかの店と一緒に、いくつかの商品を並べて“これが噂の美味しいポーションですよ”とやるだけで十分宣伝になる。なあ、どうだリオ? オレと一緒に商人ギルドを訪ねてみないか?」
うーん……正直、イベントともなると準備が大変そうだが、地道に店を回るよりは早く知名度が上がる可能性がある。公認後の一手としては悪くない。
「わかった。とりあえず商人ギルドで話を聞いてみよう。もし協力してくれるなら、簡単なフェアをやるのもいいかも」
「よし、決まりだ!」
◆
ノエルさんを伴い、父さんと三人で宿を出る(ラットは昼から雑用バイトがあるので一旦別行動)。商人ギルドは王都の東区に大きな建物を構えていて、数多くの店舗や交易業者が出入りするらしい。
建物の正面は賑わっており、馬車が頻繁に乗りつけては荷物を搬入している。内部に入ると、明らかにビジネスの空気が漂っていて、冒険者ギルドの活気とはまた違う“商い”の匂いを感じる。
「さて、どうする? 門前払いされないかな……」
「大丈夫だ、オレが交渉する!」と父さんが鼻息荒く歩みを進め、カウンターで「初めまして~!」と声をかける。スタッフの女性が怪訝そうに「何かご用件ですか?」と対応してくれるが、父さんはいつもどおりのパワフル口調で一気に事情を説明する。
「実はうちの息子が“美味しいポーション”を開発しましてな! 王都で公認も取れたところで、商人ギルドの力を借りられれば心強いかなーと思いまして!」
「は、はあ……公認、ですか。どちらで? 魔法省の研究所でしょうか?」
スタッフの目が少し変わった。父さんが「そうだとも! このリオってやつが“甘口”や“苦口”を美味しく作れるんだ!」と俺を指さすと、周囲の商人らしき人が「えっ、あの噂の……?」と注目し始める。
「ほ、本当ですか? 最近“味がいいポーション”が騎士団とかで話題になっているとか……」
「そうそう、それがオレたちのポーションだ。ちょっと責任者に繋いでもらえないか? 新商品フェアをやれないかと思ってな!」
スタッフはオタオタしながらも「少々お待ちを……」と奥へ駆け込む。父さんの勢いに押されて、ノエルさんと俺はひやひやしているが、当の父さんは楽しそうだ。
◆
しばらくすると、ギルドの担当職員らしい年配の男性が「どうも、お話を伺いましたが、新商品フェアの開催ですか?」と奥から出てくる。肩書は商人ギルドの“イベント調整官”とのことらしい。
「ええと、はい。詳しくはまだ何も決まってないんですが、あまり大掛かりじゃなくていいんで、俺のポーションをお披露目できる場を作れれば……」
俺が説明すると、職員は「なるほど。最近、公認を受けたあの噂のポーションですね」と納得顔。
「商人ギルドでは、定期的に“新商品お試し会”を開くことがあります。規模は小さいですが、多くの店主や卸売業者が集まり、情報交換をするんです。その場で試飲や試食もやるんですよ。もしよければ、その場に出展してみますか?」
「へぇ、そんなのがあるんですね……」
ノエルさんと顔を見合わせる。父さんが先に反応し、「そりゃいい! 規模が小さくても十分だ。このポーションは味さえわかってもらえれば売れるからな!」と笑みを浮かべる。
「出展料はかかりますが、そこそこの宣伝効果は見込めると思いますよ。うまくいけば、その場で複数の店からオファーが来るかもしれませんし、ギルドとしても新しい商品が増えるのは歓迎です」
まさに父さんが狙っていた形に近い。俺も「なるほど、フェアじゃなくて“お試し会”が既にあるならそれを利用したほうが早いかも……」と頷く。日程を訊くと、なんと三日後に開催予定があるという。
「ちょうどいいじゃねえか! オレたち、まだ余裕あるし三日後に合わせて準備すればいいんだな?」
「はい。ただ、当日のブース準備や試供品の用意などはご自身でお願いします。こちらも必要なら有料でテーブルや鍋など貸し出しますので」
「わかりました、よろしく頼みます!」
こうして話はとんとん拍子に進み、三日後の“お試し会”へ出展することが決定する。出展料は安くはないが、父さんの勢いとノエルさんの即断で「これは投資だ」と割り切り、申し込んでしまった。俺としては多少戸惑うが、進まないよりはいいだろう。
◆
宿へ戻り、「三日後に新商品お試し会に出ることになった」と報告すると、ちょうど帰ってきたラットが「おれも手伝うよ!」と意気込む。どうやら今日の倉庫整理は早めに終わったらしい。
「おお、ラットくん、頼もしいね。でも準備には何がいるんだ? 鍋やコンロは借りるとして、試飲用のカップや、材料のハーブとか果実もまとめて仕入れる必要があるな……」
ノエルさんがメモを取りながら唸る。イベントでは試飲してもらうのが効果的だが、それにはそこそこの量のポーションが要る。いつもの小規模レシピで足りるだろうか?
