大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

処遇と来客

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学校長に呼び出されたのはいつもの学長室。
ただ、居たのは学校長だけではなかった。
「あ?お前なんでこんな所にいんだ」
「ただの言伝よぉ?あの距離じゃ、メッセージも届かないじゃない?遠距離はあまりに時間が掛かるものぉ」
猫を連想するような、しなやかなで瑞々しい身体付き。しかしその身体の下には、猫よりしっかりと根付いた筋肉がある。
西学の《ジャガー》が、当たり前のように学長室でくつろいでいた。
「けど、本当にやられたのねぇ。完全失明?」
「右はな。ま、割とどうとでもカバー出来るさ」
そう言って、俺の右側からそっと忍び寄って来ていた誰かの頭を銀腕付きでガシリと掴む。
「んげっ」
「ん、その声」
そのままぐんと視界の前まで右手を持ってくると、底抜けに青い空のような、鮮やかな色をした髪と目の少女がいた。
「あー…………………そう、アンジェだな。アンジェ・レムナント」
「今、完全に私の名前忘れてたでしょ」
「まさか。覚えてたよ。なんも変わってねぇからちょっと驚いただけだ」
「嘘つき。それに自分もほとんど変わってないじゃないか」
「嘘じゃねぇよ、ホントじゃねぇだけだ」
そう言うほどアンジェの見た目が変わっていなかった。俺ですらこの一年で身長が二ミリも伸びたというのに。
「で、なんでこいつもいんだ」
「私は学校長じゃなくて《緋眼騎士》に言わなきゃならない事があって来たの。とりあえずこの手離してくれない?」
そう言われて、とりあえず手を離す。
「ほー、俺の死角から突っ込んで来たのは?」
「いや、その、前の借りを返してやろうかと思って……」
「…病み上がりでよかったな。いつも通りだったら、お前をふん縛って外に投げてたぞ」
流石の俺も、今はそんなことをしない。身体がまだ本調子じゃないしな。
「どうやってぇ、完全に死角だった右側からの不意打ちに対応したのかしらぁ?」
「音と匂いと空気の流れ、あとは光を反射するものってのは案外多いもんでな」
そう言って肩を竦める。
軽く見るだけでもやたらと磨かれたテーブル、学校長の眼鏡、本棚のガラス戸等々、光を反射するあらゆるものが「何か来ている」ということを知らせてくれる。後は感覚…というか勘覚。
「軽く言うけれど、それが易々と出来る者はそういないわぁ。その順応性、ちょっと異常よぉ?」
「足りねぇ、無くした、壊れた。そう言うのは当たり前にある事だ。なら、それを補う技術、それを行う努力をするのは当然だろう。右眼がねぇからって戦いから身を引く程、俺は潔くないぞ」
「強いわねぇ。私には無い強さだわぁ」
「そりゃどうも。で、学校長。俺への処罰はどうなった」
そう聞くと、今まで沈黙を通していた学校長が、ようやく口を開いた。
「あなたへの処罰は今回──謹慎とします」
「……………は?」
思わず、そんな間抜けな声を出した。
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