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guilty 5. 委員長は割とチョロかった

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 あのちょっとどころか大分病んでる女もとい薬師寺蝉子とラインで繋がってからラインチャットが入ってくる。



『Kさんって、発情期のウズラみたいな顔しててイケメンですよね、アッヒャヒャヒャ』



 Kとは俺のラインアカウント名だ。

貶してんのか、褒めてんのかハッキリしてくれ。あと、字面で人外な笑いはやめてくれ。



『あと、コレ……私の大切な宝物デス。永久保存してくださいDEATH』



 上記の文面と共に一枚の画像が送られてきた。

断崖絶壁の崖を背景に薬師寺が佇んでいる画像であった。薄汚れたクマのヌイグルミを両手で持ち、口元をニヤリと少し歪ませてカメラ目線になっている。痩せ型で青白い顔、化粧っ気ひとつもなくぼんやりとした瞳でこちらを見ている姿は、今にも崖からダイブしそうな迫力を見る者に印象付け、引き込まれそうになるくらいの強烈な負のオーラを発している。作業用BGMにとおりゃんせが似合いそうだ。



 え、なにこれ、トラウマ画像ですか?

とてつもなく怖いんですけど、永久保存とか心の底から勘弁して欲しい。爺さん婆さんがこの画像を見たら、泡吹いて倒れるんじゃないか。スマホが呪われそうっていうかナニもしてないのに次の日には待ち受け画面が生き人形になっていそうである。



「ちーっす、桂一郎! 朝からかわゆい女子とラインか? 相変わらずムッツリ助平だな」



 折原がむかつくくらいの素敵な笑顔で俺に挨拶をする。俺がムッツリなのは否定しないが、ムッツリ要素がどこにある?



「おはよう折原。そんな気分の良いもんじゃないぞ、見ろ、この地獄のような呪いの画像を。俺は一気に気力をもってかれた」



 折原に先程の凄惨な画像を見せつける。

自分だけ不幸になるのは我慢できない。誰かと不幸を享受したい。そうだ、目の前の性癖が壊れた車のバンパー並みに歪んでいるイケメンを道連れにしよう。そんなちょっとした俺の中の悪魔が鎌首をもたげたのだ。



「ん? なんだ、自殺配信の動画のスクショでもとったんか?」

「自殺配信ではないが、やっぱそう思うか。この写真の女もヤバイが、このシチュエーションが震えるだろ」

「俺のストライクゾーンは外れているけどまあ、でもこの女よく見るとおぼこいじゃん。目の下のクマとか、首筋に見える複数の絆創膏とか」



 正気か、コイツ。



「ま、桂一郎の惚気話はこれくらいにしてだな。今日の熟女は凄いぞ!」



 どこが、惚気だよ。

惚気話じゃなくて呪い系話だろうが。てか、また熟女の話かよ、呪怨のあとにこれは嫌すぎる。今日のワンコみたいに言うなよ。



「微妙な顔すんなよ、絶対お前も悦ぶからさ。『13人のレースクイーンな熟女がサラダ油を塗りたくって、その上を全裸の俺が等加速度運動したら気持ち良すぎて、異星界に昇天してしまった件について』ってエロ漫画なんだけどさ」



 マ ジ で や め ろ 。



 また、ラインチャットの着信音が鳴った。うわあ、またあの怖すぎ女からか?問答無用で熟女講義をし始める折原をスルーして内心ビクビクしながらもスマホの画面を見ると、櫻井からであった。



『古文が呪文過ぎて頭がおかしくなる件についてwwwヒエー、SOS! SOS!』



 また異次元チャットかと思ったが、普通のJKらしい普通なチャットであった。



『授業中かよ、ピコピコしてないでちゃんと前を見ろ』

『ピコピコってw先輩は何時代の人ですか?w』



 嗚呼、普通のチャットって素晴らしい。



『ところで先輩、おぢさんって交尾した後に共食いするの知ってます?』



 俺の普通を返せ。



「おいおい、桂一郎ちゃんよ、本当に女子とよくラインしてんな、数日でどんだけ侍らしてんのよ」



 折原はニヤニヤしながら俺のスマホを覗き込むように見る。お前は半永久的に熟女話でもしてろよ、俺は右から左状態になるけど。



「植木。もうすぐ授業よ、携帯は仕舞いなさい」



 キリッとした眼鏡秘書みたいな清涼な声が俺の耳を口撃する。我らが委員長サマの佐々木様である。



「何だよー、いいんちょ先輩よー。まだ、授業始まってないんだからイイじゃん。ていうか、俺と桂一郎のローションプレイを邪魔すんなよな」

「五月蝿いわね、大体、校則では携帯の持ち込みは禁止されてんの。本来なら没収されるところを見逃してあげているのだから感謝して欲しいくらいね。あと、ローションプレイって何。コマ切れにするわよ」



