トンネルを抜けたらそこは異世界でした~SEから冒険者にジョブチェンジ~

防人2曹

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序章

第1話 トンネル抜けたらそこは異世界

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 俺は岡崎雄太おかざきゆうた。職業システムエンジニアそろそろ地獄デスマーチに入るかもしれないというレベルでプロジェクトの進行が遅れている。コンピュータシステムの製作案件では、大まかなシステムによるデータ等の流れを書いて、顧客の希望に沿う設計書を作成して顧客との間で契約を結ぶのだが、その際、製作期間やその期間SEやPGプログラマの人件費や開発費等々のいわゆるの折り合いをつける必要がある。
 そこで潤沢な資金や十分余裕のある時間を顧客から勝ち取れるプロジェクトマネージャーであれば余程のことがない限り地獄デスマーチを経験することはないのだが――

 今回の案件は営業が金額だけでとってきた案件であったため、時間も資金も余裕がない。
 というか1日8時間労働での作業ではとても終わらず、1日4時間残業してようやく何とかなるレベルの案件だった。
 そのため、みんな自分の仕事の遅れで他のメンバーに迷惑をかけないように必死になっている。

 そして今は設計段階――。

 ぶっちゃけるとこの設計段階だけで1日12時間の残業をしていかないととても間に合わないという鬼スケジュールでもあったので、この設計段階でちょっと……いや、かなりの遅れが出ていたりする。そのため、すでにできているからPGプログラマさんが製造プログラミングしていくことになっていた。
 因みに俺のところではあと3枚を明後日中に終わらせられればによるPGさんから睨まれるという事態は避けられそうな状況であるので、今日中にこの仕様書だけは完成させておきたいんだよな。

 因みにというのはコンピュータシステムの設計書になるもので、基本的には1つのプログラムに1つの仕様書という「設計書」がある。そしてこの仕様書がないとプログラマさん達が製造プログラミングできないということになるのである。
 だからこそ仕様書作成に遅れが出るとプログラマさんが悲鳴を上げることになる。仮にそうなったときには俺たちSEも自分たちの作った仕様書通りにプログラムを書いていく。そうなると何日間かはほぼ24時間会社にになる。
 まさに「24時間戦えますか?」状態――わからない?――そうか、まあ昭和のとち狂ったバブルビジネスマンが「24時間戦えますか」のキャッチフレーズで健康顧みず――俺はその時代に生まれてもいないんだけれども、先輩や上司から話を聞くと、そりゃもう背筋が凍るような話と、「なんだそれ?」とつい言ってしまいそうになるような今では考えられないような金の使い方をしていたりとか――しかも会社が――

 まあ、今はそんなわけわからんバブル時代の話よりも仕事だ仕事!

 と、俺が仕様書作成に奔走していると、右側から声が駆けられた。

「岡崎、まだかかるのか?」
 
 入社してからの俺の指導係をしてくれていた中田先輩だ。昨年結婚されたばかりのまだまだ新婚さん――なのだが、このプロジェクトに入ってからは何かと会社に泊って、それこそ「24時間戦えますか?」な状態で仕事をしていた俺と同じ――いや俺よりもはるかにすごいSEである。それこそこのプロジェクトがなかったらお客さんとプレゼンやったりして最上流過程で仕事してたんじゃないのかなんて言われるくらいに本当にすごい人なんだよ。俺の目標とする先輩だ。

「俺もう少しやってから帰りますわ」

 そう、今日中に今やってるこの仕様書だけは完成させないと、PGさんに睨まれてしまう。

「そうか、あんま無理すんなよ?」
「あ、はい、あざっす。そういや先輩、何日泊ってたんですか?」
「ん?──3日かな?……」
「あーそれじゃ奥さんに怒られそうですね──」
「すでに怒られてんよ。だからもっと怒られる前に帰んなきゃな。じゃな! 無理だけはすんなよ」

 中田先輩はそう言うと笑いながら普通に「24時間戦えますか?」な栄養ドリンクを置いていった。

「あ、はい。お疲れ様です!」

 事務所を出ていく中田先輩に声をかけて見送ってドアが閉まったのを確認してから、「ふんっ!」と声をあげながら大きく背伸びをすると再び仕様書作成のためモニターに目を戻した。
 蛍光灯が俺のところだけ照らす誰もいない事務所に俺が打つキーボードがカチャカチャと音を鳴らす。もう一息で今作っている仕様書が完成する。「もう一息だ」と再度組んだ手を掌を上にして大きく背伸びをしたとき、事務所の扉の鍵が開く音がした。誰だろうとドアの方向を見ると小太りの目の細いやさしそうな顔のガードマンさんの広沢ひろさわさんが入ってきた。

「おや、まだ仕事中でしたか?」
「あ、はい。もう少しでキリがいいのでそこまでやって帰ろうかなと」
「そうですか。まぁ無理だけはしないようにしてくださいね」
「あ、はい。ありがとうございます。帰るときは警備所に顔出しますね」
「はい。お願いします」
「はい、それではまた」
「はい、お仕事頑張ってくださいね」
「ありがとうございます!」

 俺がそう答えると「それじゃ」と帽子を軽く持ち上げて軽く会釈をした広沢さんが事務所から出て行った。

「広沢さんに迷惑かけないように早く帰らなきゃ!」

 と、俺はもう一度気合いを入れると再びPCに戻った。
 
 あれから小一時間ほどしてようやく仕様書を書き終えた俺は、PCをシャットダウンしてキャビネットや書棚の鍵が全部しまっていることを確認すると、事務所を出てビル一階の警備事務所に行った。

「お疲れ様ですー」

 警備所の窓ガラスから覗き込むと、

「あ、はーい──」

 若い茶髪というか赤に近い長髪のいかにもチャラ男そうなガードマンが顔を出てきた。

 ――俺の知らないガードマンだな。新人さんかな――

 見える範囲の警備室を目だけで見渡しても広沢さんの姿が見えない。

「あれ、広沢さんは?」
「あ、さっき仮眠に入っちゃいました」

 と赤髪チャラ男マンが指で仮眠室を指して苦笑いで返してきた。

「ありゃ、間に合わなかったか──」
「ん?広沢さんに用事ですか?」
「あ、いや。いつも広沢さんに助けてもらってるんで、顔見て帰ろうかなと思って──」
「まだ寝てないと思うので呼んできますよ?」

 いや、広沢さん寝てんだろ?――
 俺はついそう口から出そうになったのをぐっとこらえて

「あ、いやそこまでは。また今度でいいですよ」

 と笑顔で返しておいた。

「そうですか?」
「はい。それじゃお疲れさまでした。広沢さんにもよろしく伝えてください」
「あ、はい。おつかさまっしたー!」

 やっぱチャラ男かよ――。
 いや、仕事さえきちんとしてくれれば何も問題はないのか――ない、のか?――まいっか。知らんけど――

「あざーっす!」

 俺は赤髪チャラ男みたく軽い返事をすると会社が入っているビルの隣にある月極めの立体駐車場に向かった。
 立体駐車場の脇に設置されている非接触タイプの車庫装置にメンバーズカードをかざすと「ピッ!」というビープ音とともに車庫が動き出した。
 しばらく待つと車庫の扉が開いて俺の愛車が出てきた。

 俺の愛車は「ちょうどいい」な5ナンバーのミニバン。必死にためた貯金からキャッシュ一括払いで新車で購入した。
 色はシルバーでディーラーオプションのエアロを組んでいる。ハイブリッドにするかどうか悩んだのだけど普通にガソリン車を選んだ。最初は失敗したかなと思ったんだけど、そこまで燃費変わらなかったので後悔もしていない。
 もうこの愛車でどれだけドライブしたか――北は本州の先っちょから南は本州の先まであちこち行ったなぁ――あ、北海道と九州行ってないや。四国は――あ、坂本龍馬を見に桂浜にいって、その帰りに愛媛の道後温泉の宿に泊まったんだった。寂しい男一人旅――ボッチ?――やめろ!悲しくなる――

