大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
1,578 / 2,040
本編

移動と屋根上

しおりを挟む
屋敷を出る前に、ユーリアに一言言ってから出るついでに、ふと思ったことを興味本位で軽く聞いてみる。
「お前とかお前の親父さんって耳いいけど、それってやっぱり種族的なモンなのか?」
「ん…まぁ、耳長種エルフは平均よりかはいいだろうが、私は特にだな。ただ、父は訓練したから私より何倍もいいらしいぞ。あと父は耳長種エルフじゃないと前に言っただろう」
そういやそうだった。だとしたら、ユーリア達程とは言わないにしろ、あの尖った耳はなんなのだろうか。
「つー事は、さっきの会話は聞こえなかった訳だな」
「はは、間違っても盗み聞きなんてしようとも思わないさ。万が一それで機密情報でも拾ってしまったら…」
そう言って肩を竦める。過去に何かあったのだろうか。
ともかく、また後日聖学で会ったら手合わせしてくれというユーリアを適当に流しつつ、メッセージで今から馬車に向かうと一言入れてから屋敷を出る。
向かった先でアーネ達と合流し、馬車に乗って揺られ、南の第一都市で宿を取ってその日は終わり。
その翌日から再び馬車を飛ばしつつ聖学に向かう。
最早懐かしいとまで言えるような荒地が見えてきた所で、御者が再度俺に話しかける。
「あのぅ…ここから先は非常に危険なので、出来たらその、中に入っていただけると…」
「ん…いや、むしろ俺が外にいた方がいいな。対魔獣用の道具が仕込んであるつっても、衝撃は結構なモンだし」
「は、はぁ…?ですから、中にいた方が安全なので──」
「もし魔獣が来たら、ぶつかるより先に俺が処理するよ。安心してくれ」
「いやですが…えっ、お嬢様!?」
「…ん?」
にゅん、と下から出てきた手が馬車の屋根の縁を掴み、アーネの顔が見える。が、揺れる馬車の上では不安定で登れないらしい。「お嬢様、危ないのでおやめ下さい!」という御者の必死な声も聞こえる。
「…来るか?」
「…行きますわ」
仕方なく溜息をつき、近づいて手を取って引っ張りあげる。もちろん、俺より重いアーネを引き上げるのは中々に難しいので、髪も使う。
が、逆に力が入りすぎたらしく、後ろに転びかけた。崩れた体勢を髪で支えようとするが、アーネも一緒に倒れ込んだせいで髪が足りず、押しつぶされる。
「お嬢様!?レィア様!?大丈夫ですか!?」
「こっちは大丈夫だ。手網きっちり握ってろ」
御者に向けてそう言ったあと、小声でアーネに「大丈夫か?」と聞く。
「心臓やたらと早いが。なんかあったか?」
「いえ何も!」
結構な俊敏さを見せつつ身体を起こすアーネ。
「貴方…思ったより細くて引き締まった身体してますのね」
「まぁな。ナナキに針金を束ねたような身体を作れって言われたしな」
曰く、筋肉量ではなくその質をどうにかしろと。デカいだけの筋肉は関節の可動域を狭めるからとか何とか。
「男の子…なんですわね」
「骨格はほぼ女レベルだがな。ふざけやがって」
要は驚く程華奢なのだ。この身体は。それこそ女と間違われる程。
「で、なんかあったのか?」
「そうですわね、少しだけ。シエ──」
その瞬間、俺とアーネの丁度ド真ん中に何かが凄まじい勢いで突っ切って来た。
その正体を目視した瞬間、俺はそれが馬車の屋根に突き刺さる前に掴み、引き寄せ、確保する。
「な、何ですの!?」
「学校長から急ぎの連絡だ。この距離は近距離メッセージなんか届かねぇからな」
逆に言うなら、近距離メッセージなんか届かないこの距離まで矢を飛ばしてくると言うのが普通はありえないのだが。いやまぁ、学校から紅の森まで飛ばしてきたけども。あの学校長。
ともかく、ペキリと矢を折ると、中から紙が出てくる。
覗き込もうとするアーネに待ったをかけ、ざっと中を読んで険しい顔をする。
「どうしましたの?」
「二つ名の仕事だ。この時期に面倒な…いや、この時期に先に済ませる方が楽か…?」
そこに書いてあったのは、新しい二つ名持ち候補が出たという旨の事だった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

処理中です...