大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
373 / 2,021
本編

説得と咆哮2

しおりを挟む
それに気づいたのはシャルだった。
『周りに注意しろ!何か始まるぞ!』
ずっ………ずずっ、ずっ…。
彼女が獣のように吼えた直後の事だった。
足元を何かが這い回る感覚。
いや、訂正。文字的には足元でも意味は変わらないが、今回は足下って言った方が正確。
つまり、俺が何かの上に乗ってる訳で。
「ッチ」
ひとまず、うごめく何かから逃げるため、バックステップ。
が、しかし。
「!?」
逃げた先の地面にも、うぞうぞと蠢く何かがいた。
「ま、じ、か、よ!」
本格的に鉄を操るスキルか?こんな大規模な魔法を無詠唱ってことはまず有り得ないし。そもそも、魔力が流れてないことは見りゃわかる。魔法が使われた訳では無いか。
全力でジャンプし、右の黒剣を髪に掴ませ、天井目掛けて斜めに振りかぶる。黒剣は鉄を易々と貫き、天井からぶら下がる。
本来なら格好の的だが、彼女は俺を狙う余裕はないらしい。
『…血か』
シャルが呟く。
『床には大量の血があったから、多分、スキルは血を操るスキルだな。命名するなら《操血そうけつ》ってところか。多分、持ってるナイフもそうだろ』
まさに血のようじゃなくて、普通に血そのものだったのか。
血をナイフ状に変形させればスキルの恩恵で硬度を付与、普通に刃物としても扱える、って事か。
『だろうな。多分、今使ってるのは本人の血じゃなくて魔獣の血か。それならこの血の量でも死んでない理由に納得がいくか』
そのあたりが俺のスキルと違う所か。本人の血だけでなく、血そのものを扱うスキル。
……いや、納得行くかよ。
『あん?』
この血の量、並の魔獣二、三体なんてモンじゃねぇぞ…!
目の前で出来上がっていくのは血で出来た真っ赤なナニカ。
顔は猪、体は牛で足は…豚?額には雄々しい一対の角までついてる。
そんな見たこともない化物が体高だけで俺の三倍ぐらい。天井スレスレだ。
『…無理矢理分類するなら、キメラの一種か?』
呑気に言ってる場合じゃねぇ!
位置的にキメラの角の位置が俺の位置と完全に重なってる。
つまり。
「ブフォォォォオオオオォォォ!!」
醜い声を上げてキメラが突っ込んできた。
『回避を!』
出来るかバカ!このまま突っ込めば後ろのアーネがぶっ飛ばされかねん!!
シャン、と音を鳴らしながら黒剣を天井から引き抜き、二本を合わせるようにして構える。
「《烙葉らくよう》!」
回転しながら落ちる俺の黒剣が、キメラの巨大な角、その一本と衝突し、一瞬の拮抗の後──断ち切り、そのまま足も裂く。
「よし!」
『馬鹿!油断すんな!』
断ち切った角が空中で赤黒いナイフに変化。俺の方へと一直線に飛んでくる。
「ッ!」
ギリギリの所で回避、したのだが。
ほんの少し。傷と呼べないようなかすり傷。
木の葉で切ったような傷が、俺の脇腹に薄く血を滲ませた。
瞬間。
ごぱっ、と。
そこから一気に血が吹き出た。
しおりを挟む

処理中です...