【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳

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第48話

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 翌朝、宿の一室。
 ノエルさんが紙をテーブルに広げ、ペンを手に何かを書き込んでいる。俺はその隣で数字のメモを確認しつつ、「この部分は“仮値”と明記しておこう。あんまり強気に書くと、あとで話が違うと突っ込まれかねないから」と言うと、ノエルさんは「そうですね……母さんに確認してもらいましょう」と頷く。

「リオ、ノエルさん、ちゃんと進んでる?」
 母さんが部屋の奥から声をかけてくる。父さんは落ち着かない様子でうろうろ。ラットはまだバイト先に行っているため不在だ。
「うん、投資家に提出する資料はだいたいこんな感じの内容でまとめればいいかなって――“大衆版の開発状況”、“高級版の生産体制と原価”、“将来的な量産プラン”などを箇条書きにしてるよ」
「助かるわ。あなたたちが技術的なところを書いてくれれば、私は数字面を整理しやすいから」

 母さんがさっそく資料を手に取り、ペンでスラスラと補足説明を書き加える。「あ、ここは“どれくらい資金があればどんな研究がどれくらい早まるか”を具体的に書きたいの。ノエルさんがイメージできるなら数字を出して」と訊ねると、ノエルさんが「ああ……研究員を何人増やせるか、工房をどれだけ設けるかで変わりますが……とりあえず最低限でいいです?」と確認し、母さんが「うん、最低限と理想パターンの二通りあるといいわね」と指示。



 父さんはそんな母さんたちのやりとりを見ながら「ま、あれだな……オレはこういう数字や細かい言葉は苦手だから、口出ししないほうがいいか。余計な約束しそうだし……」としょんぼり。母さんは「わかってるなら黙って見てなさい」とチクリ。俺は笑いをこらえつつ、「父さんは投資家との面談で熱く語る役割があるから、そこに集中してよ」とフォローする。
「そ、そうだな……どう盛り上げるか考えておくよ。でも、エレーナに怒られない程度にな……」と父さんは頭をかく。



 昼前、ラットがバイト先から戻ってきた。息せき切ってロビーに駆け込み、「なあ、またプラーナ葉の話なんだけどさ、どうも本格的に森のモンスターが駆逐されたらしい!」と声を上げる。
「駆逐? 騎士団が動いた?」
「多分ね。詳しいことはわかんないけど、あの採取人の仲間が“安全になってきたから、今月末にはまとまった量を採れそうだ”って言ってたんだ。もちろん状況次第だろうけど、前より増産できる可能性が出てきたってさ」

 これには父さんが「おおおっ!」と身を乗り出し、母さんが「また一気に話が動いたわね……でも、まだ不確定でしょ?」と冷静に問う。ラットは「まあね。でも前回の情報よりは確度が高いっぽい。だからもうちょっと待ってくれって」と肩をすくめる。
「そっか、プラーナ葉が増えるなら高級版の供給量を増やせるわけだ。百本注文の話だって進みそうだし、投資家にも『将来性が大きい』って言えるね!」と俺が目を輝かせると、母さんは「甘い期待は禁物だけど、可能性はあるわね。投資家との面談資料にも“プラーナ葉増産の見込み”を書いておいていいかも」とうなずく。



 ラットからの好ニュースを聞き、気分が盛り上がるが、ノエルさんと俺は大衆版の“痺れ”をさらに軽減できるか、引き続き実験を重ねる。宿の倉庫や研究所が日課になりつつあるが、今日は宿で簡易調合して確認することにした。
「昨日のレシピで痺れはかなり低減できたけど、さらに火力や煮込み時間を少し変えればもしかしてもう一歩……」
「そうですよね。やっぱり“痺れゼロ”を目指したい。でも時間との勝負です……来週の面談までに、もうひと押しできるといいですが」
 俺とノエルさんは調合の鍋をかき混ぜながら、アク取りを繰り返し、湯気で顔が汗ばんでいる。母さんは横で「ほんと、毎日大変ね……頑張りなさい」と毛布を持ち上げて換気をしてくれる。父さんは「……オレ、数字わかんねえから」という言い訳で手伝いをサボっている。

