大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,312 / 2,021
本編

義肢使いと剣士

しおりを挟む
最初に動いたのはユーリア。やはりリーチ的にどうしても距離を詰めないと無理か。
セラの槍は彼女の身長とほぼ同じ。普通に考えれば、握る箇所的にほぼ同じリーチになるのだが……
彼女はその端を片手で持って、難なく突き、払いを繰り出す。
「はぁ!?」
この挙動に驚いたのはユーリア。そりゃそうだ。常識と照らし合わせれば全くもって有り得ないような行動だから。
しかし槍の速度は凄まじく、風を切る音がここまで聞こえるほど。当たればかなりのダメージになるだろう。
「…やり過ぎたかね」
「セラ、義肢をつけてからしばらく、マイ先生から物を握ることを禁止されてましたからね…スプーンすらダメだって言われてました」
「だろうなぁ…あの義肢、通した魔力の約四倍の筋力ちから出すし」
「…はい?四倍…ですか?」
「アーネが計算したらそれぐらいだってよ。間違いはないと思う」
アーネの指示で作った、魔力を利用して義肢を動かすあのコネクタだが、慣れればかなりの精度で義肢を扱えるらしい。
とんでもなく雑で極端なことを言えば、魔力で作られた腕や足とでも思ってくれればいい。あるいは俺の髪のようなものか。
で、察しのいい奴なら分かると思うが、魔力の出力を上げれば、義肢の力が上がる。あんな持ち方をすれば、魔力消費も本来ならかなり持っていかれるはずだが、俺の義肢は特別製。ナナキが使っていたものとほとんど同じものだ。
つまり、あの義肢単体でも似たような機構が仕込まれている。まぁ、その機構を動かすのにナナキのスキルが必要だったワケだが…それをアーネが作ったコネクタが解決した。
その結果、コネクタから出る魔力によるパワーと、俺が義肢に仕込んだ素のギミックの両方が作用し合うと言う珍事態に陥った。
最初、アーネと作った時はまぁ大丈夫だろうと思ったが、今見てるとかなり酷い性能だよなと心底思う。
十数秒程ひたすらユーリアが攻撃を弾き、回避しと受けに回り続ける。
「ちょっ、レィアこれっ!?無理だろ!」
フィールドの中から悲鳴が上がる。もちろんユーリアだ。
「余裕余裕。お前なら行けるって」
「どこら辺が余裕か教えてもらおうか!?」
「喋ってる間は余裕だろ」
それに──本当に認めたくない癪な話だが──ユーリアは本物の天才だし。
セラも気づくだろうか。いや、気づいていないはずがない。

決して仕留められる様子はないユーリアが、なぜ十数秒してから俺に喋りかけてきたのか。
答えは至極単純。セラの攻撃を捌くのに余裕が出来てきたからだ。
「あともって五秒ってところだな。そろそろユーリアが突破する」
「え?」
直後、ユーリアが動いた。
カァン!と心地良さすら感じる音と共に槍を弾き落とし、一気に踏み込むユーリア。
「おぉ、やるぅ」
「嘘…」
セラの手には武器はない。いや、即座に槍を放棄し、腰に吊り下げてある手斧を取った。だが遅い。
「ふッん!」
ユーリアの横一閃。だがそれを義手の手の甲で逸らし、致命的なダメージを回避。そして今の隙に握った手斧をユーリアに叩き返す。
だが対するユーリアもさすが二つ名持ち。
崩れた体勢をさらに崩すようにローリング。慌てて振られた斧は虚空を切った。
「結構接戦だな」
「魔法か二本目さえ使えればなぁレィア!!」
なんだ、前言撤回。
割と余裕そうじゃん、ユーリア。
しおりを挟む

処理中です...