 まあそれでも事故もせずにこれまで乗ってきたんだから、これからも事故起こさないようにしないとな。

「さて、帰るか──」

 俺は車に乗ると、エンジンをかけて車庫から車を出した。


 いつもの道を帰る「ちょうどいい」わが愛車。
 交差点を右折してしばらく走るとトンネルが見えてくる。このトンネルを抜けたら自宅まですぐだ。

「つか、やばい眠い──」

 もうすぐだ。がんばれ俺!
 と自分にハッパかけながらトンネルに入った。黄色い光のライトが同感覚でやってくる。そして──

 約500メートルのトンネルを抜けた──そう抜けたんだ。抜けたはずなんだけどな──

「なんじゃこりゃー!!」

 思わずおなかに当てた手を目の前に持ってきて、その手を見ながら叫ぶ俺──

 いや違うか──

「つーかさ、ここどこよ?──」

 トンネルを抜けた、抜けたら、そこは真昼間の一面草原の大地。
 夜だったんだよな。
 
 それも深夜。

 午前さま。

 だったはずなのに、なぜか真昼間──なんだよな──

 あと、なんつーか、眠気も吹っ飛んだんだよなぁ──

「ちょ、ちょっと降りてみる──か──?」

 俺はごくりと生唾を飲み込むと、「いざ」と声をかけて運転席のドアを開けて車外に出てみた。
 そして、辺りを見渡す──

 ──うん、一面草原だなぁ──

 見渡す限り緑の草原。ところどころに木は立っているものの草原率が約99パーセントのそんな草原の中、土色の未舗装の一本道の道路が走っている。その道路上に俺の愛車は止まっている。それも道路のど真ん中に!

「あー誰か来たら邪魔になるよな──って、ここ人通るのか──?」

 ともう一度辺りを見てみる。いや、どう見たって道路から人も通るんだろうけどもさ――
 けど、何度見てもやっぱり一面草原──の中に未舗装の一本道。

「あー、やっぱそうだよなあ──」

 アカン、頭が全く追いつかない──。
 
 ただただボーッとと草原を眺めていると、突然女の子の声が聞こえてきた。

「おーい!」

 やっぱり車邪魔だったか、と振り返ってみるが誰もいない。「おや?──」と辺りをきょろきょろしてみるけども、やっぱり誰もいない。

「おーい、こっちこっちー!」

 と再び聞こえる女の子の声。
 
 どうやらその声は車の中から聞こえてくるような気がした――ので、車の中を覗き込んでみると、そこには緑色のふわふわしたロングヘアでやっぱり緑色のノースリーブなミニスカートのワンピースをきて、背中にある半透明というのかそんな感じの背中にある羽根をパタパタと動かしながら運転席の窓ガラス付近でふわふわ浮かんで、俺を笑顔で見て右手を左右に振っているがいた。

 なにかのドッキリ、なのか――?

 俺は後ろを振り返った。けど、そこには黄緑色に染まる大草原が広がっていて、ところどころに木が立っている。さらにその奥には山の稜線が見えるだけ――

「えっと──」

 俺は車に向き直って運転席の窓ガラスを見る。
 そこにはやっぱり緑色のロングヘアで緑色のノースリーブのミニスカートなワンピースで背中の半透明な羽根をパタパタ動かしながら窓ガラスの上にぷかぷか浮かびながら笑顔で俺に手を振っているがやっぱりいる。

「キミ──誰?──」

 俺がそのちっこいのに指をさしながらそういうと、そのちっこいのは、

「ワタシ?──ワタシはエアリア。だよ」

 と、そう言って左手を腰に当てて右目の前で外側から瞼に沿って右手でピースサインを作って白い歯を見せてニカッと笑顔をポーズを決める――いや「エアリア」といったか――

「そうか風の精霊か―って、え!? 精霊!?」
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