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本編
第七と血
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「来ると思ったよクソッタレ!」
流石にあんな事をされて警戒しない訳がない。
軽く跳躍し、拳が当たる直前に手をついて攻撃をいなす。
そのまま拳の上に乗り、腕を伝って走り渡る。
「っとぉ!」
『曲芸師みたいだなお前』
「言ってろ!」
高速で動き、最早誰もいなくなった大地へ突っ込み続ける拳の上を、それ以上の速度で走る俺。
後方で破砕音が鳴ったと共に拳が止まり、同時に拳が生えている地面に到着した。
「やっぱ下か」
『で、来たはいいが…どうすんだ?』
相手は地面の下、この腕のサイズなら恐らく過去最大級の大きさ。引きずり出すのも容易ではないだろうし、この位置から当てられる剣も、そのサイズと比較すれば威力はまるで無いと言ってもいいだろう。
それを向こうもわかっているのか、まさかとは思うが気づいていないのか、まだ何もしてこない。いや、あるいは何かしているのかもしれないが、俺にはまだ何か起こっているようには感じない。
魔法でも使えれば直にこいつにダメージを与えることも出来ただろうが…残念ながら俺にそんなことは出来ない。
だから。
「第七を使う」
その言葉に、シャルが息を飲んだ。
『いや確かにあれは…しかし…』
「限界まで狙いは絞るし発動は一秒未満にする」
今まで一度も切ったことの無い、正真正銘の切り札。それしか今は勝ち目がないと判断を下した。
『……気をつけろよ』
「あぁ」
マキナを解除し、鎚形態へ。さらに黒剣を両方仕舞って出来るだけ被害を少なく。
準備をするだけで、既に第七血界が漏れ始めている。
その血界の始動は右の掌から。既に右腕部分の服は塵となり、剥き出しの腕が顕になっている。
そこには血呪とも血鎧とも違う複雑な紋様が刻まれており、掌には勇者紋が傷によって描かれていた。
鈍く痛む掌。それは痛さのピークを既に超え、最早惰性のような痛みが肌に張り付くような、しかし思い出すだけで絶頂期の痛みを思い出せるような嫌な痛み。
傷は真っ赤に腫れ上がり、大きく割れていて、けれどもそこから血が落ちることは一滴として無い。
心臓の音がやけに大きく感じ、その心音に合わせて紋様が脈打ち、そして掌の勇者紋も呼応して、さらにまたそれが痛みを誘う。
乾いた傷、それが求めるのは。
「第七血界《血壊》──起動」
意を決して、俺はその手を砂まみれの大地に押し付けた。
当然走るのは想像を超えた激痛。痛覚を遮断しようとも関係ない。「痛い」という感情が脳髄に擦り込まれているような、激烈な痛み。
即座に手を離す。そう決めていたのに、右手が地面と癒着している。簡単には剥がれない。
恥も外聞もクソもなく、顔からありとあらゆる液体を撒き散らしながら叫び回りたいような激痛。それは身体をくまなく巡り、右の掌だけでなく身体の表面から肉を削ぎ落とすような痛みへと変わる。
『──!………!、………!!ッ、────!』
何かが聞こえる。でもそれも痛みに押しつぶされる。叫びに掻き消される。何が起きているのか最早自分でも分からない。
でも。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
地面と癒着した右手を無理矢理引き剥がす。
べりぃ、ぶちぃ、ともとれる嫌な音がして、鮮烈な痛みで気がつく。
「カハッ!──ハッ──ハッ──ハッ──」
血の池。そのド真ん中に、俺は仰向けで浮いていた。
俺の周りには何も無く、あの巨大な腕も、何かがいたであろう地面も消失し、代わりにあったのはただただ不気味な血の池。
それがざっと見たところ、俺を中心に縁まで五十メートルぐらいはありそうだ。
地面だけを消し飛ばすつもりだったが、この様子だと効果範囲内に敵も含まれただろう。きっと奴も今頃これの一部になって溶けたか。
身体全身が激痛を発し、俺自身も当然血塗れ。軽く血を拭おうと恐る恐る顔に手をやって、ひりつくような痛みが激痛に変わった事を感じて、皮膚が一部無くなっているのだと理解した。
「何秒使った?」
『三秒。よくやった方だ』
「………そうか」
魔力を潤沢に含んだ血を片手で一掬いし、ダバダバと指先から零れ落ちる様を見つつ、さてどうするかと思案する。
「マキナ、どうにかして俺を岸まで運んでくれ」
