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序章

第2話 エアリアとの契約と車の力の発見

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「そんなに見つめられたら恥ずかしいよ――まあ乗って乗ってー」

 と、緑色の髪に緑色のワンピースっぽい服、そして背中にある羽根をパタパタ動かしながら運転席の窓ガラスの向こうでふわふわ浮いているちっこい女の子っぽいのが手招きしてそう言ってくる。

 状況を説明しておこう――
 俺は日付の変わった深夜に仕事を終えて目の前に見えているこの「ちょうどいい」ミニバンで帰宅してたんだよな。
 で、自宅近くの約500メートルほどあるトンネルに入ったんだよ。そしてトンネルを出てみたら一面草原。ところどころに木が数本立っていて、その奥には山の稜線が見えているという状況。
 そして今――俺は状況を確認するために車外に出ている。
 そうしたらこの窓ガラス越しに見えているふらふら浮いているちっこいのが突然現れて、しかも「風の精霊」なんて自分で言うちっこいのに「乗って」と手招きされている状況なのだ。

 つまり、あのが車内にいて、俺が車外にいるわけだ。そして「乗って」と手招きされている――なんかすごい違和感――なんだこれ――

 とりあえず、ちっこいのに言われるままに運転席のドアを開けてシートに座ってドアを閉める。
 そう閉めたんだ。普通なら何かわからない、こんなみたいなを追い出そうとするだろ?
 けど、なぜかしなかったんだよ。なぜかは自分でもわからないんだけどもさ――

「これで、ちゃんとおしゃべりできるねー」

 と、そのちっこいのはにっこり笑顔で言ってくる。

「あ、うん――そう、だね――」

 俺がそう答えると、「だねー!」と言いながらなぜか嬉しそうに俺の目の前を右へ左へと時には八の字を描きながら飛びまわっている。
 そんなちっこいのを俺は目で追ってる。そう、なぜか目で追っているのだ――

 と、突然視界の右端でピタッと止まったちっこいのは俺の目の前まですいーっと飛んでくると、「まだ自己紹介してなかったね」とてへぺろなんぞしながら右手で自分の頭を小突いたりしている。
 なんだろうな、なぜかそのしぐさにちょっとイラっとする俺――けど、なぜかそのちっこいのが憎めないんだよな――

「アタシからね! アタシはエアリア。これでもさんなんだぞ!」

 と左手を腰に当てると体をほんの少し右足に体重移動したみたいにして、右目でウィンクしながら右手で顔の外側から内側に向けてピースサインを作ってそのウィンクした目を強調するようにしてポーズをとった。

 まあ、かわいい――のか?

「じゃあ今度は雄太ゆうたね!」

 ん? 俺こいつに名乗った覚えないんだけど――?

「あれ? ノリ悪いね――」

 と、きょとんとするエアリアという自称「風の精霊」なちっこいの――

「あのさ、俺名乗ったっけ?」

 と俺がエアリアに言うと、

「ああ、そっか! アタシ宿から、雄太のことなんでも知ってるんだよ?」

 へ?――

「あ、あの――さ、宿って、どゆこと?」

 わからないのは一番怖いので聞いてみることにした。
 すると、エアリアと名乗る自称「風の精霊」は、「あれ?――」と小首を傾げながら俺から見て左上をじいっと見て左手を腰に当てて右手で顎をポンポンたたくようなしぐさをする。
 しばらくして、なんかぶっ飛んだことを言ってきた。

「ねえ雄太――雄太ってに会ってないの?」

 あまりのぶっ飛んだ質問に俺は「ハァ?」と大きな声を出してしまった。
 俺のそんな対応にエアリアは「ちょっと待ってね」と言いながらどこからともなくガラケーみたいなのを出して何やらポチポチ操作をしてそれを耳に当てた。やっぱり電話だったのか?――

「あ、お母さん? 雄太と会ってるんだよね?」

 と突然「異世界のガラケー」みたいなのでそんな会話をするエアリア――いや「精霊のガラケー」というべきか?――
 しかもそれがエアリアのお母さんっていうんだからなあ――

 ――つーか、精霊の母親ってなんだよ?――

 しばらく話をしていたエアリアはそのまま置いておいて、車に何か異常はないかどうかをチェックした。何も問題はない――あるとすればそろそろ燃料入れなきゃなというところに来ていたはずの燃料ゲージがなぜか満タンを指していることだけ。
 なぜ燃料満タンになっているのかを考えてみたけど――わからんものはわからん。
 
