大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

武器屋と店主

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大きな店の外見にそぐわない、素朴な戸を軽く押すと、キィっ、と木で出来た扉が軋む音と共に扉が簡単に開く。
店に入ると、中はガランとしていて、人は俺とシエル、尾行していたオッサンと渋い顔をした気難しそうな店主(こいつもオッサン)の四人だけだ。
そのオッサンはどうやら、陳列された武器を一つひとつ見て回っているようだ。
「──ん?嬢ちゃんは少し前に来た──」
「あぁ、覚えてたのか」
と、俺が入ったところで店主がこちらに気づいた。
「そりゃ覚えてるさ。店に来るなりオリジン・ウェポンを寄越せってのたまう馬鹿なんざ、忘れようとしても忘れられねぇからな」
そう言って店主はガハハと笑う。
…この短いやり取りでわかる人がいるかもしれないが、この店主、顔は気難しそうな顔だが、実際はそうでも無く、むしろ気安い方だ。
なんでも、顔で判断されてあまり話しかけられなくなり、自分から話しかけてもなぜか怖がられると言っていた。
それはさておき。
「今日はどうした?ウチは武器を仕入れてるだけだから、そう言う特注品とかはクランベルナの所に行けって…場所も教えたよな?悪いけど、嬢ちゃんの武器より上等な武器はウチにないぞ?」
「え?あぁ、そう教えて貰ったな…」
まいった、まさか憶えられてるとは思っていなかった。
本当は適当に展示されている武器を眺めるフリをしてオッサンを監視しようとしていたんだが…店主には既に銀剣を見せたりしたし…。
「………ん」
と、そう逡巡していると、シエルが手を上げた。
「お、そっちは誰だい?嬢ちゃんの妹か?」
まぁ、髪の色は似てるな。俺は白と銀で、シエルは白だけど。
「まぁ、そんな所だ。……あぁ、今日はこの子の武器を探しててな」
途中でシエルの意図に気づいて、話を合わせる。
「そんな子供に持たせるのか?……護身用ならダーマの所に行ったほうが…」
「護身用、婦女子用ならダーマ店!だっけ?ありゃダメだ。もっと本格的な…魔獣とかでもぶった斬れるようなモンが欲しいんだ」
「はぁ?頭のネジぶっ飛んでんのか?オジサンとしてはそこのちっちゃい子だけじゃなくてお嬢ちゃんからもその武器を取り上げたいぐらいなんだがな…」
「ははっ、ほざけ」
視線は店主に向けつつ、注意はオッサンに向ける。
適当に話をあわせながら、しかし大きく外れることは無い。
「そうか?そういう事なら…」
店主が立ち上がり、こちらの方へ来ようとした所で──。
「店主、ちょっといいか?」
「ん、何だ」
──オッサンが動いた。
とんでもないセリフと共に。
「この店にある刀剣の類い、全てを買いたい。金は──」
じゃり、ざらざらざら──と言う音と共に金貨の山が崩れる。
「これだけある。足りるか?」
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