大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

帰宅と説得

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丸一日逃げまくった。
屋敷に戻ったのは多分、夜の十時か…十一時か…そのぐらいだったと思う。
日が登っている間はシエルを連れて聖女サマが追いかけてきたが、日が沈むと今度はアーネを連れてと、とにかく追いかけてきやがった。
面倒な事この上なかった。
どこにいても必ず見つけ出して、俺を捕まえようとしてたが…どうやって見つけ出してたんだろうか。
まぁ、それはともかく帰れば当然捕まる…というか、流石に外で泊まってまで逃げる事でもないし。流石に。
「つ~か~ま~え~ま~し~た~!!」
「おう、お疲れ。…シエルは?」
玄関に入るなり俺を捕まえようとする聖女サマをひらりと回避し、いつも通り傍にいたモーリスさんにそう聞く。
「はい。シエル様は既にお部屋でお休みになっておられます。少し寂しそうでしたので、明日は出来るだけ一緒に過ごされるのがいいかと」
「了解、ありがとな」
俺がそう言うと、モーリスさんは「いえいえ」と言って頭を下げる。その動作一つひとつが恰好良く、様になっていて美しさすら感じる。
「さて、俺は外で飯食ってきたからこのまま寝る──前に、アーネは?」
「お嬢様は自室にいらっしゃるかと。恐らくまだ起きていると思いますよ」
「ふぅん。でもまぁ、そんな大して急ぐ案件でもないから明日の朝、覚えてたらでいいか。それなりに夜遅いからな」
「それが宜しいかと」
「それじゃ、また明日」
手を振りながらそのまま部屋に向けて足を進める。
『…おい、いい加減構ってやれよ。少し可哀想だぞ』
…反応しなきゃダメ?
『流石に放置は不味いだろ』
シャルがそんな反応するほどなのだから、流石に反応せざるを得ない。
「ていっ」
「ひゃうっ!?」
ガシッ、とずっと俺を捕まえようとしていた聖女サマの頭をホールド…という言い方は正確じゃねぇな。アイアンクローと言った方が正しいか。まぁ、捕まえる。
「何するんですか!!」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」
戻ってからずっと俺を捕まえようとして失敗していた聖女サマ。
…アンタ一応、教会のトップだよな?
「もちろん、今から特訓を付けてもらおうと──」
「アホ、とっくの昔に日は落ちてるだろが。今日は暗いからもう出来ねぇな。諦めて寝ろ」
しっしっ、と犬猫を追い払うようにして聖女サマを追い払う。
「……今日は何もしてませんよね?あと三日しかないのに…」
「今日やったじゃん」
『やった…のか?むしろ殺ったって感じじゃないか?』
大丈夫大丈夫。死んでないなら殺ってないから。
「あんなもの、特訓とは言えませんよね?事実、私は少しも強くなってませんし…」
「そんな目に見えてすぐ強くなりたいなら諦めろよ。俺だって時間をかけて、さらに文字通り血反吐を吐きながら、奥歯噛み締めながら強くなったんだから」
「しかし時間が──」
「し・る・か」
まだ何か言いたげな聖女サマを自室の扉で物理的に遮り、そのまま音を立てて鍵をかける。
流石に今日は無理だと判断したようで、聖女サマが隣の部屋に入る音がした。
さて、明日も逃げるのは出来るかね…?
『いや、無理だろ』
デスヨネー。
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