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第一章 クエルカルーナでのはじめの一歩

第3話 冒険者ギルドへ

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 俺はエアリアの道案内で、近くの街「クエルカルーナ」という街に向かっている。その街はクエル子爵という領主が納めている街だそうで、春になると中央通りが桜並木になるらしい。
 因みに、今俺たちがいる国は「エルミリア王国」という王政の国らしく、「クエルカーナ」の街から北に100キロメートルほど行ったところに王都「ルミナーラ」があるそうだ。途中森や山があるらしいのだけれども、それまでに一定のレベルにあげられれば空を飛んでいけるらしい。ただ、空には飛竜ワイバーンがいるらしい。
 飛竜ワイバーンは竜種ではないらしく、リザードマンが進化したものらしい。飛竜ワイバーンは知性を持っておらずとにかく狂暴。尻尾が弱点らしいんだけども空を飛び回るから厄介なのだそうで、Cランクに指定されているらしい。

 そんな話を聞きながら運転をしているわけなのだが、揺れも何もない運転はぶっちゃけ眠気を誘う。それでなくても昨日の朝から全く寝ていないのでマジでヤバイ。
 なので、眠気覚ましにラジオを聴こうとカーナビをラジオにしたところ、「ザー」という音しか聞こえてこない。それもそうだろう、ここは日本でなければ地球でもない異世界なのだ。ラジオなんて聞こえてきたらそれこそ恐ろしい。
 ということで、メモリーに記憶させていた音楽をかけることにした。別にアイドルオタクというわけではないのだが、女性シンガーや女性アイドルグループの曲ばかりが入れられている。だって、ゆったり運転したいのになぜ男の声をわざわざ聞かにゃならんのだ。

「ねえ、雄太。これ雄太の世界の歌なの?」

 とメーターコンソールの脇にちょこんと座っているエアリアが聞いてくるので「そうだぞ、いい曲だろ?」というと、エアリアは難しい顔をして、

「そうなんだ――」

 と何ともな反応をするエアリア。あれ?っとおもって「なぜに?」と聞いてみたところ、

「んー、何言ってるかわかんないだよねー」

 と答えてくるエアリア。そうでしたー! ここは異世界。言葉違うんだよね、普通――と、あれ? と気づいたことがあり、

「ちょっとまて。エアリア、俺の言葉はわかるんだよね?」

 と不思議に思った点を聞いてみる。

「うん。雄太の言葉はわかるよー」

 と笑顔で答えてくるエアリア。それならなぜこのアイドルグループの歌声がわからんのだ?――それを聞いてみるとこう答えてきた。

「簡単に言うとね、言葉には言霊ってのが乗ってくるからアタシでもわかるんだよ。で、アタシと契約したから雄太の声はこの世界の人にも伝わるし、この世界の人の言葉も雄太にもわかるよ。けど、この箱から聞こえてくる声はね、言霊が乗ってないからわからないんだよね――」

 ハイ異世界テンプレ来ました!
 つーか、言霊ねえ。考えたことなかったわ――ん?

「今、俺の言葉はこの世界の人に通じて、この世界の人の言葉は俺にもわかるって言った?」
「うん、そういったよ?」
「なんで?」
「だって、言霊が乗ってるから――」
「あ、そっか――」
「うん――」

 何か生暖かい風が流れていった気がした。

 そっか、言霊だもんな。そういうことだよね――って、ことは――

「なあエアリア――俺、この世界の文字読めるの?書けるの?」
「それなら問題ないよ。雄太の目には雄太の世界の文字に見えるし、雄太の世界の文字を書くとこっちの世界の文字に変わるから」
「へ?」
「だって、アタシと契約したんだよ? そんなの朝飯前だよ!」

 と、メーターコンソールでエッヘンと胸を張るエアリア。なんだろな、このシュールな光景――


 しばらく走っていると、ちょっと遠くに壁のようなものが見えてきた。

「なあ、あれが街か?」

 と俺が言うと、メーターコンソールに座っていたエアリアがふわふわと浮かんで俺が見た方向を見ると、

「そうだよ。あ、けどこのままじゃ怪しまれるからちょっと脇にそれて、そこから歩いて行こう」

 というエアリア。
 街であることはわかったのだが、できれば今車外に出たくはない。なぜかって、この日差しの中だ。社内ではエアコンを使っていたので涼しさを感じていたものの、外に出たとたん熱さを感じそうだ。
 けど、怪しさ満点でこの車を取り上げられてもなあ、仕方ないか――

 俺はエアリアの指示通りに道からちょっと脇にそれて車から降りると、エアリアが愛車をマジック収納庫にしまい込んだ。自由自在に出せるというのはこういうことなんだなと思う俺。けど、気づいたことがあった。

