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本編
嘘と獅子
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出られませんでした。
ニケにお願いした包帯やその他諸々を借りつつ、自分の傷口をいつものように縫った後、それじゃあ俺このまま出てくからと言って出ようとした時にガロンが来た。
眉間に深いシワを寄せ、ゆっくりと一直線に俺へ向かって来ているのを見て、何が起きたかは知っているのだとすぐに理解した。
「話は聞いている。少しいいか?」
豪快な男、という印象は綺麗に消え去った。これが大隊長としての彼なのだろう。
「悪いが今からこの都市を出る所でね。また今度にしてくれ」と言いたい所だったが、どうもそれを許してくれる空気ではない。
「やれやれ、一応怪我人なんだがね」
「喋る程度なら大丈夫だとニラルケ隊長から聞いておる。そう時間はかからん。安心してくれ」
…ここで無理矢理断るのもおかしいか。状況的に証人が俺一人しかいないので、強く断りすぎると逆に怪しまれる。
向こうも大隊長として正確に話を聞きたいだけだろうし、都市を出るにしても、一日遅れたぐらいなら調節出来るか。
断る方がデメリットが大きいので、仕方なく頷く。
「場所、変えるか?」
「それには及ばん。が、そうじゃな。そちらの方が都合がいいなら…全員下がってくれ」
ガロンがそう言った途端、数人いた隊員は全員十メートル程下がり、さらにガロンが指を鳴らすと、風の壁が出来上がる。
が、それだけだ。特別うるさい訳でも、風故に視界を遮る訳でもない
「この壁はな、こちら側からはなんとも感じられんが、向こうからするとかなりビュウビュウと煩い。気にせず喋るといい」
「そうか。んじゃ一個確認したいんだが、どこまで話をニケから聞いた?」
「一通りは彼女から聞いた。簡単なあらましだけじゃがな。が、又聞きよりも当人から聞いた方がずっとよかろう。全部聞かせてくれんか?」
「全部か…そうさな…」
俺は頭をガリガリと掻きながら、ニケに話した事をもう一度ガロンにも話した。
その間、ガロンは一度も口を挟まず、じっと俺を見ていた。
「──こんな感じか。ま、ニケから聞いた話と大体同じだろうが」
「成程、君は嘘が上手いな」
ガロンの第一声がそれだった。
「実に上手い。目も逸らさないし、かと言ってこちらを凝視することもない、変に身振り手振りが増える訳でも、足が妙に動く訳でもない。至って自然体だ。しかし嘘に敏感なニケ君が、嘘つきにこうも信頼を置く訳が無い。だからこそ、この巧みな嘘に騙されたか。つまるところ、君はきっと正直者で、それ以上に器用なのだろうな」
「……何を」
「だがね、レィア君、ワシは本当の事を聞きたいんだ。包み隠さず、本当のことを言ってくれ」
見た目は三十を過ぎた程度、与えられる第一印象は騒がしい獅子だったその男。
その瞳を覗き込むと、見た目よりもずっと歳をとっているのだと、今気づいた。
「さしずめ、老獅子か」
思わず呟くと、ガロンが応じた。
「左様、見た目は若くとも老いぼれたただの獣じゃ。じゃがのう、それ故に若造よりも臭いに敏感なんじゃよ」
ニケにお願いした包帯やその他諸々を借りつつ、自分の傷口をいつものように縫った後、それじゃあ俺このまま出てくからと言って出ようとした時にガロンが来た。
眉間に深いシワを寄せ、ゆっくりと一直線に俺へ向かって来ているのを見て、何が起きたかは知っているのだとすぐに理解した。
「話は聞いている。少しいいか?」
豪快な男、という印象は綺麗に消え去った。これが大隊長としての彼なのだろう。
「悪いが今からこの都市を出る所でね。また今度にしてくれ」と言いたい所だったが、どうもそれを許してくれる空気ではない。
「やれやれ、一応怪我人なんだがね」
「喋る程度なら大丈夫だとニラルケ隊長から聞いておる。そう時間はかからん。安心してくれ」
…ここで無理矢理断るのもおかしいか。状況的に証人が俺一人しかいないので、強く断りすぎると逆に怪しまれる。
向こうも大隊長として正確に話を聞きたいだけだろうし、都市を出るにしても、一日遅れたぐらいなら調節出来るか。
断る方がデメリットが大きいので、仕方なく頷く。
「場所、変えるか?」
「それには及ばん。が、そうじゃな。そちらの方が都合がいいなら…全員下がってくれ」
ガロンがそう言った途端、数人いた隊員は全員十メートル程下がり、さらにガロンが指を鳴らすと、風の壁が出来上がる。
が、それだけだ。特別うるさい訳でも、風故に視界を遮る訳でもない
「この壁はな、こちら側からはなんとも感じられんが、向こうからするとかなりビュウビュウと煩い。気にせず喋るといい」
「そうか。んじゃ一個確認したいんだが、どこまで話をニケから聞いた?」
「一通りは彼女から聞いた。簡単なあらましだけじゃがな。が、又聞きよりも当人から聞いた方がずっとよかろう。全部聞かせてくれんか?」
「全部か…そうさな…」
俺は頭をガリガリと掻きながら、ニケに話した事をもう一度ガロンにも話した。
その間、ガロンは一度も口を挟まず、じっと俺を見ていた。
「──こんな感じか。ま、ニケから聞いた話と大体同じだろうが」
「成程、君は嘘が上手いな」
ガロンの第一声がそれだった。
「実に上手い。目も逸らさないし、かと言ってこちらを凝視することもない、変に身振り手振りが増える訳でも、足が妙に動く訳でもない。至って自然体だ。しかし嘘に敏感なニケ君が、嘘つきにこうも信頼を置く訳が無い。だからこそ、この巧みな嘘に騙されたか。つまるところ、君はきっと正直者で、それ以上に器用なのだろうな」
「……何を」
「だがね、レィア君、ワシは本当の事を聞きたいんだ。包み隠さず、本当のことを言ってくれ」
見た目は三十を過ぎた程度、与えられる第一印象は騒がしい獅子だったその男。
その瞳を覗き込むと、見た目よりもずっと歳をとっているのだと、今気づいた。
「さしずめ、老獅子か」
思わず呟くと、ガロンが応じた。
「左様、見た目は若くとも老いぼれたただの獣じゃ。じゃがのう、それ故に若造よりも臭いに敏感なんじゃよ」
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