48 / 50
第48話
しおりを挟む翌朝、宿の一室。
ノエルさんが紙をテーブルに広げ、ペンを手に何かを書き込んでいる。俺はその隣で数字のメモを確認しつつ、「この部分は“仮値”と明記しておこう。あんまり強気に書くと、あとで話が違うと突っ込まれかねないから」と言うと、ノエルさんは「そうですね……母さんに確認してもらいましょう」と頷く。
「リオ、ノエルさん、ちゃんと進んでる?」
母さんが部屋の奥から声をかけてくる。父さんは落ち着かない様子でうろうろ。ラットはまだバイト先に行っているため不在だ。
「うん、投資家に提出する資料はだいたいこんな感じの内容でまとめればいいかなって――“大衆版の開発状況”、“高級版の生産体制と原価”、“将来的な量産プラン”などを箇条書きにしてるよ」
「助かるわ。あなたたちが技術的なところを書いてくれれば、私は数字面を整理しやすいから」
母さんがさっそく資料を手に取り、ペンでスラスラと補足説明を書き加える。「あ、ここは“どれくらい資金があればどんな研究がどれくらい早まるか”を具体的に書きたいの。ノエルさんがイメージできるなら数字を出して」と訊ねると、ノエルさんが「ああ……研究員を何人増やせるか、工房をどれだけ設けるかで変わりますが……とりあえず最低限でいいです?」と確認し、母さんが「うん、最低限と理想パターンの二通りあるといいわね」と指示。
◆
父さんはそんな母さんたちのやりとりを見ながら「ま、あれだな……オレはこういう数字や細かい言葉は苦手だから、口出ししないほうがいいか。余計な約束しそうだし……」としょんぼり。母さんは「わかってるなら黙って見てなさい」とチクリ。俺は笑いをこらえつつ、「父さんは投資家との面談で熱く語る役割があるから、そこに集中してよ」とフォローする。
「そ、そうだな……どう盛り上げるか考えておくよ。でも、エレーナに怒られない程度にな……」と父さんは頭をかく。
◆
昼前、ラットがバイト先から戻ってきた。息せき切ってロビーに駆け込み、「なあ、またプラーナ葉の話なんだけどさ、どうも本格的に森のモンスターが駆逐されたらしい!」と声を上げる。
「駆逐? 騎士団が動いた?」
「多分ね。詳しいことはわかんないけど、あの採取人の仲間が“安全になってきたから、今月末にはまとまった量を採れそうだ”って言ってたんだ。もちろん状況次第だろうけど、前より増産できる可能性が出てきたってさ」
これには父さんが「おおおっ!」と身を乗り出し、母さんが「また一気に話が動いたわね……でも、まだ不確定でしょ?」と冷静に問う。ラットは「まあね。でも前回の情報よりは確度が高いっぽい。だからもうちょっと待ってくれって」と肩をすくめる。
「そっか、プラーナ葉が増えるなら高級版の供給量を増やせるわけだ。百本注文の話だって進みそうだし、投資家にも『将来性が大きい』って言えるね!」と俺が目を輝かせると、母さんは「甘い期待は禁物だけど、可能性はあるわね。投資家との面談資料にも“プラーナ葉増産の見込み”を書いておいていいかも」とうなずく。
◆
ラットからの好ニュースを聞き、気分が盛り上がるが、ノエルさんと俺は大衆版の“痺れ”をさらに軽減できるか、引き続き実験を重ねる。宿の倉庫や研究所が日課になりつつあるが、今日は宿で簡易調合して確認することにした。
「昨日のレシピで痺れはかなり低減できたけど、さらに火力や煮込み時間を少し変えればもしかしてもう一歩……」
「そうですよね。やっぱり“痺れゼロ”を目指したい。でも時間との勝負です……来週の面談までに、もうひと押しできるといいですが」
俺とノエルさんは調合の鍋をかき混ぜながら、アク取りを繰り返し、湯気で顔が汗ばんでいる。母さんは横で「ほんと、毎日大変ね……頑張りなさい」と毛布を持ち上げて換気をしてくれる。父さんは「……オレ、数字わかんねえから」という言い訳で手伝いをサボっている。
実験してみたものの、痺れがゼロになるまでの壁は依然として高い。煮込み時間を短くすると苦味が少し増えるし、長くすると痺れが再増加する。まるでトレードオフの関係で、完璧にはなりきれないのが現実だ。