 で、目の前のちっこいのに目を移していみると、ちょうど話も終わったようで、その手に持つガラケーのようなものがキラリと光ってどこかへ消えていった。

 なんかもう、いろいろ考えたら負けな気がしてきたな――

「で、その『お母さん』とやらはなんだって?」

 もう考えるよりも聞いてみる方がいい気がして俺は目の前のエアリアというちっこいのに聞いてみることにした。
 すると、エアリアが両手を腰に当てて前かがみに俺を覗き込んできた。

「んーーーー、んん?」
「な、なんだよ……?」
「うん……えっとね」
「うん……」
「お母さんは雄太がこっちに来るときに会ってるというかこの車に乗ってたんだって」
「マジか――」

 なんかとんでもないこと言ったぞこのちっこいの――

「まぁいきなり言ってもわかんないよねぇ」

 とポリポリと指で頬を掻くちっこいの――いや、エアリア。

「ま、まあいきなりだしな――」
「ダヨネー……」

 2人(?)で苦笑いする俺たち――けど、異世界、かぁ。一度は来てみたかったしなぁ。最近のラノベやアニメではそういう設定多かったし。つか、リアルに異世界があるとは思ってなかったけど――

「ま、まぁアレだよ。雄太もね、この世界楽しんでほしいんだよ。アタシはさ!」

 と、白い歯をみせてニカッと笑うエアリア。
 まぁ来ちゃったもんは仕方ねーし。たいていこういうのは帰れないってのが常だし――いや、帰れたりすんのかな……帰ったら――地獄デスマーチが待ってるんだよなぁ。できれば帰りたくない――俺は心の中だけで中田先輩に「すんません!」と手を合わせた。

「それで――ね。実は雄太にもう少し説明することがあるんだよね。いいかな?」

 とエアリアが人差し指を顎に当てて小首をかしげて言う。まぁふわふわ浮いてなんだけどな。
 しゃーない、聞くか。
 俺が「いいよ」というと、エアリアはにっこり笑うと、ハンドルの真ん中のホーンスイッチの上にちょこんと座った。

「えっとね。まず、この世界には魔法があります!」

 とエアリアが異世界テンプレなことを言ってきたので、俺はつい「おお!」と感嘆して興奮してしまった。どんな魔法があるのかとがっついて聞いてみたところ、「それはあとでゆっくりね」とを食らった。
 仕方ないので続きを聞いてみるととんでもないことになっていた。どんなことかを挙げるとこんな感じになっていた。


 ・燃料がガソリンがすべて「マナ」置き換わったので燃料切れがなくなった。
   →「マナ」というのは魔力の素になっている「魔素」のことらしい。

 ・エアリアがこの車に宿ってしまったことで、車が壊れる心配がなくなった。
   →エアリア次第でこの車にバリアのようなもの――エアリアは結界といっていたが――に覆われているらしい。竜王ドラゴンキングには敵わないらしいが――ってやっぱドラゴンいるんだ。

 ・風の影響を受けない。
   →向かい風や横風の影響を受けないばかりか、走行速度も自由自在らしい。

 ・走行中には揺れることはないらしい。
   →急ブレーキ時はどうなるのだろうか――

 ・エンジンの摩耗がない。
   →つまり何があってもエンジンは壊れないらしい。

 ・俺が望めばエアリアがもつ仮想空間にこの車がしまわれるらしい。
   →つまり出し入れ可能!何というチート!


 まあそんなことが分かったのだが、一つ気になってることがあったので聞いてみることにした。

「なあ、エアリア、結界といったか、それに守られているから壊れないといってたけど、どれくらいまでなら耐えられるんだ?」
「えっとね、竜王ドラゴンキングには敵わないよ」

 あ、ドラゴンいるんだ――つーか、竜王ってどれくらいなんだ? それを聞いてみると、

火竜ファイアドラゴンには耐えられるから、って魔法には耐えられる程度だよ」

 と、何気なく言ってくるのだが、さっぱりわからん。なので詳しく説明をお願いすると、「メテオストライク」という魔法は、所謂「火のついた隕石」を落とす魔法らしく、上級魔法に数えられる魔法らしい。で、その威力とは、術者の力によっては、らしい。
 つまり、そんな大それた魔法を食らっても全くへこみもしなくなったらしいんだよ、俺の愛車――なんか、すげえな異世界――

 エアリアの説明に開いた口がふさがらなくなってる俺に、エアリアはさらに爆弾発言をしてきた。

「あ、アタシと契約するともっとすごいことになるよ?」」
「ハ?」

 なんだかよく話わからないので確認してみると、

「契約したらね、結界の強さは変わらないんだけど、雄太が一定のレベル以上になるとこの車で空が飛べるようになるんだよ」

 と、「すごいでしょアタシ!」とエッヘンといわんばかりにこぶしを握った両手を腰に当てて胸を張って鼻息荒くふんぞり返るエアリア。
 いや、「すごい」というレベルを超えてると思うんだよ――どんだけだよ異世界――

 立てた人差し指を左右に振りながら「どんだけー」と叫ぶオネエタレントが頭の中で何度もリフレインしている。

「でさ! 雄太にね、お願いがあるんだ」
「お願い?」

 俺は片手で頭痛がしてきた頭を押さえながら聞き返すと、

「雄太にね、アタシと契約してほしいの!」

 とニコニコ顔で言ってくるエアリア。
 試しに契約しないとどうなるのかを聞いてみたところ、エアリアは「ちょうどいい」な俺の愛車から離れなきゃならないらしい。つまり、今エアリアがこんな風になってるって状態がゼロ――それは俺のを意味することであることは容易に想像ができる。

 ――いや、それ、もう契約するしかない状態なんじゃ?――

 その昔――相手が逃げられない状態に持っていって強引に契約させるなんていう恐ろしい営業方法があったらそうな。何と言ったか――そうだ、「キャッチセールス」とか言ってたな――

「ねぇえー、契約した方がお得でしょ? 俺にアタシみたいな風の精霊ももれなくついてくるんだよ?」

 と、両手の人差し指を両頬に当ててパチパチと大きく瞬きをして自分をと言ってくるエアリア。

 まあ、「超絶カワイイ」って部分はとりあえずおいておいて――

 どうするか――いや、考えるまでもなくエアリアと契約した方が絶対にお得――

 それはわかってるんだけど、なんか引っかかる――

「なあ、なんか隠してることないのか?」

 一応聞いてみると、

「ん? ないよ?」

 と、あっさりと答えてくるエアリア。
 
 アヤシイ――


 何か隠してるはず――と、じーっとエアリアの目を見つめると、

「そんなに見つめられたら恥ずかしいよ雄太――」

 と、赤らめた頬を両手で抑えてふわふわ浮き出しながらもじもじし始めるエアリア。
 ――アイツもってこんな感じだったなあ、とちょっと頭痛くなる以前付き合っていた彼女を思い出した俺。

「アタシはさ、せっかくこのアルデリアっていう世界に来た雄太にこの世界を楽しんでほしいんだよ。でもそのためには力は必要だし。アタシはそのための道具だと思ってもらっていいよ。おしゃべりできる道具。なおかつカワイイ!」

 と半身になりながら俺に投げキッスしてくるエアリア。

 まあ、確かにエアリアと契約するのは俺にも得があるし、契約しないと車は使えなくなってただのになること間違いなし。
 それなら――

「わかった、契約するよ」

 俺が契約を了承すると「やったー!」と俺の目の前を右に左に最高の笑顔で飛び回るエアリア。まあ、こういう道連れがいてもいいかもしれないしな。

「それで、契約ってどうすればいいんだ?」

 俺が訪ねると、俺は何もしなくてもいいらしい。
 そしてエアリアが俺の右頬の近くにふわふわ飛んでくると、エアリアの唇が俺に触れた。いや唇とわかるかと言われれば唇かどうかはわからないけどもそんな感じがした。
 すると、右の肩甲骨の下辺りにチクチクといった痛みを感じた。

「なんか痛いんだけど――?」

 と俺が聞くと、どうやら俺の背中に契約紋が付くらしい。
 この世界には火、水、風、土の4種類の属性があり、エアリアは風の精霊なので、右の肩甲骨の下辺りに薄い緑色の契約紋ができるのだとか。
 しばらくすると痛みを感じなくなった。けど今度は背中が熱くなってきた。熱くなっているのはチクチクと痛みが出ていた場所で、何が起きているのかをエアリアに尋ねると、俺が持ってる魔力というものがエアリアと同調しているのだとか。
 ちなみに複数の属性精霊と契約すると同調する魔力がその分増えることになるのだという。
 つか、魔力って何?――

 仕方ないのでエアリアに聞いてみると魔力とは魔術や魔法を使用するために必要な力のことらしく、これは人や動植物すべての生きとし生けるものが持っているのだという。ちなみに俺の魔力の量というのは、人間族平均の約100倍あるのだという。――マジか――

