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guilty 20. ヤバい女に何故かエアボウリングをさせられた

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 昼飯後は特に特殊イベントもなく淡々と授業も進み、放課後になった。最近はユニモン(※ユニークモンスターの略)との接触が多い所為か、ストレスフルで飯の摂取量が増えたような気がする。心なしか、腹が豊かになったような気がするし、運動を兼ねて気晴らしにボウリングでも行こうかな。基本的に陰キャな俺は運動神経がゴミ同然であるが、ボウリングは好きである。『得意』ではなく『好き』、ここテストに出るから覚えておくように。



 欠伸を噛み締め、校門に向かう。腹の調子は昼前に良くなったし、オカルトメンヘラ女は消えたし、これからの時間はフィーバータイムだぜ。



「あっ、こんなところで会うなんて奇遇ですね~、先輩!」



 ユニモンが現れた!!『逃げる』のコマンドを入力。だがしかし、ユニモンの左側を通り抜けようとした瞬間、右の乳首を指で掴まれ、捕獲されてしまった。



「痛い痛い痛いです、俺の乳首に酷いことしないで……」

「先輩こそ出会い頭にいきなり逃げようとするなんて酷いじゃないですか! 私との運命の出会いに『ありがとう櫻井、お礼に用務員のおぢさんにたっぷりと痴漢してくるよ』って泣きながら頭を垂れて感謝すべきです!」



 ユニモンこと櫻井は腕を組んで憤る。校門で出待ちの何処が運命の出会いだよ。ストーカをしに来ましたの間違いだろ。



「何でお前とエンカウントしたお礼に用務員のおやぢに痴漢しなきゃならないんだよ、いかれてんのかお前は」

「用務員が嫌なら教頭先生でも良いんですよ?」



 おやぢ狩りクエストの難易度が上がってるんですけど。『怪奇! 純潔の教頭先生(69)のお尻を穢した素人童貞現る!』とかスクープされて二度と学校に来れなくなるだろ。



 だいたい、教頭先生がおやぢって仮定で話をしてるけどもし性別が女だったら俺はいったいどうなるわけ?折原と同じ熟女専になるわけか……『熟女専門家になろう!』嫌すぎる。



「もう良いよ、お前の世迷い言は……で? 今日はいったい何の用で来たの? 毎日のように付き纏われたら困っちゃうんですけど」

「先輩に用がなかったら来ちゃダメなんですか?」



 櫻井は上目遣いで消え入りそうな声で携帯のマナーモードのように身体を震わせる。女子を傷つけてしまったという罪悪感で胸が押し潰されそうな気持ちになる……わけがない。明らかに演技であることは明白であった。



「うん、ダメです。帰れ」

「……。グエエエ! オッおまわりさん、おまわりさーん!! ここでおぢさんの抱き枕とお馬さんゴッコしてる、むぐぐっ」

「分かった。うん、分かったからそういうのやめよう、ね? クレープをご所望ですか、ん?」



 ヤバい台詞を喚き散らかそうとした櫻井のお口を右手でチャックした。おやぢ抱き枕などという悪夢のようなアイテムは所持していないが、俺がおやぢ好きなどというあらぬ噂を立てられたら堪ったものではない。そして、『おやぢ好き』からいつの間にか『おやぢのケツ毛が好き』とか曲解して噂が広がる可能性がある。噂というものは得てしてそういうものである。



「プッハ……出会い頭で私を亡き者にしようとするとはなかなかの過激派ですね、先輩。まあ、背後から痴漢の手始めにおぢさんを口封じする先輩にとってはお手のものってところですか」

「人聞きが悪いこと言わないでくれる? おぢさんに口封じもしないし、あの、正直とってもキモいです」

「仕方ないじゃないですか。先輩のおぢさんを見つめる瞳が明らかに恋する乙女のようなソレなんですから」



 櫻井は腕を組んでウンウン頷く。いつ俺がおやぢに色目を使ったのだろう。目が濁っているのレベルではない。平行世界の俺がそうならやぶさかではないが。



「俺はお前と無駄話している暇は無いんだよ。今からストレス発散にボウリング場に行くんだからな」

「へえ、ボウリング。陰キャの先輩がぼっちボウリング……ぷぷぷ」



 櫻井は口を両手で押さえ笑いを堪えている。ふざけるな、何がおかしい。



「やめろやめろ笑うな、ぼっちボウリング言うな。俺には常に応援してくれる存在が背後に憑いてるんだよ、『ふぁいおっー』ってな感じでレースクイーンな背後霊がな」

「怖ッ……」



 怖ッ……とかリアルなトーンで言うなや。



「私、実は霊感が強い方なんですよね~……むむむ、見えますよ……先輩に憑いてる霊はずばりハゲ散らかした窓際係長なおぢさんですね。今まさに先輩の太くてご立派な太腿を熱い眼差しで見つめながら舌舐めずりしてます」



 やめて、夢に出てくる。そしてそれは背後霊じゃなくてもはや疫病神だろ。



「まあ、お前の戯言はともかく昨日も散々お前に付き合ったんだから今日は俺のゴールデンタイムを邪魔するなよ」

「ボウリングなんてやめときましょうよ、先輩~。陰キャの先輩がボウリングなんて全身が複雑骨折で病院送りがデフォですよ」



 ボウリングで何がどうなったら複雑骨折するんだよ、いくら運動が苦手な俺でも突き指で剥離骨折が関の山である。



「舐めるなよ櫻井、俺の最高スコアはなんと……130だ!! どうだ、びびったか」

「なんか褒めて良いのか貶していいのかよく分からないスコアですね、THE凡人って感じで。ちなみに私の最高スコアは530000です、えっへん」

「フ●ーザーの戦闘力じゃねえか、ふざけるな。まあ? 俺の華麗な投球フォームを見ればお前は間違いなく『キャーステキー』とかなって濡れるだろうな」

「エッなんですかそれセクハラですか? 提訴しますよ?」



 急に真剣な顔して淡々と切れるのはやめて。前にも思ったが、俺にはタガの外れた戦車のごとくセクハラしてくるが、自分に対してのセクハラには滅法厳しいよな。いや、確かに今の発言は普通の女子からすればドン引きなんだけどさ。



「は、話の流れの冗談だろ。おっ俺が言いたいのは投球フォームを見ればプロの仕事だなって分かるって言ってるのでごごございます」

「何でちょっと動揺してるんですか? じゃあ、投球フォーム見せてくださいよ、ここで」



 エッ。

こんな衆人環視の中でエアボウリングをするの?マジで?は、恥ずかしいのですけど。



「…………」

「何で漬物石みたいに固まってるんですか? 早く投球してくださいよ」

「…………」

「お~い、息してます? イメージしにくいのでしたらそこらへんにいる男子生徒の性器をピンに見立てればいいですよ」



 さらっと淫魔みたいなこと言うな、こいつ。



 てか、そういう問題じゃない。全然知らん奴らに向かってボウリングの投球フォームをすれば只の気の違った奴かなとか思われるだろ。



「コッここでなくても良くないですか……?」

「情報は鮮度が命ですからね。先輩の言うご立派な神フォームを一刻も早く確認したいです。今後の参考までに」



 俺の投球フォームで今後のナニに参考になるんだよ。ヤバい、目が据わってるし、さっきのセクハラでちょっと怒ってんのかな?



「……断っても?」

「良いですけど、断るなら用務員のおぢさんか理事長に痴漢してくださいね」



 いつの間にか何か二者択一の罰ゲームになっていたでござるの件。し、仕方ない。こういうエアボウリングを人の往来でやるのはハズいが痴漢するよりはマシである。



「……こ、こんな感じで」



 クラウチングポーズから白鳥のようなポーズになる俺。そして、ザワザワ…とざわつき始める周囲。やばい、予想以上にキツいです。さっさと終わらせよう。



「ハアアアアアア!!」



 白鳥ポーズから思い切りボウリングの球を投げるフリをする。力が入って思わず和田ア●子みたいな声を出してしまったが、やり切ってやったったです。『おー』と周りから歓声と乾いた拍手が聞こえてくる。やめてあげて、居た堪れなくなる。



「どっどどうだ、櫻井! 俺の華麗なフォームを見…」

「せんぱーい! 早く、クレープを食べに行きましょうよ~」



 櫻井は既に数十メートル先まで駆け足で進んでいた。おい……。絶対にいつか復讐してやる、そう誓った俺であった。



「ちなみに先輩の投球フォームはスコアにすると何点ですか?」



 ガーターに決まってるだろ。
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