「うーん、これ以上は大きなブレイクスルーがないとゼロにはならないかも……」とノエルさんが嘆くが、「でも、従来のマズいポーションよりずっとマシだから、もう商品にはできるんじゃない?」と慰め合う。
◆
夕方、ある程度調合実験を終えた俺たちは、母さんの元へ行き「試作進捗はこんな感じです」と報告。母さんは「ふむ……まだ痺れゼロは無理ね。でも、投資家には“ほぼゼロに近づいた”ってアピールでいいかしら? 嘘にならない程度にね」と言い、俺は苦笑いで「そうだね。否定はしないけど、誇張しすぎもよくない。ごまかさない程度に」と同意。
父さんが声を張り上げる。「そこは上手く言い換えればいいだろ。“日常的な使用で問題ないレベル”とかさ!」
「だから勢いで誇張しないの!」と母さんが一蹴し、最終的にノートに「日常使用では問題ない程度に痺れは軽減」と書かれる。ノエルさんが「まぁ、間違いではないですね……」と苦笑。
こうして投資家面談用の資料が概ね完成し、「来週の面談まで数日はあるし、その間にまた少し調整してもいいかもね」と俺は安堵の息をつく。母さんが「そんなに急に良くなるとも思えないけど、努力はしていいわよ」と肩をすくめる。
◆
夜、みんなが部屋で書類を整理していると、ラットが「ねえ、もう一個いい?」と話を切り出す。
「なに? また森のプラーナ葉の話?」と父さんが期待を膨らませるが、ラットは「あ、それもだけど……こないだスリ捕まえた子の親の店でちょっと話を聞いたら、苦味をさらに和らげるスパイスがあるとか……本当かなあ」と眉をひそめる。
「スパイスで苦味を抑える……スパイスを足すと刺激が増えそうなイメージだけど?」とノエルさんが首をかしげる。ラットは「おれもそう思うけど、なんか薬草とスパイスの組み合わせで不思議と苦味を感じにくくなるケースもあるんだって。詳しくはその店の人も知らないみたいだけど」と説明。
母さんは「ふむ……例の古文書の技術とは別ルートだけど、試す価値はあるわね。もし有効なスパイスが見つかれば、痺れと苦味の問題も別アプローチで改善できるかもしれない」と呟く。ノエルさんも「ぜひ探してみたいですね。名前もわからないのかしら……?」と興味津々。
ラットは「店の親戚が昔、東の国から仕入れたとか言ってたけど、伝聞レベルだし、いつ手に入るかも不明……」と肩をすくめる。父さんが「ま、そこもギルドに声かけてみるか? 金次第で情報が集まるだろう!」と楽観的に宣言。母さんは「余計な出費しないでよ……」と溜息をつくが、みんな内心では“スパイス”に期待が高まっている。
◆
こうして、投資家との面談準備、大衆版の痺れ問題、プラーナ葉増産の不透明さ、さらにスパイス探索という新たな要素まで浮上してきた。母さんが「本当にやることが多すぎるわ……」と頭を押さえるが、父さんは「でも楽しいだろ!」とニヤリ笑う。ラットが「おれも掛け持ち生活に慣れてきたし、暇よりはいいけどな……」と笑い、ノエルさんが「忙しいほうがやりがいありますよね!」と賛成。俺も「確かに……もっと広がる可能性があるってわけだ」とわくわくを覚える。
夜更け、部屋の灯りが落ち、いつものように布団に潜り込む。やはりこの生活は慌ただしいが、前と比べて焦りや不安は薄れつつある。みんながそれぞれの役割をしっかり果たし、目標に近づいているのを実感できるからだ。
──“美味しいポーション”の明日へ向かって、また一歩ずつ進む。
百本注文も、投資家面談も、スパイス探しやプラーナ葉増産の話も、すべてが繋がれば、世界は大きく変わるかもしれない。眠りに落ちる前の静寂の中、俺はそんな希望に胸を弾ませる。
父さんと母さんの小声が隣室で続いているが、やがてそれも静かになり、ノエルさんの寝息が薄暗い闇に響く。ラットは頭まで毛布にくるまり、すでに寝息を立てている。
さあ、明日もがんばろう。そう心に刻みながら、深い眠りへと落ちていった。
119
あなたにおすすめの小説
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる