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毎日マナ草を2回分集めて10日が過ぎた。20ポイント追加され50ポイントになった。漸く半分だ。
「ティナ様にお会いしたいという方がおられるのですが、どうなさいますか?」
受付けのお姉さんに言われ首を傾げる。私に会いたいとは?
「パーティの勧誘ですか?」
「いえ、先日ティナ様がお助けした女性の御家族の方でお礼を申したいと仰っております」
「分かりました。会います」
あの後、どうなったか気になる。受付けのお姉さんについていくと応接間みたいな部屋に通された。そこには60代くらいの男女がいた。
「おおー!貴方様がティナ様ですね。ささ、お座り下さい」
お辞儀して対面のソファーに座る。
「Fランク冒険者のティナと申します」
「幼いのにしっかりなさっておいでですな」
「あの……、女性の方は大丈夫ですか?」
「運良くゴブリンの子は孕んでおらず、今は庭くらいなら外に出れるようになりました。孫を助けて頂きありがとうございます」
良かった。体の力が抜けてソファーに寄りかかる。ずっと気になっていた。自害しちゃったんじゃないかと。
気が付けば涙が溢れていた。
「本当に良かったです」
生きてくれて良かった。
「ティナ様、本当にありがとうございます。息子夫婦は亡くなりましたが孫だけでも生きいてくれて私達は幸せです」
「息子夫婦さんはゴブリンに?」
「えぇ、残念ながら。強い魔物が出ない街道だからだと息子夫婦は護衛代をケチりまして……ね」
「護衛の方たちもお亡くなりに?」
「女冒険者は孫と共に捕らわれ男たちは逃げました」
逃げた? なぜ逃げたか分からず首を傾げる。護衛が逃げたら護衛じゃないじゃない!
「Eランク冒険者でしたからゴブリンの数が多ければ仕方ないことです。誰しも自分の命が1番ですからな。だから護衛代はケチったらいけないのですよ」
「逃げた冒険者はどうなったのですか?」
「ポイント減点のうえ違約金を払ってもらいました」
話を聞いていた受付けのお姉さんが答えくれた。違約金がいくらかは分からないが、それだけで済むのはなんとも言えない。
「生きていれば嫌ことはいくでもあります。その分、良いことも沢山あります。孫はこれから幸せなことも沢山あるでしょう。ですからティナ様これからも冒険者として沢山の人をお助けください」
良いことも幸せなことも命なければ感じられないもんね。老夫婦の言葉に心に積もっていたものが晴れた気がした。
「はい! 私に持てる全力を持って」
「それでですな、ティナ様。私達はザンド商会を営んでおりましてAランクの商会になります」
商業ギルドがあり、そこでも冒険者と同じようにランク付けされている。Aランクといえばかなり大きな商会だ。
「ティナ様が護衛依頼を受けられるようになりましたら是非ともお願いしたいのです」
「え? 私まだFランクですよ?それに指名依頼はBランクからではありませんか?」
「Fランクとはいえゴブリンの巣を単独で討伐出来るのならばそのお力は確かなものと見受けられます。ランクは融通がきくので問題ありません」
護衛依頼は魔物討伐に比べてお金にはならないけど、必ず受けなくてはいけない。そして現段階でソロの私は厳しい問題でもある。
「私で良ければ」
笑みを浮かべ頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
老夫婦が帰り、受付けのお姉さんにお礼を言う。
「優秀な冒険者が燻ってるのはギルドとしても損失ですからお気にならさずに」
「明日からまた頑張りますね!」
お辞儀をしてギルドを後にした。そのまま宿に戻る。
早く寝て明日に備えよう!
◆
翌日、東の森に来てゴブリンをマップで検索する。うじゃうじゃいる場所があり、そこへと向かった。
「やっぱり巣だ」
人はいるのかマップで確認すると白い点滅が5つある。自分の頬を叩き気合いを入れた。
前回と同じように結界魔法で逃げられないようにしてから中に突っ込む。
「【炎】」「【炎】」「【炎】」
視界に入るところからドンドン燃やしていく。ここにもゴブリンキングがいて魔石を落とした。魔石を拾い残党も討伐する。白い点滅がある部屋の前で今一度気合を入れて扉を開いた。中には5人の女性が裸で横たわっている。
「【治癒】」
それぞれに無限収納から取り出した布を巻いてあげる。
「き、みは?」
「Fランク冒険者のティナと申します」
「ここはゴブリンの巣よ!早く逃げなさい!」
己が悲惨な状態なのに私の心配してくれるなんて、なんて良い人なんだろうか。
「ゴブリンは全部討伐しましたのでご安心下さい」
「……へ? 君のような子供が?」
「はい! 魔法は得意ですから!」
「【魔力探知】……本当にいないわ」
魔力探知なんていう魔法もあるんだ。私も今度使ってみよう。女性は他の4人にも声をかけると立ち上がった。
「助けてくれてありがとう。私たちはEランクパーティ『黄昏の女豹』のメンバーよ」
全員冒険者なのか。誰1人心を乱してない。きっと優秀な冒険者になるんだろうな。
「街までお送りします」
「そうね。装備を全部無くしてしまったし、お願いしてもいいかしら」
私は頷き、先頭で巣から出ていく。5歳の子供の足ではスピードが遅いため浮いて進む。
「ティナちゃん、本当にすごいわね」
「いえ、これくらいは誰でも出来ますよ」
「私魔術師だけど出来ないわよ?」
浮遊魔法って難しいのかな? どの魔法も想像しただけで出来るし魔力さえあれば可能だと思うんだよね。
街に着いて黄昏の女豹さんたちとはお別れした。
冒険者ギルドに来てクエスト完了のためギルドカードを受付けに出す。
「また巣を見つけたのですか?」
「はい。今回は前回より大きい巣で沢山のゴブリンがいました」
「ゴブリン214体で21ポイント315ギル、ボブゴブリン82体で16ポイント160ギル、ゴブリンメイジ49体で8ポイント80ギル、ゴブリンキング1体で5ポイント50ギルとなります。100ポイントになりましたのでEランクとなります。Dランクには1,000ポイントと護衛依頼残り5件となります」
次は1,000か……先が長い。早くダンジョン行ってみたいし頑張るか!
報酬はカードに入れてもらい、素材買取カウンターに並ぶ。
「嬢ちゃん久しぶりだな」
「お久しぶりです。これをお願いします」
ゴブリンキングの魔石をカウンターに出す。
「ゴブリンキングの魔石1個で50ギルだ」
カードにお金を入れてもらい宿に戻りステータスを確認する。
【名前】ティナ
【年齢】5歳
【レベル】334
【体力】344
【魔力】∞
【物理攻撃】66
【物理防御】66
【魔法攻撃】33,400,000
【魔法防御】33,400,000
【属性】全属性
【スキル】全属性魔法Lv4、鑑定Lv3、無限収納、マップ
【ユニークスキル】神通販、経験値10,000倍、必要経験値1/100
段々上がり幅が少なくってきたな。それでも普通の人達よりは上がっているんだろうけど。
◆
いつもより早く起きてギルドに向う。受け付けカウンターでギルドカードを渡した。
「何か受けられる依頼はありますか?」
「Dランクは常時依頼でハイヒール草10束1ポイント15ギル、ハイマナ草10束1ポイント20ギルがあります。討伐は今ですと西の草原にいるフォレストウルフ10体1ポイント30ギルがあります。こちらは3日以内の討伐でお願いします。お受けになられますか?」
「はい。お願いします」
「かしこまりました。ティナ様、護衛依頼の方はどうなさいますか?」
「私でも大丈夫ならば何件でもお受けします。無限収納のスキルと加護もありますので当日に依頼されても準備は大丈夫です」
ソロでの護衛依頼は不利だから先に売り込んでおく。
「かしこまりました。そのように登録しておきます」
「お願いします」
ギルドを出で西の城門から街を出でると西の草原になっている。マップ機能でハイヒール草、ハイマナ草、フォレストウルフを検索する。流石Eランク、Fランクのようにはサクサクいかないのか点滅がチラホラしかない。
フォレストウルフの方に進み途中にあるハイヒール草とハイマナ草を採取する。
魔力探知も使いながら探していく。フォレストウルフが3匹いる。灰色で2メートル以上あって私よりかなり大きかった。
まずは鑑定と。
フォレストウルフ
【レベル】10
【体力】135
【魔力】70
【物理攻撃】85
【物理防御】62
【魔法攻撃】42
【魔法防御】23
【属性】風、土
【スキル】爪攻撃Lv3、風魔法Lv2
ゴブリンに比べるとかなり強いな。それでも私の敵ではない。
「【氷】」
一瞬で凍らせて倒す。解体魔法を使うとフォレストウルフの魔石、毛皮と牙、肉の塊になった。
このお肉食べるのかな?鑑定してみると食用可ってなっていた。
夕方までかかってフォレストウルフを10体倒すことが出来た。ギルドに戻り報告する。
「フォレストウルフ10体1ポイント30ギル、ハイヒール草20束2ポイント30ギル、ハイマナ草10束1ポイント20ギルとなります。Dランクまで残り996ポイントとなります」
1日かかりだったのに全然稼げなかった。ソロだとだんだん厳しくなっていくなぁ。いいパーティがあればいいんだけど、今のところ魅力的なところがないんだよね。
「ティナ様、明日のご予定はございますか? ザンド商会から護衛の依頼がございます」
あのご夫婦か。勿論受ける。
「2つ隣の街ルフダスまでの往復護衛依頼となっておりまして日程は片道5日、1日10ポイントで100ギルの報酬になります。但し失敗時は200ポイントの減点2000ギルの違約金が発生します」
「分かりました」
思ったより失敗時の負担が低いな。これならば命が掛かったら逃げちゃう人もいるかも。ランクが高くなれば依頼料も違うから話は変わってくるかもしれないけど。それにしても1日で10ポイントも貰えるのか。それはかなり嬉しいかも。
「ティナ様の他に大手のクラン2つからAランクのメンバーが護衛に付きます。明日の朝6時までにギルドにお越しください。そこで顔合わせになります」
「持っていく物とかありますか?」
「食事は各自となりますので食料と他にテントやポーションとかが必要になります。移動は護衛は歩きになりますが大丈夫ですか?」
私が幼いから体力があるか心配してくれてるんだろう。
「大丈夫です。浮いて移動出来ますからご迷惑をお掛けすることはありません」
「それではよろしくお願いいたします」
次に素材買取カウンターに行く。
「フォレストウルフ10体分ありますが、こちらに出して大丈夫でしょうか?」
「ああ。構わないよ」
許可を貰い素材を出していく。鑑定してもらってる間に待ちながら周りを見渡す。ほとんどの人がパーティ組んでるのか私みたいに1人でいる人はいなかった。
「傷んでるところがなかったからいい値段になったぞ。フォレストウルフの毛皮10枚で100ギル、牙10個で30ギル、肉10塊で50ギル、魔石10個で30ギルだ。ギルドカードに入金でいいか?」
「はい。お願いします」
素材を合わせても今日は赤字だ。素泊まりの激安宿ならば1泊30ギルだから黒字になるけどお風呂がないのは我慢出来ないし、神通販頼りでいくしかない。魔力で交換してるとはいえ何か後ろめたいから出来れば報酬だけで黒字になってほしい。ダンジョンに潜れるようになれば安定した収入が得られるから、Dランクになれるように頑張ろう。
宿に戻りステータスを確認した。
【名前】ティナ
【年齢】5歳
【レベル】337
【体力】347
【魔力】∞
【物理攻撃】67
【物理防御】67
【魔法攻撃】33,700,000
【魔法防御】33,700,000
【属性】全属性
【スキル】全属性魔法Lv4、鑑定Lv3、無限収納、マップ
【ユニークスキル】神通販、経験値10,000倍、必要経験値1/100
10体しか倒してないからそれほど上がってない。
明日から護衛だから今のうちに神通販で買い物しておこう。空間魔法が掛かってる魔法テントと10日分の食料を買った。魔法テントはお風呂とトイレが付いてる。
◆
6時にギルドに行くと女性5人組と男5人女1人組、それとザンド商会のご夫婦がいた。
「お待たせして申し訳ありません」
「ティナ様、この度は護衛を受けてくださってありがとうございます」
私に気がついたご夫婦が走りよってくる。2つのクランメンバーは私を見て眉を寄せた。
「おいおい。このちっこいのも護衛か?」
「ガルク殿、ティナ様は幼いながらも優秀な魔術師ですぞ」
フォローしてくれるが納得がいかないのか浮かない顔をしてる。
「Eランク冒険者のティナと申します。初めての護衛依頼ですので不手際もあるかと思いますが、足を引っ張らないよう務めて参りますのでどうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げて挨拶した。
「お、おう」
「お嬢ちゃん荷物は?」
「無限収納のスキル持ちですので」
「無限収納? 初めて聞くスキルだな」
大クランの人でも知らないということはかなりレアなスキルなんだね。リュヌ様ありがとう。
「冒険者の能力をアレコレ聞くのはマナー違反よ」
「そうだな。悪いな、嬢ちゃん」
「いえ。大丈夫です」
常に結界魔法を展開してるから私に何かしでかすのは不可能。だから気にしないし隠しもしない。
「それでは参りましょうか」
女5人組は白百合の会のクランメンバーで、男5女1人組は虹色の雫のクランメンバーだと紹介された。クランは最低でも10人以上の団体で依頼が入ればメンバーの中から誰が行くかマスターが決めるそうだ。
馬車5台の商隊で私は最後尾の担当になった。
西の城門から出発して暫く経った頃、魔力探知に魔物が引っかかった。
「魔物が前方左右から24体ほど来ます」
後方には魔物の気配がなかったので一気に前まで移動する。
「前方は引き受けますので左右をそれぞれお願いします」
「嬢ちゃん平気か?」
「はい。お任せ下さい」
見えてきたのは黒い狼。早速鑑定してみる。
ダークウルフ
【レベル】38
【体力】230
【魔力】183
【物理攻撃】208
【物理防御】170
【魔法攻撃】125
【魔法防御】106
【属性】闇、火
【スキル】爪攻撃Lv4、闇魔法Lv3、火魔法Lv3
今までで1番強い相手だ。前方には10体現れた。
「【聖】」
闇とはいえば光。その上位の聖魔法を1度に10体分放つ。
「は?」
「え?」
私の方を見ていた人達が固まった。その目はまるで信じられないと言っている。
「おい! 呆けてるな!」
他のメンバーの声で固まってた人達は正気に戻りダークウルフに向かっていく。
「【解体】」
