大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

赤靴と銀甲 終

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『今のでお前の喉に私の欠片ピースを埋め込んダ』
つい一分程前の女の言葉が脳裏を過った。
そうか、こいつのスキルは身体を欠片にしてバラす能力。そのバラした欠片をどこかに入れた後に復元すれば、今みたいに攻撃にも転用出来るのか。
「あーア。だから言ったのニ」
背後から声をかけられた。
顔だけ振り返ると、無数の小さな欠片が寄り集まり、ひとつの人型を作り上げている途中だった。
「痛いだろウ?今楽にしてやるから動くナ」
カツンコツンと足音がこちらへと寄ってくる。
冗談抜かせ。
そう言いたいが、喉から空気が抜ける。呼吸するだけで精一杯だ。穴を塞がなくては。何で?どうやって?
答えは一瞬で出た。
引き剥がした装甲を素早く潰し、荒々しく喉を叩くように穴へねじ込む。
「何ヲ……!?」
マキナが血を吸い、魔力を吸い、喉に根を下ろすように張り付く。これで穴は塞がった。呼気が喉から漏れることは無い。
「ぜってぇ、ぶん殴る」
血呪の出力をさらに上げる。
伏せた状態から跳ね起き、勢いそのまま裏拳を繰り出す。
しかし女は、それをまた当たる直前に身体をバラして回避。当然手応えはない。
「驚いたナ。無理矢理穴を塞いだカ」
どこだ。どこにいる。
声は聞こえる。しかし四方八方から。
後ろから聞こえても姿はなく、右と左から同時に聞こえるような気もするし、その裏をかいて本体は別の所に出てきてもおかしくはない。
「分かっているだろウ?お前では私に勝てなイ。技術や力量の差では無く、純粋に相性の問題ダ」
相手のスキルと物理攻撃しか出来ない俺とでは相性が絶望的に悪い。金剣解放すれば対応出来なくもないが…そんなことをすれば職員室の机が全て吹き飛ぶ。もう手遅れな気がしないでもないが。
俺の攻撃は躱されるのに、相手の攻撃は一発貰えば次はもうない。たとえば、背中から胸に向けて腕でも生やされたら、内臓をぶち破ってそのまま死んでもおかしくない。喉から指が出てきたのはかなりのダメージがあったが、恐らくそれですら威嚇だ。
本気で殺す気なら、もっと確実に鼻から欠片を入れて頭に何か具現化させればそれで終わりだ。
相手に殺す意思がハナから無いのか、それとも今は無いのか…いや、どの道次がラストチャンスか。
「大人しくしていれば私が楽にしてやル。痛みなんてないゾ」
油断している今なら勝機はある。たった一撃だ。一撃さえ入れることが出来れば、あの女を沈めることが出来る。
だが。
ここに来て血呪、及び血瞬の代償が来た。
すなわち、膨大な量の血を消費し過ぎたことによる貧血。
血瞬は極わずかな使用だったが、血呪は常時発動させていた。平時ならもっともっただろうが、今回は無駄に使いすぎた。
息が切れる。目眩がする。頭がキリキリと痛み、まだ何も終わっていないというのに凄まじい倦怠感が身体を包む。
身体が限界に達そうとしている。もう少しだ、もう少しもってくれ。
「オ?抵抗しないのカ?」
カツン、コツンと足音が、後ろから近づいてくる。
「じゃア──」
「くらえ」
右の拳を、今度は裏拳などではなく正拳で放つ。
そこに戦技アーツと血呪も乗った一撃は──あっさりと蹴落とされた。
「それで終わりカ」
いや。
蹴落とされた拳をそのまま床に突き刺す。
「ン?」
座ったまま、というのは拳を繰り出す上では非常に都合が悪い。加えて相手は真後ろからやってきた。威力も足りなければ狙いも声で判断するしかなかった。
だが。
地面に突き刺した瞬間、そこを中心に、倒立。
「ハ?」
身体を捻って回転しながら横薙ぎの蹴りを放つが、俺の足では明らかにリーチが足りない。
しかし。
俺の髪なら届く。
一瞬の隙を突いて引っ掛けた髪が、回転によりいつもより素早く引き戻される。
クンッ!と突然強く引かれる身体に、女が対応し損ねた。
身体を崩し、前のめりになった顎に、俺の蹴りが突き刺さった。
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