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本編
移動と屋根上
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屋敷を出る前に、ユーリアに一言言ってから出るついでに、ふと思ったことを興味本位で軽く聞いてみる。
「お前とかお前の親父さんって耳いいけど、それってやっぱり種族的なモンなのか?」
「ん…まぁ、耳長種は平均よりかはいいだろうが、私は特にだな。ただ、父は訓練したから私より何倍もいいらしいぞ。あと父は耳長種じゃないと前に言っただろう」
そういやそうだった。だとしたら、ユーリア達程とは言わないにしろ、あの尖った耳はなんなのだろうか。
「つー事は、さっきの会話は聞こえなかった訳だな」
「はは、間違っても盗み聞きなんてしようとも思わないさ。万が一それで機密情報でも拾ってしまったら…」
そう言って肩を竦める。過去に何かあったのだろうか。
ともかく、また後日聖学で会ったら手合わせしてくれというユーリアを適当に流しつつ、メッセージで今から馬車に向かうと一言入れてから屋敷を出る。
向かった先でアーネ達と合流し、馬車に乗って揺られ、南の第一都市で宿を取ってその日は終わり。
その翌日から再び馬車を飛ばしつつ聖学に向かう。
最早懐かしいとまで言えるような荒地が見えてきた所で、御者が再度俺に話しかける。
「あのぅ…ここから先は非常に危険なので、出来たらその、中に入っていただけると…」
「ん…いや、むしろ俺が外にいた方がいいな。対魔獣用の道具が仕込んであるつっても、衝撃は結構なモンだし」
「は、はぁ…?ですから、中にいた方が安全なので──」
「もし魔獣が来たら、ぶつかるより先に俺が処理するよ。安心してくれ」
「いやですが…えっ、お嬢様!?」
「…ん?」
にゅん、と下から出てきた手が馬車の屋根の縁を掴み、アーネの顔が見える。が、揺れる馬車の上では不安定で登れないらしい。「お嬢様、危ないのでおやめ下さい!」という御者の必死な声も聞こえる。
「…来るか?」
「…行きますわ」
仕方なく溜息をつき、近づいて手を取って引っ張りあげる。もちろん、俺より重いアーネを引き上げるのは中々に難しいので、髪も使う。
が、逆に力が入りすぎたらしく、後ろに転びかけた。崩れた体勢を髪で支えようとするが、アーネも一緒に倒れ込んだせいで髪が足りず、押しつぶされる。
「お嬢様!?レィア様!?大丈夫ですか!?」
「こっちは大丈夫だ。手網きっちり握ってろ」
御者に向けてそう言ったあと、小声でアーネに「大丈夫か?」と聞く。
「心臓やたらと早いが。なんかあったか?」
「いえ何も!」
結構な俊敏さを見せつつ身体を起こすアーネ。
「貴方…思ったより細くて引き締まった身体してますのね」
「まぁな。ナナキに針金を束ねたような身体を作れって言われたしな」
曰く、筋肉量ではなくその質をどうにかしろと。デカいだけの筋肉は関節の可動域を狭めるからとか何とか。
「男の子…なんですわね」
「骨格はほぼ女レベルだがな。ふざけやがって」
要は驚く程華奢なのだ。この身体は。それこそ女と間違われる程。
「で、なんかあったのか?」
「そうですわね、少しだけ。シエ──」
その瞬間、俺とアーネの丁度ド真ん中に何かが凄まじい勢いで突っ切って来た。
その正体を目視した瞬間、俺はそれが馬車の屋根に突き刺さる前に掴み、引き寄せ、確保する。
「な、何ですの!?」
「学校長から急ぎの連絡だ。この距離は近距離メッセージなんか届かねぇからな」
逆に言うなら、近距離メッセージなんか届かないこの距離まで矢を飛ばしてくると言うのが普通はありえないのだが。いやまぁ、学校から紅の森まで飛ばしてきたけども。あの学校長。
ともかく、ペキリと矢を折ると、中から紙が出てくる。
覗き込もうとするアーネに待ったをかけ、ざっと中を読んで険しい顔をする。
「どうしましたの?」