 実験してみたものの、痺れがゼロになるまでの壁は依然として高い。煮込み時間を短くすると苦味が少し増えるし、長くすると痺れが再増加する。まるでトレードオフの関係で、完璧にはなりきれないのが現実だ。
「うーん、これ以上は大きなブレイクスルーがないとゼロにはならないかも……」とノエルさんが嘆くが、「でも、従来のマズいポーションよりずっとマシだから、もう商品にはできるんじゃない?」と慰め合う。



 夕方、ある程度調合実験を終えた俺たちは、母さんの元へ行き「試作進捗はこんな感じです」と報告。母さんは「ふむ……まだ痺れゼロは無理ね。でも、投資家には“ほぼゼロに近づいた”ってアピールでいいかしら? 嘘にならない程度にね」と言い、俺は苦笑いで「そうだね。否定はしないけど、誇張しすぎもよくない。ごまかさない程度に」と同意。
 父さんが声を張り上げる。「そこは上手く言い換えればいいだろ。“日常的な使用で問題ないレベル”とかさ!」
「だから勢いで誇張しないの!」と母さんが一蹴し、最終的にノートに「日常使用では問題ない程度に痺れは軽減」と書かれる。ノエルさんが「まぁ、間違いではないですね……」と苦笑。

 こうして投資家面談用の資料が概ね完成し、「来週の面談まで数日はあるし、その間にまた少し調整してもいいかもね」と俺は安堵の息をつく。母さんが「そんなに急に良くなるとも思えないけど、努力はしていいわよ」と肩をすくめる。



 夜、みんなが部屋で書類を整理していると、ラットが「ねえ、もう一個いい?」と話を切り出す。
「なに? また森のプラーナ葉の話?」と父さんが期待を膨らませるが、ラットは「あ、それもだけど……こないだスリ捕まえた子の親の店でちょっと話を聞いたら、苦味をさらに和らげるスパイスがあるとか……本当かなあ」と眉をひそめる。
「スパイスで苦味を抑える……スパイスを足すと刺激が増えそうなイメージだけど?」とノエルさんが首をかしげる。ラットは「おれもそう思うけど、なんか薬草とスパイスの組み合わせで不思議と苦味を感じにくくなるケースもあるんだって。詳しくはその店の人も知らないみたいだけど」と説明。

 母さんは「ふむ……例の古文書の技術とは別ルートだけど、試す価値はあるわね。もし有効なスパイスが見つかれば、痺れと苦味の問題も別アプローチで改善できるかもしれない」と呟く。ノエルさんも「ぜひ探してみたいですね。名前もわからないのかしら……?」と興味津々。
 ラットは「店の親戚が昔、東の国から仕入れたとか言ってたけど、伝聞レベルだし、いつ手に入るかも不明……」と肩をすくめる。父さんが「ま、そこもギルドに声かけてみるか? 金次第で情報が集まるだろう!」と楽観的に宣言。母さんは「余計な出費しないでよ……」と溜息をつくが、みんな内心では“スパイス”に期待が高まっている。



 こうして、投資家との面談準備、大衆版の痺れ問題、プラーナ葉増産の不透明さ、さらにスパイス探索という新たな要素まで浮上してきた。母さんが「本当にやることが多すぎるわ……」と頭を押さえるが、父さんは「でも楽しいだろ!」とニヤリ笑う。ラットが「おれも掛け持ち生活に慣れてきたし、暇よりはいいけどな……」と笑い、ノエルさんが「忙しいほうがやりがいありますよね!」と賛成。俺も「確かに……もっと広がる可能性があるってわけだ」とわくわくを覚える。

 夜更け、部屋の灯りが落ち、いつものように布団に潜り込む。やはりこの生活は慌ただしいが、前と比べて焦りや不安は薄れつつある。みんながそれぞれの役割をしっかり果たし、目標に近づいているのを実感できるからだ。
──“美味しいポーション”の明日へ向かって、また一歩ずつ進む。
 百本注文も、投資家面談も、スパイス探しやプラーナ葉増産の話も、すべてが繋がれば、世界は大きく変わるかもしれない。眠りに落ちる前の静寂の中、俺はそんな希望に胸を弾ませる。
 父さんと母さんの小声が隣室で続いているが、やがてそれも静かになり、ノエルさんの寝息が薄暗い闇に響く。ラットは頭まで毛布にくるまり、すでに寝息を立てている。
 さあ、明日もがんばろう。そう心に刻みながら、深い眠りへと落ちていった。
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