大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

双刃と双剣

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それは突然だった。
シエルがナイフを二振り出した瞬間、彼女がそのまま俺に襲いかかって来たのだ。
小さい身体を僅かにたわめ、つま先で地面を弾いて超加速するような鋭い突進。
狙いは真っ直ぐ俺の首。
一直線上にある全てのものを切断する勢いで、シエルがその身体能力を十全に発揮して跳んだ。
「っ、おぉ!?」
咄嗟に上体を反らせ、並々ならぬバランスと体幹で弾丸のような攻撃を回避。すれ違う瞬間、手を伸ばしてシエルを掴み、上へと飛んでいく彼女の進路をやや変更して地面の方へと投げる。
「あっぶね」
「俺とやってみるか?」と言った直後の事だ。フィールドも無ければ《千変》も付けてない。当然、金剣銀剣もまだ収納中。もしも当たっていれば普通に死んでたか、あるいは致命傷になっていた。
だが……
「………。」
何故だろう、彼女から殺気と呼ばれる類のものが全く感じられない。殺す気で挑んではいるが、殺すという意思はない。なんとも滅茶苦茶だがそう感じる。事実、金に輝く瞳からは前からあった信頼のようなものを感じる。
じっと見つめてもシエルはなにも言わない。きっと何を聞いても答えないだろう。
彼女特有の四足になりそうな程の前傾姿勢のまま、ただただじっとこちらを見ている。
「…そうか」
俺はようやく理解した。
「あぁそうだ、一試合だけやるって言ったもんな。待ってんだよな、お前もそれを」
だからと言って急すぎやしないかと思うが。もう少し俺になにか言ってくれてもいいと思うのだが。
あるいは言えないのか?頼れないのか?誰も。俺すらも──俺だからか?
……いや、今はよそう。こう言った考え事は戦いの中では動きを鈍らせる原因になる。
金剣に触れ、いつものように千切ろうとして──止める。
シエルには銀剣がいい。そう思った。
甲高い、金属が砕け散るような音が暗い訓練所に響く。
恐ろしく重い銀剣は、元々俺の双剣より早かったシエルのナイフと戦うにはあまりに不向きだ。これ以上に不利な武器が手持ちであるとすれば大銀剣か。
しかし、彼女と戦うなら双剣がいい。シエルも形や動きは違えど双剣。何らかの指針になればいい。
これは訓練だ。模擬戦だ。練習だ。見せて覚えさせ、そしてまだ上があると気づかせる。
光が消え、手に握る銀剣の柄がずしりと重くなった。やっと完成したか。
「いいぜシエル。やっとだ。待たせたな。来いよ」
ゆるりと腰を落とす。本来なら相応の構えを取りたいが、重すぎるこの剣を自力で持ち上げるのは不可能。ただ握るのが精一杯。
そう、今の俺はマキナも全く発動していない。ただただ純粋な「レィア」としての勝負だ。思えば一体いつぶりだろうか。
「……ん」
それに満足したのか。シエルがついに地を駆けた。
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