「二つ名の仕事だ。この時期に面倒な…いや、この時期に先に済ませる方が楽か…?」
そこに書いてあったのは、新しい二つ名持ち候補が出たという旨の事だった。
「お前とかお前の親父さんって耳いいけど、それってやっぱり種族的なモンなのか?」
「ん…まぁ、耳長種は平均よりかはいいだろうが、私は特にだな。ただ、父は訓練したから私より何倍もいいらしいぞ。あと父は耳長種じゃないと前に言っただろう」
そういやそうだった。だとしたら、ユーリア達程とは言わないにしろ、あの尖った耳はなんなのだろうか。
「つー事は、さっきの会話は聞こえなかった訳だな」
「はは、間違っても盗み聞きなんてしようとも思わないさ。万が一それで機密情報でも拾ってしまったら…」
そう言って肩を竦める。過去に何かあったのだろうか。
ともかく、また後日聖学で会ったら手合わせしてくれというユーリアを適当に流しつつ、メッセージで今から馬車に向かうと一言入れてから屋敷を出る。
向かった先でアーネ達と合流し、馬車に乗って揺られ、南の第一都市で宿を取ってその日は終わり。
その翌日から再び馬車を飛ばしつつ聖学に向かう。
最早懐かしいとまで言えるような荒地が見えてきた所で、御者が再度俺に話しかける。
「あのぅ…ここから先は非常に危険なので、出来たらその、中に入っていただけると…」
「ん…いや、むしろ俺が外にいた方がいいな。対魔獣用の道具が仕込んであるつっても、衝撃は結構なモンだし」
「は、はぁ…?ですから、中にいた方が安全なので──」
「もし魔獣が来たら、ぶつかるより先に俺が処理するよ。安心してくれ」
「いやですが…えっ、お嬢様!?」
「…ん?」
にゅん、と下から出てきた手が馬車の屋根の縁を掴み、アーネの顔が見える。が、揺れる馬車の上では不安定で登れないらしい。「お嬢様、危ないのでおやめ下さい!」という御者の必死な声も聞こえる。
「…来るか?」
「…行きますわ」
仕方なく溜息をつき、近づいて手を取って引っ張りあげる。もちろん、俺より重いアーネを引き上げるのは中々に難しいので、髪も使う。
が、逆に力が入りすぎたらしく、後ろに転びかけた。崩れた体勢を髪で支えようとするが、アーネも一緒に倒れ込んだせいで髪が足りず、押しつぶされる。
「お嬢様!?レィア様!?大丈夫ですか!?」
「こっちは大丈夫だ。手網きっちり握ってろ」
御者に向けてそう言ったあと、小声でアーネに「大丈夫か?」と聞く。
「心臓やたらと早いが。なんかあったか?」
「いえ何も!」
結構な俊敏さを見せつつ身体を起こすアーネ。
「貴方…思ったより細くて引き締まった身体してますのね」
「まぁな。ナナキに針金を束ねたような身体を作れって言われたしな」
曰く、筋肉量ではなくその質をどうにかしろと。デカいだけの筋肉は関節の可動域を狭めるからとか何とか。
「男の子…なんですわね」
「骨格はほぼ女レベルだがな。ふざけやがって」
要は驚く程華奢なのだ。この身体は。それこそ女と間違われる程。
「で、なんかあったのか?」
「そうですわね、少しだけ。シエ──」
その瞬間、俺とアーネの丁度ド真ん中に何かが凄まじい勢いで突っ切って来た。
その正体を目視した瞬間、俺はそれが馬車の屋根に突き刺さる前に掴み、引き寄せ、確保する。
「な、何ですの!?」
「学校長から急ぎの連絡だ。この距離は近距離メッセージなんか届かねぇからな」
逆に言うなら、近距離メッセージなんか届かないこの距離まで矢を飛ばしてくると言うのが普通はありえないのだが。いやまぁ、学校から紅の森まで飛ばしてきたけども。あの学校長。
ともかく、ペキリと矢を折ると、中から紙が出てくる。
覗き込もうとするアーネに待ったをかけ、ざっと中を読んで険しい顔をする。
「どうしましたの?」
「二つ名の仕事だ。この時期に面倒な…いや、この時期に先に済ませる方が楽か…?」
そこに書いてあったのは、新しい二つ名持ち候補が出たという旨の事だった。
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