1,798 / 2,040
本編
勇者と産獣師 終
しおりを挟む
翼を捥いだ瞬間、一直線に下へと落下する。
どれだけの高さから落下しているのか知らないが、これだけの高さからなんの備えもなく落ちれば即死か、良くても戦闘不能の重傷だろう。
だが勿論、この場にただの魔族もいなければ、ただのヒトもいない。
落下し始めた途端、《産獣師》が暴れ、奴の身体から血が吹き出す。
「──ッ!?」
翼を捥ぐ作業中に《産獣師》が暴れないよう、全身を髪でキツく締めたのだが、その髪を力技で無理矢理千切ろうとしているのだろう。
だが、俺の髪は異常なまでに頑丈。龍でも無ければ、切れるのは髪ではなく身体。
脱出不可能。このまま床に叩きつけてやる。
そう思った瞬間、腹が何かに貫かれた。
「な……ッ!?」
鳩尾付近に突き刺さったそれは、黒く細長い何か。
どこからそれが来たのか。辿っていくと、《産獣師》の臀部と腰部の間からさも自然にそれが生えていた。
「尻尾っ……!!」
迂闊だった。腕や翼を生やし直していたり、明らかに魔獣がベースの身体をしていたにも関わらず、そこに気づけず、翼を奪った時点で気を抜いたそこを突かれた。
『帰ってくるぞ!』
振り返ると、恐ろしく長い尾が、勢いをつけて再度飛んでくる。
狙いは──頭?
それを辛うじて回避。なんとか成功はしたものの、尻尾は俺の身体を貫いたまま。どうにか引き抜かなくては。
そして狙いを外した尻尾が、さらに動きを見せる。
くん、と上に振り上がり、そのまま振り下ろされる。
さながら剣のように振り下ろされたそれは、滑り込むように俺の髪を避けつつ、《産獣師》の身体を削ぎ落とした。
『何を──』
四肢が落ち、胴も鳩尾より下がほとんど切り崩され、およそヒトなら手遅れと誰もが思う状態。
それの意味に気づいたのは、ゆっくりと振り返った《産獣師》の口元を歪ませる、忌々しげな笑みを見てから。
「《──開け、産堕の胎》」
この状況になっても、決して詠唱を崩さない鋼の精神力。
それが遂に、《産獣師》がその名で呼ばれる所以となった魔法を完成させた。
「しまっ!!」
同時に魔法が動く。
身体が削ぎ落とされた瞬間、《産獣師》の周りを覆う靄の中から、ヒトより一回り大きな鳥が一羽飛び出し、それが真横から《産獣師》の身体を掴みあげ、飛び去ったのだ。
「クソがッ!!」
本来なら髪で固定されている俺ごと引っ張りあげられるはずだったそれは、《産獣師》が文字通り身を削った事で緩められている。
俺が慌てて締め直すも、もう遅い。
鳥が、一瞬で飛び去り、同時に俺の身体から尾が引き抜かれ、互いに互いを捕まえていたものが無くなる。
そして翼などない俺は、一人下へと落下していく。
《産獣師》を逃し、ただ一人で。
どれだけの高さから落下しているのか知らないが、これだけの高さからなんの備えもなく落ちれば即死か、良くても戦闘不能の重傷だろう。
だが勿論、この場にただの魔族もいなければ、ただのヒトもいない。
落下し始めた途端、《産獣師》が暴れ、奴の身体から血が吹き出す。
「──ッ!?」
翼を捥ぐ作業中に《産獣師》が暴れないよう、全身を髪でキツく締めたのだが、その髪を力技で無理矢理千切ろうとしているのだろう。
だが、俺の髪は異常なまでに頑丈。龍でも無ければ、切れるのは髪ではなく身体。
脱出不可能。このまま床に叩きつけてやる。
そう思った瞬間、腹が何かに貫かれた。
「な……ッ!?」
鳩尾付近に突き刺さったそれは、黒く細長い何か。
どこからそれが来たのか。辿っていくと、《産獣師》の臀部と腰部の間からさも自然にそれが生えていた。
「尻尾っ……!!」
迂闊だった。腕や翼を生やし直していたり、明らかに魔獣がベースの身体をしていたにも関わらず、そこに気づけず、翼を奪った時点で気を抜いたそこを突かれた。
『帰ってくるぞ!』
振り返ると、恐ろしく長い尾が、勢いをつけて再度飛んでくる。
狙いは──頭?
それを辛うじて回避。なんとか成功はしたものの、尻尾は俺の身体を貫いたまま。どうにか引き抜かなくては。
そして狙いを外した尻尾が、さらに動きを見せる。
くん、と上に振り上がり、そのまま振り下ろされる。
さながら剣のように振り下ろされたそれは、滑り込むように俺の髪を避けつつ、《産獣師》の身体を削ぎ落とした。
『何を──』
四肢が落ち、胴も鳩尾より下がほとんど切り崩され、およそヒトなら手遅れと誰もが思う状態。
それの意味に気づいたのは、ゆっくりと振り返った《産獣師》の口元を歪ませる、忌々しげな笑みを見てから。
「《──開け、産堕の胎》」
この状況になっても、決して詠唱を崩さない鋼の精神力。
それが遂に、《産獣師》がその名で呼ばれる所以となった魔法を完成させた。
「しまっ!!」
同時に魔法が動く。
身体が削ぎ落とされた瞬間、《産獣師》の周りを覆う靄の中から、ヒトより一回り大きな鳥が一羽飛び出し、それが真横から《産獣師》の身体を掴みあげ、飛び去ったのだ。
「クソがッ!!」
本来なら髪で固定されている俺ごと引っ張りあげられるはずだったそれは、《産獣師》が文字通り身を削った事で緩められている。
俺が慌てて締め直すも、もう遅い。
鳥が、一瞬で飛び去り、同時に俺の身体から尾が引き抜かれ、互いに互いを捕まえていたものが無くなる。
そして翼などない俺は、一人下へと落下していく。
《産獣師》を逃し、ただ一人で。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる