1,883 / 2,040
本編
硬貨と主
しおりを挟む
「出来たで。マキナ」
その日の夜、ベルが少し遅れてやって来て、開口一番そう言った。
「……最初の話だったら、もっともっとかかるみたいなこと言ってなかったか?」
「せやな。けどマキナがメッチャ頑張った。その成果やな」
「そうか……で、どこに?」
ベルの手には何も無い。見た所、腰に提げている様子も、なにか袋を持っている様子でもない。比較的小さいとはいえ、鎚はそう隠せる大きさでは無いはずだ。
「ほい、これや」
「おっと、なんだこれ」
と言って投げ渡されたのは、少し大きめのコインが一枚。
表面には炎と鎚をモチーフにした槌人種の家紋が。裏面には、犬歯が剣になった狼らしき獣が彫り込まれている。
「え、まさかこれ」
「マキナ、起きたれ」
「了解しました」
コインから声がすると同時に、全てを理解してコインを床に投げる。
それが床に落ちる寸前で膨張。一気に膨れ上がり、よく見慣れた姿が目の前に現れ、即座に跪いて俺に頭を垂れる。
「先日は見苦しい姿をお見せしました。一度は貴方様に仕える事を放棄したこの私ですが──」
「何言ってんだ。俺はお前を捨てた事なんて一回もねぇぞ」
「……ですが──」
そう言って顔を上げるマキナに、さらに言葉を重ねる。
「細かいねぇ。気にしてねぇって言ってんだ。俺が長ったらしい話が嫌いなのはよく知ってるだろ?これからもよろしく頼むぜ、マキナ」
長い謝罪も、綺麗に整えた礼儀も、何もかも要らない。
頼む、頼まれた。それだけ返せればいい。
「感謝致します。我が主」
その答えに苦笑する。硬っ苦しいねぇ。
手を差し出すと、マキナがそこに形態変化をしつつ飛び込む。
俺の手のひらに残ったのは、先程のコイン。こころなしか、少しだけ温かいように感じた。
「感動の再会はそんでええか?」
そう言うベルの顔は何かを説明したくてウズウズしているような顔。
「……なんかマキナ、やたらと小さくなったな」
「せやろ?自分の形態変化をさらに進化させてより細かく、より小さく、なんにでもなれるようコントロール出来るようになったんやわ。あと、色々学習して喋るんも相当上手くなったし、マキナ自体の体積増やしたけど、燃費はそのまま変わってないし、しかも重力魔法が──」
「あー、わかったわかった。後で聞く。後でお前かマキナから聞くから」
「うるさい、ウチに説明させぇや。ほんでな?」
「すまんなベル嬢、彼は今日相当疲れておる。出来れば明日の朝にできんか?」
と、横からヴァルクスが口を挟む。
今日は始眼とついでのように追加された集中状態に入る修行。それがある程度こなされたら、ヴァルクスと二度目の模擬戦をしたのだが、それが頭が焼き切れそうな程疲れた。
そのおかげで、どういう戦技かは理解出来ていないが、始眼のコントロールが何となく出来てきたという、進歩のあった日だった。
「英雄様に言われたら私も黙るしかないやん……ないじゃないですか」
「すまんのう」
とりあえず飯食って今日は早く寝よう。明日が最終日だから、せめて一回ぐらいはヴァルクスに触れれるように──
「あ、せやったら一個だけ言わせて」
「なんだ?」
「アンタの義眼についてねんけど、マキナがやるって言ってたわ」
「……は?」
その日の夜、ベルが少し遅れてやって来て、開口一番そう言った。
「……最初の話だったら、もっともっとかかるみたいなこと言ってなかったか?」
「せやな。けどマキナがメッチャ頑張った。その成果やな」
「そうか……で、どこに?」
ベルの手には何も無い。見た所、腰に提げている様子も、なにか袋を持っている様子でもない。比較的小さいとはいえ、鎚はそう隠せる大きさでは無いはずだ。
「ほい、これや」
「おっと、なんだこれ」
と言って投げ渡されたのは、少し大きめのコインが一枚。
表面には炎と鎚をモチーフにした槌人種の家紋が。裏面には、犬歯が剣になった狼らしき獣が彫り込まれている。
「え、まさかこれ」
「マキナ、起きたれ」
「了解しました」
コインから声がすると同時に、全てを理解してコインを床に投げる。
それが床に落ちる寸前で膨張。一気に膨れ上がり、よく見慣れた姿が目の前に現れ、即座に跪いて俺に頭を垂れる。
「先日は見苦しい姿をお見せしました。一度は貴方様に仕える事を放棄したこの私ですが──」
「何言ってんだ。俺はお前を捨てた事なんて一回もねぇぞ」
「……ですが──」
そう言って顔を上げるマキナに、さらに言葉を重ねる。
「細かいねぇ。気にしてねぇって言ってんだ。俺が長ったらしい話が嫌いなのはよく知ってるだろ?これからもよろしく頼むぜ、マキナ」
長い謝罪も、綺麗に整えた礼儀も、何もかも要らない。
頼む、頼まれた。それだけ返せればいい。
「感謝致します。我が主」
その答えに苦笑する。硬っ苦しいねぇ。
手を差し出すと、マキナがそこに形態変化をしつつ飛び込む。
俺の手のひらに残ったのは、先程のコイン。こころなしか、少しだけ温かいように感じた。
「感動の再会はそんでええか?」
そう言うベルの顔は何かを説明したくてウズウズしているような顔。
「……なんかマキナ、やたらと小さくなったな」
「せやろ?自分の形態変化をさらに進化させてより細かく、より小さく、なんにでもなれるようコントロール出来るようになったんやわ。あと、色々学習して喋るんも相当上手くなったし、マキナ自体の体積増やしたけど、燃費はそのまま変わってないし、しかも重力魔法が──」
「あー、わかったわかった。後で聞く。後でお前かマキナから聞くから」
「うるさい、ウチに説明させぇや。ほんでな?」
「すまんなベル嬢、彼は今日相当疲れておる。出来れば明日の朝にできんか?」
と、横からヴァルクスが口を挟む。
今日は始眼とついでのように追加された集中状態に入る修行。それがある程度こなされたら、ヴァルクスと二度目の模擬戦をしたのだが、それが頭が焼き切れそうな程疲れた。
そのおかげで、どういう戦技かは理解出来ていないが、始眼のコントロールが何となく出来てきたという、進歩のあった日だった。
「英雄様に言われたら私も黙るしかないやん……ないじゃないですか」
「すまんのう」
とりあえず飯食って今日は早く寝よう。明日が最終日だから、せめて一回ぐらいはヴァルクスに触れれるように──
「あ、せやったら一個だけ言わせて」
「なんだ?」
「アンタの義眼についてねんけど、マキナがやるって言ってたわ」
「……は?」
0
あなたにおすすめの小説
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。
「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」
と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる