大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

魔族と戦闘 終

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魔族が現れ、俺達が反応し、斬りかかられ、回避し、魔族が消える。
真下が溶岩であると言うプレッシャーと熱気が、包帯に包まれた肌をゆっくりと焼き、僅かに残っている皮膚部分から汗が滲む。
少しずつ移動してどうにか溶岩地帯から抜け出そうとするのだが、思った以上に溶岩の範囲が広い。ちらりと見た聖学も結構遠くに感じたので、余程の距離を投げ飛ばされたらしい。あるいは、それこそ瞬間移動でもしたか。
このエリアから抜け出せない。
ならばここで仕留めるしか。
だがどうやって?
当たりさえすれば倒せるというのは、裏を返せば当たらなければ倒せないという事だ。
可能性があるとすれば、第六血界による神速の抜剣。それも、一度見切られたらそれも恐らく警戒される。
だが落ち着け、俺も順応出来てきている。
『上!』
「!」
素早くステップを踏んで、その場から離脱。追撃でさらに瞬間移動を使って詰めてくるが、黒剣でカウンターを放つと、魔族の方も下がらざるを得ない。
どうやら瞬間移動のスキルは加速や勢いを保持したまま移動出来る訳では無いらしく、下からの攻撃は無い。加えて、魔族の攻撃は苛烈で早く、反応もしにくいが、逆に言えばそれだけ。
技術的には二つ名持ち以上だが、それでもユーリア達が食らいつけなくはないぐらい。
『また来るぞ……後ろ!』
「ッ!!」
即座に振り返って黒剣で切り返す。だが魔族もそれを読み、攻撃を振るのではなく先にこちらに振らせていた。
「後ろに目でもあるのか?驚く程当たらないな」
魔族も余裕の回避。そして振らせた上で剣を抜く。
「なろっ!」
しかしこちらも追撃。もう一方の黒剣を抜いて一気に振り抜く。
魔族はそれすら見切り、瞬間移動で極々僅かに横に移動。文字通り紙一重で俺の攻撃を躱す。
無理な追撃に不安定な足場。頼みの綱のマキナもほぼ足場になっている。
そして──俺は目を見張った。
それは魔族の身体を包む──
戦技アーツ、《紅十字》」
『なっ!?』
ヒトの身で撃つだけでも尋常ではない速度と威力を誇る戦技アーツ
それがヒトよりも能力的に格段に優れた魔族が撃てばどうなるかは言う必要も無いだろう。
普通ならば絶対に戦技アーツなど撃てない空中でさえ戦技アーツ放つというのは、ヒトですらある種の極み。戦技アーツの習得がそもそも困難である魔族がここまで扱えるようになるには、一体どれほどの苦労があったのか。
だが、だからこそ負ける訳には行かない。
「ッ!!」
マキナから解放されて風にはためく白銀の髪。
それを足場の縁に引っ掛け、思い切り身体を引っ張って後退させつつ体勢を整える。
「なん!?」
魔族の横薙ぎの一段目を辛うじて回避。続けて二段目をその場で空振って──
──否。
「『消えた!?』」
瞬間移動──否。
それはただの踏み込みだった。
相手は魔族だ。足場がない訳がなかった。
空気なりなんなり固めたのかよく分からない。だが、あの動きは確実に足元の何かを踏んで加速した。そういう動きだ。
弾丸のように早く、それでいて姿勢を深く低く保ち、真下から切り上げる。
赤い燐光を纏ったまま。
「死ねッ!!」
切り上げの剣は見えないほど速かった。
だが。
戦技アーツ中は他の行動をできない。
この瞬間だけは奴も瞬間移動が出来ない。
ならばこの程度の足場があれば、この戦技アーツは確定する。
「───戦技アーツ…《音狩り》」
その名の由来は、たった一度しか音が鳴らないからと、そうシンプルに名付けた。
何十、何百、何千、何万。幾度となく切りつけて生み出されるたった一つの斬痕。
如何に相手が硬く斬れずとも、如何に相手が柔く斬れずとも、何が何でも必ず切断する。
俺の見出した戦技アーツの極み、そのひとつが戦技アーツ自体を繋ぐ連戦技アーツ・コネクトであるとするなら、これはその結果に見つけた、もうひとつの戦技アーツの極み。
振り抜かれた黒剣は音すら越えて雷すら切り裂き、光に追いつきかねない。
魔族の剣が俺の身体を裂き、血飛沫をあげた。
それと同時に。
魔族の身体が俺の剣で裂かれ、空を舞った。
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