他の人たちが戦ってる間に解体して素材を無限収納にしまう。素材はダークウルフの爪、毛皮、肉、魔石だった。フォレストウルフと一緒だけどダークウルフの方が強いから少しはフォレストウルフに比べて高くなる。
他の人たちも倒し終わってそれぞれ解体している。
「嬢ちゃんは解体しなくていいのか? ギルドに頼むと手数料を取られるぞ」
「解体は終わりましたよ」
「は?……嬢ちゃん規格外だな」
「魔法は得意ですから」
ない胸を張って自慢する。
「ふん! 魔力の無駄使いじゃない」
虹色の雫の女の人が馬鹿にしたように吐く。彼女は杖を持ってるし私と同じ魔術師なんだろう。解体の手伝いもせずに髪をいじってる。男の中に女1人だからいい気になっているのかな。
「サーシャ突っかかるんじゃない」
「何よ? 本当のこと言っただけじゃない。それに魔法で解体なんてありえないわよ」
「嬢ちゃん、これ1体解体してみてくれねぇか?」
ほいっと言われた物を解体する。サーシャは目を見開いたあと憎々しげに見てきた。
「ほお。綺麗に出来るもんだな。サーシャも覚えろよ」
「いやよ。魔力の無駄使いじゃない。そんな事に魔力を使うなんて馬鹿のすることよ」
魔力の限界があるならば後のことを考えてやらないのが通常かもしれない。私は魔力無限だし、手で解体するのは無理だから使うけど。
「ティナちゃん、こちらも1体お願いできないかしら?」
白百合の会の人に言われそちらも解体する。片方だけじゃ不平等になっちゃうからね。どうみても魔法でした方が綺麗に解体が出来てるもん。
白百合の会の魔術師は単に感動してるが、サーシャは睨みつけてきてる。この差はなんだろうか。
周りの解体が終わり再出発する。その後は魔物や盗賊に逢うことなく中継地点に到着した。ここでお昼だ。それぞれ地に座り携帯食を食べてる。私は無限収納からサンドウィッチとサラダ、ヨーグルトを出した。
サンドウィッチは一口サイズで、小さな私の口にちょうど良い大きさになっている。
「ティナちゃん、美味しそうなの食べてるね。ひとつちょうだい」
白百合の会の人に言われ1つ渡した。
「んっ! 何これ美味しい! ダンジョンのパンの実より柔らかいんだけど!?」
「ちょっとミリア! 1人だけ狡いわよ! ティナちゃん、私にも1つちょうだい」
周りにゾロゾロ集まってきて1人に1つずつあげる。サーシャだけは睨めつけてくるだけで近寄っては来なかった。大分嫌われてるようだ。
「ティナ様、これはどちらでご購入なさったのですか?」
ザンド商会の夫婦は目をキラキラさせてる。
「神様の御加護です」
通販というものがないこの世界に神通販といっても意味が通じない。
「神様の?」
「はい。魔力を対価にして物を戴いてるのです」
「レシピはないのですか?」
「んー。どうでしょうか?」
神通販を起動してみるとオススメにレシピがあった。レシピがあるということは広めてもいいってことだね。レシピを購入しご夫婦に渡そうすると止められた。
「ティナ様、これはかなり高価なのものになります。是非とも買い取らせて頂きたいのですが、ティナ様は冒険者登録しかしておりませんよね?」
私は頷く。何か問題でもあるのだろうか?
「これ系は商業ギルドか錬金術ギルドに登録していないと売買することが出来ません」
そんな規則があるんだ。商業ギルドには登録するつもりはないしな。
「ポーションを作ることが出来ますし後で錬金術ギルドに登録しますね。その後にザンド商会に売る形でよろしいでしょうか?」
「私達はそれでいいのですが、ティナ様は本当によろしいのですか? これだけのものです。商人として大成しますよ?」
「商売には興味がありませんし、元は神様の加護ですから私の力でもありませんので」
「そうですか。それでは護衛任務が終わってから交渉いたしましょう」
了承して残りの食事を平らげる。サラダやヨーグルトも美味しいとの評判でレシピを売ることになった。
野営地に到着し魔法テントを出す。
「夜の見張りなんだけど嬢ちゃん1人だと流石に不安だから俺が一緒にするな」
「ガルク! そんな子と一緒にするの? 私は?」
サーシャが突っかかってきた。面倒だなと思いながら成り行きを見守る。
「お前は他のメンバーとすればいいだろう」
「何で? そんな子なんて放っておけばいいじゃない!」
「はぁー。サーシャそれ以上我儘を言うならば上に報告するぞ?」
「ガルクの馬鹿!」
サーシャは言い捨てるとテントの中に入っていった。それを1人のメンバーが追いかける。
「嬢ちゃん、悪いな。うちのクランは女が少ないから多少の我儘は通っちまうんだわ。サーシャは魔術師で貴重だから余計な」
色々と事情があるのね。
「気にしてないから大丈夫ですよ」
見た目は5歳でも前世を合わせたらアラサーだ。このぐらい何でもない。
「ありがとな。それじゃ最初に俺と嬢ちゃんが見張り番して次にうちのクラン、最後に白百合の会でいいか?」
「えぇ、うちは問題ないわ」
白百合の会のメンバーも納得して順番が決まった。全員のテントが張り終わったのを見計らい結界魔法を可視化して展開する。
「これは?」
「結界魔法です」
「まさか一晩中掛けていられるのか?」
「はい。私が寝ても解除しない限りは大丈夫です」
1人が結界の外に出て攻撃をしかけたが弾いた。白百合の会の魔術師も外に出て魔法を放つがそれも防ぐ。
「すごいな、嬢ちゃん」
「いえ。自分にはいつも掛けてますから」
「今もか?」
頷き肯定した。ガルクさんが私を触ろうとするが触れることない。
「魔法の多重展開?」
「そういえばダークウルフを倒した時も浮いたまま攻撃魔法を放っていたわよね?」
「魔法は得意ですから!」
「「いやいや!得意で済まされるレベルじゃないから!」」
全員に否定されてしまった。魔力さえあれば可能だと思うのは私だけみたいだ。
「嬢ちゃん、いざという時に嬢ちゃんに触れられないのは困るから何とか出来ないか?」
何かあって意識を失うことがあったら触れなかったらお手上げだね。完全に結界魔法を解くのは怖いから悪意あるものに対して弾く結界にしてみよう。
「悪意あるものだけ防ぐ結界にしてみました」
「そんな簡単に出来るものなのか?」
簡単に出来るものなのです。
「今回の旅は安泰ですな」
ザンド商会の会長が満足そうに笑いながら食事の準備をし始める。それに合わせて周りも動いた。
「嬢ちゃん、食事は?」
「見張りが終わってから戴きます」
夜はゆっくりと食べたいから魔法テントの中でとる。皆の食事は固そうなパンと具がほとんど入ってないスープのみ。これが普通なんだろうなぁと思いながら眺めた。
「なぁ、嬢ちゃん」
「何でしょうか?」
見張りの途中でガルクさんが話しかけてきた。
「うちのクランに入らないか?」
「虹色の雫にですか?」
「そうだ。うちは強い連中が多いから嬢ちゃんを守ってやることが出来る」
私を守る? 言ってる意味が分からなくて首を傾げた。
「嬢ちゃんは優秀な魔術師だ。優秀すぎるくらい優秀だ。強欲な貴族や王族に目を付けられてしまえば嬢ちゃんでも逃げられないこともあるしギルドにも守って貰えない場合もある。そんな奴らを何人か見てきた。だが、うちのクランに入ればマスターが守ってくれる」
薄汚い方法で私を手に入れる手段もあるのか。
「虹色の雫のマスターは私を守れるほどの高位ランク者なのですか?」
「あぁ。うちのマスターはSSSランクだ」
「でも……、サーシャさんは私を快く思っていないから反対するのではないでしょうか?」
これからも恨まれ続けるのは正直に言って疲れる。
「サーシャとは会わないよう取り計らってもらえばいい。魔術師同士だし一緒になることの方が少ないから簡単なことだ」
「私のランクEなのですが……」
「冒険者育成依頼があって初級ダンジョン制覇するまで育てるってのをやらないとSランクにはなれないから低ランクの優秀な冒険者をいれて育てるんだ」
そんな依頼もあるのか。ソロだったら結構難しいかも。
「ランロワに戻ったら錬金術ギルドに登録するつもりですが大丈夫ですか?」
「問題ない。クランメンバーの中には錬金術師もいるし鍛冶師もいるし、商人と兼用してる者もいる」
それならば問題ないところかこちらからお願いしたいくらいだ。
「それではよろしくお願いいたします」
「おう! ルフダスに着いたらマスターに連絡するから、その後に幹部の面談があると思う。まぁ嬢ちゃんなら礼儀正しいし実力もあるから心配はするな」
面接があるのか。面接というだけで緊張する。まだ先の話なのに既に指先が冷たくなっている。
「が、頑張ります」
「あはは。頑張れ頑張れ」
ううー。ガルクさん楽しんでるよ!
見張りの番が終わり魔法テントの中に入る。夕食はドリアにサラダ、コーンスープにデザートにプリン。全部ミニサイズにして完食した。お風呂には入りたいが護衛中で何があるか分からないからクリーンだけで我慢する。
寝る前にステータスを確認しよう。
【名前】ティナ
【年齢】5歳
【レベル】337
【体力】347
【魔力】∞
【物理攻撃】67
【物理防御】67
【魔法攻撃】33,700,000
【魔法防御】33,700,000
【属性】全属性
【スキル】全属性魔法Lv4、鑑定Lv4、無限収納、マップ
【ユニークスキル】神通販、経験値10,000倍、必要経験値1/100
おおー! 鑑定が4レベルになった! スキルは上がりにくいから1レベルでも上がるとテンションが高くなる。
念の為、寝てる時も魔力探知は切らさずに置いたが、何事も無かった。
その後もお昼は皆に一口ずつあげて、夜はガルクさんと見張り番をした。魔物や盗賊は出てこなくて戦闘はなかった。
白百合の会からもクランへのお誘いがあったが虹色の雫の方に入ることになった旨を伝え丁重にお断りした。白百合の会の人がガルクさんに文句を言っていたがガルクさんは笑いながらあしらっていた。サーシャさんは私が入ると聞いて気が狂ったように喚いていたが周りから宥められていた。今後、会わないようにしてもらおうと心に強く誓う。
ルフダスに着いて帰路は2日後だと伝えられザンド商会の人達とは別れた。冒険者組は皆でギルドに向う。魔物の素材買取と受付けで護衛のため来た旨と2日間に何か出来るクエストはないか聞くが常時依頼の薬草集めしかなかった。
少しでもポイント集めのため薬草集めに出るとサーシャさん以外の虹色の雫のメンバーたちも来た。
「皆さん、どうしたのですか?」
「嬢ちゃんはもううちのメンバーのようなもんだからな。ランク上げの手伝いだ」
「え? 採取集め手伝ってもらって問題にならないのですか?」
不正になったりとかしないの?
「何も問題ないな。クランに入ればメンバーのランク上げを手伝うのは当然のことだ。中には薬草を購入して提出するクランもあるぞ。うちは採取が推奨されてるがな」
まじか? もしかして納品すればOKということで神通販で薬草を購入しても良かったのかも。まぁこうやって集めるのはいい経験になるし、これからも買わずに集めていこう。
「それにしても嬢ちゃん、薬草集めも完璧だな。似たような草も沢山あるのに」
「鑑定スキルを使ってます」
「あはは。鑑定スキルも持ってるのかよ」
普通は持ってないのかな? 人には喧嘩を売られた4人組にしか使ってないから普通の定義が分からない。
手伝ってもらったため2日で80束も集まった。これでDランクまで残り988ポイント。
帰りの2日目、魔力探知で複数の人の魔力を感じマップを見ると赤い点滅が出た。慌てて商隊全体に可視化の結界魔法を張る。
「敵です。囲まれてます。後ろは任せてください」
行列が止まり冒険者たちが警戒した。矢と魔法が降り注いできて結界にあたる。鑑定をする暇もなく人がゾロゾロ出てくる。
「【捕縛】」
姿を現した人達を黒い蔓で縛り上げた。後ろの敵は片付いたので敵の多い前方に行く。
「【捕縛】」
森の奥に潜んでる弓使いと魔術師も魔力を放ち捕縛した。冒険者たちは躊躇することなく殺していく。
戦闘が終わりガルクさんが私のところに来る。
「嬢ちゃん、人を殺したことはないのか?」
「……ありません」
「盗賊は殺しても褒められはしても罪にならねぇ。生きて連行すれば多くの報奨金が貰えるが今回は街まで3日ある。殺すのが定石だ」
暗に私に殺せと言われた。捕縛した盗賊の人達を見て唾を飲み込む。無力化したところを殺すのは戦ってる時に殺すより勇気がいる。前世で虫を殺すのさえ怖くて震えてたのに、それが人となれば尚更だ。
「ふん!盗賊を殺せないなんて冒険者失格じゃない! そんな人をクランいれるなんて間違ってる!」
「サーシャ黙れ!」
ガルクさんに怒鳴られサーシャさんはそっぽを向く。ガルクさんは膝を付いて私と目線を合わせた。
「怖いか?」
うんと頷くと大きな手が頭を撫でてくる。
「俺も初めての時は怖かった。今でもいい気持ちはしねぇ。だから慣れろなんて言わない。覚悟しろ、人の命を奪う」
何度か深呼吸して盗賊たちを見遣る。その目には怯え恐怖の色が濃かった。
ーー盗賊といえど、私はこの人たちを忘れない。
「来世では真っ当に生きて【聖】」
魂が浄化されますように! そんな思いで聖魔法の攻撃で一気に殺した。
「流石だ嬢ちゃん。こいつらは痛みもなく逝けただろうよ」
死んだ盗賊たちが集められアンデットにならないように燃やさなくてはならない。白百合の会の魔術師は火魔法の適正はなくサーシャさんはやる気がないのか馬車に寄りかかっていた。
「【炎】」
両膝を付き手を胸の前で組み祈る。
ーー成仏して来世では良い人生が歩めますように。
燃えきった骨を土を掘り埋める。最後に頭を下げて立ち上がった。
「嬢ちゃん、良くやった!」
ガルクさんがガシガシと頭を撫でてくる。褒めてくれるのは嬉しいけど少し力加減をして欲しい。痛くて涙が出てきて睨みあげたがガルクさんは声を上げて笑っていた。その様子に肩から力が抜けた。
これからも同じことは何度もある。ガルクさんに言われたとおり人の命を奪う覚悟をしていこう。
残り3日間は平穏なもので無事に護衛依頼を終えた。
「ティナ様、護衛依頼お疲れ様でした。100ポイント1,000ギルになります。盗賊討伐で追加で1人当たり5ポイント50ギルとなりましてティナ様は18人討伐しましたので90ポイント900ギルとなります。残り798ポイントです」
盗賊を倒したのもギルドカードに記録される仕様となっているのか。ポイントも貰えたが素直に喜べなくて愛想笑いになってしまった。
「ティナ様にお会いしたいという方がおられるのですが、どうなさいますか?」
受付けのお姉さんに言われ首を傾げる。私に会いたいとは?
「パーティの勧誘ですか?」
「いえ、先日ティナ様がお助けした女性の御家族の方でお礼を申したいと仰っております」
「分かりました。会います」
あの後、どうなったか気になる。受付けのお姉さんについていくと応接間みたいな部屋に通された。そこには60代くらいの男女がいた。
「おおー!貴方様がティナ様ですね。ささ、お座り下さい」
お辞儀して対面のソファーに座る。
「Fランク冒険者のティナと申します」
「幼いのにしっかりなさっておいでですな」
「あの……、女性の方は大丈夫ですか?」
「運良くゴブリンの子は孕んでおらず、今は庭くらいなら外に出れるようになりました。孫を助けて頂きありがとうございます」
良かった。体の力が抜けてソファーに寄りかかる。ずっと気になっていた。自害しちゃったんじゃないかと。
気が付けば涙が溢れていた。
「本当に良かったです」
生きてくれて良かった。
「ティナ様、本当にありがとうございます。息子夫婦は亡くなりましたが孫だけでも生きいてくれて私達は幸せです」
「息子夫婦さんはゴブリンに?」
「えぇ、残念ながら。強い魔物が出ない街道だからだと息子夫婦は護衛代をケチりまして……ね」
「護衛の方たちもお亡くなりに?」
「女冒険者は孫と共に捕らわれ男たちは逃げました」
逃げた? なぜ逃げたか分からず首を傾げる。護衛が逃げたら護衛じゃないじゃない!
「Eランク冒険者でしたからゴブリンの数が多ければ仕方ないことです。誰しも自分の命が1番ですからな。だから護衛代はケチったらいけないのですよ」
「逃げた冒険者はどうなったのですか?」
「ポイント減点のうえ違約金を払ってもらいました」
話を聞いていた受付けのお姉さんが答えくれた。違約金がいくらかは分からないが、それだけで済むのはなんとも言えない。
「生きていれば嫌ことはいくでもあります。その分、良いことも沢山あります。孫はこれから幸せなことも沢山あるでしょう。ですからティナ様これからも冒険者として沢山の人をお助けください」
良いことも幸せなことも命なければ感じられないもんね。老夫婦の言葉に心に積もっていたものが晴れた気がした。
「はい! 私に持てる全力を持って」
「それでですな、ティナ様。私達はザンド商会を営んでおりましてAランクの商会になります」
商業ギルドがあり、そこでも冒険者と同じようにランク付けされている。Aランクといえばかなり大きな商会だ。
「ティナ様が護衛依頼を受けられるようになりましたら是非ともお願いしたいのです」
「え? 私まだFランクですよ?それに指名依頼はBランクからではありませんか?」
「Fランクとはいえゴブリンの巣を単独で討伐出来るのならばそのお力は確かなものと見受けられます。ランクは融通がきくので問題ありません」
護衛依頼は魔物討伐に比べてお金にはならないけど、必ず受けなくてはいけない。そして現段階でソロの私は厳しい問題でもある。
「私で良ければ」
笑みを浮かべ頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
老夫婦が帰り、受付けのお姉さんにお礼を言う。
「優秀な冒険者が燻ってるのはギルドとしても損失ですからお気にならさずに」
「明日からまた頑張りますね!」
お辞儀をしてギルドを後にした。そのまま宿に戻る。
早く寝て明日に備えよう!
◆
翌日、東の森に来てゴブリンをマップで検索する。うじゃうじゃいる場所があり、そこへと向かった。
「やっぱり巣だ」
人はいるのかマップで確認すると白い点滅が5つある。自分の頬を叩き気合いを入れた。
前回と同じように結界魔法で逃げられないようにしてから中に突っ込む。
「【炎】」「【炎】」「【炎】」
視界に入るところからドンドン燃やしていく。ここにもゴブリンキングがいて魔石を落とした。魔石を拾い残党も討伐する。白い点滅がある部屋の前で今一度気合を入れて扉を開いた。中には5人の女性が裸で横たわっている。
「【治癒】」
それぞれに無限収納から取り出した布を巻いてあげる。
「き、みは?」
「Fランク冒険者のティナと申します」
「ここはゴブリンの巣よ!早く逃げなさい!」
己が悲惨な状態なのに私の心配してくれるなんて、なんて良い人なんだろうか。
「ゴブリンは全部討伐しましたのでご安心下さい」
「……へ? 君のような子供が?」
「はい! 魔法は得意ですから!」
「【魔力探知】……本当にいないわ」
魔力探知なんていう魔法もあるんだ。私も今度使ってみよう。女性は他の4人にも声をかけると立ち上がった。
「助けてくれてありがとう。私たちはEランクパーティ『黄昏の女豹』のメンバーよ」
全員冒険者なのか。誰1人心を乱してない。きっと優秀な冒険者になるんだろうな。
「街までお送りします」
「そうね。装備を全部無くしてしまったし、お願いしてもいいかしら」
私は頷き、先頭で巣から出ていく。5歳の子供の足ではスピードが遅いため浮いて進む。
「ティナちゃん、本当にすごいわね」
「いえ、これくらいは誰でも出来ますよ」
「私魔術師だけど出来ないわよ?」
浮遊魔法って難しいのかな? どの魔法も想像しただけで出来るし魔力さえあれば可能だと思うんだよね。
街に着いて黄昏の女豹さんたちとはお別れした。
冒険者ギルドに来てクエスト完了のためギルドカードを受付けに出す。
「また巣を見つけたのですか?」
「はい。今回は前回より大きい巣で沢山のゴブリンがいました」
「ゴブリン214体で21ポイント315ギル、ボブゴブリン82体で16ポイント160ギル、ゴブリンメイジ49体で8ポイント80ギル、ゴブリンキング1体で5ポイント50ギルとなります。100ポイントになりましたのでEランクとなります。Dランクには1,000ポイントと護衛依頼残り5件となります」
次は1,000か……先が長い。早くダンジョン行ってみたいし頑張るか!
報酬はカードに入れてもらい、素材買取カウンターに並ぶ。
「嬢ちゃん久しぶりだな」
「お久しぶりです。これをお願いします」
ゴブリンキングの魔石をカウンターに出す。
「ゴブリンキングの魔石1個で50ギルだ」
カードにお金を入れてもらい宿に戻りステータスを確認する。
【名前】ティナ
【年齢】5歳
【レベル】334
【体力】344
【魔力】∞
【物理攻撃】66
【物理防御】66
【魔法攻撃】33,400,000
【魔法防御】33,400,000
【属性】全属性
【スキル】全属性魔法Lv4、鑑定Lv3、無限収納、マップ
【ユニークスキル】神通販、経験値10,000倍、必要経験値1/100
段々上がり幅が少なくってきたな。それでも普通の人達よりは上がっているんだろうけど。
◆
いつもより早く起きてギルドに向う。受け付けカウンターでギルドカードを渡した。
「何か受けられる依頼はありますか?」
「Dランクは常時依頼でハイヒール草10束1ポイント15ギル、ハイマナ草10束1ポイント20ギルがあります。討伐は今ですと西の草原にいるフォレストウルフ10体1ポイント30ギルがあります。こちらは3日以内の討伐でお願いします。お受けになられますか?」
「はい。お願いします」
「かしこまりました。ティナ様、護衛依頼の方はどうなさいますか?」
「私でも大丈夫ならば何件でもお受けします。無限収納のスキルと加護もありますので当日に依頼されても準備は大丈夫です」
ソロでの護衛依頼は不利だから先に売り込んでおく。
「かしこまりました。そのように登録しておきます」
「お願いします」
ギルドを出で西の城門から街を出でると西の草原になっている。マップ機能でハイヒール草、ハイマナ草、フォレストウルフを検索する。流石Eランク、Fランクのようにはサクサクいかないのか点滅がチラホラしかない。
フォレストウルフの方に進み途中にあるハイヒール草とハイマナ草を採取する。
魔力探知も使いながら探していく。フォレストウルフが3匹いる。灰色で2メートル以上あって私よりかなり大きかった。
まずは鑑定と。
フォレストウルフ
【レベル】10
【体力】135
【魔力】70
【物理攻撃】85
【物理防御】62
【魔法攻撃】42
【魔法防御】23
【属性】風、土
【スキル】爪攻撃Lv3、風魔法Lv2
ゴブリンに比べるとかなり強いな。それでも私の敵ではない。
「【氷】」
一瞬で凍らせて倒す。解体魔法を使うとフォレストウルフの魔石、毛皮と牙、肉の塊になった。
このお肉食べるのかな?鑑定してみると食用可ってなっていた。
夕方までかかってフォレストウルフを10体倒すことが出来た。ギルドに戻り報告する。
「フォレストウルフ10体1ポイント30ギル、ハイヒール草20束2ポイント30ギル、ハイマナ草10束1ポイント20ギルとなります。Dランクまで残り996ポイントとなります」
1日かかりだったのに全然稼げなかった。ソロだとだんだん厳しくなっていくなぁ。いいパーティがあればいいんだけど、今のところ魅力的なところがないんだよね。
「ティナ様、明日のご予定はございますか? ザンド商会から護衛の依頼がございます」
あのご夫婦か。勿論受ける。
「2つ隣の街ルフダスまでの往復護衛依頼となっておりまして日程は片道5日、1日10ポイントで100ギルの報酬になります。但し失敗時は200ポイントの減点2000ギルの違約金が発生します」
「分かりました」
思ったより失敗時の負担が低いな。これならば命が掛かったら逃げちゃう人もいるかも。ランクが高くなれば依頼料も違うから話は変わってくるかもしれないけど。それにしても1日で10ポイントも貰えるのか。それはかなり嬉しいかも。
「ティナ様の他に大手のクラン2つからAランクのメンバーが護衛に付きます。明日の朝6時までにギルドにお越しください。そこで顔合わせになります」
「持っていく物とかありますか?」
「食事は各自となりますので食料と他にテントやポーションとかが必要になります。移動は護衛は歩きになりますが大丈夫ですか?」
私が幼いから体力があるか心配してくれてるんだろう。
「大丈夫です。浮いて移動出来ますからご迷惑をお掛けすることはありません」
「それではよろしくお願いいたします」
次に素材買取カウンターに行く。
「フォレストウルフ10体分ありますが、こちらに出して大丈夫でしょうか?」
「ああ。構わないよ」
許可を貰い素材を出していく。鑑定してもらってる間に待ちながら周りを見渡す。ほとんどの人がパーティ組んでるのか私みたいに1人でいる人はいなかった。
「傷んでるところがなかったからいい値段になったぞ。フォレストウルフの毛皮10枚で100ギル、牙10個で30ギル、肉10塊で50ギル、魔石10個で30ギルだ。ギルドカードに入金でいいか?」
「はい。お願いします」
素材を合わせても今日は赤字だ。素泊まりの激安宿ならば1泊30ギルだから黒字になるけどお風呂がないのは我慢出来ないし、神通販頼りでいくしかない。魔力で交換してるとはいえ何か後ろめたいから出来れば報酬だけで黒字になってほしい。ダンジョンに潜れるようになれば安定した収入が得られるから、Dランクになれるように頑張ろう。
宿に戻りステータスを確認した。
【名前】ティナ
【年齢】5歳
【レベル】337
【体力】347
【魔力】∞
【物理攻撃】67
【物理防御】67
【魔法攻撃】33,700,000
【魔法防御】33,700,000
【属性】全属性
【スキル】全属性魔法Lv4、鑑定Lv3、無限収納、マップ
【ユニークスキル】神通販、経験値10,000倍、必要経験値1/100
10体しか倒してないからそれほど上がってない。
明日から護衛だから今のうちに神通販で買い物しておこう。空間魔法が掛かってる魔法テントと10日分の食料を買った。魔法テントはお風呂とトイレが付いてる。
◆
6時にギルドに行くと女性5人組と男5人女1人組、それとザンド商会のご夫婦がいた。
「お待たせして申し訳ありません」
「ティナ様、この度は護衛を受けてくださってありがとうございます」
私に気がついたご夫婦が走りよってくる。2つのクランメンバーは私を見て眉を寄せた。
「おいおい。このちっこいのも護衛か?」
「ガルク殿、ティナ様は幼いながらも優秀な魔術師ですぞ」
フォローしてくれるが納得がいかないのか浮かない顔をしてる。
「Eランク冒険者のティナと申します。初めての護衛依頼ですので不手際もあるかと思いますが、足を引っ張らないよう務めて参りますのでどうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げて挨拶した。
「お、おう」
「お嬢ちゃん荷物は?」
「無限収納のスキル持ちですので」
「無限収納? 初めて聞くスキルだな」
大クランの人でも知らないということはかなりレアなスキルなんだね。リュヌ様ありがとう。
「冒険者の能力をアレコレ聞くのはマナー違反よ」
「そうだな。悪いな、嬢ちゃん」
「いえ。大丈夫です」
常に結界魔法を展開してるから私に何かしでかすのは不可能。だから気にしないし隠しもしない。
「それでは参りましょうか」
女5人組は白百合の会のクランメンバーで、男5女1人組は虹色の雫のクランメンバーだと紹介された。クランは最低でも10人以上の団体で依頼が入ればメンバーの中から誰が行くかマスターが決めるそうだ。
馬車5台の商隊で私は最後尾の担当になった。
西の城門から出発して暫く経った頃、魔力探知に魔物が引っかかった。
「魔物が前方左右から24体ほど来ます」
後方には魔物の気配がなかったので一気に前まで移動する。
「前方は引き受けますので左右をそれぞれお願いします」
「嬢ちゃん平気か?」
「はい。お任せ下さい」
見えてきたのは黒い狼。早速鑑定してみる。
ダークウルフ
【レベル】38
【体力】230
【魔力】183
【物理攻撃】208
【物理防御】170
【魔法攻撃】125
【魔法防御】106
【属性】闇、火
【スキル】爪攻撃Lv4、闇魔法Lv3、火魔法Lv3
今までで1番強い相手だ。前方には10体現れた。
「【聖】」
闇とはいえば光。その上位の聖魔法を1度に10体分放つ。
「は?」
「え?」
私の方を見ていた人達が固まった。その目はまるで信じられないと言っている。
「おい! 呆けてるな!」
他のメンバーの声で固まってた人達は正気に戻りダークウルフに向かっていく。
「【解体】」
