大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

金切り声と回収

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階段を三十段ほど降りた先に、扉がぽつんとあった。
ノックもなしにそれをピィが開けると、真っ先に中から飛んできたのは怒声。
もはやなにを喚いているか分からないキンキン声。しかし少し聞いたことのある気がする。
首を傾げながら扉の先に入ると、まず最初に目に入るのは大量の紙。山のように積み重ねられ、唯一らしき机の上にも下にも壁にも紙が置かれたり貼られたりしている。紙に覆われていないのは床の僅かな面積のみ。視界に入るほぼ全てに紙があった。
「すっげ」
領土の問題で木そのものがかなり高額なのに、それを使った紙がこれだけあるのは正直目を疑う。
紙に書き込まれているのは何かの数式のようなものや部屋の主の走り書いたメモ書き、グラフや何かの設計図のようなものまであった。
…さて。
問題は今、俺が部屋をのんびり見渡していた時もずっと、絶え間なく続いていたキンキン声。どうやら罵倒というか愚痴のようなものを興奮気味にぶちまけているようだ。
だが、ちょうど紙の山とピィが邪魔で誰か見えないので、後ろから覗き込んで声をかけてみる。
「おいピィ、どうかしたのか──ん?」
「チッ。また来たのねアンタ。どういう理由でこんな所まで来たのかしら」
そこに居たのは、前に俺の金剣と銀剣についてメッセージを飛ばさせたチビの研究員。
「俺だって望んで研究所に来たわけじゃねぇよ。ピィに連れてこられた」
「あら?あらあらぁ?もしかして学校の中でも指折りの実力者である《緋眼騎士》ともあろうお方が…まさかまさか、彼女に負けたのかしらぁ?」
「………あぁ。その通りだ」
「…い、意外と素直ね。なんか拍子抜けしたわ」
「で、マキナはどこだ?」
キョロキョロと見回すが、マキナの銀に光る姿はどこにも見当たらない。
「どうせ奥の実験室だロ。私が持って来ル」
「えぇ、頼むわ。私じゃ、あの鉄塊を運ぶだけで息が切れるし」
「息が切れるってお前…マキナの総重量はせいぜい十キロぐらいだろ」
ちなみに、十キロというのはマキナの魔力が切れて起きていない時の素の重さだ。いつも腰に下げてる時は重力魔法でもっと軽くなってる。
「十二キロと八グラムね。私からしたら充分過ぎるほど重いわよ。研究所ならみんな私に賛同してくれると思うわ」
「今しがた部屋の奥に行ったピィは?」
「彼女は…研究で構われなかったから、ひたすら身体を鍛えた少し変わった子よ。あの子みたいなのは他にいないから。いいね?」
なんだそりゃ。なんでそうなったんだ。
「ほラ。持ってきたゾ」
と言って投げられる銀の鎚。
「いやふざけんな馬鹿野郎!」
俺だって十キロ超の金属の塊をぶん投げられて、軽々とキャッチできるかと言われると結構微妙。即座に髪を伸ばしてキャッチし、腰に下げる際に見えないように軽く血を塗る。マキナの意識を起こすにはもう少し要るが、重量軽減程度なら俺の血一滴で二、三日はもつ。
「で、質問タイムに戻りたい訳だがいいか?」
「私は構わんゾ。答えられる限り応えよウ」
「そもそも、なんでそんなにキッチリ答えてくれるのかが俺は不思議でならんのだが…」
「何、ピィあんた何も教えてなかったの?」
「どうだったかナ…言った気がするんだガ…」
小さい女研究員の方がため息をつく。
「《緋眼騎士》、頭の宜しくないアンタに分かるよう一言で言ったげるわ。私達はアンタの味方よ」
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