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本編
結界と女神
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「…ちょっと待ってくれ。その…なんだ?確認させてくれ。今張ってる結界が第七結界って奴で、それのせいでヒトが滅ぶって言ってるのか?」
「うむ。正確には消滅。この世界から消え失せる、が正しいがな」
にわかには信じられない。
「何か予兆とか、そう言った証拠はあるか?」
「無くはない。と言うより、この地そのものが答えであろう?」
「あ…?」
この地と言われてもこの辺には何も無い。つい最近、狭間の子がいたりしたが、前からポコポコ出ていた訳では無いし、別の事だろう。
「なんだ、わからんのか?ここまで荒れ細った地を見て何も思わぬのか?」
「…まさかそれが答えだと?」
「それ以外に何がある。草木も生えぬ上、生命の息すらどこにも感じられぬ。仮に今すぐ結界を消したところで、向こう百年か二百年はこのまま、命が息づくことが出来ぬ死の地となろう」
「この荒野が結界のせいだと?」
「間違いない。第七結界は本来、術者のあらゆるリソースを消費し、代わりに超広範囲をあらゆる害悪から守る結界。強力であるが故に代償は大きい故、余でもひと月張るのが限度よ」
「だったらこの辺が荒地だってのは関係ないじゃないか?確かに聖女サマの魔力とかを馬鹿食いしてるかもしれねぇけどさ」
「否、あれは何者かが手を加えおった後だ。術者の負担をある程度軽減させておるが、代わりに結界境界周辺の地や生物から力を奪っておる。それそのものは僅かではあるが、土地の力は中々回復せぬ上、五十年も絶えず吸い上げ続けようものなら…このような荒野が出来るわけよな」
当たり前すぎて忘れていた。だが……
「別に結界の周りが全部こんな荒野になってる訳じゃないぞ。まだ余裕はあるんじゃないか?」
「戯け。そんなものある訳がなかろう。土地が死ねばあらゆるものは死に絶える」
「いや、ある。東の結界付近に森が一つ」
そう、俺の住んでいた紅の森は結界の境界地点に触れているのに荒野になるどころか一本たりとて枯れる事すらない。
「む?東…東だと?この場所から見てか?王都から見てか?」
「あぁ、王都から見て。だから最東端の境界部分だな」
「………あぁ、あ奴らか。確かにあいつ共の事を忘れておった。が、関係ない。あの森は例外、そもそも森と呼ぶのも相応しくない。故に他にあの地は参考にならん」
「森じゃないってどういう事だ?」
そう聞くと、システナは少し眉を顰めた。
「言っても構わんが…あの木々は全て元々純血の耳長種共よ。最後までヒトと交わる事を拒絶し続けた者達が木々として永劫の生を与えられつつ、消えることの無い意識と共にただただ生きる事のみを強いられた、哀れな者共の、しかし誰にも見られることの無い見せしめだ」
笑おうとして、喉から声が出なかった。
『エグいことすんなぁ。生きて感覚があるのに何も出来ないってのは本当に辛いからなぁ』
口笛付きでレイヴァーがそう言う。
絞り出すように、辛うじて口を開く。
「……なるほど、土地が死ぬってのは分かった。でも消滅するってのは?」
その二つがどうも繋がりを得ない。
「…貴様、この世界には裏側が存在することを知っておるか?」
声を潜めてシステナが聞く。
「あぁ。俺は《勇者》だぞ。知らんわけがないだろう」
つい最近知ったのだが、そんなことはおくびにも出さない。
「であればそこの説明は不要か。あの結界は元々、術者そのものの全てを消耗していく。魔力や体力だけではない。寿命や五感、記憶や肉体のあらゆる箇所すらもな」
代償が大きすぎる。俺達《勇者》の第七血界とはえらい違いだ。
まぁ、あれもそれなりのデメリットはあるのだが、ここまで酷くはない。
「それが対象を変え、この地そのものにすら狙いをつけるようになりおった。裏と表は正しく表裏一体。不安定になればなるほどあっさりひっくり返る。もしも第七結界がこのまま続けば、結界の中におる者共は全員揃って裏側へと落ちるぞ」
「うむ。正確には消滅。この世界から消え失せる、が正しいがな」
にわかには信じられない。
「何か予兆とか、そう言った証拠はあるか?」
「無くはない。と言うより、この地そのものが答えであろう?」
「あ…?」
この地と言われてもこの辺には何も無い。つい最近、狭間の子がいたりしたが、前からポコポコ出ていた訳では無いし、別の事だろう。
「なんだ、わからんのか?ここまで荒れ細った地を見て何も思わぬのか?」
「…まさかそれが答えだと?」
「それ以外に何がある。草木も生えぬ上、生命の息すらどこにも感じられぬ。仮に今すぐ結界を消したところで、向こう百年か二百年はこのまま、命が息づくことが出来ぬ死の地となろう」
「この荒野が結界のせいだと?」
「間違いない。第七結界は本来、術者のあらゆるリソースを消費し、代わりに超広範囲をあらゆる害悪から守る結界。強力であるが故に代償は大きい故、余でもひと月張るのが限度よ」
「だったらこの辺が荒地だってのは関係ないじゃないか?確かに聖女サマの魔力とかを馬鹿食いしてるかもしれねぇけどさ」
「否、あれは何者かが手を加えおった後だ。術者の負担をある程度軽減させておるが、代わりに結界境界周辺の地や生物から力を奪っておる。それそのものは僅かではあるが、土地の力は中々回復せぬ上、五十年も絶えず吸い上げ続けようものなら…このような荒野が出来るわけよな」
当たり前すぎて忘れていた。だが……
「別に結界の周りが全部こんな荒野になってる訳じゃないぞ。まだ余裕はあるんじゃないか?」
「戯け。そんなものある訳がなかろう。土地が死ねばあらゆるものは死に絶える」
「いや、ある。東の結界付近に森が一つ」
そう、俺の住んでいた紅の森は結界の境界地点に触れているのに荒野になるどころか一本たりとて枯れる事すらない。
「む?東…東だと?この場所から見てか?王都から見てか?」
「あぁ、王都から見て。だから最東端の境界部分だな」
「………あぁ、あ奴らか。確かにあいつ共の事を忘れておった。が、関係ない。あの森は例外、そもそも森と呼ぶのも相応しくない。故に他にあの地は参考にならん」
「森じゃないってどういう事だ?」
そう聞くと、システナは少し眉を顰めた。
「言っても構わんが…あの木々は全て元々純血の耳長種共よ。最後までヒトと交わる事を拒絶し続けた者達が木々として永劫の生を与えられつつ、消えることの無い意識と共にただただ生きる事のみを強いられた、哀れな者共の、しかし誰にも見られることの無い見せしめだ」
笑おうとして、喉から声が出なかった。
『エグいことすんなぁ。生きて感覚があるのに何も出来ないってのは本当に辛いからなぁ』
口笛付きでレイヴァーがそう言う。
絞り出すように、辛うじて口を開く。
「……なるほど、土地が死ぬってのは分かった。でも消滅するってのは?」
その二つがどうも繋がりを得ない。
「…貴様、この世界には裏側が存在することを知っておるか?」
声を潜めてシステナが聞く。
「あぁ。俺は《勇者》だぞ。知らんわけがないだろう」
つい最近知ったのだが、そんなことはおくびにも出さない。
「であればそこの説明は不要か。あの結界は元々、術者そのものの全てを消耗していく。魔力や体力だけではない。寿命や五感、記憶や肉体のあらゆる箇所すらもな」
代償が大きすぎる。俺達《勇者》の第七血界とはえらい違いだ。
まぁ、あれもそれなりのデメリットはあるのだが、ここまで酷くはない。
「それが対象を変え、この地そのものにすら狙いをつけるようになりおった。裏と表は正しく表裏一体。不安定になればなるほどあっさりひっくり返る。もしも第七結界がこのまま続けば、結界の中におる者共は全員揃って裏側へと落ちるぞ」
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