 委員長サマは俺と折原をバイ菌でも見るかのような瞳でキッと睨みつける。怖っ、タマがヒュン!とした。



「まあまあ、朝から喧嘩はよせよ。夫婦喧嘩は犬も喰わないって言うしさ」

「だっ、誰が夫婦よ、ふざけないで!! 大体、アンタにも言ってんのよ、植木!!」



 俺の机を両手で叩きつけて、劈くような声を張り上げる委員長。やだあ、耳元でいきなりシャウトはやめて。俺くんの耳が死んじゃう。そして、またプリプリと怒った委員長は自分の席に戻っていく。



「まったく、相変わらずお堅い乳首だよな、委員長」

「その台詞をそのまま佐々木に言ってこいよ、そしたら俺はお前を勇者って呼んでやるよ」

「嫌だよ、俺はシワシワでくすんだ熟女の乳首が大好物なんだ。あんな若い乳首なんて眼中にないね」



 言い方。

ていうか、何気に大好きな熟女を馬鹿にしてんだよ、なコイツ。乳首の形や色なんて人それぞれなのに、年齢で区別するのはよくない。真面目に考えるのがアホらしくなってきた。



「あ、そうだ、桂一郎。週末は空けとけよ、委員長誘って風俗行こうぜ」



 正気か、コイツ。



「…………」

「俺の可愛いジョークに言葉を失うなよ。まあ、風俗ってのは冗談だが、委員長誘ってカラオケ行こうぜ」

「さっきあれだけ言い合ってたのに、すげえなお前。大体、あの真面目の総合商社の委員長サマがお前の話に乗ると思うか?『何でアンタたちみたいな汚物とカラオケなんかしないといけないのよ、ウキー!』とか言われてしばかれるのがオチだよ」

「まあ、そこは俺も考えてるよ。カラオケで勉強会しませう! とか、どうだ?」



 無理があり過ぎる。

何でわざわざ喧しい環境で勉強会をするんだよ。



「無理だろ、大体。問題児のお前が勉強とか言い出すのが狂気だよ」

「あれ、何か馬鹿にされてる? まあでもカラオケは伏せておいて名目上は勉強会でどうよ、そこで次にお前が侍らしている女を呼ぶんだ!」

「侍らしてねえよ、人聞きの悪いことを言うな。何でアイツらを呼ぶんだよ」

「桂一郎の穴兄弟の俺としてはお前の人生の伴侶を見ておきたいってのもある、そして委員長の絶望的な顔を拝みたいってのもある」

「おい、待て、どえらい勘違いをするな。アイツらは妖怪とかそっち系の類いだぞ、ありえん。あと、穴兄弟とかやめろ」

「桂一郎よ、委員長の立場になって考えてみろよ。俺と桂一郎が委員長を誘うなんて……『やだ、もしかしてこれって3Pのお誘い?!』って思っちゃうかもしれないだろ」



 思わねえよ、そう思うのはサイコなお前だけだ。



「3Pはともかくもう一人、女子を呼ぶのはありかもしれんな。男2対女2の方が気は楽かもしれない」

「だろ? いや、俺としては熟女を呼びたいがデリヘル熟女は費用がな。熟女枠に近いが、俺と桂一郎のカアチャンでも連れて行こうか?」 

「ぜ っ た い に や め ろ」



 保護者同伴でカラオケとか絵面的に地獄過ぎる。

ていうか、自分のオカンを熟女枠に入れるなよ。



「まあ、一人だけでいいから誘っておいてくれよ。お~い、委員長パイセン~!」



 折原は決めたことに対して行動が早い。

こういうところは素直に感心するが、大体は熟女か遊び関係で力が発揮されるため、微妙な能力である。その実行力を別の方面に生かしてほしいものだ。



「大声で叫ばないで、何よ?」

「桂一郎くんが萌えきゅん☆美少女な委員長とカラオケに行きたいって言ってま~す」



 おい、こら、話が違うぞ。



「モッモエ……!? ブッ……! ゲフッごふっ……わ、私を揶揄うのはよしなさいッ……!」



 委員長は鼻の下を押さえて、真っ赤になる。

えぇ…何で、鼻血出して興奮してんの、この子。興奮して鼻血出してる奴なんてリアルで初めてみた。いや、これで二度目か。



「密室な部屋で委員長とドキドキハプニングでパンシャブジャブシャブになりたいんだってさ」



 おい、やめろ。

怪しい日本語でヤバイことを言うな。



「どきどき、はぷにんぐ……パンシャブジャブジャブですって!? な、なんては、ハレンチな! いいわよ、望むところよ! 委員長として風紀を乱す輩を放っておけないわ、覚悟しなさい植木桂一郎!」



 俺に指差し、高らかに宣言する。

やめろ、指差して本名を言うな。チョロすぎる。折原の話術に嵌まり過ぎだろJK。何だかなし崩し的に週末の予定が決まってしまった。もう知らんぞ俺は。



 あとは、アイツらか……。

どちらを選択しても地獄にしかならない気がするが。予鈴の音を聞き、机に突っ伏すのであった。
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