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本編
炎と夜
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「疲れた…」
思わずそう言って、宛てがわれた部屋の寝袋の上に座る。
『どうだった?』
「どうもこうもねぇ。見ての通り……つか、俺の内側から見てたんじゃねぇのか?」
『お前が起きてねぇと何も見えねぇし、起きたと思ったらすぐに気絶するじゃねぇかお前。見てねぇってか見えねぇんだよ』
なるほど。そう言えば昔、そんな話を聞いた気がする。
「始眼の維持時間が伸びた」
『良かったじゃねぇか』
「三秒から五、六秒にな」
『良かった…のか?』
「時間が伸びてる兆候自体はいい事だろうが、俺が先ず習得しなくちゃならん事は、始眼の維持じゃなくて情報の選別だ。順序がちょいとおかしいな」
それに、朝から晩までやって三秒しか伸びていないのは問題だ。この調子だと、精度が上がり過ぎた結果、ほんの数秒しか持たなくなった始眼を持ち帰らなくてはならなくなる。流石にそれはちょいと不味い。
残り五日。時間はあるようで無いのだ。
『ベルの方はどうだった?』
「ん……アイツもアイツで相当苦戦してるらしい。グローゾフの炎って知ってるか?」
『いや、知らん。単語自体は何度か聞いたが。確か鍛冶場の名前だったか?』
「あぁ。つっても、俺も実物を見たんじゃなくて、ちょっと師匠とかから聞いた話なんだがな、炎が生きてるらしい」
『ほう?比喩か?』
「事実だそうだ。それもその炎、王都に出来て以来、一度も炎が消えてないそうだ」
『ほー……ん?それは誰かが維持してるって訳じゃなく?』
「ほっといても全然消えないんだと。そんで、さっきも言ったみたいに炎が生きていて、意思があるらしいんだよ。喋ったりはしないんだが、少しでも炎の機嫌を損ねると駄作しか出来なかったり、そのまま炎に呑まれて殺されたりするらしい」
槌人種でも選ばれたグローゾフしか入れない理由はそこらしい。ただの槌人種だと入れる価値すらないし、グローゾフですら失敗する時は失敗する。
その癖炎は消せないし、炎自体は非常にいいため、グローゾフでも一部のもの以外は半ば封印という形で放置されているらしい。
『炎の機嫌を損ねるねぇ……何をしたらそうなるかは知らんが、そこじゃなきゃならんのか?』
「まぁ、王都にある鍛冶場が一つしかないからってのもあるだろうが、その他にも、純粋にそこの炎の方が都合がいいらしい。っつーのも、その炎が大量の魔力を含んでるらしくてな。魔導具を作るなら最高の環境なんだと。特に魔力を通しやすいミスリルは加工のしやすさも、その幅も段違いなんだそうだ」
そして、義眼はそのレベルでないと制作は非常に困難なのだと言う。
以前、知り合いの後輩に義手義足を送ったことがあった。
その際、義肢と生身の身体を繋ぐ部分を金属の魔導具で作ったが、作成が非常に困難だったのを覚えている。
その際、炎を出してくれていたのはアーネ。その時は特に何も思わなかったが、炎に魔力が籠っていたような気がしないでもない。
魔力はそれなりの量だった気がするが、それでも部品の作成には相当手間どった。
義肢の接合部分の魔導具だけで相当大変だったのに、それより圧倒的に複雑な眼の作成。ベルが手間取るのも、納得するより他ないだろう。
『なるほどね。で、今日の夜はもう寝るのか?』
シャルが何気なくそう聞いた。
それに、肯定の返事を返そうとして、少し口を噤む。
「……いや、やっぱちょっとだけ握るか」
そう言って、修練所の方に向かって歩き出す。
結局その日も寝袋で寝る事は無かった。
思わずそう言って、宛てがわれた部屋の寝袋の上に座る。
『どうだった?』
「どうもこうもねぇ。見ての通り……つか、俺の内側から見てたんじゃねぇのか?」
『お前が起きてねぇと何も見えねぇし、起きたと思ったらすぐに気絶するじゃねぇかお前。見てねぇってか見えねぇんだよ』
なるほど。そう言えば昔、そんな話を聞いた気がする。
「始眼の維持時間が伸びた」
『良かったじゃねぇか』
「三秒から五、六秒にな」
『良かった…のか?』
「時間が伸びてる兆候自体はいい事だろうが、俺が先ず習得しなくちゃならん事は、始眼の維持じゃなくて情報の選別だ。順序がちょいとおかしいな」
それに、朝から晩までやって三秒しか伸びていないのは問題だ。この調子だと、精度が上がり過ぎた結果、ほんの数秒しか持たなくなった始眼を持ち帰らなくてはならなくなる。流石にそれはちょいと不味い。
残り五日。時間はあるようで無いのだ。
『ベルの方はどうだった?』
「ん……アイツもアイツで相当苦戦してるらしい。グローゾフの炎って知ってるか?」
『いや、知らん。単語自体は何度か聞いたが。確か鍛冶場の名前だったか?』
「あぁ。つっても、俺も実物を見たんじゃなくて、ちょっと師匠とかから聞いた話なんだがな、炎が生きてるらしい」
『ほう?比喩か?』
「事実だそうだ。それもその炎、王都に出来て以来、一度も炎が消えてないそうだ」
『ほー……ん?それは誰かが維持してるって訳じゃなく?』
「ほっといても全然消えないんだと。そんで、さっきも言ったみたいに炎が生きていて、意思があるらしいんだよ。喋ったりはしないんだが、少しでも炎の機嫌を損ねると駄作しか出来なかったり、そのまま炎に呑まれて殺されたりするらしい」
槌人種でも選ばれたグローゾフしか入れない理由はそこらしい。ただの槌人種だと入れる価値すらないし、グローゾフですら失敗する時は失敗する。
その癖炎は消せないし、炎自体は非常にいいため、グローゾフでも一部のもの以外は半ば封印という形で放置されているらしい。
『炎の機嫌を損ねるねぇ……何をしたらそうなるかは知らんが、そこじゃなきゃならんのか?』
「まぁ、王都にある鍛冶場が一つしかないからってのもあるだろうが、その他にも、純粋にそこの炎の方が都合がいいらしい。っつーのも、その炎が大量の魔力を含んでるらしくてな。魔導具を作るなら最高の環境なんだと。特に魔力を通しやすいミスリルは加工のしやすさも、その幅も段違いなんだそうだ」
そして、義眼はそのレベルでないと制作は非常に困難なのだと言う。
以前、知り合いの後輩に義手義足を送ったことがあった。
その際、義肢と生身の身体を繋ぐ部分を金属の魔導具で作ったが、作成が非常に困難だったのを覚えている。
その際、炎を出してくれていたのはアーネ。その時は特に何も思わなかったが、炎に魔力が籠っていたような気がしないでもない。
魔力はそれなりの量だった気がするが、それでも部品の作成には相当手間どった。
義肢の接合部分の魔導具だけで相当大変だったのに、それより圧倒的に複雑な眼の作成。ベルが手間取るのも、納得するより他ないだろう。
『なるほどね。で、今日の夜はもう寝るのか?』
シャルが何気なくそう聞いた。
それに、肯定の返事を返そうとして、少し口を噤む。
「……いや、やっぱちょっとだけ握るか」
そう言って、修練所の方に向かって歩き出す。
結局その日も寝袋で寝る事は無かった。
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