大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

暗室と探し物

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扉を開き、階段を下って行くと、やはり真っ暗なそこは、昨日の夜と全く同じようにそこにあった。
「………っ」
俺の左手を握る小さな手が、きゅっ、と俺の指を握る。
一瞬遅れて、アーネが魔法で生み出した大火球が部屋に入ると、同時に複数の小さな火球となり、部屋の端々まで広く照らすために四方へ散っていったのだが…。
「…広いな」
「…広い、ですわね」
「…広いですね」
部屋が広すぎて完全には照らしきれないらしい。
とりあえず、アーネに頼んで比較的近く──とは言ってもかなり広い──だけを照らしてもらい、探索を開始する。
「…なにを探しに来たんですの?」
コツコツと、俺達の足音だけが響き、その音が孤独感を押し上げる。
そんな中、アーネがそれを紛らわせるようにそう聞いてきた。
「腕。あとは残骸かな」
「…腕、ですの?でもあなたの腕は既に治って…」
「馬鹿、俺の腕じゃねぇよ。神父のだ」
さっきよりゆっくりと歩きながら、アーネや聖女サマとはぐれないように気をつけながら歩く。
シエルは俺と手を繋いでいるからわかるが、アーネや聖女サマがふらっと消えてもらったら咄嗟には分からないからな。まぁ、ないとは思うが。
「半魔人の、ですか?」
アーネと変わって聖女サマがそう聞く。
「あぁ、俺も神父の右腕刎ねたが、それを持ってくるのを忘れてたからな…」
「そ、そんなもの、拾ってどうするんですか!」
「阿呆、拾わなきゃ繋がれるかもしれんだろうが。義手にする可能性もあるが、生の腕を一つ無くしておいても損は無いはずだしな」
魔族の扱う魔法──の、一つ上の技術、あるいは魔法の原型である魔術。
魔力を消費して、一定の技術があれば、過程をすっ飛ばし、結果だけをこの世界に刻みつける技術。
それを使えば、どうして繋がったか分からないが、とりあえず腕はくっつくだろう。
それを阻止するのが一つ。
もう一つは。
「残骸ってなんですの?」
「残骸?文字通り、むくろの残りだよ。あの気色悪い肉塊を回収する」
「何故そんなことをするんですの?」
「…お前、あんな魔獣、見たことあるか?」
答えは返ってくる前から知ってる。
ノーだ。
「つまりはそういうことだ。調べて、次に備える。そうして人は知識を蓄え、あらゆるモノを乗り越えてきたんたからな」
しかし──。
その肉塊の死骸が見つからない。
昨晩戦ったあたりにまで来ても、そこにはなにも無い。
ついでに、神父の腕もない。やはり回収された後か。
「場所を間違えた…訳ではないようですね」
「あぁ。かなり乾いているが、間違いなく俺の血だな」
地下ゆえに日も差さず、湿気がやや高いこの空間では、一晩明けた程度では乾ききらなかったらしい。
床の血痕に触れれば、指先が紅く染まった。
手を一振りし、血を振り飛ばすと、周りを見渡す。
あの巨体では、出入口の扉を抜けることは出来ないはず…。
「気をつけろ。特に聖女サマ。このクソ広い部屋の中に、あの肉の化物がいるかもしれねぇ」
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