『了解しました』
そう、何を隠そう俺は泳げないのである。
流石にあんな事をされて警戒しない訳がない。
軽く跳躍し、拳が当たる直前に手をついて攻撃をいなす。
そのまま拳の上に乗り、腕を伝って走り渡る。
「っとぉ!」
『曲芸師みたいだなお前』
「言ってろ!」
高速で動き、最早誰もいなくなった大地へ突っ込み続ける拳の上を、それ以上の速度で走る俺。
後方で破砕音が鳴ったと共に拳が止まり、同時に拳が生えている地面に到着した。
「やっぱ下か」
『で、来たはいいが…どうすんだ?』
相手は地面の下、この腕のサイズなら恐らく過去最大級の大きさ。引きずり出すのも容易ではないだろうし、この位置から当てられる剣も、そのサイズと比較すれば威力はまるで無いと言ってもいいだろう。
それを向こうもわかっているのか、まさかとは思うが気づいていないのか、まだ何もしてこない。いや、あるいは何かしているのかもしれないが、俺にはまだ何か起こっているようには感じない。
魔法でも使えれば直にこいつにダメージを与えることも出来ただろうが…残念ながら俺にそんなことは出来ない。
だから。
「第七を使う」
その言葉に、シャルが息を飲んだ。
『いや確かにあれは…しかし…』
「限界まで狙いは絞るし発動は一秒未満にする」
今まで一度も切ったことの無い、正真正銘の切り札。それしか今は勝ち目がないと判断を下した。
『……気をつけろよ』
「あぁ」
マキナを解除し、鎚形態へ。さらに黒剣を両方仕舞って出来るだけ被害を少なく。
準備をするだけで、既に第七血界が漏れ始めている。
その血界の始動は右の掌から。既に右腕部分の服は塵となり、剥き出しの腕が顕になっている。
そこには血呪とも血鎧とも違う複雑な紋様が刻まれており、掌には勇者紋が傷によって描かれていた。
鈍く痛む掌。それは痛さのピークを既に超え、最早惰性のような痛みが肌に張り付くような、しかし思い出すだけで絶頂期の痛みを思い出せるような嫌な痛み。
傷は真っ赤に腫れ上がり、大きく割れていて、けれどもそこから血が落ちることは一滴として無い。
心臓の音がやけに大きく感じ、その心音に合わせて紋様が脈打ち、そして掌の勇者紋も呼応して、さらにまたそれが痛みを誘う。
乾いた傷、それが求めるのは。
「第七血界《血壊》──起動」
意を決して、俺はその手を砂まみれの大地に押し付けた。
当然走るのは想像を超えた激痛。痛覚を遮断しようとも関係ない。「痛い」という感情が脳髄に擦り込まれているような、激烈な痛み。
即座に手を離す。そう決めていたのに、右手が地面と癒着している。簡単には剥がれない。
恥も外聞もクソもなく、顔からありとあらゆる液体を撒き散らしながら叫び回りたいような激痛。それは身体をくまなく巡り、右の掌だけでなく身体の表面から肉を削ぎ落とすような痛みへと変わる。
『──!………!、………!!ッ、────!』
何かが聞こえる。でもそれも痛みに押しつぶされる。叫びに掻き消される。何が起きているのか最早自分でも分からない。
でも。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
地面と癒着した右手を無理矢理引き剥がす。
べりぃ、ぶちぃ、ともとれる嫌な音がして、鮮烈な痛みで気がつく。
「カハッ!──ハッ──ハッ──ハッ──」
血の池。そのド真ん中に、俺は仰向けで浮いていた。
俺の周りには何も無く、あの巨大な腕も、何かがいたであろう地面も消失し、代わりにあったのはただただ不気味な血の池。
それがざっと見たところ、俺を中心に縁まで五十メートルぐらいはありそうだ。
地面だけを消し飛ばすつもりだったが、この様子だと効果範囲内に敵も含まれただろう。きっと奴も今頃これの一部になって溶けたか。
身体全身が激痛を発し、俺自身も当然血塗れ。軽く血を拭おうと恐る恐る顔に手をやって、ひりつくような痛みが激痛に変わった事を感じて、皮膚が一部無くなっているのだと理解した。
「何秒使った?」
『三秒。よくやった方だ』
「………そうか」
魔力を潤沢に含んだ血を片手で一掬いし、ダバダバと指先から零れ落ちる様を見つつ、さてどうするかと思案する。
「マキナ、どうにかして俺を岸まで運んでくれ」
『了解しました』
そう、何を隠そう俺は泳げないのである。
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