「なあエアリア。車、マジック収納庫にしまい込んだろ?」
「え? うん――」

 それがなにか? という顔をするエアリア。

「いや、あのさ――セルクスといったか、あの魔物と同じ場所に入ってんだよな?――」

 と俺がそう言うと、エアリアはしばらく考えて合点がいったように手をポンと打つと、

「それなら大丈夫! 匂いとかなんてつかないよ。というか、亜空間は匂いとかそんなの全くしないし、セルクスは出した時でもあの時の新鮮なままなんだよ」

 と「すごいでしょ?」なんて言ってくるけど、俺としてはあまり気持ちのいいもんじゃなくて――でもエアリアがいるからこんなことできるわけで――

 ――慣れていかんといかんよな――

 と小さくため息をついた。
 
 数百メートルくらいだろうか、それくらい先に見える街の壁。そこまで歩いていくというだけでも現代人しかもインドア仕事の俺にとってはなかなかな運動なわけで――

「しゃーない。じゃあ行きますか――」

 と大きくため息をついた時、何かが緑色に光った。なんだなんだ?と思って光った方向を見ると、そこには色白の緑色の髪に緑色の瞳、そして薄い緑色の布部分がそんなに多くない服で胸には胸当て、腰には服に比べると濃い緑色のミニスカートにレイピアというのか細身の鞘に収まる剣、そして赤地に白い枠の入った膝下のブーツ。そして整った顔の年の頃は10代後半と見える美少女が立っていた。しかも出るところは出ていて引っ込んでいるところは引っ込んでいて、女性らしいプロポーション。胸もそこまで大きくなくCカップくらいだろうか、俺的には「ちょうどいい」な感じのサイズ。

「えっと、どなた?――」

 恐る恐る訪ねてみると、その美少女はキャハハハと笑って、

「アタシだよ、雄太」

 と左手は握った拳を左腰に当てて若干右に体重を乗せて右目を瞑って右手で作ったピースサインを目の外側から内側に当てて白い歯を出してニカッと笑うポーズ。

 ――ああ、エアリアがしてたポーズだ――

「マジで、エアリアなのか――?」

 再度確認すると、「そだよ!」と軽い感じに返してくるあのちっこいエアリアと同じ声で答えてくる目の前の美少女、もといエアリア。

「ま、まじかー……」

 と、エアリアの顔をボケ―っと見る俺。

「ん? なになに、もしかしてアタシに惚れちゃった?」

 と笑うエアリアに、ああ本当にエアリアなんだなぁっと思った俺――

 いや、惚れてはいないからな!

「つか、お前そんな格好して大丈夫なのか?」
「ん? 問題ないよ。だって、アタシも雄太と同じで冒険者に登録したいもん」
「え? 俺、冒険者になるの?」
「冒険者になっといた方が何かと都合いいよ? 冒険者のカードって身分証明書になるし街に入るのに門の通行料払わなくていいし」
「え、そうなの?」
「うん!」

 なるほど、と思ったのもつかの間。

「ん? 通行料? 俺金持ってない――」
「だからアタシがいるんじゃない。実はアタシそれなりにお金持ってんだよ?」

 と、エアリアはマジック収納庫からジャラジャラという何かの革製と思われる巾着袋を取り出した。

「お、お前! まさか偽造――」
「ちゃんとしたお金だから大丈夫だよ」
「っていうけど、お前いつから金なんて持ってたんだよ」

 と聞くと、エアリアはアハハと笑うと、

「これさっき雄太がセルクス倒した時にドロップしたお金だよ?」
「あ、そういうのあんのね――」

 なんか、RPGとそっくりだなあ。もしかしてRPG作ってる人ってみんな異世界経験者だったりするんじゃないだろうか――なんて思ってしまう俺――。

「まあ、そういうわけだから気にせずに行こうよ。日差し強いし、アタシ日焼けしちゃうよ?」
「あ、そうだな――」

 と何も不思議に思うこともなくエアリアと歩き始める。

 けどなんというか、旅は道連れとはよく言ったもんで、ついさっき会ったばかりだというエアリアとの何気ない雑談だけでも通行門までの数百メートルはあっという間だった。
 門番さんは俺の隣にいるエアリアを――美人発見!――みたいな表情をしながらエアリアが出した2人分の通行料銀貨2枚を受け取ると俺たちを街の中に誘導してくれた。
 何というか、エアリアを口説こうとしていた門番だったのだが、エアリアが笑顔でひらひら手を振ると鼻の下を伸ばして手を振り返してくるだけで終わった。

「お前、悪女だな」

 と俺が言うと、「失敬な!」といって

「アタシは悪精霊だよ!」

 とその長い髪を背中に書き上げながら言うので、エアリアの額に軽くチョップを入れた。

「お前、悪い精霊だったのか」
「いやいや、ただの悪ふざけ! ほんとに悪いことしたらお母さん激おこになっちゃうよ!」

 と先を行く俺にエアリアは額を押さえながら小走りについてきた。

 街の中はというと、そのまんま!
 RPGの街並み作ってる人、絶対異世界来たことあるよ! と思ったくらいにファンタジーなRPGの街並みそっくりの光景だった。
 
 行きかう人を見ていると、人間やケモミミ、耳の尖がったエルフなんかもいた。
 RPGをよくしていた俺としても興味そそられる光景でもあった。
 なんといっても、俺は今でこそSEをしていたが、学生時代は本気でゲームクリエイターになりたかった。けどクリエイティブなことがあまり得意ではないことがよくわかったので、俺はSIerの道に進んだのだった。

