大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

着地と眼

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第六血界《血瞬》…勇者のみが持つ、その特異な血を媒体とした血界という能力の中でも非常に攻撃的な能力であり、またその取扱が極めて難しい。
効果としては非常に簡潔で、「勇者の速度を限界を超えて加速させる」能力。もちろん非常に強力なのだが、一つだけ欠点がある。
勇者そのものが加速したところで、本人が加速した世界をまともに知覚できないのだ。
分かりやすく言うと、「早すぎて何が起きてるか分からない」といった事態が起こる。それは緋眼を使っても変わらないし、身体能力という幅広い強化を行う《血呪》を併用しても変わらない。
むしろ血呪を使うなら、その能力も相まり、さらに加速は酷くなる。
だから俺は練習した。
初めは大体二倍速。そこから三倍、四倍、恐らく二十倍辺りが《血瞬》の限界だと分かると、次は《血呪》も併せての反応を見て行った。
加速は文字通り加速度的に早くなり、二十倍が当たり前の世界に入った。
そこからさらに血の滲むような努力をして、今感覚で掴めるのは百二十倍の加速が限界か。
と言っても、実際に全てが見えている訳では無い。「この辺りで血界を解除すれば壁にぶつかってミンチにならなくて済む」という感覚が分かっただけだ。
しかも血界は馴染めば馴染む程に深度を増す。練習の最中でもそれは感じられた。
つまりまだまだ成長の余地があるのだ。俺がブレーキを踏んでいるだけで。
とはいえ、今は百二十倍も要らない。そもそもその百二十倍だって使い道が分からないほど早い。
今回使ったのはせいぜいが四十倍前後、目視だって余裕だ。
──長々と語ってしまったが、要は俺が凄まじい勢いで宿舎の窓に飛び込み、見事着地を決めた、という話をしたかったのだ。
………そう、
ただ一点、予想外の事が起きた。
俺の予想着地地点に、何者かが飛び込んで来たのだ。
それは全くの偶然、事故とでも言うような出来事だった。
「!?」
四十倍程度なら目視は出来る。だが、この距離では回避のためのアクションが間に合わない。
既に俺は着地の準備として身体をひねり、足を向けている。
この速度で当たれば、血呪で強化されている俺は無事でも、飛び込んだ相手は無事では済まされない。
それでも。
「くっそ!!」
咄嗟に蹴りそうになった対象に足が触れた瞬間、足先で無理矢理押し、俺の着地点から少しでもずらそうとする。
当然完璧には上手くいかない。明らかに何か異質なものを踏み抜き、床に血肉のペイントを施しながら俺が宿舎に入る。
同時に耳をつんざくような叫び声。
血界を解除し、声の方を見ると、綺麗な金髪の女が絶叫を上げ、俺の方を憎々しげに睨んでいた。
「れ、レィアさん!?早すぎじゃないですか!?」
少し視線を右奥の方へ向けると、ボロボロになりながらも戦っていたのだろう、ニケが俺をポカンとした顔で見つめていた。
部屋の中にはたった三人。
俺、ニケ、金髪の女。それぞれが丁度離れており、三角形のようになっている。
部屋自体はどうも広い。空き部屋だったのか、それとも掃除されたのか、物は何一つ無く、ただただ殺風景でだだっ広い空間が広がっている。
「あっちか」
「え、あ、はい」
あまりにとんでもない出来事だったからか、ニケが素でそう答える。
「………………………………ははぁん、そうかそうか」
女は喋りもしない。ただただ俺に踏まれた左腕を押さえつつ、こちらを睨み続けているだけ。
「お前、虫入ってないな?」
「えっ」
俺は質問でもなんでも無く、ただの確認としてそう言った。
「いやぁ、まさかこんな所で会えるたぁな。おいニケ、下がってろ」
「え、でも二人で…」
「今この瞬間まで本気で戦えない奴は邪魔だ!とっととすっこめ!」
「っ!?」
金剣を出し、鎧を纏い、すっと構える。
「わかり、ました」
戸惑うニケが逃げ、それを追おうとする女に対し、俺は再び血呪を使って反応、それを阻止する。
「ッ!」
「お前の相手は俺だ、よッ!」
一度女をぶっ飛ばし、再度距離を詰める。
俺の金剣を銀の短刀で受け止め、鍔迫り合いになった時、女の瞳を覗き込んだ。
赤くて暗い、死んだ血のような濃い赤の色。
その目、そして身に秘めた魔力。
「魔族…に、しちゃ随分と魔力が少ない。しかしヒトではありえないような魔力量…ハーフか?」
「ッ!?」
ここに来て、ようやく相手の表情から怒りや憎しみとは違う色が出た。
剣を受け流され、蹴りを入れられる直前に身を屈め、代わりに下腹部に拳を一度叩き込んで僅かに距離をとる。
「当たりだな?」
その言葉に、相手は沈黙で返した。
俺は金剣を両手で握り直し、剣を振り下ろした。
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