大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

義肢と不和

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「まぁ、話の本題はそこでは無い」
パン、と厚い革手袋に包まれた手を鳴らして《臨界点》が注意を引く。
「我輩が来た理由は彼奴がつけておる義肢についてじゃ」
「あぁ、俺達が作った…何か問題でも?」
「問題大ありじゃ。何をどうしたらあんな発想になるのか分からぬが、あんなモノは明らかにあの小娘の扱える技量を超えておろう。貴様らが作った義肢のせいで魔族を倒せたと思う輩が出てもおかしくはないぞ」
「あの程度の義肢があるから、ってだけで魔族を狩れると思えるような奴は、控えめに言って頭お花畑だと思うんだが」
「それは貴様が魔族と直接戦った経験があるからじゃ。聖女の結界により、ヒトは五十年も魔族から遠ざけられておる。認識が緩くなるには充分な時間じゃ」
「それにアレだろ、本人の強さを知らしめるための二つ名戦争だろ?」
「それが本人の強さと認識されるか、それとも貴様の作った義肢が強いからと認識されるか。我輩は少々分が悪い賭けになっておると思うがのう」
ふーむ…そうは言われてもな…
俺だって金剣銀剣という、個人が持つには強すぎる武器を二つも持って二つ名戦争に挑んだ訳だし、それでも特にいざこざは起きていないし…正直ちょっと納得は出来ないのだが。
「じゃあどうしろと?候補から降りるよう言えとでも?」
「そうでは無い。それなら貴様だけに言えばよかろう。単純に、あの義肢をもっと本人に見合った性能に落とせと言う話じゃ」
そう言って《臨界点》は俺の前に何枚かの紙を出す。
見慣れた筆跡に見覚えのある図、俺とアーネが数ヶ月前に書いたセラの義肢の設計図、それとその随所に仕込まれたギミックの説明と威力の想定計算のメモ。
そう言えば、もし俺がいない時にセラの義肢が壊れたら不味いと思って、処置用に全部保険室の先生に預けてたっけか。
「なんじゃこの数字。明らかに普通のヒトが扱い切れる代物ではないじゃろう。言うなれば四肢全てが唯一無二の武具オリジン・ウェポンと言っても差し支えない物じゃ」
「俺の記憶じゃ、聖学は武器や防具に関する制限は無かったはずだが?」
「だから生徒の間で不和をもたらすからと言っておろう。このままでは、実力があるから二つ名になったのではなく、義肢が強いから二つ名になった、そう思う生徒がおると言う話じゃ。そこにルールや実際の話は関係無い」
しばらく腕を組み、天井を見上げて考える。
まぁ、何となくだが、《臨界点》の言いたい事が分かってきた。
だが同時に、コイツってこんな事気にする奴だっけかとも思えてしまう。
なんか裏があるのはほぼ間違いないだろう。
それに、納得出来ない理由が明確にある。
「…アーネはどう思う?」
「《臨界点》の言うことに一理あるのは間違いないとは思いますわ。けど…」
「ふむ」
アーネも俺と同じ理由を持ってそうだな。当たり前と言えば当たり前だが。
「なぁ《臨界点》」
もう一度天井を見上げ、そのまま《臨界点》に話しかける。
「なんじゃ」
「お前、セラが戦ってるのを見たことあるか?」
「話には多少は聞いた事あるのう」
つまり生で見ては無いのか。
「マキナ。メッセージ。場所は適当に…まぁ手続きすりゃ第一訓練所でいいだろ」
これだけで伝わるのは楽でいい。アーネも何となく分かっているようだ。だが、《臨界点》は分からなかったらしい。
「何をする気じゃ?」
「一回セラが戦ってんのを見た方が早い。その上で、もう一回お前の話を聞く」
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