大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

神父と鉄線

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「まさか──あの神父が魔族でしたの?」
アーネが言う。話の流れから、多少ぶっ飛んでいたとしても答えにたどり着いたらしい。
「ん、まぁそう言えばそうなる…か?いや、ならねぇか。多分半分正解だと思う」
「はい?なんで半分だけですの?」
「その話しはおいおいしてくさ」
「…今回の誘拐の件、魔族が関わっている可能性があるという事はわかりました。しかし、それが神父であった答えにはなりません」
…強情だな。とはいえ、魔族の言葉を聞いてから、聖女サマの顔は青い。明らかに魔族にいい印象は持っていないな。
それが当然とはいえ、シエルの事も嫌うのだろうか。
そんな事を思いながら、話を続ける。
「襲撃犯は四人。昨晩…じゃねぇ、一昨日の夜、お前らが楽しんでる時に絡んで来ようとしたチンピラ三人と、さっきから言ってる人払いの魔法を使っていた魔族。コイツらが襲撃をして、聖女サマを攫った。この時、俺は襲撃犯の内、チンピラ三人を撃退したが、魔族が潜んでいると知らなかった。だから聖女サマが相手の手に落ちた訳だが…」
ここで一度区切る。
「その時、襲撃犯の一人の得物が魔族に持っていかれた。かなり扱いが難しい…鉄線って知ってるか?それだ。分からなければ滅茶苦茶細くて滅茶苦茶頑丈で滅茶苦茶よく切れる糸とでも思ってくれ。それが奪われてた。で、神父をがそれをそれなりに使いこなしてたんだよ」
「…神父が鉄線を持っていたからと言って魔族である証拠はありません」
まぁ、俺もそれだけだったら断言はしなかっただろうが…神父の外見は魔族のものとはかなり離れていたし、魔族が神父に渡したと考えただろう。聖女サマもそう思っている…いや、そう思いたいのか。
「魔族の特徴は?」
「膨大な魔力、強化魔法、赤い目に白い髪と黒い肌、ですね?」
「…即答か」
「もちろんです。我らが敵の事をよく知っておくのは当然です」
我らが敵、ねぇ…。
まぁ、魔族を滅ぼすために生まれた勇者俺らからしても似たようなモンだが…長い年月で変質したところがない訳ではない。
特に俺とかな。血が繋がっていないとは言え、半魔族の娘がいるんだし。
初期の方の勇者だったら即惨殺だったろう。
「八十点やる。一個足りねぇぞ」
「…魔族に対して、かなり詳しいのですね」
「悪いが、高々五十年ちょっとのノウハウしかない聖女アンタらとは年季が違うんでね」
聖女は勇者よりも、より強く記憶が繋がっている。勇者はここからここまでが俺の記憶、と断言できるが、聖女はそれがないらしい。
初代から今代の聖女まで、一つの数珠繋ぎの記憶。それがどんなものかは知らないが…普通、知られたくはないよな。
「──ッ!! 何のことですか?」
「そんなに言ってほしいか?…まぁいい、それについちゃ黙っといてやるよ」
今はそれについての話じゃない。
とはいえ、最後の一つは当たり前過ぎて忘れただけかもしれないのだが。
「戦闘に関して、圧倒的とまで言えるセンス。それは魔法についても同じだし、剣をつかった戦闘でも同じだ。…まだ分からない?」
「…もっと直接的に言ってくれますか?」
「よしわかった、質問を変えよう。お前ら教会って、扱いが糞難しい鉄線とか、わざわざ神父一人ひとりに教えてたりする?」
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