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guilty 22. 女性陣の圧がツヨツヨで恐怖した

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「ごめんなさい!!」



 俺の向かいの席でテーブルにおでこがぶつかる勢いで何度も高速お辞儀をする蒼海ちゃん。いや、謝られるのは悪い気はしないけれど、大袈裟というかそんなちん●マシンみたいな動きで反復お辞儀しなくても。しかもはしょってるけれど一時間くらいずっとこんな構図でずっとこんな感じ。ヤバい、違うストレスで胃がキリキリするんですけど。



「い、いや、もういいって……俺を知らない人って言ったのはわざとじゃないんでしょ? 慌ててただけなんだよね?」

「い、いえ! たとえ私の言葉がわざとじゃなかったとしても私の中ではそれはもうわざとなんです!! ごめんなさい!!」



 はい?今、哲学的なことを仰いました?

俺がフォローしてもぬかに釘を打ってるみたい。まるで聞いてくれない。どないせえちゅーねん。



「ごめんなさい!! ごめんなさい!!」



 ゴンッ、ゴンッ



 ヒエエエッ……当たってる、当たってる。おでこが思いきりテーブルに当たっちゃってるよ。怖…。やめて、嫁入り前の女の子なんだからもっと自分の身体を大事にしてくださいませ。



「謝って済む問題じゃないんだゾ! もっと反省しろ!!」

「そうだ! そうだ!」



 腕を組んで蒼海ちゃんを睨み、ヤジを飛ばす赤髪ツインテ女子とそれに相槌を打つ櫻井。いや、君らは俺のことをストーカー呼ばわりしたよね?まず反省するべきは君らの方だよね?



「う、うん……私が悪いんだから、もっと反省しなきゃ……どうしたら植木さんに私の思いが伝わるんだろう」



 赤くなったおでこを擦りながら涙目になる蒼海ちゃん。嫌すぎるほど十分に君の重い思いは伝わってますけれど?前から俺に対して行きすぎるほど気を遣う節はあったが、ヤバいな。将来的に薬師寺サンみたいな奇行種に下位互換する可能性もなくはない。



「まあ、あれだね。そこにいるお兄さんはエロ侍だからここは一つイヤらしいことをすれば許してくれるかもねー」



 名知らぬ赤髪ツインテ女子は頭の後ろで手を組みとんでもないことを言い出す。あれ?俺、この子と初対面だよね?何で普通に失礼な事を言われているのだろ。まあ、俺がエロ侍であることは否定しないけれど。



「い、イヤらしいこと……」



 蒼海ちゃんは赤髪ツインテ女子から卑猥なアドバイスを受けて、上目遣いで俺をチラチラ見てくる。ごっくん。いや、ごっくんじゃないよ。興奮している場合ではない。



「『そうだね、まずはカウンターにいる店員さんのようなシチュで背後から君の桃尻を頂いちゃおうかっなっ☆僕は君のオオカミさんだ☆』」



 一オクターブ高めの作った声で何故か俺の代わりに返答する櫻井。何そのAVでありそうな痴漢シチュ。



「もしかしてその気味の悪い声は俺の物真似かな? 全然似てないし、俺を社会的に殺す気かなあ?」

「え、えっと、えっと……は、裸エプロンで良いですか?」

「蒼海ちゃん、君もこのおかしな人の話に乗らなくていいから。あと、現実的に裸エプロンの店員さんなんか見たことある? 軽く狂気なんですけど」



 しかも、蒼海ちゃんの顔が照れてはいるけど心なしか嬉しそうに見えるのは俺の気のせい?



「うんうん、やっぱりこの場を収めるには先輩がいつものように店長の背後から『なんだ……このワガママボディは? クマみたいな身体しやがって。フフフ、まあいい。俺が時間を掛けてたっぷりとお前の身体を攻略してやるぜ。楽しみな』って甘く囁きながら痴漢するしかないですねー」



 櫻井は腕を組んでウンウン頷く。いつもどころか一度もそんなキチ●イじみた行為はしたこと無いんですけど。ガセ情報で俺の風評被害はやめていただきたい。



「てかてかー、自己紹介しませんか? お兄さんとお姉さんの名前が知りたいっていうか、お兄さんは蒼海からちょっと話は聞いてて、上の口で牛の乳を搾乳するのが大好物な人なんでしょ?」



 場の空気を切り替えるように両手を叩き、そう切り出す赤髪ツインテ女子。えっ、いきなり罵倒から始まりました?てか、蒼海ちゃん?この娘にどんな説明したの?



「いや、違いますけど……」

「じゃあ、言い出しっぺの私から自己紹介するね! 私の名前は越谷実こしがやみのり! 花の高校二年生だよ。蒼海のズッ友ね。気軽に『みのりん』って呼んでね!」



 いやだ、スルーはやめて。牛の乳頭を口で搾乳野郎のイメージは払拭したいんですけど。口調からも分かるけど今時の元気な娘って感じ。そのうち、語尾にキャミ☆とかつけそう。



「えっと、あの、私は折原蒼海です。植木さん、兄がいつもお世話になってます。ああいう性格ですから周りに植木さんのような心友は居ないと思うんです。これからも合体……懲りずに末長く相手にしてあげて下さい」

「アッハイ、宜しくお願いします」



 何か結婚する前の挨拶みたいな感じで俺にお辞儀する蒼海ちゃん。合体ってなあに?な、何だろう。微妙に圧を感じるんですけど。親友のイントネーションも違うような?



「折原……蒼海、さん」



 そして、横にいる櫻井は何処か考えこむような真剣な表情になる。うん?今の自己紹介に引っ掛かるところがあったかい?



「俺は植木桂一郎、趣」

「ハイハイ、植木さんだね~、ヨロシク。趣味はどうせビニ本拾いとかそんな感じだよね。で、で? そこにいるお姉さんは植木さんのもしかしてこれ?」



 右手の小指を立ててニヨニヨする越谷さん。

おい?俺の自己紹介がまだ途中なんですけど、雑すぎない?そして、またまたとんでもない爆弾を投下してくるなよ。



「ヴォエエエ! ……そんな~、冗談はやめてくださいよ~」



 おい、なんで苦虫を噛み潰したような顔で嗚咽を上げた?そんなに嫌か?そんなに勘違いされるのが嫌なの?まあ俺も嫌なんだけど、そんなに露骨に態度に出されると俺くん泣いちゃう。



「エェー、じゃあどんな関係なんですか?」

「そうですねえ、敢えて言うなら喰うか喰われるかの肉食的な関係ですかね。毎日が戦争です!!」



 グッと親指を立ててそう宣言する櫻井。毎日が日曜日ですみたいなノリで意味不明なことを宣うんじゃないよ。



「キャーキャー! 素敵な関係ですね!」

「はわ、はわわわわ……肉欲的な大人関係……毎日が夜のベッド戦争……う、植木さん、イヤらしいです」



 今の櫻井の宣言でテンションが上がったのか、女性陣は興奮している。ほらあ、訳の分からないことを言うから変な誤解を招いてんじゃん。そして蒼海ちゃん、君の妄想の方が大変にイヤらしいです。



「と、まあ先輩との関係はともかく私の名前は鈴木ポメ子って言います」



 櫻井は女性陣のリアクションを気にもせず、淡々と口にする。おい、何で偽名を使う?しかも明らかに偽名だと分かる名前で。



「へえ、名前は体を表すって言いますけどどことなく会った瞬間からポメラニアンな雰囲気がしたんです。良かったらポメ子さんって呼んでも良いですか?」

「鈴木ポメ子さん……可愛らしい名前ですね、宜しくお願いします」



 女性陣はきゃっきゃっしながら口々にする。

やべえ、馬鹿しかいねえ!馬鹿しか存在しない世界線だぞ!色々と納得がいかないので小声で櫻井に喋りかけることにする。



「(おい…。なんで、嘘を吐く?)」

「(まあ、いいじゃないですか。その方が謎の女って感じがしてかっくいいじゃないですか)」

「(いや、まったくもって意味が分からん)」

「(とにかくですね、あの子たちの前では先輩も私のことは『ポメ太郎』でお願いします)」

「(名前が変わっとるやんけ。納得のいく理由を言え、理由を)」

「(うるさいですね……。あの子たちの前で『櫻井』って口にする度に店長におさわりサービスしてもらいますよ?)」

「(アッハイ、サーセン)」



「そうだ、気になったことがあったんだけどなんでポメ子さんはそこにいる植なんたらさんのこと『先輩』って呼んでるんですか?」



 越谷さんは密談していた俺と櫻井に向かって、声をかけてくる。むっちゃ聞いてきますやん。ていうか俺の名前、うろ覚えだし。もうちょっと頑張って?



「おっと、結構センシティブなところを突いてきますね。答えても良いんですけど続きは別の場所にしませんか?」

「アッ…なるほど。植本さんには聞かせられない話なんだね、じゃあ場所を変えよっか。蒼海も行くよね」



 どこにセンシティブ要素があるんだよ?

お前が勝手にドキドキしますよね~みたいなアホな理由で呼んでいるだけだろ。しかも越谷さん、微妙に俺の名前も間違ってるし。



「ハイッッ!! 行きます!! 私、とっても気になります!!」



 うわっ、びっくりした。

普段声量が小さい蒼海ちゃんがいきなりバグったパグ犬みたいな声量をいきなり出すからドキッとしたわ。心臓に悪いて。



「というわけで、これから別の場所で女子会をするので先輩とはここでオサラハです」

「植本さん、さいなら~」

「植木さん、これからも兄とヨロシクお願いしますね」



 そう口々に店から出ていく女性陣。

…いや、良いんだけど。何なんだよ。女三人寄ればかしましいとは言うけれど、まるで嵐が過ぎ去ったような感じだな。まあ、やっと一人の時間が出来るので清々しい気分ではあるが。



「アッ……会計。くっそ、ついてねえなあ」

「おう、桂一郎。懐が厳しいようなら今日はツケといてやるぜ、俺のヤ●イ穴にな」

「あっ、現金でいいっすか?」



 この後、逃げるようにルノワールを後にした。
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