砂丘

金合歓

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 月が傾き始めたころ、自分の仕事場に戻った妖精は、紙の上の数字とにらめっこをしていた。何度計算しても、あの男が提供してくれた歯の価値と、今回の整形手術の費用とが釣り合わないのだ。現在の市場では、手術費用よりも歯の方が数倍も高価なのである。
(困ったな、締めは明日だし…あいつにもう一仕事してもらわないと)
 机と向かい合ったまま妖精がぱちり、と指を鳴らすと、背後の影溜りから大きな四足獣が悠々と姿を現した。頭部と尻は真っ黒だが、丸く膨らんだ胴体はガラス球のように透き通り、葉のような形をした赤い臓器がいくつも中にあるのが見える。

「もう一度、あの男の部屋を訪ねてやってはくれないかい?うん、そうだ、夜明け前までにね。最近は不用品を処分するのにずいぶん費用がかかるらしいから、彼が要らないと思っているものを処理してきてほしいんだ。それで帳尻が合うはずなんだ…」

 妖精の命令を聞くと、は顔が真っ二つに裂けるように口を開き、その中に並んでいる様々な形の人間の乳歯を見せつけ、音もなく笑った。




 次の日の昼間、男の部屋を二人の女が訪ねてきた。扉に錠がかかっていなかったので、二人は遠慮なく中に入った。ところが、そこに男はいなかった。あるのは、窓辺に山のように積もった砂だけ。砂山の形は、多少、横たわった男の姿にも見えたが。

「あの人、どこ行っちゃったのかしら。」

 一人の女が、橙色の口紅を厚く塗った唇を開いて言った。

「男の考えることって分からないわね。」

 もう一人の女が肩をすくめて言った。その声はナイチンゲールのようだったので、砂の山によく似合った。

 それから二人は早々に男の部屋を出ると、最近町に新しくできた劇場へ向かって、肩を並べ、おしゃべりをしながら歩き去っていった。


おしまい
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