 ともあれ、エアリアとの契約は完了した。
 完了したことで一段落ついたからか眠気が襲ってきた。

「そういやあっち深夜だったもんなあ――」

 と、大きなあくびをする俺。同じように大きな口を開けて俺の真似をしているのかあくびをするエアリア。

「さすがに眠いんだが、この場所に留まるのは危険か?」

 とりあえずエアリアに確認してみると、さすがにこの場所はまずいらしい。けど、どうやらそんなに離れていないところに街があるらしいので、そこで宿をとろうということになった――のだが、俺この世界の通貨なんて持ってないことに今更ながらに気づいた。
 すると、エアリアが「今頃気づいたの?」と呆れた顔をしている。

「まあ、しょーがないなー。それならアタシが魔法で――」

 と、なんかを言ってきたのでとりあえず止めた。異世界に来たばかりで通貨偽造で逮捕なんてされたくはないしな――異世界だと奴隷落ちとかもありそうだし――

「ほ、他に何かないのか?」

 というと、またエアリアが「しょうがないなー」と言いつつ手を車の前方に伸ばして何か呪文のようなものを唱えた。すると、そこに牡鹿のような角の生えた馬の2倍くらいの大きさの馬とも鹿ともつかない動物が現れた。

「雄太、に向かって車を出して。できれば急発進で!」
「ハァ?」

 何を言ってるのかよくわからないでいると、目の前の馬とも鹿ともつかない動物がこちらに標的を付けたようで、鼻息を荒くしながら前足の土をかき始めた。
 なんかやばそうなのはわかる。

「いいから、に向かって車を突進させてぶつければいいの」
「ハ? 何言ってんだお前1」
「いいから! 車の強さを知りたくない?」

 とエアリアが言ってきた。そういえばこの車火竜ファイアドラゴンの攻撃にすら耐えれるんだっけ?
 どうするか迷っていると、馬とも鹿ともつかない目の前の動物がさらに鼻息を荒くしてきた。今にも突進してきそうな勢いだ。

「車は大丈夫だから! アタシを信じて!」

 エアリアがそう叫んできたので、俺も覚悟を決めて、ハンドルを握りしめて目の前の動物に向かってアクセルを踏み込んだ。

 一瞬だった――。

 衝突した瞬間、ガツンという音だけがして衝撃は何もなかった。音がしたときに反射的にブレーキを踏み込んで急ブレーキをかけた。けれども慣性の法則すら働いていないのか、車は何事もなかったかのようにすぐに止まり、その急制動の反動も何も感じなかった。

 やべー、やっちまった……轢いちまった……グロは見たくねえ――
 
 まあ、普通の神経の持ち主なら車で動物でも人間でも轢きたいなんて思うことなんてないわけで。ただただ罪悪感とか色々脳裏に浮かんでブルブルと震えている俺――

 そんな俺にエアリアは、

「倒した獲物、取りに行かないの?」

 なんてケロッと言ってくる。
 何言ってんだコイツ――なんて思ったのだが、エアリアの「ここ雄太のいた世界じゃないんだよ?」の一言にポカンとするも、「異世界なんだよなココ」ともう一人の自分がそう言ってきて、あの罪悪感が一瞬できれいさっぱり消えてしまった。

 で、落ち着いた気持ちで車外に出て車の後ろ側に回ると、そこには口から赤い血を流して絶命している大きな馬体というか鹿体というか――

「雄太の初撃破だね!」

 とエアリアはニコニコ顔。
 これが何なのかよくわかっていないし予想以上にあるこの大きな屍を見て、改めて恐怖を感じた俺はエアリアに口パクパクでその屍を指さした。

「ああ、これね。これは魔物だよ。この世界には動物もいるけど邪悪な魔力に侵されている生き物がいるんだよ。それが魔物」

 とエアリアが説明してくれる。そして面前の牡鹿の角を持つ大きな馬体の馬は「セルクス」だと教えてくれた。
 
 ――な、なんか一文字違うだけでだいぶ違うんだな――

 と何とも言えない魔物の名前に「うーん……」な感じになってしまう俺。

「あ、これ角も肉も結構高くで売れるらしいからそのまま持っていこうね」

 と、エアリアは目の前の屍となったセルクスをどこかへ消し去った。

「持っていくといってなかったか?」
「うん、持っていくよ?」
「って、消しちゃったら――」

 という俺に、合点がいったらしいエアリアがポンと手を打つと、

「マジック収納庫にいれたんだよ」

 なんだそれ?――

 聞けば、さっきエアリアが言っていた仮想空間のことらしい。それならそうと早く言ってくれれば――いや、言われてもピンとこなかった可能性の方が高いか――

 まあそんな感じで俺とエアリア2人の冒険は始まったのだった。
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