大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

勇者と産獣師 終

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翼を捥いだ瞬間、一直線に下へと落下する。
どれだけの高さから落下しているのか知らないが、これだけの高さからなんの備えもなく落ちれば即死か、良くても戦闘不能の重傷だろう。
だが勿論、この場にただの魔族もいなければ、ただのヒトもいない。
落下し始めた途端、《産獣師》が暴れ、奴の身体から血が吹き出す。
「──ッ!?」
翼を捥ぐ作業中に《産獣師》が暴れないよう、全身を髪でキツく締めたのだが、その髪を力技で無理矢理千切ろうとしているのだろう。
だが、俺の髪は異常なまでに頑丈。龍でも無ければ、切れるのは髪ではなく身体。
脱出不可能。このまま床に叩きつけてやる。
そう思った瞬間、腹が何かに貫かれた。
「な……ッ!?」
鳩尾付近に突き刺さったそれは、黒く細長い何か。
どこからそれが来たのか。辿っていくと、《産獣師》の臀部と腰部の間からさも自然にそれが生えていた。
「尻尾っ……!!」
迂闊だった。腕や翼を生やし直していたり、明らかに魔獣がベースの身体をしていたにも関わらず、そこに気づけず、翼を奪った時点で気を抜いたそこを突かれた。
『帰ってくるぞ!』
振り返ると、恐ろしく長い尾が、勢いをつけて再度飛んでくる。
狙いは──頭?
それを辛うじて回避。なんとか成功はしたものの、尻尾は俺の身体を貫いたまま。どうにか引き抜かなくては。
そして狙いを外した尻尾が、さらに動きを見せる。
くん、と上に振り上がり、そのまま振り下ろされる。
さながら剣のように振り下ろされたそれは、滑り込むように俺の髪を避けつつ、《産獣師》の身体を削ぎ落とした。
『何を──』
四肢が落ち、胴も鳩尾より下がほとんど切り崩され、およそヒトなら手遅れと誰もが思う状態。
それの意味に気づいたのは、ゆっくりと振り返った《産獣師》の口元を歪ませる、忌々しげな笑みを見てから。
「《──開け、産堕の胎》」
この状況になっても、決して詠唱を崩さない鋼の精神力。
それが遂に、《産獣師》がその名で呼ばれる所以となった魔法を完成させた。
「しまっ!!」
同時に魔法が動く。
身体が削ぎ落とされた瞬間、《産獣師》の周りを覆う靄の中から、ヒトより一回り大きな鳥が一羽飛び出し、それが真横から《産獣師》の身体を掴みあげ、飛び去ったのだ。
「クソがッ!!」
本来なら髪で固定されている俺ごと引っ張りあげられるはずだったそれは、《産獣師》が文字通り身を削った事で緩められている。
俺が慌てて締め直すも、もう遅い。
鳥が、一瞬で飛び去り、同時に俺の身体から尾が引き抜かれ、互いに互いを捕まえていたものが無くなる。
そして翼などない俺は、一人下へと落下していく。
《産獣師》を逃し、ただ一人で。
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