他の人たちが戦ってる間に解体して素材を無限収納にしまう。素材はダークウルフの爪、毛皮、肉、魔石だった。フォレストウルフと一緒だけどダークウルフの方が強いから少しはフォレストウルフに比べて高くなる。
他の人たちも倒し終わってそれぞれ解体している。
「嬢ちゃんは解体しなくていいのか? ギルドに頼むと手数料を取られるぞ」
「解体は終わりましたよ」
「は?……嬢ちゃん規格外だな」
「魔法は得意ですから」
ない胸を張って自慢する。
「ふん! 魔力の無駄使いじゃない」
虹色の雫の女の人が馬鹿にしたように吐く。彼女は杖を持ってるし私と同じ魔術師なんだろう。解体の手伝いもせずに髪をいじってる。男の中に女1人だからいい気になっているのかな。
「サーシャ突っかかるんじゃない」
「何よ? 本当のこと言っただけじゃない。それに魔法で解体なんてありえないわよ」
「嬢ちゃん、これ1体解体してみてくれねぇか?」
ほいっと言われた物を解体する。サーシャは目を見開いたあと憎々しげに見てきた。
「ほお。綺麗に出来るもんだな。サーシャも覚えろよ」
「いやよ。魔力の無駄使いじゃない。そんな事に魔力を使うなんて馬鹿のすることよ」
魔力の限界があるならば後のことを考えてやらないのが通常かもしれない。私は魔力無限だし、手で解体するのは無理だから使うけど。
「ティナちゃん、こちらも1体お願いできないかしら?」
白百合の会の人に言われそちらも解体する。片方だけじゃ不平等になっちゃうからね。どうみても魔法でした方が綺麗に解体が出来てるもん。
白百合の会の魔術師は単に感動してるが、サーシャは睨みつけてきてる。この差はなんだろうか。
周りの解体が終わり再出発する。その後は魔物や盗賊に逢うことなく中継地点に到着した。ここでお昼だ。それぞれ地に座り携帯食を食べてる。私は無限収納からサンドウィッチとサラダ、ヨーグルトを出した。
サンドウィッチは一口サイズで、小さな私の口にちょうど良い大きさになっている。
「ティナちゃん、美味しそうなの食べてるね。ひとつちょうだい」
白百合の会の人に言われ1つ渡した。
「んっ! 何これ美味しい! ダンジョンのパンの実より柔らかいんだけど!?」
「ちょっとミリア! 1人だけ狡いわよ! ティナちゃん、私にも1つちょうだい」
周りにゾロゾロ集まってきて1人に1つずつあげる。サーシャだけは睨めつけてくるだけで近寄っては来なかった。大分嫌われてるようだ。
「ティナ様、これはどちらでご購入なさったのですか?」
ザンド商会の夫婦は目をキラキラさせてる。
「神様の御加護です」
通販というものがないこの世界に神通販といっても意味が通じない。
「神様の?」
「はい。魔力を対価にして物を戴いてるのです」
「レシピはないのですか?」
「んー。どうでしょうか?」
神通販を起動してみるとオススメにレシピがあった。レシピがあるということは広めてもいいってことだね。レシピを購入しご夫婦に渡そうすると止められた。
「ティナ様、これはかなり高価なのものになります。是非とも買い取らせて頂きたいのですが、ティナ様は冒険者登録しかしておりませんよね?」
私は頷く。何か問題でもあるのだろうか?
「これ系は商業ギルドか錬金術ギルドに登録していないと売買することが出来ません」
そんな規則があるんだ。商業ギルドには登録するつもりはないしな。
「ポーションを作ることが出来ますし後で錬金術ギルドに登録しますね。その後にザンド商会に売る形でよろしいでしょうか?」
「私達はそれでいいのですが、ティナ様は本当によろしいのですか? これだけのものです。商人として大成しますよ?」
「商売には興味がありませんし、元は神様の加護ですから私の力でもありませんので」
「そうですか。それでは護衛任務が終わってから交渉いたしましょう」
了承して残りの食事を平らげる。サラダやヨーグルトも美味しいとの評判でレシピを売ることになった。
野営地に到着し魔法テントを出す。
「夜の見張りなんだけど嬢ちゃん1人だと流石に不安だから俺が一緒にするな」
「ガルク! そんな子と一緒にするの? 私は?」
サーシャが突っかかってきた。面倒だなと思いながら成り行きを見守る。
「お前は他のメンバーとすればいいだろう」
「何で? そんな子なんて放っておけばいいじゃない!」
「はぁー。サーシャそれ以上我儘を言うならば上に報告するぞ?」
「ガルクの馬鹿!」
サーシャは言い捨てるとテントの中に入っていった。それを1人のメンバーが追いかける。
「嬢ちゃん、悪いな。うちのクランは女が少ないから多少の我儘は通っちまうんだわ。サーシャは魔術師で貴重だから余計な」
色々と事情があるのね。
「気にしてないから大丈夫ですよ」
見た目は5歳でも前世を合わせたらアラサーだ。このぐらい何でもない。
「ありがとな。それじゃ最初に俺と嬢ちゃんが見張り番して次にうちのクラン、最後に白百合の会でいいか?」
「えぇ、うちは問題ないわ」
白百合の会のメンバーも納得して順番が決まった。全員のテントが張り終わったのを見計らい結界魔法を可視化して展開する。
「これは?」
「結界魔法です」
「まさか一晩中掛けていられるのか?」
「はい。私が寝ても解除しない限りは大丈夫です」
1人が結界の外に出て攻撃をしかけたが弾いた。白百合の会の魔術師も外に出て魔法を放つがそれも防ぐ。
「すごいな、嬢ちゃん」
「いえ。自分にはいつも掛けてますから」
「今もか?」
頷き肯定した。ガルクさんが私を触ろうとするが触れることない。
「魔法の多重展開?」
「そういえばダークウルフを倒した時も浮いたまま攻撃魔法を放っていたわよね?」
「魔法は得意ですから!」
「「いやいや!得意で済まされるレベルじゃないから!」」
全員に否定されてしまった。魔力さえあれば可能だと思うのは私だけみたいだ。
「嬢ちゃん、いざという時に嬢ちゃんに触れられないのは困るから何とか出来ないか?」
何かあって意識を失うことがあったら触れなかったらお手上げだね。完全に結界魔法を解くのは怖いから悪意あるものに対して弾く結界にしてみよう。
「悪意あるものだけ防ぐ結界にしてみました」
「そんな簡単に出来るものなのか?」
簡単に出来るものなのです。
「今回の旅は安泰ですな」
ザンド商会の会長が満足そうに笑いながら食事の準備をし始める。それに合わせて周りも動いた。
「嬢ちゃん、食事は?」
「見張りが終わってから戴きます」
夜はゆっくりと食べたいから魔法テントの中でとる。皆の食事は固そうなパンと具がほとんど入ってないスープのみ。これが普通なんだろうなぁと思いながら眺めた。
「なぁ、嬢ちゃん」
「何でしょうか?」
見張りの途中でガルクさんが話しかけてきた。
「うちのクランに入らないか?」
「虹色の雫にですか?」
「そうだ。うちは強い連中が多いから嬢ちゃんを守ってやることが出来る」
私を守る? 言ってる意味が分からなくて首を傾げた。
「嬢ちゃんは優秀な魔術師だ。優秀すぎるくらい優秀だ。強欲な貴族や王族に目を付けられてしまえば嬢ちゃんでも逃げられないこともあるしギルドにも守って貰えない場合もある。そんな奴らを何人か見てきた。だが、うちのクランに入ればマスターが守ってくれる」
薄汚い方法で私を手に入れる手段もあるのか。
「虹色の雫のマスターは私を守れるほどの高位ランク者なのですか?」
「あぁ。うちのマスターはSSSランクだ」
「でも……、サーシャさんは私を快く思っていないから反対するのではないでしょうか?」
これからも恨まれ続けるのは正直に言って疲れる。
「サーシャとは会わないよう取り計らってもらえばいい。魔術師同士だし一緒になることの方が少ないから簡単なことだ」
「私のランクEなのですが……」
「冒険者育成依頼があって初級ダンジョン制覇するまで育てるってのをやらないとSランクにはなれないから低ランクの優秀な冒険者をいれて育てるんだ」
そんな依頼もあるのか。ソロだったら結構難しいかも。
「ランロワに戻ったら錬金術ギルドに登録するつもりですが大丈夫ですか?」
「問題ない。クランメンバーの中には錬金術師もいるし鍛冶師もいるし、商人と兼用してる者もいる」
それならば問題ないところかこちらからお願いしたいくらいだ。
「それではよろしくお願いいたします」
「おう! ルフダスに着いたらマスターに連絡するから、その後に幹部の面談があると思う。まぁ嬢ちゃんなら礼儀正しいし実力もあるから心配はするな」
面接があるのか。面接というだけで緊張する。まだ先の話なのに既に指先が冷たくなっている。
「が、頑張ります」
「あはは。頑張れ頑張れ」
ううー。ガルクさん楽しんでるよ!
