大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

消滅と現在地

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そう言ったシステナは、突然くるりと俺に背を向けて歩き始めた。
「どこに行くんだ?」
「余の目的はあくまで力の回収。最悪、結界が消えずとも、せいぜいがヒトが滅ぶ程度。余は死なぬ。教えることは教えてやったし、ここにいても余の力が戻ることは無い。ならばここに居る意味はないな」
「いや、お前もヒトが消えたら困ることだってあるだろ?」
「さぁ。知らんな。少なくとも余は、今のヒトに価値を見いだせぬ。グルーマルならば知らぬが」
言い終えると、システナの周りが一瞬青く揺らぎ、そして消えた。
「………本当に行きやがったよ」
足音も匂いも何も無い。当然、いくら目を凝らしても見えるのは砂と石だけの荒野。ここに来た時と同じような瞬間移動だろうか。
…あっ。
「…どうすっかな。この人」
視線を落とすと、ぐったりと横たわる英雄殿がそこに。
あれだけ激しい戦闘…いや、戦闘とも呼べないものだったが、あれだけやっておいて怪我一つ無かったということは考えにくい。恐らくシステナがいつの間にか治していたのだろう。
首の周りにあざもないことを確認してそう結論づけ、どうするか少し考える。
いくら英雄と言えど、意識のない状態で深夜の荒野で放置されて生き残れるような存在ではあるまい。しかし、かと言って聖学に連れ帰っても騒ぎになるだけ。
事情もどこにどう説明すればいいかわからん。
というか、そもそもここはどこだ。システナに飛ばされたらしいのは分かったが、どこを見渡しても限りなく広がる砂と石の世界。
「あー、マキナ、現在地わかるか?」
『星の位置・及び地形から推測。聖学より・北西へおよそ二百八十キロ地点です』
「北西二百八十キロ…飛ばされたなぁ」
遠すぎて戻る方法も気力も湧かん。いや、そのうち戻るけど、今すぐどうこうしてぱっと帰れるものでもないしなぁ。
今の俺の足で最速…三日か?もう少し早いか。勇者の力を使えばさらに早いだろうが、それでも一日はかかる。
しかしなぜここなのだろうか。あまりにも遠すぎるので、何か意図して飛ばしたのだろうが…いや、相手は神だ。意味もなく、ただの気まぐれで飛ばした可能性も充分ある。
「なんにせよメッセージで連絡を…いや、この距離ならメッセージを飛ばすより走った方が早いのか…?」
『マスター・提言しても・よろしいでしょうか』
「珍しいな。いいぞ」
いや、珍しいというか初めてかもしれん。ともかく聞いてみるだけ聞いてみるか。
『一度西学の宿舎へ寄り・フィール・ハウナ様を預け・休息を取ってから・出るのはいかがでしょうか』
「ああん?」
思わずこんな声が出てしまったが、別にマキナの提案が悪かった訳では無い。
「西学ってこの辺なのか?」
というそれだけの事である。ぶっちゃけ、存在を忘れていたので驚いただけだ。 
「ここから・約五キロ地点です」
それぐらいなら丁度いいか。
「じゃあそっち行くか。ナビ頼む」
『了解しました』
ハウナを髪で拾い、俺は西学を目指して歩き始めた。
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