「試飲だけなら、それほど大量には要らないかもしれないが……材料が切れたら困るよな。何より、質の良いハーブを確保するのが難題だ」
「うーん、地元から送ってもらう時間は足りないし……王都のハーブ屋も回るしかないか」と俺は頭をかく。
そこでラットがポンと手を叩く。「そうだ! おれがこのあたりで知り合った商店、ハーブ扱ってる場所があったはず……あの子供をスリから助けたときの家族が、薬草を仕入れてるルートを持ってるって聞いたような気がする」
「マジで!? ラット、それ本当か?」
「ちゃんとした話はしてないけど、今日ちょっと世間話したら、親戚筋がハーブの山地で採集してるとかなんとか……。おれが倉庫整理を手伝ってる店だし、行けば融通してくれるかもしれない」
思わぬところでラットの人脈が役に立ちそうだ。父さんが「いいぞいいぞ、ラットくん! そういうのが大事なんだよ!」と笑い、ラットは「自分でもビックリしてるけどな……まあ、やってみるよ」と照れたように言う。
◆
こうして三日後の“お試し会”に向けて、具体的なタスクが山積みに。ノエルさんは配合レシピと時間短縮の工夫を考え、俺は試飲用の量産計画を立て、ラットはハーブ仕入れの交渉、父さんはブースや備品、さらに宣伝の根回しをする。
「大忙しだな、こりゃ……でも正直、ワクワクする!」
父さんが興奮気味に手を叩き、ノエルさんも「大変ですけど、成功すれば一気に有名になりますよ。アルマ商会の担当さんも来るでしょうし、騎士団や他の商店関係者も集まるかもしれません」と期待を述べる。
ラットは少し緊張した面持ちで「ちゃんとハーブの仕入れ交渉がうまくいけばいいけど……」と不安をこぼすが、父さんが「大丈夫だ、おれも付き合ってやる!」と元気よく胸を叩く。
「よし、じゃあ明日から分担して動こう。ノエルさんは調合の下準備、俺はテスト試作やコンロの使い勝手チェック、ラットと父さんはハーブや備品の確保に走る……」
「オッケー、任せろ!」
「うん、がんばる……」
四人の決意がまとまり、部屋の空気が少し熱気を帯びる。公認こそ得たものの、いまが本当の正念場かもしれない。ここで成功すれば本格的に王都での売り上げが期待できるし、失敗すれば「話題先行だったのか」とそっぽを向かれるリスクもある。でも、不思議と不安より楽しみのほうが大きい。
──そして、明日から新しい奮闘が始まる。
ラットの人脈がどう転がるか、父さんがどんな営業を仕掛けるか、ノエルさんと俺の試作がどこまで進化するか……すべてがこの“お試し会”で試されるわけだ。
夜の宿で、また四人で資料を広げながら賑やかに計画を練る。疲れているはずなのに、皆の目は輝いていて、しんと静まる王都の夜からはすこし浮いたような熱量を感じる。それが、やりがいというものなのだろう。
いつも以上に夜更かししたが、不思議と眠気は軽い。「明日は早起きするぞー!」と父さんが叫んで、ラットとノエルさんが「はいはい」と呆れつつ笑う。俺は心の中でそっとガッツポーズをしながら、「ああ、ここが新たな冒険の始まりだ」と確信した。
どこまでも大きく広がる王都の市場。騎士団や貴族への高級ルート、冒険者や商店への大衆ルート――そして“お試し会”というステージで俺たちの“美味しいポーション”をどうアピールするか。
ラットの存在は最初はただの少年だったが、いまや確かな役割を果たしはじめている。父さんは父さんで天真爛漫な商魂を発揮し、ノエルさんの冷静な助言がなかったら我々は暴走しかねない。
まさにこのチームワークが、次の成功を生み出すかもしれない――そう思うと、再び胸が躍る。
「うし、寝よう。明日から地獄の準備ラッシュだけど、やってやるさ!」と俺が叫ぶと、三人とも笑って「おー!」と声をそろえる。完全に深夜テンションだ。
そのまま軽い興奮状態でベッドに入り、薄暗い宿の明かりを消す。目を閉じれば、もうスヤスヤと眠りに落ちている父さんの寝息が聞こえるが、まったく気にならない。
(よし……頑張るぞ。ラットだって活躍してるし、オレも負けられない。あの大舞台で堂々と“美味しいポーション”を売り込んでやるんだ。)
瞳を閉じると、星の灯りがほんのり窓から射し込み、夜の王都を薄く照らしていた。俺はその優しい光を感じつつ、静かにまぶたを重くする。成功への道は険しいが、仲間がいれば心強い。自分の選んだこの道を、信じて進もう――そんな思いを胸に、深い眠りへと落ちていった。
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