大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

義肢使いと銀鎧

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「えー…嫌ですよ。流石に先輩とやるなんて。理由もないし」
「まぁそう言うなって。そうだな…んじゃ俺の鎧を破壊出来たら一個、言うこと聞いてやる」
「本当ですか!?」
「お、おう?出来る範囲でだぞ?」
ちょっと驚いたが、やる気は出してくれたらしい。
「とっととかかってこい。んで、全力で来な」
「分かりました。じゃあ行きます──」
直後、
「よ!」
セラが俺の眼前に現れた。
「!」
およそ五メートル程離れていたはずだが、この程度の距離ならバネやら何やらを使うより走った方が手っ取り早いか。身を屈めて下からすくい上げるようなアッパーカット。
それを真横から叩いて軌道をずらし、静かに狙われていた腹部への掌底を膝で蹴りあげる事で完璧に処理。
したはずなのに。
「ッ」
そのまま足を前に蹴り出し、セラの腹に決まる。
やはり義肢の性能のせいか。一撃一撃が非常に重い。まともに弾いていたら鎧より先にこちらの身体が参る。接触は最小限にすべきか。
今の蹴りはきっちり腹筋で抑えられ、セラへのダメージはまるで無いだろう。
一瞬だけ密着が解かれるが、次は足に仕込まれたバネを利用して加速、その勢いのまま、右腕に仕込まれた斧を繰り出す。
斧自体はそう重くはないが、加速と素材の性質が相まり、この瞬間だけは銀剣と大差ないであろう超重量の一撃となる。
だが。
重い一撃という事は、軌道の変更が難しいということでもある。
ひょいと横に避け、斧の縦振りを空ぶったそこに蹴りを──
──入れようとした瞬間、左手に仕込まれた槍が俺の喉元を狙って伸びてきた。
「ッ!」
咄嗟に身体をさらに捻って回避。狙いが外れた槍は俺の目元を掠めて行くだけになり、一方でまた俺の蹴りも狙いがブレ、威力も落ちる。
胴を蹴飛ばすはずのそれが、セラの伸ばした左腕に当たり、その勢いを利用してセラが右の斧を横に凪いだ。
既に槍はしまってあり、蹴られた左腕を右手に合わせ、斧を両手で持っての渾身の一撃。
蹴りを繰り出した直後の無防備な姿。通常であれば回避は不可能だろう。
だが、俺なら出来る。髪を足代わりにして身体を浮かせ、斧の攻撃が入る一直線上から強引に外れ、空中で一回転して着地する。
「なんですかそれズルい!」
「そう言うスキルだ。文句言うな」
そういやコイツのスキルは知らねぇんだよな。価値があるものに関わってるのと、戦闘には使わないとか言ってたから気にする必要は──おっと。
ついに自前の武器を出したか。そっちの方がリーチ的にも慣れ的にも有利だわな。
だが。
流石にそれは判断が遅すぎると言わざるを得ない。
セラが槍を出した瞬間、俺は一気に距離を詰めた。
「うえっ!?」
「そりゃ悪手だろ」
セラの目の前に来て、拳を叩き込む──ように見せかけて、軽く跳躍。セラの背後に回る。
咄嗟に拳への防御動作を取ったセラはこの動きに反応出来ず、一瞬動きが止まる。
「っ」
この瞬間を狙っていた。
「よっ、とォ!」
「えっちょおおおおおおおおお!?」
背中合わせのまま、セラの服の襟首を掴んで上に向かって背負い投げる。直角九十度。狙い通り、ちょうど俺の真上に飛んだセラは、天井につく寸前に下降を始める。
「届かっ…!ない!」
その隙に身体を捻り、引き絞った弓のように力を下半身に溜める。
「ふんッ!」
セラが落ちてきた瞬間、俺は足を下から上へと振り抜くように蹴り上げた。
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