「雄太、あそこだよ冒険者ギルド!」

 とエアリアが指をさした。
 その方向を見ると、確かに看板に「冒険者ギルド」と書いてある。それも俺が慣れ親しんだ日本語で――。
 でもこれ実際は俺の知りもしない言語で書かれてんだよな。そう考えると、精霊の力ってすごいもんだと思う。

「さ、雄太入ろ?」
「あ? ああ、そうだな――」

 冒険者ギルトの入り口のドアを向こう側に押して開ける。
 すると、そこには人間、エルフ、ネコ耳や犬耳などのケモミミの獣人たちがパーティというのかそれぞれに丸テーブルを囲むように切り株のような椅子に座って、おそらく木でできているのであろう、そんな大ジョッキのようなもので何やら飲みながらあーでもないこーでもないとそりゃもう騒がしい光景が目の前に広がっている。中にはくそバカでかい大剣を背中に担いでいるのもいたし、どうやったらそんなに腕大きくなるんですかと聞きたくなるくらいにぶっとい腕をしてる人もいる。

 けれども、男なら一度はこういう光景に心躍らせるものだろう。何せ、その光景はまさにファンタジーだからだ!

 だけどな、俺たちが中に入って、入り口のドアが閉まった途端、中の喧騒からするとかなり小さな音だったのにその一瞬でそこで騒いでいた全員の鋭い目が俺に突き刺さった。その眼光に、俺はたじろぎそうになっていたのだが、そんな彼らの眼光なんてものともしていないエアリアは「こっちだよ、雄太」なんて言いながら俺の腕を引っ張って行く。
 彼らの視線がずっと俺に当たっている――ように思えてならない。なんかこえーよ――

 ホール内の奥にあるチケット売り場みたいなカウンターまで行くと、今度はカウンターの奥からナチュラルボブのきらきら光るプラチナブロンドな人懐っこそうなお姉さんが「はいどうぞ1」な勢いでカウンターに出てきたので呆気にとられてしまった。

「今日はどのようなご用件で? うわぁ! お兄さん、なんかすごく高級そうな副葬されてますね!」

 と、その受付のお姉さんはまくしたてるように言ってくる。というか、あまり得意じゃない感じの人だな――

「えっと、今日は冒険者登録に来たんですよー!」

 と同じような勢いで答えるエアリア。

「お兄さんもご一緒にですか?」
「はい、2人でおねがいします!」

 スゲー、この会話の勢いに俺入っていけねーわ――

「じゃあ、この用紙に名前と種族を書いてくださいねー」

 と受付のお姉さんが俺とエアリアの2人分の登録用紙を取り出して、それぞれ俺たちの前に置くと、羽ペンもそれぞれの前に置いた。
 つか、羽ペンなんて使ったことないんだけど、これ普通に書けんのかな――

 なんて思いながらエアリアを見てみると、普通にインクもつけずに文字を書いていた。
 これ、インクなしで書けるんだ――これも魔法か何かなのか?

 まあ、ボケッとしてても始まらないので、羽ペンを持って用紙を見てみると、冒険者ギルドの看板と同じように日本語で書いてあった。いや、エアリアの魔法で俺にはそう見えるってだけなんだよな。

 えっと、名前はいいとして、種族って何になるんだろな――と隣のエアリアを見ると、


 名前 エアリア
 種族 風の精霊の冒険者


 っておい、精霊って冒険者になれんの? つか、こういう時はエルフですとか人間ですとか書くんじゃねーの?

 ――あ、俺「人間」だったわ――

 種族に人間と書いて、エアリアに一言言おうかといていたら、

「はい、エアリアさん、風の精霊さんなんですね」

 と、普通に受け入れられてて思わず吹いてしまったんだけども、受付のお姉さん、ギギギ……と油の切れたロボットのように首をエアリアに向けて、

「か、風の精霊さんなんですかー!?」

 とそりゃもう耳鳴りするような大きな声で――しかも受付のお姉さんの大声であれだけ喧騒だったホールが一瞬でシーンと静まってしまった。
 いやまあ、そうなるよねえ――と思ってたら、今度は上の階からダッシュで階段を下りてくる音が聞こえてきて、

「い、いま誰かって言った!?」

 と中年に差し掛かったような女性が青いワンピースドレス姿で上階から降りて来てそう叫んだ。
 しかも、やめときゃいいのにエアリアは素直というか正直というか、

「はーい、アタシだよー!」

 と挙手した右手をブンブン左右に振りながら自ら名乗り出てしまった。

 あー、頭痛い――

 そこからはもう揉みくちゃだった。しかも俺がエアリアと契約した主だとわかるとさらに盛り上がる外野たち。
 いや、俺眠いんですけど――
 さっさと登録済ませて、セクルスだったかセルクスだったかもさっさと売って金にして宿とって寝たいんですけど――
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