大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
1,814 / 2,021
本編

泥闇と会話

しおりを挟む
意識が自分の深い所へと落ちていく感覚。
身体の五感を切り離し、奥へ奥へと沈んでいく。
今の俺に必要なのは体力。精神的な意味でも、肉体的な意味でも限界に来ているのは知っていた。だから一度ここでリセットをかける。
「随分手酷くやられたな」
「ん……シャルか」
後ろから聞き慣れた女の声がして、振り返ろうとすると「振り向くな」と静止をかけられる。
「こっち向いたらぶん殴る」
「お前いつもそう言うよな。理由あんの?」
「《亡霊》ってのは普通、目に見えないモンだろ」
などとよく訳の分からない事を言われる。
「まぁいいや。で、わざわざ休んでる俺の所に来た理由は?」
「別に。むしろお前が俺に聞きたい事があるんじゃないかって思ってな」
「最初に飛び込んで死んだアレ、誰だ?」
「チィズ。多分そういうスキルだろ」
「マキナの状況は?」
「ちょいちょい動いてはいるが、まぁ戻る気配は無いな。多分ベルに見せなきゃ戻んねぇ」
「《腐死者》に勝てるか?」
「全部引っ括めて七三だ。負けるのが七な」
「第七入れても?」
「入れたら五分」
「さっきのヒビの向こうにいたのは?」
「狭間の奴らだ。つっても死んでるようなモンだが」
「《ザ・デス》はどうやって倒された?」
「半魔と西学、あとアーネが連携取って頑張ってたのは見てたが……詳しくはわかんねぇ。決まり手はアーネの白炎だったが……他は?」
「………。」
「無いのか?」
「アーネが──」
いや、これは聞いても意味が無いか。どうせシャルも分からないだろうし。
「アーネが何故勇者の血に耐えられたか、って話か?」
「!」
「確かにアレは劇物だ。仮にも神の力を持った代物だしな。散々言ったし、過去の記録を見たらどんな事件を起こして来たか、よく分かるだろう」
「じゃあ──」
「先に答えを言っておく。あれはアーネが特別なだけだ。俺も今回の件と《腐死者》の反応でやっと確信を得たが、今はまだ言わない。全部終わって、ひと段落着いたら全部話してやる。けど、お前が聞きたいのはもっと単純な事だろ?」
シャルがそう聞く。
「………以前聞いた、《腐死者》との戦闘についてだ。シャル、お前はアレにどうやって勝ったんだ?」
「やっとそれを聞いたか。なんでそれを最初に聞かねぇんだ」
シャルが呆れたように言い、「まぁいいさ」と続ける。
「でも正直、お前も答えには気づいてるんだよな。それで合ってるんだよ。あとはそこにどうやって手を届かせるかだ」
「お前はどうやった?」
「腕一本犠牲にして、特攻カマして隙を作った」
「それは……出来ねぇな。これ以上身を削ったらアーネに怒られちまう」
そう言うと、シャルは笑った。
「変わったな、お前。いや、それでいいんだが。随分と《勇者》らしく無くなったじゃないか」
「そりゃどうも。で、どうすりゃいい?」
「簡単じゃねぇぞ。だが覚悟はあるか?」
「勇気ならある」
「良いね、俺好みの答えだ。それでこそ《勇者ブレイバー》だ」
シャルがそう言い、後ろでパァン!と手のひらを拳で打つ音がした。
「俺が指示を出す。狙いは悟られんなよ」
「了解」
狙いは一点。奴の杖だ。
しおりを挟む

処理中です...