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本編
交戦と混戦14
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第四血界《血鎧》。
魔族と戦う際、ほぼ必須級である血界であり、その効果は魔法、魔術の吸収、及び解放である。
吸収の仕組みはよく分からんが、魔法を吸収したならそのままそっくり返し、魔術なら純粋な破壊のエネルギーに変換して放出する。
何故魔術が魔術として出ず、エネルギーに変換されるかはさて置き、今重要なのは俺の腕から剣を這って杖に絡みついたアーネの白炎。
それが《腐死者》の杖に絡みついた。
「くっ!!」
《腐死者》が俺を蹴飛ばそうとし、それを飛び退って回避。その隙に《腐死者》がどうにかして火を消そうとするも、白い炎は消えずにゆっくりゆっくりと範囲を広げていく。
「貴様ッ!?」
《腐死者》が睨み、俺がしてやったりと笑ってやる。
「お前、魔法とか魔術あんまり上手くねぇんだろ?だから毎回律儀に詠唱やら韻を踏んで、魔術もきっちり手順を踏んでる。だから普通の魔族なら要らない杖が必要で、そんなご大層な防御をしてある訳だ。最古の大魔族が魔術も魔法もヘタクソな三流魔族とは恐れ入った」
死ね、消えろ、来い。恐らく、これら全てが魔法の詠唱。それと後は杖の鳴らす回数や間隔、音、イントネーションの僅かな差異、その他《腐死者》の動作。無詠唱であるように見せかけるため、細かく割り振られているのだろうが、これだけ戦っていればそれに違和感を感じるし、何より《勇者》には《亡霊》がいる。《腐死者》本人との戦闘経験や、ほかの魔族と比べ、違和感は殊更感じやすいだろう。
特に、《腐死者》が常に杖を持っていた事が一番引っかかった。
魔法を使うのに杖が必要。それはヒトにとっては当たり前だが、魔族にとっては違和感しかない話。半魔ですら杖を使わない。
それから手を決して離さず、視てみれば幾重にも施された防御。これを破壊されることだけは絶対に避けたいと言わんばかりのそれは、違和感を確信に変えるだけの根拠でもあった。
ちら、と左の剣を見る。
アーネの炎を伝わせた銀剣だが、その剣身が《腐死者》の杖同様に燃えている。何燃やしているのか全く不明だが、何故かこの炎は消えず、剣を燃やしながら白く辺りを照らす。
この炎はアーネの炎だ。
だが、アーネ自体は味方であっても、この炎は味方ではなく道具。ほんの少しでも使い方を間違えれば、俺の身体が燃える。
黙って銀剣から黒剣を抜き、鞘である銀剣部分を空中で斬る。
すると銀剣から炎が剥がれ落ち、虚空を燃やして消えていく。
「は、はは。有形無形問わず、概念すら斬るに至ったか。この短時間でそこまで進化するか。《勇者》よ」
その言葉を無視し、まだ熱を帯びたままの鞘を腰に差す。
さて、《腐死者》の杖に炎が移ったのは間違いないが、厳密には炎は杖に届いていない。杖を守る障壁や術式で止まっているのだ。
燃えている範囲もまだそこまで多くない。いずれは杖を飲み込み、焼き尽くすだろうが、まだ《腐死者》が杖を握る事は出来る。
つまり、魔法も魔術も暫くは出来るのだ。今の行為は、奴の杖に時間制限を付けただけに過ぎない。《腐死者》もそれが分かっているからこそ苛烈に攻めるだろう。
──そう予想したのだが、それはあっさりと裏切られる。
突如塔が揺れ始め、入っていた亀裂が更に深く、広く刻まれていく。
『まさか──』
「しまった」
あまりに時間をかけ過ぎた。そもそも《腐死者》にとっての目的は俺達の撃退ではなく時間稼ぎ。今更杖を封じた所で、意味などほとんど無かったのだ。
花が──開く。
魔族と戦う際、ほぼ必須級である血界であり、その効果は魔法、魔術の吸収、及び解放である。
吸収の仕組みはよく分からんが、魔法を吸収したならそのままそっくり返し、魔術なら純粋な破壊のエネルギーに変換して放出する。
何故魔術が魔術として出ず、エネルギーに変換されるかはさて置き、今重要なのは俺の腕から剣を這って杖に絡みついたアーネの白炎。
それが《腐死者》の杖に絡みついた。
「くっ!!」
《腐死者》が俺を蹴飛ばそうとし、それを飛び退って回避。その隙に《腐死者》がどうにかして火を消そうとするも、白い炎は消えずにゆっくりゆっくりと範囲を広げていく。
「貴様ッ!?」
《腐死者》が睨み、俺がしてやったりと笑ってやる。
「お前、魔法とか魔術あんまり上手くねぇんだろ?だから毎回律儀に詠唱やら韻を踏んで、魔術もきっちり手順を踏んでる。だから普通の魔族なら要らない杖が必要で、そんなご大層な防御をしてある訳だ。最古の大魔族が魔術も魔法もヘタクソな三流魔族とは恐れ入った」
死ね、消えろ、来い。恐らく、これら全てが魔法の詠唱。それと後は杖の鳴らす回数や間隔、音、イントネーションの僅かな差異、その他《腐死者》の動作。無詠唱であるように見せかけるため、細かく割り振られているのだろうが、これだけ戦っていればそれに違和感を感じるし、何より《勇者》には《亡霊》がいる。《腐死者》本人との戦闘経験や、ほかの魔族と比べ、違和感は殊更感じやすいだろう。
特に、《腐死者》が常に杖を持っていた事が一番引っかかった。
魔法を使うのに杖が必要。それはヒトにとっては当たり前だが、魔族にとっては違和感しかない話。半魔ですら杖を使わない。
それから手を決して離さず、視てみれば幾重にも施された防御。これを破壊されることだけは絶対に避けたいと言わんばかりのそれは、違和感を確信に変えるだけの根拠でもあった。
ちら、と左の剣を見る。
アーネの炎を伝わせた銀剣だが、その剣身が《腐死者》の杖同様に燃えている。何燃やしているのか全く不明だが、何故かこの炎は消えず、剣を燃やしながら白く辺りを照らす。
この炎はアーネの炎だ。
だが、アーネ自体は味方であっても、この炎は味方ではなく道具。ほんの少しでも使い方を間違えれば、俺の身体が燃える。
黙って銀剣から黒剣を抜き、鞘である銀剣部分を空中で斬る。
すると銀剣から炎が剥がれ落ち、虚空を燃やして消えていく。
「は、はは。有形無形問わず、概念すら斬るに至ったか。この短時間でそこまで進化するか。《勇者》よ」
その言葉を無視し、まだ熱を帯びたままの鞘を腰に差す。
さて、《腐死者》の杖に炎が移ったのは間違いないが、厳密には炎は杖に届いていない。杖を守る障壁や術式で止まっているのだ。
燃えている範囲もまだそこまで多くない。いずれは杖を飲み込み、焼き尽くすだろうが、まだ《腐死者》が杖を握る事は出来る。
つまり、魔法も魔術も暫くは出来るのだ。今の行為は、奴の杖に時間制限を付けただけに過ぎない。《腐死者》もそれが分かっているからこそ苛烈に攻めるだろう。
──そう予想したのだが、それはあっさりと裏切られる。
突如塔が揺れ始め、入っていた亀裂が更に深く、広く刻まれていく。
『まさか──』
「しまった」
あまりに時間をかけ過ぎた。そもそも《腐死者》にとっての目的は俺達の撃退ではなく時間稼ぎ。今更杖を封じた所で、意味などほとんど無かったのだ。
花が──開く。
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