見張りの番が終わり魔法テントの中に入る。夕食はドリアにサラダ、コーンスープにデザートにプリン。全部ミニサイズにして完食した。お風呂には入りたいが護衛中で何があるか分からないからクリーンだけで我慢する。
寝る前にステータスを確認しよう。
【名前】ティナ
【年齢】5歳
【レベル】337
【体力】347
【魔力】∞
【物理攻撃】67
【物理防御】67
【魔法攻撃】33,700,000
【魔法防御】33,700,000
【属性】全属性
【スキル】全属性魔法Lv4、鑑定Lv4、無限収納、マップ
【ユニークスキル】神通販、経験値10,000倍、必要経験値1/100
おおー! 鑑定が4レベルになった! スキルは上がりにくいから1レベルでも上がるとテンションが高くなる。
念の為、寝てる時も魔力探知は切らさずに置いたが、何事も無かった。
その後もお昼は皆に一口ずつあげて、夜はガルクさんと見張り番をした。魔物や盗賊は出てこなくて戦闘はなかった。
白百合の会からもクランへのお誘いがあったが虹色の雫の方に入ることになった旨を伝え丁重にお断りした。白百合の会の人がガルクさんに文句を言っていたがガルクさんは笑いながらあしらっていた。サーシャさんは私が入ると聞いて気が狂ったように喚いていたが周りから宥められていた。今後、会わないようにしてもらおうと心に強く誓う。
ルフダスに着いて帰路は2日後だと伝えられザンド商会の人達とは別れた。冒険者組は皆でギルドに向う。魔物の素材買取と受付けで護衛のため来た旨と2日間に何か出来るクエストはないか聞くが常時依頼の薬草集めしかなかった。
少しでもポイント集めのため薬草集めに出るとサーシャさん以外の虹色の雫のメンバーたちも来た。
「皆さん、どうしたのですか?」
「嬢ちゃんはもううちのメンバーのようなもんだからな。ランク上げの手伝いだ」
「え? 採取集め手伝ってもらって問題にならないのですか?」
不正になったりとかしないの?
「何も問題ないな。クランに入ればメンバーのランク上げを手伝うのは当然のことだ。中には薬草を購入して提出するクランもあるぞ。うちは採取が推奨されてるがな」
まじか? もしかして納品すればOKということで神通販で薬草を購入しても良かったのかも。まぁこうやって集めるのはいい経験になるし、これからも買わずに集めていこう。
「それにしても嬢ちゃん、薬草集めも完璧だな。似たような草も沢山あるのに」
「鑑定スキルを使ってます」
「あはは。鑑定スキルも持ってるのかよ」
普通は持ってないのかな? 人には喧嘩を売られた4人組にしか使ってないから普通の定義が分からない。
手伝ってもらったため2日で80束も集まった。これでDランクまで残り988ポイント。
帰りの2日目、魔力探知で複数の人の魔力を感じマップを見ると赤い点滅が出た。慌てて商隊全体に可視化の結界魔法を張る。
「敵です。囲まれてます。後ろは任せてください」
行列が止まり冒険者たちが警戒した。矢と魔法が降り注いできて結界にあたる。鑑定をする暇もなく人がゾロゾロ出てくる。
「【捕縛】」
姿を現した人達を黒い蔓で縛り上げた。後ろの敵は片付いたので敵の多い前方に行く。
「【捕縛】」
森の奥に潜んでる弓使いと魔術師も魔力を放ち捕縛した。冒険者たちは躊躇することなく殺していく。
戦闘が終わりガルクさんが私のところに来る。
「嬢ちゃん、人を殺したことはないのか?」
「……ありません」
「盗賊は殺しても褒められはしても罪にならねぇ。生きて連行すれば多くの報奨金が貰えるが今回は街まで3日ある。殺すのが定石だ」
暗に私に殺せと言われた。捕縛した盗賊の人達を見て唾を飲み込む。無力化したところを殺すのは戦ってる時に殺すより勇気がいる。前世で虫を殺すのさえ怖くて震えてたのに、それが人となれば尚更だ。
「ふん!盗賊を殺せないなんて冒険者失格じゃない! そんな人をクランいれるなんて間違ってる!」
「サーシャ黙れ!」
ガルクさんに怒鳴られサーシャさんはそっぽを向く。ガルクさんは膝を付いて私と目線を合わせた。
「怖いか?」
うんと頷くと大きな手が頭を撫でてくる。
「俺も初めての時は怖かった。今でもいい気持ちはしねぇ。だから慣れろなんて言わない。覚悟しろ、人の命を奪う」
何度か深呼吸して盗賊たちを見遣る。その目には怯え恐怖の色が濃かった。
ーー盗賊といえど、私はこの人たちを忘れない。
「来世では真っ当に生きて【聖】」
魂が浄化されますように! そんな思いで聖魔法の攻撃で一気に殺した。
「流石だ嬢ちゃん。こいつらは痛みもなく逝けただろうよ」
死んだ盗賊たちが集められアンデットにならないように燃やさなくてはならない。白百合の会の魔術師は火魔法の適正はなくサーシャさんはやる気がないのか馬車に寄りかかっていた。
「【炎】」
両膝を付き手を胸の前で組み祈る。
ーー成仏して来世では良い人生が歩めますように。
燃えきった骨を土を掘り埋める。最後に頭を下げて立ち上がった。
「嬢ちゃん、良くやった!」
ガルクさんがガシガシと頭を撫でてくる。褒めてくれるのは嬉しいけど少し力加減をして欲しい。痛くて涙が出てきて睨みあげたがガルクさんは声を上げて笑っていた。その様子に肩から力が抜けた。
これからも同じことは何度もある。ガルクさんに言われたとおり人の命を奪う覚悟をしていこう。
残り3日間は平穏なもので無事に護衛依頼を終えた。
「ティナ様、護衛依頼お疲れ様でした。100ポイント1,000ギルになります。盗賊討伐で追加で1人当たり5ポイント50ギルとなりましてティナ様は18人討伐しましたので90ポイント900ギルとなります。残り798ポイントです」
盗賊を倒したのもギルドカードに記録される仕様となっているのか。ポイントも貰えたが素直に喜べなくて愛想笑いになってしまった。
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ファンタジー
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あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
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