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本編
闇と剣
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その深い闇は、この空間を満たしている闇の中で俺の周りを水のように泳いで周り、そしてまた右手の方へと戻ってくる。
全身真っ黒。表情も見えず、ただただ幼い子供の輪郭だけの真っ黒な闇。それでも笑っていると思ったのは、ただの直感だ。
彼女の頭に触れようと手を伸ばすが、頭に触れたというよりも、少々質感の違う液体に触れたというような感覚に近く、これまたとぷんと手が沈み、その部分から急速に身体が冷える。
「っ!」
慌てて引き抜き、思わず指先を握る。どうやら彼女に触れることは出来ても、掴む事などは出来そうにない。
その彼女が、くるりとこちらを向いた。
そして何かを喋っているようなのだが……残念ながら音が出ていない。顎のような位置が動いているのは分かるので喋っているのは分かる。だが、唇が見えないので何を喋っているか分からない。
やがて向こうもそれに気づいたのか、小首を傾げ、話すのを一度やめてふわふわと辺りを漂う。
「…あー、シエル、聞こえるか?」
試しにそう言ってみると、彼女がこちらにスっと近づく。
「聞こえてるのか?」
と聞くと、シエルが二度頷く。向こうからは聞こえているらしい。
「あー……えー……」
こちらから話は通じる。だが何を聞くべきだ。何を言うべきだ。まるで分からない。
シエルは自分で聖学を出て魔族の元へ行ったのだ。
助けを求めたから俺が来たのでは無く、どちらかと言えばシエルが求めた物の場所を破壊するために来たのだ。
「……悪い」
なんとか出たのはそんな卑怯な言葉。
何に対して謝っているのかを明らかにせず、とりあえず言っておけば誤魔化される。ただそれだけの言葉。
彼女もその意味がわからなかったのか、小首を傾げて俺の頬に手を触れようとする。
しかし俺はそれを少し下がって拒否。
「悪いな、シエル」
もう一度そんな事を言って、銀剣をすり合わせて黒剣を抜く。
元から何より黒かったその剣は、闇の中でもなお黒く、けれど僅かに縁が発光しているように白かった。
この空間に満たされた闇を斬っている。だから僅かに白く光っているのだろう。
そう思いながら、一対の黒剣でこの空間を斬った。
その瞬間、闇が割れて光が溢れる。
徐々に奪われていた熱、感覚、境目、何もかもがハッキリとしていく。
その最中、シエルの闇も光に洗われ、姿が目視できるようになる。
俺の記憶に残るシエルと何一つ変わらない。姿も匂いも仕草も、間違いなく彼女だ。感覚が、全身が、勘が、全てが間違いなくシエル・フィーネであると告げている。
だから理解した。
「お前はもうシエルで、《魔王》なんだな」
そう言うと、彼女はまた笑った。ただし次は、どこか寂しげな顔で。
「………また、ね?」
そう言ってシエルが姿を消すと同時に、闇が完全に払われた。
全身真っ黒。表情も見えず、ただただ幼い子供の輪郭だけの真っ黒な闇。それでも笑っていると思ったのは、ただの直感だ。
彼女の頭に触れようと手を伸ばすが、頭に触れたというよりも、少々質感の違う液体に触れたというような感覚に近く、これまたとぷんと手が沈み、その部分から急速に身体が冷える。
「っ!」
慌てて引き抜き、思わず指先を握る。どうやら彼女に触れることは出来ても、掴む事などは出来そうにない。
その彼女が、くるりとこちらを向いた。
そして何かを喋っているようなのだが……残念ながら音が出ていない。顎のような位置が動いているのは分かるので喋っているのは分かる。だが、唇が見えないので何を喋っているか分からない。
やがて向こうもそれに気づいたのか、小首を傾げ、話すのを一度やめてふわふわと辺りを漂う。
「…あー、シエル、聞こえるか?」
試しにそう言ってみると、彼女がこちらにスっと近づく。
「聞こえてるのか?」
と聞くと、シエルが二度頷く。向こうからは聞こえているらしい。
「あー……えー……」
こちらから話は通じる。だが何を聞くべきだ。何を言うべきだ。まるで分からない。
シエルは自分で聖学を出て魔族の元へ行ったのだ。
助けを求めたから俺が来たのでは無く、どちらかと言えばシエルが求めた物の場所を破壊するために来たのだ。
「……悪い」
なんとか出たのはそんな卑怯な言葉。
何に対して謝っているのかを明らかにせず、とりあえず言っておけば誤魔化される。ただそれだけの言葉。
彼女もその意味がわからなかったのか、小首を傾げて俺の頬に手を触れようとする。
しかし俺はそれを少し下がって拒否。
「悪いな、シエル」
もう一度そんな事を言って、銀剣をすり合わせて黒剣を抜く。
元から何より黒かったその剣は、闇の中でもなお黒く、けれど僅かに縁が発光しているように白かった。
この空間に満たされた闇を斬っている。だから僅かに白く光っているのだろう。
そう思いながら、一対の黒剣でこの空間を斬った。
その瞬間、闇が割れて光が溢れる。
徐々に奪われていた熱、感覚、境目、何もかもがハッキリとしていく。
その最中、シエルの闇も光に洗われ、姿が目視できるようになる。
俺の記憶に残るシエルと何一つ変わらない。姿も匂いも仕草も、間違いなく彼女だ。感覚が、全身が、勘が、全てが間違いなくシエル・フィーネであると告げている。
だから理解した。
「お前はもうシエルで、《魔王》なんだな」
そう言うと、彼女はまた笑った。ただし次は、どこか寂しげな顔で。
「………また、ね?」
そう言ってシエルが姿を消すと同時に、闇が完全に払われた。
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